「さて、この場は二番隊に任せて俺たちは隊舎に戻るか。志波がやられた以上、少なくとも相手の実力は椿咲以上ということになる」
「南美ちゃん以上の実力者ですか…」
「ああ、厄介なことこの上ないな…そうだ。白に一つ聞きたいことがあったのを思い出した」
「あら、珍しいですね。私が答えられるものでしたら答えますよ」
「俺が知らない春麗の過去の出来事って何かあるか?」
「雷山さんが知らず私が知る春麗ちゃんの事ですか…」
銀華零はその場に立ち止まり、目を閉じて腕を組み、自分の記憶を遡っているようだった
「私が知っている限りでは雷山さんが知らないことはないはずです。強いて挙げるなら、春麗ちゃんが一度だけ現世に行った時の事でしょうか」
「現世に行った事?それは知ってるぞ。その報告も隊首会で聞いたはずだしな」
「いえ、隊首会での報告していた事ではないですよ。現世に行った時、当時としては数少ない死神が見える人間に会ったという話です。それは雷山さんには言ったことないと聞きました」
「二人の子供か…人数だけだと今回の事件の首謀者の仮説に当てはまるが…」
「さすがに偶然でしょう。ですが一応”春麗ちゃんに関わる者”として当てはまりますし、この話はまた後日山本さんに話しましょうか」
「ああ、そうだな。…もう一度言うが、白。お前がやられるなんて微塵も思えないが、一応気を付けて行けよ」
「雷山さんも気を付けてくださいね」
「もちろんだ。それじゃあ、また今度な」
「はい」
(……?あれは…雨明さん…?)
雷山と別れた数分後銀華零は一人佇む
「こんなところでどうされたんですか?」
「あ、いえ…」
雨明は誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見回している様子だった
「誰かを探しているんですか?でしたら、私が探しますので、雨明さんは隊舎に戻りましょう。今はどこで志波隊長を襲った者がいるか分からない状況ですし」
「は、はい…」
その後銀華零は雨明と共に三番隊舎へ帰り着き、雨明を隊舎内にある宿舎へ送り届けようとした時、それまでずっと黙っていた雨明が口を開いた
「あ、あの…銀華麗隊長…」
「どうされました?」
「あ…その…じ、実は…相談があって、銀華麗隊長を探していたんです…」
「私に相談ですか?……分かりました。あっ、良ければ夜風に吹かれながらゆっくりとお話ししませんか?」
「は、はい!」
「ふふっ、でしたらここで少し待っていてください。出掛ける用意をしますので」
その後銀華零は隊長執務室へ一度行き、雨明と共に”双極の丘”へ赴いた
「さて、ここなら広いし景色も奇麗ですし語らうにはいいと思いませんか?」
「そうですね。瀞霊廷にこんな場所があったなんて…」
「さてと、では相談をお聞きしましょうか」
「あ、はい。実はですね…」
その時雨明は素早く刀を抜きそのまま銀華零を腰辺りで一刀両断しようとした
「まだまだですね…」
しかし、それを読んでいた銀華零はその攻撃を躱し雨明の背後に周り逆に斬りつけようとしたが、雨明は瞬歩で銀華零の背後5メートル程に移動しそれを逃れた
「…これから倒そうとする相手に殺気を悟らせるようではまだまだですよ。雨明さん」
「…いつから気付いていたんですか?銀華麗隊長」
「あなたが私に相談があると言った時からですよ。あの時、あなたが私に対して一瞬殺気を向けたのを感じたのが最初ですね。そんなあなたが私を呼び止めたと言うことは私を殺そうとしていることとすぐに分かりました」
「…成程。それでむやみに被害を出さないために自らここへ移動してきたと言うことですか」
「ええ、ここなら多少無理な戦いをしても大丈夫だと思ったので」
「…残念だなぁ…初めの一撃で終わらせるつもりだったのになぁ」
「……」
銀華零は奇襲を失敗した雨明がその場から逃げようともしないことに不審に思った。
(…私の経験上奇襲を失敗した者は態勢を整えるべく一度引くと思ったのですが…もしや何かタイミングを狙っている…?)
