未来から帰って来た死神   作:ファンタは友達

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第十七話(第五十三話)

「うっ…」

 

雷山は雨露姉弟の最期を見届けたと同時にその場に倒れこんだ。今まで気力と精神力だけで立っていたがとうとう限界が来たからだった

 

「雷山隊長、大丈夫ですか!?」

 

「ああ、なんとかな……椿咲、少し休んだら瀞霊廷に帰還するぞ」

 

「…えっ!?」

 

雷山のその一言は至極当たり前のことであったが、今の雷山の状況が状況だけに椿咲を驚かせた

 

「いくらなんでも無理ですよ!!雷山隊長立ってるのもやっとの状態じゃないですか!!」

 

「山本との約束があるんだ。そんなことを言っている暇なんかない…」

 

「それはそうですけど…」

 

椿咲は口にこそしかなったが、雷山が狐蝶寺を連れて瀞霊廷に戻るのは無理だと思っていた。雷山は今、意識を保っているのが不思議なくらいの重傷を負っており、とても狐蝶寺を背負って瀞霊廷に戻るほどの体力が残っているようには見えなかった

 

「…分かりました。しかし春麗さんは私が背負っていきます。雷山隊長はゆっくりと先を歩いて行ってください」

 

「ダメだ。春麗は俺が背負っていく、この命に替えてでも春麗を守っていくと誓ったんだ」

 

「春麗さんを守る前に自分を守ってください!!」

 

「…分かった。春麗はお前に任せる。とにかく早く瀞霊廷に戻るぞ」

 

「…瀞霊廷に戻る前にどういう状況なのか説明してもらおうか」

 

その一言を皮切りに雷山と椿咲を取り囲むように隊長格数人と幾人もの隠密機動の死神が瞬歩で現れた

 

「…成程、山本が言っていた始末特務部隊と言う奴か…」

 

「その通りだ。この場で何があったのかを説明してもらおうか」

 

隠密機動の死神の奥から部隊をを率いてきた二番隊隊長・四楓院朝八が歩いてきた

 

「…思ったよりも酷い有り様だな。薬師寺副隊長、雷山、狐蝶寺、椿咲の三名の応急処置を開始してくれ。平然としているようだが、かなりの重傷を負っている」

 

「はい!!」

 

薬師寺の返事と共に四番隊の隊士たちが雷山の治療を始めた

 

「さて、それでは状況を説明してもらおう。この場で何があった?」

 

「…状況を説明する前に一つ聞きたい。俺が隊首会を飛び出してどれほどの時間が経った?」

 

「我々がこの場に来ていることがその答えとなっているだろう。およそ一日経っている」

 

「…あの空間にいる間にそんな時間が経っていたのか」

 

「…ッ!!待て、話を聞く前に対処しなければならぬことがあるようだ」

 

朝八はそう言いかけるとともに斬魄刀に手をかけ近くの木陰を睨みつけそして呟いた

 

「こそこそ隠れて何をしている。この私を誤魔化せると思うな」

 

少しの間の後近くの木陰から初代護廷十三隊十二番隊隊長・六道死生が歩いて来た

 

「ッ!!おまえは…」

 

「六道か…」

 

六道の登場は雷山と椿咲以外のその場にいた全員を警戒させるには十分だった

 

「…思いもしなかった。まさか雷山悟ともあろうものがそこまでやられるとはな」

 

「貴様、ここで何をしている。まさかとは思うが、此度の事件もお前が仕組んでいたということはないだろうな?」

 

朝八は斬魄刀を構えたまま六道に問うた

 

「俺がここで何をしていたか、今回の件に関係していたかどうかを語ったとして、果たしてお前はそれを信じるのか?」

 

「…いいだろう。今、この場に限ってお前の言うことの一切を嘘偽りと断ぜずに聞くとしよう」

 

「まあ、大したことは話せないがな。俺がここに居るのは単純明快、雷山の加勢をしていたからだ」

 

六道は朝八の眼を見てはっきりと答えた。それは嘘偽りがないことを六道なりに示していた

 

「…なるほど。確かに筋は通っているな」

 

六道の言葉にその場にいた死神たちの間には動揺が広がっていたが、朝八は状況的に六道が雷山に加勢をしていたというのは十分考えられることと判断しており特別驚くほどの事でもなかった。

