未来から帰って来た死神   作:ファンタは友達

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第九話 (第四十五話)

「これは…この鬼道はまさか…」

 

鬼道が放たれた方向を見て銀華零は驚愕した。そこには本来ここにいるはずのない人物が立っていたためである

 

「…これは一体何の真似ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「春麗ちゃん―――――――」

 

 

銀華零が振り向くとそこには狐蝶寺が立っていた。それは普通ならありえない話であった。現在銀華零は雨入が作り出した卍解の空間内に居る状態だった。それは銀華零が空間から出ることも出来なければ他の者が空間に入ってくることも不可能であることを意味していたため狐蝶寺がここにいることはあり得ない話だった

 

「……」

 

狐蝶寺は銀華零の問いかけに一切反応を見せずどこか虚ろな目をしていた

 

「…できれば使いたくはなかったんだけど、仕方ないよね。銀華麗隊長、これが僕の斬魄刀『夢遊』の能力です」

 

「一言で言えば、”他人を操る能力”ですか…」

 

「さすがは銀華麗隊長、正解です。僕の斬魄刀『夢遊』の能力は”他人を睡眠状態に陥れ自由自在に操ることが出来る”です。つまり狐蝶寺隊長の意識は今、僕手中にあるのですよ」

 

雨明がそう言った時狐蝶寺が突っ込んできた。銀華零はそれを狐蝶寺から見て左に移動し躱したが、狐蝶寺はそれを読んでいたかの如く右足を軸に方向転換をし銀華零に斬撃を加えんとした

 

ガンッ!!ガキンッ!!ガンッ!!

 

銀華零はそれぞれ頭部、右腕、脇腹の三か所に撃ち込まれた狐蝶寺の斬撃を左脇腹に少しの傷を受けながらもその全てを捌き切って防いだ

 

「これは…間違いないですね…」

 

銀華零は狐蝶寺のここまでの動きに身に覚えがあった。それはかつて一度だけ見せたことのある狐蝶寺春麗の本気の斬撃であった

 

(…仕方がありませんね。ここまで本気の春麗ちゃんを相手するには賭けに出るしかないですね…)

 

銀華零の卍解は能力の使用不使用を問わず、最短でも一年は始解すら出来なくなる卍解だったため、銀華零は使うのを渋っていた。しかし、先程の攻防で卍解を使わなければ負けると判断しそのリスクを承知で卍解を使う覚悟を決めた

 

「やれやれです。本当は使いたくはなかったんですけどね。”卍解”…」

 

銀華零が卍解と口にするとそれまで鏡の形をしていた刀が斬魄刀を解放していない状態へと戻って行った

 

「斬魄刀が未解放の状態に…」

 

それは雨入と雨明にとっても予想外のことで、二人は一瞬銀華零は本当に卍解を使おうとしているのか疑心暗鬼に陥りそうになるくらいだった

 

「”卍解”『白銀鏡華零(はくぎんきょうかれい)』」

 

 

”卍解・白銀鏡華零”それは初代護廷十三隊三番隊隊長・銀華零白が持っていた氷雪系の斬魄刀”銀鏡”の真の姿である。その能力は”自身が見たことのある他人の始解、卍解を自身の刀に映し自在に使うことが出来る”と言うものであった。また銀華零が他人の卍解を使っている間は自分の斬魄刀本来の技を使えず、使われている卍解の持ち主もまた卍解を使うことが出来ない。先述したがこの卍解を一回でも使うと最低でも一年は始解すら出来なくなるため銀華零がこの卍解を使うことは滅多になく、見たことのある者はほんの一握りである

 

 

(六道さん、かつて共に戦ったあなたの力を少々お貸しくださいね…)

 

「『白銀鏡華零』”卍解”『六道輪廻黄泉(ろくどうりんねよみ)』!!」

 

その時銀華零は賭けに出ていた。雨入の始解の能力がまだ発動しているならば他人の卍解を使うことが出来ず、敗北するのが明白だったからだ。しかし、それは杞憂に終わった。

 

「…やられた」

 

卍解を使った銀華零を見て雨入は呟いた。銀華零は知る由もなかったが、雨入が卍解を発動したと同時に始解の能力が解けてしまっていたのだった。当然それを銀華零が知る術がないため雨入は能力が使えるか分からない状況で卍解を使わないだろう高を括っていたが、銀華零が普段絶対にやらない賭けに出たことでその目論見が失敗に終わったのだった

 

「初めて賭け事をしましたが、外れなければ案外こういうことも悪くはないですね。さて、私に力を貸してください」

 

銀華零の目の前では辺りの霊子が集まっておりそれが徐々に人の形を成していった

 