「出来れば嫌だったんだけど仕方ない。…あれ?」
「……ッ!?」
雨明の攻撃に備え斬魄刀を構えた瞬間銀華零は何かの気配を感じ取ったようにその場を離れた
「…あーあ、せっかく銀華零隊長を倒せるチャンスだったのに…」
「ッ!!貴女は…雨入さん…」
銀華零が先程まで立っていた場所のすぐ後ろに雨露雨入が斬魄刀を振りかざした状態で立っていた
「なんで来ちゃったの?怪我したから大人しくしてなよって言ったのに…」
「雨明一人で銀華麗隊長と戦わせる無茶なんてさせるわけないでしょ?」
「やはり…そうでしたか…」
銀華零は雨明に攻撃された時から薄々雨入も雨明同様に自身を攻撃しに来るであろうと考えていたため雨入がこの場に居ることは特別驚くことではなかった
「まさか銀華零隊長を相手にするのに雨明が一人で戦いに来たなんて思ってないよね、銀華零隊長?」
「思っていませんよ。雨明さんが一人で来た時点で貴女も来ることは予想していましたから」
「さすが史上最強と謳われている初代護廷十三隊の隊長だね。志波隊長以上に隙が見つからないし、攻撃も察知されて当てられないし…けど、あの人の為に銀華零隊長にはここで退場してもらいます!!」
「”あの人の為に”…?…まさか、あなたたちの目的は…!!」
”あの人の為に”と言う雨入の言葉を聞いた銀華零は、ある一つの可能性に辿り着いていた
「…気付いちゃいました?銀華零隊長の考え通りですよ”
「ですが、その至った考えを持ち帰らせるわけにはいきません”
二人は解号を唱え斬魄刀を始解させたが、形が変わるなどの大きな変化は見られなかった。
「「銀華零隊長、あなたにはここで死んでもらいます!!」」
雨明と雨入の声が重なると同時に二人が銀華零に斬りかかってきた
「くっ…!!
銀華零は二人の斬撃を捌きながら自身の考えをまとめていた
(…春麗ちゃんが会ったと言う二人の子供の話。そして”全ては狐蝶寺隊長の為に”と”あの人の為に”という二つの言葉。これらが揃ってようやく分かりました。その時の二人が雨明さんと雨入さん、そしてその目的を言うなれば…)
”護廷十三隊十三番隊隊長・狐蝶寺春麗の奪取――――――――”
(しかし仮に春麗ちゃんの奪取が目的だったとしても、護廷十三隊に入隊した今それを行うメリットがない。なのに何故…?)
銀華零が考え事をしながら斬撃を捌いていることは雨明と雨入の二人にも伝わった
「考え事しながら私たちの相手をしているなんて戦いとして失礼じゃありませんか!?」
ガンッ!!
「今しがた考えがまとまったところです。ここからは本気で行きますよ」
(とは言ったものの、まだ分からないことが一つだけある…ですが、それは後からいくらでも考えられる。今はここを切り抜けなくては…)
「…雰囲気が変わったね。これが銀華零隊長の本気なのかな」
「さあ、どうでしょうね。ですが、そうやって警戒するのは良いことですよ。”写し見とれ”『銀鏡』」
解号を唱えた銀華零の斬魄刀は、鏡の形に変化した
「行きますよ…!!”銀鏡”『雷斬』」
「ふふふ…」
「…何が可笑しいのです?」
「自分の刀をよく見てくださいよ。銀華零隊長」
「……?これは…!!」
銀華零の持つ斬魄刀『銀鏡』 その能力は自分が知っていて且つ見たことのある斬魄刀の始解のみを自身の刀に映すことが出来る能力である。本来、銀華零が斬魄刀名を口にするとその斬魄刀の形に変化するのだが、今回はその変化が起こらず元の銀鏡のままだった
「…何をしたのですか?」
「私の斬魄刀は『
「相手の斬魄刀に触れることですか…」
銀華零は先程の攻防で雨入の斬撃を己の斬魄刀で防いだことを思い出した
「そうです。さっき銀華麗隊長は私の攻撃を斬魄刀で防ぎました。つまり、今は斬魄刀の解放が出来ず、事実上銀華零隊長を無力化出来たということです!!」
その瞬間今まで銀華零の背後で斬魄刀を構えタイミングを見計らっていた雨明が斬りかかってきた
「…不用心ですね」
銀華零は雨明の攻撃を見もせずに躱した
「どういう意味ですか?」
「言葉そのままです。まさか、斬魄刀の能力を封じただけで私を倒せるなどと思っていませんよね」
「思っていませんよ!!”破道の三十三”『蒼火墜』!!」
雨明は銀華零の目の前で鬼道を炸裂させ銀華零から視界を奪った
(いくら銀華零隊長でも斬魄刀の能力と視界を奪われれば…!!)