 

「こんな嘘を吐いても俺に一切の利がないだろう」

 

「…それもそうか」

 

「ふん…」

 

朝八から目線を外した六道はボロボロの雷山を見下ろした

 

「雷山、お前が敗けたら狐蝶寺春麗をそっちに連れて行ってやろうと思っていたが、そんな面倒なことをしなくてもよくなったな。せっかく勝ち得たものだ。精々、狐蝶寺春麗と楽しく過ごすんだな。では、もう互いに会わないことを祈ろう」

 

そう言い残すと六道は瞬歩でその場を去って行った

 

「…さて、一先ずは雷山と椿咲副隊長を瀞霊廷に帰還させねばならないが、その前に1つだけ質問をしよう」

 

「なんだ?」

 

「先程から辺りの霊圧を探っているが、雨露姉弟の霊圧が一切感じられない。雷山、お前が始末したと捉えていいんだな」

 

「…いや、雨明は俺の目の前で自害した。雨入も卍解の空間事消滅することを選んだが、それを確認する術はないというのが答えられることだ」

 

雷山がそう言ったとき隣から呻き声が聞こえてきた

 

「ううっ…あれ…ここは…?」

 

「春麗…!!良かった…」

 

狐蝶寺が目を覚ましたことは雷山と椿咲を安堵させたが、隠密機動の死神たちには緊張感を走らせた

 

「護廷十三隊十三番隊隊長・狐蝶寺春麗。貴女には現在謀反の疑いがかけられている。無実を証明するために我々と共に来てもらおうか」

 

「うん…そうだ!!白ちゃんは!?白ちゃんはどうなったの!?」

 

「…そうだな。お前たちにも伝えておいてもいいだろう。我々が出立する少し前の話だ。卯ノ花隊長より銀華零隊長が目を覚ましたと伝令が入った。以前重傷なのは変わらないが、もう命に別状はないとのことだ」

 

「良かった…本当に良かったよ…」

 

銀華零が無事だったことに狐蝶寺は涙を流して心の底から喜んでいた

 

「…大澄夜隊長、雷山隊長たちの護送を任せても良いか?私はこの場に残り詳しい調査を開始する」

 

「ああ、了解した。雷山隊長たちの護衛は任せておいてくれ」

 

「では、各々解散とする」

 

その後、雷山と狐蝶寺はフラフラしつつも自分の足で、椿咲は自分で歩くことが出来ず、十一番隊副隊長・旭屋順におぶさり瀞霊廷へと帰還した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~四番隊・総合救護詰所~

 

 

「五番隊隊長・雷山悟、此度の事件の収拾ご苦労であった。さっそくじゃが、あの場で何があったかを簡潔に説明してもらおうかの」

 

瀞霊廷に帰還した雷山、狐蝶寺、椿咲の三人はあまりの重傷のためすぐさま『四番隊・総合救護詰所』に収容された。そして収容されて数時間後、雷山たちの見舞と事態の報告受けるために元柳斎がやって来ていた

 

「…簡潔に話すのは良いが、それでいいのか?」

 

「勿論、詳細は後日改めて報告してもらう。おぬしにしてもらうのは現状の第一報としての報告じゃ」

 

「…まず、雨露姉弟の目的だが、春麗を護廷十三隊から奪取することだった。そしてその手段は雨露雨明、雨露雨入の二人の卍解を使ってのものだった」

 

「…成程、名前が挙がってこなかったのは当然じゃな。護廷十三隊発足以来、入隊して一年も満たぬうちに卍解を所持しておる者など未だ存在してはおらぬからの」

 

「ああ、俺も相対するまで思いもしなかった」

 

「…一先ず、第一報としてそのことを全隊長に伝達しよう。おぬしはもうしばらく休息を取ると良い」

 

そう言うと元柳斎は去って行った

 

「さすがの山本も『総合救護詰所』では怒鳴りはしないか」

 

「ええ、私の方からもそこだけは守っていただきたいと申しましたからね」

 

元柳斎と行き違いで入ってきた卯ノ花が言った

 

「悪いな、卯ノ花。世話をかける」

 

「あなたが無茶をするのは昔から承知しているので問題はないです。それよりも雷山隊長たちに面会を求めている方がいますが、通しても良いですか?」

 

「ああ、通してくれ」

 

雷山の返答と共に一人の人物が病室内に入って来た。その姿を見た狐蝶寺と椿咲は目に涙を浮かべていた

 

「また元気な姿を見れて本当に良かったよ…白」

 

「私にとっては雷山さんたちが無事で帰って来てくれた方が喜ばしいことですよ」

 

「ああ、そうだな…」

 

いつもと変わらぬ日々、いつもと変わらぬ日常、いつもと変わらぬ顔ぶれ、その全てが元に戻りつつあることに雷山は自然と笑みを浮かべていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨露姉弟の事件からひと月と幾日、それまで梅雨の如く降り続いていた雨が上がり、瀞霊廷では以前のような日常を取り戻しつつあった。そして隊首会議場では空席となっている八番隊、九番隊を除く11人の隊長全員が久方ぶりに集結し雷山の報告を聞いていた

 

 

「―――――以上が、報告の全てだ」

 

「…うむ、相分かった。豊生愁哉、狐蝶寺春麗が何者かに操られた可能性、突如として現れたという志波空山の霊圧と姿、それがおぬしの報告ですべて合点がゆく。よって先の約束通り、十三番隊隊長・狐蝶寺春麗の処遇は不問とする!」

 

元柳斎は杖状に封印した斬魄刀を突きその音が議場に響いた

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

整列していた狐蝶寺も一歩前に出て元柳斎に頭を下げた

 

「…悪いな、山本。恩に着る」

 

狐蝶寺が列に戻ったのを確認し雷山も礼儀として元柳斎に一礼した

 

「時に、この報告書には雨露姉弟に襲撃を受けた者、目的とその手段が書いてあるが、その他書き漏らしはないと考えても良いのじゃな?」

 

元柳斎にそう問われたとき、雷山は頭の中に”中央四十六室(ちゅうおうしじゅうろくしつ)裁判官(さいばんかん)上柘植御代(かみつげみだい)の姿を思い浮かべていた

 

「…ああ、報告するべきことはそれで全てだ。一切の漏れはない。…あとはこちらの問題だからな…」

 

雷山の妙な言い回しと最後にボソッと何かを呟いたことに元柳斎は気付いていたが、それ以上の詮索はしなかった

 

「…うむ、では以上を以て解散とする!」

 

 

隊首会の帰り道、雷山は一人で五番隊隊舎へ向かっていた。雷山は考え事をしており、俯き、地面を見つめて歩いていた

 

 

(あの時は流してしまったが、雨明が言っていた春麗に処刑命令を出そうとした人物には心当たりがある…)

 

雷山は雨露雨明が今回の事件を起こすきっかけとなった”中央四十六室・裁判官”と名乗る人物とすぐに狐蝶寺に処刑命令を出そうとしたという点の二つの条件に当てはまる人物に一人だけ心当たりがあった

 

(…上柘植御代だろうな、まず間違いなく。”中央四十六室・裁判官”とわざわざ名乗るのと春麗の事を目の敵にしている二つの条件に当てはまるのはあいつだけだしな…)

 

「…おや、このような処で会うとは奇遇ですね。五番隊隊長・雷山悟」

 

前方から声をかけられた雷山が顔を上げるとそこには今まさに考えていた上柘植御代が歩いて来ていた

 

「…”中央四十六室・裁判官”が俺に何の用だ?」

 

「大した用ではありません。ただ、一つ忠告に来たまで」

 

その瞬間、上柘植の顔から笑みが消えると同時にその場の雰囲気がガラッと変わった

 

「…狐蝶寺春麗の件、些か甘すぎませんか?」

 

「甘すぎないかだと?詰まるところあんたは春麗の事を厳罰にしろと言いたいのか?」

 

「そうとも言えますが、そうではありません。私が言いたいのは、筋の通らぬ事を看過して他のものが納得するのかと言っているのです」

 

「筋の通らぬこと?春麗は雨露雨明に操られた被害者の一人だ。被害者を罰することの方が筋違いじゃないのか?」

 

「筋が通らぬと言っているのは、狐蝶寺春麗の処遇ではありません。雷山悟、あなたの対応の方です」

 

「…どういうことだ」

 