「水野瀬さん」

 

そう言う銀華零の前に初代七番隊隊長・水野瀬永流(みずのせながる)が立っていた。しかし、現れた水野瀬は銀華零の方へ振り向き不機嫌そうに眉を(ひそ)めた

 

「全く…僕を凍らせておいて手を貸してくださいなんて虫が良すぎるんじゃないですか?白隊長」

 

「あの場合は仕方ないですよ。それに手を貸してくれたらちゃんとお礼はしますよ」

 

「…本当ですよね?」

 

「私は嘘なんて吐きませんよ」

 

「はぁ…分かりましたよ。ですけど、今回だけですよ?白隊長。”卍解”『琉水雨蓮水萍(りゅうすいうれんすいひょう)』」

 

その瞬間地面よりいくつもの蓮の葉や花が生え始めてきた。それは銀華零と水野瀬を守るように生え正面からの攻撃以外通用しないだろうと言うことが明白なほどだった

 

「それでは私も行きますか。”六道行使(りくどうこうし)”『修羅道(しゅらどう)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~五番隊舎内・隊長執務室~

 

 

「……」

帰って来た雷山は執務室内のソファで寝ている椿咲を見下ろしていた

 

「むにゃ…今度こそは成功ですよぉ…」

 

「…何事も起きてなさそうでよかったが緊張感が足りてないな。まあ、椿咲に限ってはいつもの事か」

 

雷山は椿咲の頬付近に指を向け鬼道を放った

 

「”破道の一”『衝』」

 

「きゃっ!?」

 

頬に弱い衝撃を受けた椿咲は驚いて飛び起きた

 

「痛てて……か、雷山隊長!?」

 

「長らくここを空けていた俺にも非があるが、寝ているのも大概だと思うぞ?」

 

「ね、寝てませんって!目を閉じて瞑想してたんですって!」

 

雷山にそう言う椿咲だが、まだ目が完全に明き切っておらず今にも再び寝そうな状態だった

 

「はぁ…全く、自分よりも強い隊長が倒されたと言うのに熟睡できるその神経はもはや称賛に値するな…」

 

「えへへ…それほどでもないですよ」

 

「何か勘違いしてるかもしれないが、褒めてないからな。ところで何か変わったことはなかったか?」

 

雷山は大して変わったことはなかっただろうと思っていたが、椿咲の口から思いもよらない人物の名前が飛び出してきた

 

「変わったことですか…そう言えば、雨入ちゃんが訪ねてきましたよ?」

 

「雨露がか?一体何の用でだ?」

 

「それが聞く前に帰って行っちゃいましたよ。あっ、でも雷山隊長に何か用があったみたいですよ。開口一番でいるか聞かれましたし」

 

「…このタイミングで雨露が訪ねて来たことが気になるな。それに椿咲に伝言を頼まなかったことも気になる…直接俺に言わなければならない程の重要な情報なのか…?」

 

「うーん、半分寝ぼけてたからハッキリとは言えないんですけど、そんな感じには見えなかったですよ?」

 

「…まあいい。それは明日聞けばいいことだしな。それよりお前は自室に戻ってもいいぞ。半分寝ぼけた状態で居てもらっても困るしな」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて寝て来まーす…」

 

「…胸騒ぎがするな。これもただの杞憂に終わってくれればいいんだが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おかしいな」

 

狐蝶寺の前に膝まづく水野瀬は左腕を斬り落とされる重傷を負っていた。また水野瀬の卍解により辺りに咲いていた蓮の葉や花が無残に散っていた

 

「春麗隊長ってこんなに強かったっけ?ねぇ…白隊長?」

 

銀華零は水野瀬の後方で意識を失った状態で地面に横たわっていた

 

「……まさか白隊長までやられちゃうなんてね…」

 

狐蝶寺は片手サイズの扇を水野瀬の身体の中心に照準を定めた

 

「切風・四肢裂風」

 

その言葉と同時に水野瀬の両手足が胴体と切り離された

 

「うっ…!!君らが誰なのかは知らないけど、僕を倒したからって悟隊長たちを甘く見ないことだね…」

 

「僕らにも勝てないような人が良く言うよ。悪いけど、君の忠告は無視させてもらうよ」

そう言い雨明は水野瀬の首をはね飛ばした

 

「バイバイ」

 

残された水野瀬の胴体が地面に力なく倒れた時辺りに散っていた蓮の葉や花が一気に霧散して消えた

 

「さて、残念だけど、銀華麗隊長もここで退場してもらおうかな」

 

「うん。元々そのつもりだったしね」

 

そう言う雨露姉弟の視線の先には仰向けの状態で倒れる銀華零の姿があった

 

「じゃあ、狐蝶寺隊長よろしくお願いします」

 

「……切風・断頭!!」

 

ザシュッ!!ドサッ!!

 

「…え?」

 

その光景を目にしていた雨露姉弟は一瞬理解が出来なかった。狐蝶寺は確かに銀華零の頭を斬り落とし止めを刺していた。しかしその攻撃をしたと同時に狐蝶寺は今まさに止めを刺さしたはずの銀華零に峰内の攻撃をみぞおちに食らっていたのだった

 

(あとはあの二人だけ…!!)

 

負傷していてもなお銀華零と雨露たちとの実力差があり銀華零はいとも容易く雨入の背後をとった

 

「うっ!!」

 

雨入の背後に回った銀華零は雨入をそのまま斬りつけた。反射的に雨入は飛び退いたがそれと同時に雨入が作り出していた『卍解・梅雨染櫓』の空間が歪み始めた

 

「梅雨染櫓の空間が…!?姉さん!!」

 

「ごめん後一分くらいしか持たない!!」

 

そう言う雨入の背後に再び銀華零の刃が迫っていた

 

「ッ!?姉さん後ろ!!」

 

ザシュッ!!

 

「きゃッ!!」

 

斬られた雨入はそのまま崩れ落ちて行った

 

「くっ…!!」

 

しかし負傷していたこともあり銀華零は雨入に攻撃をした直後体勢を崩してしまいフラ付いてしまった。その隙を雨明は見逃さずに空かさず反撃に転じた

 

ガンッ!!

 

しかしそれで討ち取れるほど銀華零は甘くなく斬撃を受け止められてしまいそのまま斬魄刀を弾き飛ばされてしまった

 

「これで終わりです!!」

 

銀華零の攻撃を防ぐ手段がない雨明はそのまま銀華零に身体を貫かれた

 

「うっ…!!…ハハッ…さすが銀華麗隊長です。正直史上最強なんて名ばかりだってバカにしていましたけど、その考えは改めますよ…」

 

「……?」

 

銀華零はその時少しの違和感を感じた。初めは雨明が今まさに語ることに対しての違和感と思われたが、雨明は本心から言葉を発しているのだろうと察しそれとは別の何かの違和感だと銀華零は直感した

 

「だから…だから敬意を以てあなたを殺します!!」

 

雨明のその言葉を聞いたとき銀華零は初めてその違和感が何かに気が付いた

 

(雨明さんの姿が、徐々にぼやけて来ている…?……しまった、これは…!!)

 

 

 

 

 

”『陽炎写(かげろううつし)』―――――――――――――”

 

 

 

 

 

直後腹部に激痛が走った。銀華零は背後にいた本物の雨明に斬魄刀を突き刺されていた

 

「私が斬魄刀を弾こうが弾かなかろうが詰んでいたと言うことですね…その手腕は見事です…」

 

斬魄刀を引き抜かれた銀華零は噴き出した鮮血と共に月明かりに照らされた地面へ崩れ落ちて行った

 

「はぁ…はぁ…」

 

雨明もまた限界を迎えておりその場に崩れ落ちた

 

「雨明、大丈夫?」

 

「うん、なんとかね…さすが史上最強と謳われる初代護廷十三隊の隊長だよ…今までの人とは比べ物にならないくらい手強かった…」

 

「…一旦退こっか?ここに居たら真っ先に疑われちゃうしね」

 

「うん…」

 

雨露姉弟は傷を負いながらも瞬歩でその場から離脱した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後双極の丘には三番隊副隊長・浮葉刃の姿があった

 

「銀華麗隊長!いませんかー?…おかしいな、銀華麗隊長の机に双極の丘へ来るように書いてあったのに…」

 

辺りをキョロキョロと見回す浮葉

 

「行き違いになったかな…あれ?」

 

浮葉はその時と奥の方で誰か倒れているのを見つけた

 

「こんな夜中に誰だろう…?」

 

歩み寄ってみて浮葉は絶句した。そこには全身血だらけで倒れている銀華零の姿があった

 

「銀華零…隊長…?銀華零隊長しっかりして下さい!!銀華零隊長!!」

 

浮葉の呼びかけに一瞬意識を取り戻した銀華零

 

「…浮葉…さん…?」

 

「銀華零隊長…!!気が付きましたか…!!」

 

浮葉の死覇装を掴み声を振り絞り何かを伝えようとする銀華零

 

「あ…雨露さん…たちに…き…お…」

 

その一言を言い残し銀華零の手が力なく地面に落ちた

 

「銀華零隊長…?銀華零隊長!!そんな…銀華麗隊長!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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