未来から帰って来た死神   作:ファンタは友達

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第十六話(第五十二話)

「僕らは昔、狐蝶寺隊長に助けられたことがあるんですよ」

 

「春麗に助けられただと?」

 

「ええ、僕らにとってはつい先日のことように感じますよ」

 

 

 

 

 

~400年前・現世~

 

 

『雷山隊長も察しているかもしれませんが、僕も姉さんも幽霊が見える触れる話せるという体質でした』

 

 

「姉さん。あの人は何をやっているの?」

 

雨明が壁に頭を垂れている人を見て言った

 

「雨明、見ちゃダメだよ?あれは…そう、修行をしているのよ」

 

雨入は雨明の目を手で覆い隠した

 

「へ~、そうなんだ」

 

 

『僕は周りの人間から気味悪がられてました。当然ですよね。普通の人には見えない、見えるはずのない幽霊相手に話しかけていたのですから』

 

 

「お姉さん。肩に何で人を乗せているの?」

 

「え…あなた…何を言っているの…?」

 

雨明に話しかけられた20代くらいの女性が引きつった顔をした

 

「こら雨明!すいません、弟が…」

 

雨入は雨明の頭を叩き頭を上げて女性に誤った

 

「い、いえ…では私はこれで…!!」

 

女性は逃げるように足早に立ち去って行った

 

「…姉さん。どうしてみんな嫌そうな顔をするの?」

 

「…そんな顔してた?私にはそうは見えなかったけどなぁ」

 

 

『今でこそ分かりますよ。姉さんは僕に周りの人間が僕らを気味悪がって近づいてこないと言えなかったのだと、そうした日々を送っていたある日のことです。狐蝶寺隊長と会ったのは』

 

 

「う~ん…困ったなぁ」

 

当時の狐蝶寺が頭を抱えて悩んでいた

 

「…何をしているの?」

 

雨明は狐蝶寺の顔を覗き込むようにして尋ねた

 

「うわっ!?」

 

狐蝶寺は驚き尻もちをついた

 

 

『狐蝶寺隊長にしてみればとても驚いたでしょう。何しろ自分が見えるわけがないと思って現世に来ていたわけですから』

 

 

「君、私が見えるの?」

 

「……?見えるよ?」

 

雨明はなぜそんなことを聞くんだろうと思い不思議そうな顔をして答えた

 

「そう…まさか私が見える人がいるなんて思わなかったなぁ」

 

「あなたも幽霊なの?」

 

「私は幽霊じゃなくて死神っていうの」

 

「死神…?」

 

「ありゃ、聞いたことない?死神って」

 

「知らなーい」

 

 

『当時の僕はまだ幽霊という存在を知って間もないころでした。当然死神なんて知っているわけもなく狐蝶寺隊長を始めて見た時は変わった服装の幽霊だなくらいにしか思ってませんでした』

 

 

「雨明-?」

 

その頃雨入は雨明を探し回っていた。しばらく歩き雨明が黒い着物の上に白い羽織を身に着けている自分と同じくらいの年の女の人と話しているのを見つけた。無論見た瞬間からその人は生きている人間ではないことに気づいた

 

「雨明!?何やってるの!?あなた一体雨明に何をしたのですか!?」

 

雨入は雨明と狐蝶寺の間に入り狐蝶寺を睨みつけた

 

「何もしてないよ?」

 

「…雨明、行くよ」

 

雨入は半ば強引に雨明を連れて去って行った

 

「本当に何もしてないんだけどなぁ…」

 

それを見た狐蝶寺は困ったように呟いた

 

 

『姉さんにしてみれば得体のしれない人物が僕に近づいていたわけだからそういった行動をとるのも無理はない。だけど僕はその後も狐蝶寺隊長と密かに会っていたんですよ。そしてその日も狐蝶寺隊長に会いに行こうとしていた時でした』

 

 

その時雨明は慌てていた

 

(まずい…このままじゃ遅れちゃう…!!)

 

雨明は近道をしようと思い角を曲がった

 

「痛て!」

 

雨明は何かにぶつかりふっ飛ばされた

 

「痛ッ!す、すいませ…」

 

雨明は顔を上げた時絶句した

 

 

『その時何にぶつかったと思います?虚ですよ。僕は狐蝶寺隊長に会いに行く途中虚にぶつかったんです』

 

 

「グルルルル…」

 

雨明がぶつかった衝撃を受けた虚は振り向いた

 

「あ…あ…」

 

雨明は恐怖のあまり言葉が出ずにいた。その時

 

「もうっ!雨明ったらどこに行ったの?え…!?」

 

雨入が通りかかり虚に襲われている雨明を見つけた

 

「雨明!!」

 

慌てて雨明を助けに向かう雨入だったが、虚は雨入を薙ぎ払った

 

「きゃあ!!」

 

「姉さん!!」

 

 

『あの時はもうダメだと思いましたよ。だけど…』

 

 

虚が雨明に手を伸ばそうとしたその時

 

「グラアアァァ!!」

 

虚の腕が胴体から斬り落とされ、虚は叫び声をあげた

 

「ありゃりゃ、雨明君遅いなと思って見に来たら大変なことになってた」

 

「グラァ!!」

 

怒った虚は狐蝶寺に攻撃しようと腕を振り上げた

 

「うるさいよ…」

 

そう言い狐蝶寺は虚を斬り捨てた。その時の狐蝶寺は現在からは想像もできない程冷たく冷酷な目をしていた

 

「ほら、もう大丈夫だよ」

 

 

『目を開けると狐蝶寺隊長が虚を倒した後でした』

 

 

「ふぅ…雨明君が無事でよかったよ。あっ!お姉さんも大丈夫!?」

 

「は、はい…」

 

狐蝶寺の手を取り立ち上がる雨入

 

「良かった良かった。みんな無事で」

 

「あの、なぜ私たちを…?」

 

「へ?なんでそんなことを聞くの?」

 

狐蝶寺は首を傾げてそう言った

 

「なぜって…あなたは私たちのこと気味悪く思わないの…?幽霊が見える私たちを」

 

「全然思わないよ。まあ、私が死神っていうのもあるけどね…」

 

「死神…なんですか?何て言うかその…」

 

「あぁ~、それよく言われるよ。なんで鎌を持っていないのとか骸骨じゃないとか。あれはただのイメージなのにねぇ…」

 

「は、はぁ…」

 

「そうだ、こんな所で話しているのも難だし落ち着いたところで話そうよ」

 

未だ状況が飲み込めそうにない雨入を見た狐蝶寺はニコッと笑って見せて言った

 

 

『その時に狐蝶寺隊長から色々聞きましたよ。現世に来た目的や尸魂界の存在。銀華麗隊長や雷山隊長のことも少しですが聞きました。それはまるで夢のような日々でした』

 

 

「雨明くん、ごめんね。帰還命令が来てすぐにでも尸魂界に帰らないといけないんだ」

 

「えっ…」

 

「そんなに悲しそうな顔をしないでよ。大丈夫、雨明くんが尸魂界に来たら私がいろいろ紹介してあげるよ。だからそれまでの我慢だよ」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

 

「これが僕たちと狐蝶寺隊長の関係です。お分かりいただけましたか?」

 

「…ああ、お前たち二人がここまで春麗にこだわっている理由は良く分かった。だが、何故こんなことをする。護廷十三隊に入隊したした今、春麗と共に過ごしていけるだろ」

 

「いえいえ、それではダメなんですよ。僕たちはこの尸魂界(せかい)が嫌いなんです。だから姉さんの作った空間で狐蝶寺隊長と共に過ごしていくと決めたんですよ」

 

「…お前はどうしてそこまで尸魂界(せかい)を憎んでいるんだ?」

 

「……」

 

「春麗を乗っ取っていた時も”世界との繋がりを葬らんがために”と言っていたな。あれはどういう意味だ。何を隠している」

 

「……」

 

雨明は黙って雷山をの話を聞いていた。その表情は終始変わらずにいたが、雷山が「何を隠している」と問うた瞬間眉をピクリと動かし一瞬険しい表情を見せた

 

「…本来なら話す(いわ)れはないんですけどね。まあ、いいでしょう」

 

「答えは簡単です。この尸魂界(せかい)が僕たちの恩人である狐蝶寺隊長に牙を剝けたからです」

 

「牙を剝けただと?どういうことだ」

 

「僕たちが現世で死した後尸魂界に来た時の話です」

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

 

「いたかっ!?」

 

「いや、まだ見つからない」

 

「くそっ!!どこに行きやがった…!!」

 

 

『尸魂界に導かれて数か月後の事です。何を勘違いしたのかここの死神連中は僕たちを旅禍と思い込み攻撃してきました』

 

 

「いたぞ!!捕まえろ!!」

 

「待ってよ!!」

 

逃げる雨露姉弟と追いかける平隊士の間に狐蝶寺が割って入った

 

「狐蝶寺隊長退いてください!!そこにいるのは旅禍です!!」

 

「この子達は旅禍じゃないよ!!ちゃんと現世で魂葬されて尸魂界に来てるんだよ!!そもそも誰の命令でこんなことしているの!!」

 

「そ、それは…」

 

狐蝶寺に問いただされた一般隊士は黙り込んでしまった。その様子から狐蝶寺は命令しているのは自身よりも上の立場の人物だと察した

 

「…やっぱり言えないんだね。でもこんなの間違っているよ!!」

 

 

『狐蝶寺隊長のおかげで、その場にいた死神たちは矛を収めたように見えました。しかし、次に現れた”全ての元凶”で状況は一転したんです』

 

 

「これは何の騒ぎです?私は一刻も早く瀞霊廷に迷い込んでしまった旅禍を始末せよと命じたはずなのですが…」

 

動けずにいる一般隊士の後ろから”中央四十六室(ちゅうおうしじゅうろくしつ)裁判官(さいばんかん)上柘植御代(かみつげみだい)が歩いてきた。上柘植は立ち塞がる狐蝶寺を見て言った

 

「護廷十三隊十三番隊隊長・狐蝶寺春麗。何をやっているのです?そこを退きなさい」

 

「やっぱりあなたの命令だったんだね…!!どうしてこんな真似をするの!!この子達は旅禍じゃない」

 

「あなたが何と言おうとも、そこの二人が旅禍であることは変わりはありません。これが最後の忠告です。そこを退きなさい。十三番隊隊長・狐蝶寺春麗」

 

狐蝶寺は上柘植をにらんだままその場から動こうとはしなかった

 

「…よろしい。”中央四十六室・裁判官”として命じます。護廷十三隊十三番隊隊長・狐蝶寺春麗を反逆の疑いで拘束しなさい。抵抗を示すようならば、この場で処刑しても構いません!!」

 

 

『信じられますか?尸魂界を実質的に仕切っていると言っても過言ではない護廷十三隊隊長である狐蝶寺隊長をその場で処刑しようとしたんですよ』

 

『…そんな話聞いたことないぞ。嘘とは言わないが、何故お前がそれを知っていて俺たちがそのことを知らない』

 

『それは今から話すことで分かりますよ』

 

 

「処刑…?ダメ…それは…!!」

 

上柘植の指示で意を決した一般隊士たちは狐蝶寺に斬りかかった。隊士たちの刃と狐蝶寺の刃がぶつかり合うその瞬間雨明の声が響いた

 

「ダメェェェ!!!」

 

雨明の叫び声が響き渡ると同時に雨明を除くその場にいた全員が一瞬の間、時が止まったような感覚に陥っていた

 

「これは…いったい…?」

 

 

 

 

 

  *  *  * 

 

 

 

 

 

「何故そうなったのかは定かではありませんが、結果として狐蝶寺隊長を救うことが出来ました。狐蝶寺隊長を始め、その場にいた全員から僕たちに関する記憶が消えることと引き換えにね」

 

「…なるほど。お前たちがやけにこの尸魂界(せかい)を憎んでいる理由はよく分かった。お前たちが春麗をとても大切に思っていることもな」

 

「ならば狐蝶寺隊長のためにも、どこかで気絶しているはずの椿咲副隊長を連れてここから出て行ってください」

 

「だがな、”大切な者”がいなくなる悲しみを知っているお前たちが俺たちの”大切な者”を奪おうとするのは言語道断だ!!」

 

雷山は雨明の背後に回り込み拘束した。狐蝶寺と死闘を繰り広げた際に負った傷があってもなお雷山と雨明の力の差は歴然としていた

 