「今回の件は我々”中央四十六室”内でも狐蝶寺春麗は不問にすべきとの声が多数を占めていました。それはまた別の理由があり伏せますが、一点ある疑いが生まれました。それは雷山悟が意図的に狐蝶寺春麗の厳罰を避けたのではないかと言う疑いです」

 

「俺が意図的に厳罰を避けさせた?…残念だが、その可能性は全くないと言い切れる。俺は春麗が操られていると分かったから助けたんだ。もし春麗が自分の意志で事件を起こしていたら最悪、手を下していたかもしれないな」

 

雷山のその言葉は上柘植を驚かせた。上柘植の見立てでは雷山は銀華零、狐蝶寺、椿咲の三人に対しては何があろうとも甘い対応を取るであろうと予想していたためである

 

「…そう言い切れる根拠は何ですか?」

 

「俺たちは三人はな、護廷十三隊の隊長になった時にある誓いを立てた。それは”三人の内誰かが自らの意志で道を違えたならば、たとえ殺すことになろうとも全力で止める”と言う誓いだ。今回、春麗は雨露雨明に操られていただけだ。それが分かったから俺も白も助ける方向で動いたんだ」

 

「…つまり幼馴染でもその時が来れば始末する…と?」

 

「そんなときが来ないことを望んでいるが覚悟は出来ている。それはあの二人も同じことだ」

 

「…たとえ幼馴染でも容赦はしないともとれるその言葉、忘れたとは言わせませんよ」

 

上柘植は一言呟くと雷山の横を通り抜けて行った。数歩行ったところで上柘植は振り返り雷山に念押しをするように言った

 

「我々はあなた方3人を甘く見過ぎていたようです。しかし、たとえあなた方初代護廷十三隊の面々が何を言おうとも我々は尸魂界の司法そのものである”中央四十六室”。あなた方の運命は常に我々の掌の上にあることをお忘れなく」

 

言い終わり去って行く上柘植の背中を見て雷山の一言呟いた

 

「…食えない奴め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~十三番隊隊舎・隊長執務室~

 

「…やっと梅雨の時期が終わりますね。ようやくジメジメした空気から解放されます」

 

執務室内で一人狐蝶寺の帰りを待つ山吹は窓の外を眺めていた

 

「山吹ちゃん、戻ったよ」

 

「狐蝶寺隊長、お帰りなさいませ。その…どうでしたか…?」

 

山吹は心配そうに狐蝶寺に尋ねた。雷山が元柳斎とある約束をしていたことを知らない山吹は今日まで平静を装ってはいたが、内心では狐蝶寺が処刑されてしまうのではないかと心配で仕方がなかったのだ

 

「雷山君のおかげで大目に見てくれることになったよ。本当に迷惑をかけっぱなしだなぁ…」

 

それを聞いた山吹は心から安心して笑みを溢していた。しかしすぐに顔をキリッとさせた

 

「私は雷山隊長ではないので何も言うことは出来ませんが、少なくとも隊長といる時の雷山隊長は呆れていることはあろうとも嫌な顔一つしていたことはありませんよ」

 

「ありがとうね、山吹ちゃん。話は変わるけど、なんで窓際に立っているの?」

 

「…雨が上がったので窓でも開けようかなと思いまして」

 

そう言うと山吹は窓を開け気伸びをした。その最中、山吹は狐蝶寺から受けたとある質問の事を思い出した

 

「そう言えば、隊長1つよろしいですか?」

 

「いいけど、どうしたの?」

 

「少し前に隊長に聞いた昔会ったことのある子の話です」

 

「…ああ、その話ね」

 

狐蝶寺は山吹の問いにすぐに答えず窓の外を眺め始めた。そのことに山吹は狐蝶寺の心に踏み込み過ぎてしまったと思った

 

「あ、あの…すいません。好奇心が過ぎました…」

 

「ううん、大丈夫だよ。山吹ちゃん、私ね、思い出せたんだ。今のこの空と同じだよ。私の記憶の底を覆っていた雲が晴れたようにね。せっかくだからさ、話を聞いてほしいんだ。雨露姉弟(あのふたり)とのとても楽しく、とても大切な日々の話をね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 彼岸の梅雨篇 FIN ~

 

 




―― 2019/8/27 追記 ――
文章を一部分付け加えました。

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