そう思った雨明は煙の中に飛び込み銀華零の横を通り抜けざまに斬ろうとしたが、銀華零は一瞬にしてその攻撃を予想しており刀の軌道が見えないながらも斬撃を躱した
「なっ…!?」
雨明にとってみれば目が見えない状態で銀華零が攻撃を完璧に避けることは想定外であり銀華零の横を通り抜け背を向けてしまっている最大の隙を作り出している状態だった
「私から視界を奪いに攻撃する。言葉だけ聞けば戦いの定石ですが、この煙と言うものを最大限活かすにはこの攻撃方法しかないと誰しもが気づきますよ。先日あなたたちが退けた志波隊長でもね」
「かはっ…!!」
すぐに振り向くことが出来なかった雨明は銀華零に背を一瞬向ける形になった。その瞬間銀華零は雨明の背中を蹴り飛ばした。
「うあ゛っ!!ぐっ!!がっ!!」
雨明は幾度も地面に叩きつけられて行き、銀華零の数メートル先で止まった
「雨明!!」
その様子を見て雨入は居ても立っても居られなず雨明に駆け寄った。幸い、死んではいなかったがそれでもひどい重傷を負っていた
「大丈夫だよ…姉さん…」
ふら付きながらも雨明は立ち上がり再度銀華零に刃を向けた
「はぁ…はぁ…」
「そんな…私の能力を使って銀華零隊長の斬魄刀を封じれば簡単に勝てる出来るはずなのに…」
「簡単に勝てる…ですか…」
その言葉を聞いた銀華零は口元を緩ませ、笑みを浮かべていた。その笑みは雨入、雨明の二人からは影になり見えなかったが、すぐにその不気味さを思い知ることになった
「…ふふっ、私もナメられたものですね…」
「……!?」
その時、雨入と雨明の二人は寒気を感じた。それは体感温度が低く凍えると言う寒さよりも、圧倒的強者に殺気を向けられた時に生じる悪寒のようなものだった
「まさか斬魄刀の能力を封じるだけで私に勝てると思っている方がいるとは…」
「ッ!?」
銀華零の眼を見た二人は驚愕した。先程まで温厚で優しさを感じた銀華零の眼が突如として冷たく、殺気に満ちた眼に変わっていたからである
「少し痛い目を見てもらうくらいにしておこうかと思いましたが、やめました。あなたたちには……私の刀の錆になってもらいます」
その時の銀華零は清々しい程の笑みを浮かべていたが、その笑みは優しさと言うものを一切含んでおらず、”恐怖”と言う二文字しか見えなかった
「雨明!!一旦退こう!!このままじゃ―――――」
その言葉が聞こえた時雨明の目に斬られて宙に浮く雨入の姿があった
「一旦退き態勢を整えようとする。とてもいい案だとは思いますが、それに今更考えが至るのは遥かに遅いですよ?」
「うっ…はぁ…はぁ…」
銀華零は雨入の左腕を斬り落とすつもりで斬撃を加えたが、雨入の左腕は胴と繋がっており代わりに切り傷が出来ていた
(私の斬撃を刀で僅かに逸らして腕を落とされることを避けるとは…さすがに志波隊長を退けただけはありますね…)
「ははは…やっぱり銀華零隊長相手に卍解を温存しておこうって言うのは無謀だったかな…」
「ッ!?」
雨入と雨明は気付いていなかったが、その時銀華零は雨入の発した卍解と言う言葉に驚き隠せなかった
(…本来、この二人が始解を修得しているのもあり得ない話ですが、卍解を修得していると言うのはさらにあり得ない話のはず…普通なら口からの出まかせと捉えるべきですが、しかしこの場面でそれを言う意味がない…と言うことはまさか本当に…)
「さすがの銀華零隊長もこれには驚きますよね…”卍解”『
卍解をしたと同時に今まで巨大な矛と磔架から成る双極の景色から一変、湖の上に存在する城下町の風景に変わっていた
「雨入さん…あなた何処で卍解を…」
「さあ、そんなことは忘れましたよ。ですが、1つ言うのであれば、私たちは400年前に一度尸魂界に来ているんですよ」
「それは一体どういう――――――ッ!?」
その時銀華零の右腕に痛みが走った。見ると雨明が右腕に切り傷を与えていた
「私としたことが雨入さんの話に気を取られすぎましたね。仕方ありません、出来れば生け捕りにしようと思っていたのですが、そんな余裕は出来そうにないですね。”縛道の六十一”『
「うっ…!!」
銀華零に手傷を負わせた雨明だったが、鬼道を避ける程の余裕は残っておらず銀華零の縛道に捕まりその場から動けなくなった
「”御触書”鬼道封殺…」
「遅い!!”縛道の六十三”『鎖条鎖縛』」
雨入は雨明の鬼道を解除しようと”御触書”を使おうとしたがそれよりも早く銀華零の鬼道によって囚われてしまい不発に終わった
「くっ…!!」
悔しそうに銀華零を睨む雨入を他所に銀華零はある鬼道を使う決心をした
「この鬼道は雷山さんや春麗ちゃんと考え合い完成させた鬼道です。この鬼道を使うのはあなたたちが初めてですから、その点は誇ってもいいと思いますよ」
雨入と雨明はまだ気づいていなかったが銀華零がそう言い終わった瞬間、辺りの気温が一気に下がり始めていた。その証拠に徐々に白い冷気が辺りを漂い始め、銀華零の姿を覆い隠した
「
銀華零の詠唱がそこまで終わった時気温が氷点下を超え空気中の水分が氷に変わり始めていた。その氷が徐々に数か所に集まり何かの形を形成し始めていた
―――――――――――――
銀華零が詠唱を終えると大気中の水分が氷に変わり複数体の氷の龍を形成していた。
「”破道の九十四”『
その瞬間形成された全ての氷の龍が雨入と雨明の二人に向け突撃していき二人の身体をそれぞれ締め付けるように体に纏わりついた
「か、身体が…!!」
「姉さん!!”御触書”は使えないの!?」
「さっき一瞬使いかけちゃったからまだ使えないよ!!」
「くっ…!!こうなったら…」
そこまで言った時点で二人は完全に氷に閉ざされてしまった
「……」
二人が氷に閉ざされた後も銀華零は気を抜かず二人を見ていた。二人が動く気配も氷が割れる気配の感じなかったため一安心したが、銀華零には胸騒ぎがしていた
(私が考案したこの『氷華龍尖晶』なら確かに二人を確実に倒すことが出来るはず…しかしこの胸騒ぎは一体…)
「ッ!!」
「”破道の九十三”『
その時銀華零の背後から声が聞こえたと同時に横を何かが通り過ぎて行き、雨入雨明を氷の龍により拘束から解放した
「これは…この鬼道はまさか…」
鬼道が放たれた方向を見て銀華零は驚愕することとなった
”破道の九十四”『氷華龍尖晶(ひょうかりゅうせんしょう)』
効果:大気中の水分を使い龍を作成する。その龍で対象を捕らえ、徐々に氷の中に閉じ込めていき最終的に氷華の形に整え相手を閉じ込める技。その花は完成すると同時に中に閉じ込めた者もろとも粉々に砕け散ると言われている
詠唱: