瀞霊廷・十番隊隊舎付近―――――――
「…俺に用があると見受けるが、生憎今はサインなどをしている暇じゃないんだ」
十番隊隊長・志波空山の前に一人の死神が立ちふさがった。空山はその死神を見たことがなく、少なくとも十番隊の隊員ではないことは分かった
「……」
「黙り込んでいないで何か言ったらどうだ。今回の事件のことで相談事や気が付いたことがあれば聞くが…」
「……」
空山の目の前に立つ死神は何も言わず斬魄刀を引き抜き空山と戦う意思を示した
「…なるほど。どうやら、今騒ぎを起こしている者はお前と言う訳か、…いいだろう」
空山も抜刀し、その意思に応えた
「十番隊隊長・志波空山。大手を振るってまかり通る!!なっ…!?」
空山は剣を振るい剣圧で目の前の死神を押し退けようとした次の瞬間、空山の視界が一変していた。先程まで瀞霊廷の街並みを見ていたはずが、身に覚えのない城下町の風景が目の前には広がっていた
「なんだここは…?」
「……」
「何をした…!?」
「…これから死ぬ人に答える必要なないですよね。志波空山十番隊隊長さん」
「これから死ぬ人にだと…?俺を見くびりすぎだ!!」
空山の言葉を聞いた死神は口元をニヤリとさせ笑っていた
「見くびっているのはそちらじゃないですかね。私の実力を正確に把握できないあなたでは勝てませんよ?」
「…だったら見せてやろうじゃないか。”
空山は始解をしたがどこか容姿が変わったや斬魄刀が変化すると言った見た目に分かるような変化は起こらなかった
「さて、あなたは私に勝てるかな?」
来ると察した空山はより一層警戒を強めた。次の瞬間、死神は瞬歩で空山の背後に回った。その瞬歩での移動を空山は視認することが出来ずその速さは隊長格の死神にも匹敵するものだと空山は直感した
「甘い!!」
「がはっ!!」
死神の攻撃を十分に引き付けた空山は、その攻撃を完璧に見切って躱し、そのまま蹴り飛ばす形でカウンターを放った
「うっ…!さすがは十番隊隊長だね…。操ってるのと全然動きが違うや…」
空山のカウンターを受けた死神はさすがに無傷とは言えずダメージを負った様子だった。しかし、それでも空山の一撃を受けてもなお立ち上がれたことは空山自身も驚かせた
「…驚いたな。俺のカウンターを受け、地面に叩きつけられてもなお立ち上がれるとは…」
「…あの程度の事で私が地面に伏せるとでも?本当に失礼な話だね。私は初めに”見くびっているのはそちらの方”だと言ったのに…」
「見くびっているというのはお互い様だろう。お前とて俺がカウンターを放ってくるとは思っていなかっただろう」
「そんなことは――――」
「ないですよ」
「ッ!!」
空山は突然背後から声が聞こえたことに驚愕した。空山は声のした方を見ると同時に襲撃者の死神とも距離が取れる位置に瞬歩で移動した
「あれ?そっちは上手くいかなかったの?」
「いくら狐蝶寺隊長を使っても相手は雷山隊長と銀華零隊長だよ?やっぱりどちらか片方ずつじゃないと勝負にすらならないね」
「…貴様、何処から湧いて出た…!?」
「何もないところからいきなり湧くわけないじゃないですか。普通に入って来ただけですよ。志波空山十番隊隊長」
「普通に入って来ただけだと…?」
(こいつらいったい何者だ…!!)
「今回、僕は大人しく見ているよ。たまには一人でやってもらいたいし、何よりこの後に銀華麗隊長か雷山隊長と戦うならその前に準備運動をしておかないといけないしね」
「ちょっとちょっと!いつも私がサボってるみたいに言わないでよ!ちゃんと私の能力で援護してるでしょ!」
「何だ…こいつらは…」
空山は目の前で喧嘩を始める二人の死神を見て唖然とした。それこそ本当に子どもの喧嘩を見ているような感覚だった
「もういいや。そこまで言うなら私で一人でやるもん。その代わり私の戦い方に文句を言わないでよ!」
「分かったから早く始めなよ。志波隊長がお待ちみたいだよ」
「うん。一応最後の確認だけど、殺しちゃってもいいんだよね?」
「それは任せるよ」
「了解!」
その言葉と共に死神は再度空山に斬りこんできた
「これはまずいッ!!”卍解”『
死神は卍解した空山に意を介さず、そのまま斬りかかった。そこで、空山は異変に気付くことになる
「なっ!?」
空山は死神の斬撃をギリギリで躱した。しかし、それは本来あり得ない事である
(卍解の能力が発動していないだと…!?)
空山の斬魄刀の能力は”攻撃してきた相手の動きを完璧に見切ることが出来る”と言う能力であり、卍解ともあれば最初の10分間だけはそもそも見切る必要もない物だった。しかし、今の斬撃は動きが全く掴めず、空山は自身の経験のみで躱していた
「どうしました?何か解せない事でもありました?」
「何をした…!?」
「”卍解”『
「…まさか、お前の…!!」
「ご名答です。そしてその能力は…っと万が一あなたを取り逃がしたときのために説明は避けておきましょうかね」
「抜け目がないな…お嬢ちゃん…」
空山は目の前の死神が卍解を持っていると言う事実に驚いており、焦りからか冷や汗をかいていた
「ええ、こう見えても長く生きていますからね。さて、そろそろ外で回りが騒ぎ出す頃合い…決着と行きましょうか」
「くっ…!!」
その後数秒の睨み合いの後、今度は空山の方から仕掛けた。卍解の能力が発動していない以上、空山から仕掛けようが相手の方から仕掛けようが結局は変わらないからである
「おらぁ!!」
「甘いですよ!!ほら、どうしましたか!?隊長って言うのは名ばかりですか!?」
「ぐっ…!!」
二人の剣による打ち合いの攻防は終始、襲撃者側の死神の方が圧倒していた。それは空山が決して手を抜いている訳でも空山の隊長としての実力が不足している訳でもなくただ単純に相手の方が強いからであった
(こいつ…何て打ち込みをする…!!なぜこれほどの実力を持つ者がいるのを今まで気づけなかった!?)
そのような考え事をしていた空山に一瞬、時間にしてコンマ数秒程のほんのわずかな一瞬、隙が生じた。その瞬間を死神は見逃さず、的確な一撃を空山に食らわせた
――――ザシュッ!!
「ぐはっ!!」
腹部を刺され吐血する空山。そんな空山を意に介さず襲撃者の死神は二撃目を放つため一度空山から刀を引き抜いた
「はぁ…はぁ…」
空山は卍解により霊圧を使いすぎた影響と腹部を刺された出血の影響で意識が朦朧としてきた。そこで空山はある決心をした
(こうなれば…)
空山は最後の霊圧を振り絞り、自身が使うことのできる最高の鬼道を放つことを決意した。それは危険な賭けであり、使う霊圧量を間違えば霊圧の過剰使用により生命維持が不可能になり結果的に死んでしまうからだった
「すぅ~…この空山滅びようとも、お前たちだけは今後の尸魂界のために生かしておけぬ!!
空山が詠唱を始めた瞬間襲撃者の死神はそれを阻止すべくいくつもの斬撃を空山に加えようとしたが、それを予期していた空山は、その斬撃をギリギリで躱したり剣で弾きながら詠唱を続けた
――――――
空山が詠唱を終えた直後、死神の周り四方に小さな炎が現れた
「”破道の九十二”『
空山が鬼道名を口にしたと同時にその炎が一気に燃え盛り、牢獄の形を形成していった。炎の牢獄が完成したと同時に今度はその炎を覆うように氷が形成され始めた
「まさか…まだこんな力が残ってたなんて…!!」
その言葉を最後に死神は炎の牢獄とそれを覆う氷の壁に囚われてしまった。その状況は相手からすると絶望的な状況だが、もう一人の死神は慌てる様子もなく閉じ込められている死神の方を見ていた
「…言っておきますけど、油断しないことですね」
「なんだと…?」
空山が呟いたその時だった。氷が砕ける音が聞こえ、先程まであった氷と炎の牢獄はその場から跡形もなく消えていた
「こんな物騒な鬼道を使わないでくださいよ。まあでも、さすがは隊長ですね。少し見直しました」
砕けた氷によって出来た水蒸気の中から閉じ込められていた方の死神が出てきた。その死神は死覇装の左腕、右足部分が焦げ破れており、霜が右側の髪と右腕辺りについている状態で少なくとも無傷という様子ではなかった
「さあ、この戦いもいい加減終局としましょうか」
そう高らかに言う死神は、戦いを愉しんでいるような笑みを浮かべていた
”破道の九十二”『氷獄炎牢(ひょうごくえんろう)』
効果:相手の周りを炎で埋め尽くし牢屋を作り出す。その後上から氷の壁で蓋をして相手を閉じ込める技
詠唱: