未来から帰って来た死神   作:ファンタは友達

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第十五話(第五十一話)

 

「せっかくですから狐蝶寺隊長に会わせてあげようと思っただけですよ」

 

「春麗にだと…!?」

 

雨明のその言葉は雷山に衝撃を与えた

 

「何故このタイミングでそれをする。いい加減お前たちの目的を話してみたらどうだ」

 

「…意外ですね。雷山隊長ならもう分かっているものだと思ったんですけど…」

 

「なんだと?」

 

「ひとまず、狐蝶寺隊長再会を楽しんでみてはどうですかね」

 

そう言うと雨明は一瞬意識を無くしたようにその場に立ち尽くした。その後1秒もしないうちに狐蝶寺は飛び起きるように意識を覚醒させた

 

「あれ…?ここはどこ…?」

 

「春麗!!」

 

「雷山君…?」

 

「春麗…!!」

 

「来ないで!!」

 

狐蝶寺に駆け寄ろうとした雷山はその声で立ち止まった

 

「雷山君…ごめんね。私はもう尸魂界(そっち)には戻れないや…」

 

「それはどういう…」

 

「はっきりと思い出したんだよ…虚圏で私を止めに入った白ちゃんや雷山君、南美ちゃんたちを本気で殺そうとしていたことや白ちゃんをこの手で殺しちゃった事…その他大暴れしたことも全部…」

 

「白はまだ死んでいない!!それに…それは全部雨入と雨明がやったことだ!!お前には関係のない話だろ!!」

 

「関係無い訳ないじゃない!!いくら操られていたと言っても実際に手を下したのは私なんだよ!?周りの人が私のせいじゃないと言ってもその事実は一生消えることがないんだよ!?そんな事実を背負って行くくらいなら…!!」

 

そう言うと狐蝶寺は手に持つ扇子を構えた。一見すると雷山へ攻撃をしようとしているように見えるが、雷山は攻撃対象は自分ではなく狐蝶寺自身であることに気づいた

 

「ッ!!待て春麗!!やめろ!!」

 

「”切風”『断頭』!!」

 

狐蝶寺は自分の首に向けて風を放った。その風が狐蝶寺の首に当たる直前、突如霧散して消えた

 

「……」

 

狐蝶寺の表情が険しくなったのを雷山は見逃がさなかった

 

「ッ!!」

 

(春麗の目付きが変わった…。雨明が出てきたな…)

 

「はぁ…はぁ…驚いたよ。まさか狐蝶寺隊長が自ら死を選ぼうとするなんてね…」

 

(雷山隊長をこの場から去らせるために説得させようとしたんどな…あの精神状態じゃしばらくは“夢遊”を解除出来そうにないね…)

 

「自ら死を選ぼうとしただと…?…じゃねぇよ…!!」

 

「もう少し大きな声で言ってくださいよ。この距離じゃ聞き取れな…」

 

「ふざけるんじゃねぇよ!!」

 

その瞬間雷山の霊圧が跳ね上がったのを雨明は感じた

 

「春麗が自ら死を選ぼうとしただと!?お前が春麗のためなどと自惚れてやったこと全てが結果的に春麗を苦しめているんだぞ!!何故それが分からないんだ!!」

 

「狐蝶寺隊長を苦しめているのはこの尸魂界(せかい)そのものだ!!」

 

「その尸魂界(せかい)に立ち向かおうとせずただ逃げた腰抜けが尸魂界(せかい)の責任にするな!!」

 

「黙れ!!」

 

その瞬間狐蝶寺がただ走るだけでは不可能なほどの猛スピードで突っ込んできた

 

(こいつ…追い風で初速を上げたのか…!!)

 

雷山は槍を両手に持ち、扇の山/谷の位置にある刃を受け止める形で狐蝶寺の攻撃を防いだ

 

「僕たちは好きで逃げたんじゃない!!そうせざるを得なかったんだ!!隊長として尸魂界(せかい)中に慕われてきたあなたに迫害され続けてきた僕たちの気持ちが分かってたまるか!!」

 

「生憎だが、分かりたくねぇな…!!他人を不幸にしてまで幸せを掴み取ろうとする奴の考えなんかな!!」

 

雷山は槍を手放すと素早く懐に入り込み背負い投げの要領で狐蝶寺を投げた。一方の投げられた狐蝶寺は空中でバランスを整え足から着地した

 

「この程度で僕にダメージを与えることなんか…」

 

「お前にダメージを与えるのが目的じゃない。お前をそこに()()()()()()()が目的だったんだよ」

 

「着地させること…?しまった!!」

 

狐蝶寺は咄嗟に自身の足元を見た。そこには稲妻の印が刻まれていて小さな放電が繰り返されていた

 

「”地雷”!!」

 

その瞬間地面から放出された雷が狐蝶寺の左足の甲を貫通した

 

「うぐっ…!!」

 

それは激痛であり狐蝶寺も立っていることが出来ずに左足を地面に着けた

 

「ようやく膝をついたな…!!雨露雨明!!」

 

決着をつける好機と見た雷山は素早く狐蝶寺に追撃を加えんとするために距離を一気に詰めた

 

「ぐっ…!!”暴風”!!」

 

狐蝶寺が雷山に向け手を伸ばすとそこに風の層が生まれ雷山の槍による攻撃を阻んだ

 

「やはりこの程度では破れないか…!!」

 

雷山は狐蝶寺の作り出した”暴風”を利用して地面を強く蹴り上空へと飛んだ

 

「『雷刃(らいじん)摩槍(まそう)』”(らく)”『落炎十槍雷陣(らくえんじっそうらいじん)』!!」

 

雷山は静電気と霊圧を合わせ圧縮して『雷刃の摩槍』を模して作った十本の槍を全て狐蝶寺に向け投げた

 

「何をしようが僕のこの”暴風”ですべて弾いてやる!!」

 

狐蝶寺は最大威力の”暴風”で雷山の『落炎十槍雷陣』を迎え撃つ態勢に入った。事実、雷山が放った十本の内、九本は風により弾かれた。しかし雷山が最後に放った一本の槍は暴風の壁をものともせず狐蝶寺の右足を正確に射抜いた

 

「うぐっ…!!」

 

左足に続き右足にダメージを負った狐蝶寺はその場に崩れ落ちた

 

「これなら動けまい…!!」

 

「くっ!!”蝶々(ちょうちょう)(まい)痛分(いたみわけ)(かぜ)”!!」

 

叫んだ狐蝶寺は扇を何回もあおぎ風の渦を作り出し、それを自分自身にぶつけ無数の切り傷を負った。狐蝶寺が傷を負ったと同時に雷山にも同様の傷が現れた

 

「っ…!!やめろ、その技は多用すればお前が共に過ごそうとしている春麗も死ぬことになるぞ!!」

 

「奪われるくらいなら共に死することを選ぶ!!」

 

傷口を押さえ痛みに顔をしかめる雷山とは裏腹に狐蝶寺は笑みを浮かべていた。しかし狐蝶寺の方もふらついていた

 

「ほらほらほらほら!!どんどん立てないようにして行ってあげるよ!!五番隊隊長・雷山悟!!」

 

「くっ…!!俺をなめるな!!」

 

雷山は詠唱も鬼道の名前も口にすることなく”縛道の六十三”『鎖条鎖縛』を発動させ、雨明を捕らえた

 

「またこんな…!!」

 

 

(くれない)()まる(いかづち)弾丸(だんがん) (もみじ)(かた)業火(ごうか)紋様(もんよう) 雷撃(らいげき)鎮静(ちんせい)栄枯(えいこ)燃焼(ねんしょう)雷神狼(じんろう)()まれる(にえ) 咆哮(ほうこう)(おび)える非力(ひりき)生者(せいじゃ) 蹂躙(じゅうりん)()きる亡者(もうじゃ)(むれ) 轟雷(ごうらい)獄炎(ごくえん) 灰燼(かいじん)()し 雷陣(らいじん)(つらぬ)かれよ」

 

 

雷山が詠唱を終えるとその背後にはモミジの葉を模った雷の陣が出現していた

 

 

「”破道の九十五”『雷弾狼炎椛(らいだんろうえんか)』!!」

 

雷山が叫ぶと同時にその陣から雷を纏った狼が出現した。狼は遠吠えをした後、雨明を身体ごと丸呑みにして爆発した

 

煙が晴れると地面に倒れこむ雨明の姿が露わになった。雨明は腕を振るわせながらもなんとか身体を起こした

 

「はぁ…はぁ…僕は…まだここでは……ッ!!」

 

雨明は目の前に立つ雷山の気配を感じ取った

 

「雨露雨明、春麗を返してもらうぞ…!!」

 

「やめろ…!!僕に……狐蝶寺隊長に触るなぁぁ!!!」

 

雷山は狐蝶寺を宥めるように優しく抱きしめ静かにただ一言呟いた

 

「なっ…!?」

 

「悪いな春麗…”静電気(せいでんき)”…」

 

その瞬間狐蝶寺の身体に電流が走った

 

「がはっ…!?」

 

電流を浴びた雨明は後ろにバランスを崩しそのまま倒れた

 

「くっ…そ…!!こんなはずじゃ…!!」

 

狐蝶寺の身体を乗っ取っていた雨明はそのまま意識を失った。それと同時に雨明本来の身体がピクリと動いたのを雷山は目の端で捉えた

 

「…あくまで雨明自身の精神を狐蝶寺の精神に上乗せしていたっていうだけか」

 

雷山ががそう言ったとき、雨明はゆっくりと立ち上がっている最中だった

 

「良かったよ。霊体融合していたらどうしようかと思っていたところだったんだ」

 

「……」

 

静かに立ち上がった雨明は周りに目を向けこの後の対応を考えている様子だった

 

「その様子だと大人しく降参してくれと言ってもいい答えは聞けなさそうだな」

 

「ええ、ここで僕が負けを認めるのは簡単ですが、それをしたらこれまでやって来たことの全てが無駄になる」

 

「そんなくだらない理由(ワケ)で死を選ぶのか?」

 

「僕にとっては大事なことだ!!」

 

雨明は声を荒げた

 

「…いい加減話してくれないか?お前が春麗を連れて行こうとした理由を、そこまでしてまでお前が春麗と3人で過ごして行くと言ったあの言葉の意味を」

 

「……」

 

何も言わず雷山を見据えている雨明

 

「これでも、春麗とは昔から苦楽を共にしているんだ。あいつが俺のことをよく知っているように俺もあいつのことはよく知っているつもりだ。だが、お前らの顔は初めて会った時より前には一度も見たことがないし雨露雨入も雨露雨明という名前すら聞いたことがない。お前ら……春麗とはどういう関係なんだ?」

 

しばらく黙っていた雨明だったが

 

「狐蝶寺隊長の事をよく知っている…?…ぷっ!はっはっはっは!!!」

 

雨明は腹を抱えて大笑いをし始めた

 

「…何が可笑しいんだ?」

 

「雷山隊長、あなたは自分の事を買い被りすぎですよ。意図せずですが、狐蝶寺隊長の記憶を覗いた僕から言わせれば、狐蝶寺隊長があなたに黙っていることはいくらでもあります。まあ、狐蝶寺隊長が黙っていることを僕がペラペラ話すのは失礼に当たるのでしませんが、僕と姉さんと狐蝶寺隊長の関係は話してもいいでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遥か昔の話ですが、僕と姉さんは狐蝶寺隊長に助けられたことがあるんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





”破道の九十五”『雷弾狼炎椛(らいだんろうえんか)

効果:背後にモミジの形をした雷の陣を出現させる。その陣から雷を纏った狼を出現させ、対象のもの全てを飲み込む技

詠唱:(くれない)()まる(いかづち)弾丸(だんがん) (もみじ)(かた)業火(ごうか)紋様(もんよう) 雷撃(らいげき)鎮静(ちんせい)栄枯(えいこ)燃焼(ねんしょう)雷神狼(じんろう)()まれる(にえ) 咆哮(ほうこう)(おび)える非力(ひりき)生者(せいじゃ) 蹂躙(じゅうりん)()きる亡者(もうじゃ)(むれ) 轟雷(ごうらい)獄炎(ごくえん) 灰燼(かいじん)()し 雷陣(らいじん)(つらぬ)かれよ

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