「もう一度問うぞ。大人しく投降しろ」

 

「くっ…」

 

(霊圧もあまりなく切り札も使い果たしてしまった…”詰み”だね…)

 

「ふっ、冗談を言わないでください。投降したところで僕たちの死罪は免れない。それに、そんなことをするぐらいなら僕は自らの死を選ぶ…!!」

 

雨明は雷山の一瞬の隙を突いて拘束から抜け出した

 

「ッ!!しまっ―――――」

 

「さようなら、雷山隊長。狐蝶寺隊長の事はあなたに任せますよ…」

 

そう言うと雨明は斬魄刀を自身の腹部に突き刺した。そのまま切腹をするように無理やり斬魄刀を脇腹辺りから引き抜いた

 

「あぁ…本当に残念です。世界のしがらみを気にせずに…狐蝶寺隊長と…過ごしたかった…な…」

 

雨明は狐蝶寺と過ごしていた時を思い出すように笑みを浮かべながら前のめりに倒れそのまま息を引き取った

 

「雨明…?雨明!!」

 

その様子は雨入も目撃していた。雨入は雨明が倒れた場所に駆け寄り動くことの無い身体を抱きかかえた

 

「…雷山隊長。あなたには椿咲副隊長や狐蝶寺隊長と一緒にこの空間から出て行ってもらいます」

 

「…逃げるつもりか」

 

雷山が聞くと雨入は静かに首を横に振った

 

「逃げるつもりはありません。いえ、逃げるという行いと等しいのだと思いますが、私は『梅雨染櫓』を崩壊させ、その中で運命を共にします」

 

「…そうか。覚悟を決めたやつに無粋な真似はするつもりはない。さらばだ」

 

「…雷山隊長。1つだけ約束してください。狐蝶寺さんを絶対守ってください。死神たちがどう思おうが、その人は私たちの大恩人なのです」

 

「ああ、その約束は必ず守ると誓おう。俺の命に懸けてな」

 

「よろしくお願いします。さあ、出口はその渦です」

 

その瞬間雷山の背後に渦が出来た。その渦に吸い寄せられるように雷山の身体が徐々に動き始めた。それにつられるように気絶して倒れている狐蝶寺、椿咲の二人も吸い寄せられていた

 

「…さようなら、世界で唯一私たちを守ってくれた人…」

 

雷山は渦に飲み込まれる直前に雨入の目から涙が零れ落ちたように見えた

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

 

「…ここはどこだ…?」

 

雷山が目を開けると湖ではなく森が広がっていた。それは少なくとも『梅雨染櫓』の中ではないことを意味していた

 

(『梅雨染櫓』に飛び込む前にいた森と考えるのが妥当か…)

 

隣に目をやると椿咲と狐蝶寺の二人が気絶するように眠っていた。二人とも全身傷だらけだったが息はしていた

 

「…ん?」

 

雷山が空を見上げると先ほどまで自分たちがいた空間への入り口である渦が渦巻いていた

 

「…せめて、最期だけでも看取っていくか」

 

「うぅ…痛てて…」

 

その時椿咲が目を覚ました

 

「目を覚ましたか、椿咲。大丈夫…ってわけではなさそうだな」

 

「全くですよ…今度こそ本当に死ぬかと思いましたよぉ…」

 

「…無理に立たなくていいからな。だが、お前も雨入と雨明の最期を看取ってやれ」

 

その瞬間渦が一気に膨張しその反動で今度は一気に収縮した。そしてそのまま消えてしまった

 

「雨入ちゃん…」

 

「雨露雨入、雨露雨明、お前らのしたことはとてもじゃないが許されるものではない。だが、かつて春麗が守ろうとしたお前たちのことは一生覚えておこう。さらばだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




名前 上柘植御代(かみつげ みだい)
役職 中央四十六室・裁判官
身長156㎝ 体重49㎏
容姿 三十代半ばに見える女性。肩まで伸びる髪を後ろで一つ縛りにしている
性格 尸魂界のためと言い平気で他人を踏み躙る質の悪い性格を持つ
備考 上流貴族・上柘植家の現当主。後の藍染離反の際に藍染に殺害される。

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