未来から帰って来た死神   作:ファンタは友達

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第三話(第三十九話)

豊生は椿咲が飲まれた炎を見つめていた

 

「…さすがの椿咲南美もこれで終わりだな。さて、俺は殲滅の続きでも…」

 

その時豊生の視界が上下逆さまになった。最初は豊生もその状況に頭の理解が追い付かずただ呆然とその景色を眺めているだけだった

 

(何が起こっている…?俺は確かに地面に足をつけ立っていたはずだ…)

 

「…さすがに今のはヒヤッとしたよ。あと少し『断空』で周りを覆うのが遅れていたら黒焦げだったよ」

 

椿咲の声が聞こえたと同時に、豊生は自分が椿咲に投げ飛ばしされたことを理解した。しかしそれが頭をよぎったときにはすでに身体が地面に叩きつけられており、すぐに立ち上がることが出来なかった

 

「実際に戦ってみて確信したよ。やっぱりあの時の春麗さんと同じだね。性格も口調も全く違うや」

 

その瞬間椿咲の背後に雷山が援軍として駆け付けた

 

「遅れて悪い!椿咲、大丈夫か!?」

 

「大丈夫ですよ!私は意外とタフだって言ったじゃないですかぁ!」

 

笑顔で雷山の方へ振り返る椿咲の背後では豊生が追撃を加えんとしていた

 

「椿咲、相手を倒しても油断するなと教えだろ!!”縛道の九十九”『禁』!!」

 

雷山が鬼道を放ったと同時に黒いベルトが豊生を絡め捕り、そのまま地面に鋲を打たれる形で固定された

 

「くそっ!!放しやがれ!!」

 

「放すわけないだろ。他の奴らが来るまでそこで大人しくしててくれ」

 

「大人しくしろと言われ…ッ!?ぐっ…!!う"う"う"…!!」

 

初めは拘束を解こうとジタバタしていた豊生だったが、急に動きを止め苦しそうに呻き始めた

 

「どうした豊生!!しっかりしろ!!ッ!?なんだこの霊圧は…!!」

 

雷山は苦しみだした豊生に駆け寄った。駆け寄った時に豊生の霊圧を少し感じ取ったが、霊圧の振れ幅がめちゃめちゃになっており死んでもおかしくない状態にあった

 

「う"う"う"う"…!!う"あ"あ"あ"あ"あ"ァァァァ!!!」

 

豊生は叫び声と共に膨大な霊圧を放出し気を失った

 

「雷山隊長!!豊生君は大丈夫なんですか!?」

 

「…大丈夫だ。息はしているし霊圧も今は安定している」

 

「良かった…」

 

豊生が生きていることを知って椿咲は一安心した様子だった。椿咲にとって豊生は後輩に当たり、昔一緒に修行したこともあって本当の姉弟ほどの絆があると言っても過言ではなかった

 

「安心するのはまだ早い。豊生にやられた奴が結構な数居る。とりあえず四番隊が来るまで応急処置に当たるぞ」

 

「はい!」

 

返事をすると椿咲は倒れている隊士の元へ駆けて行った。それを見送った雷山は突然苦しみだした豊生のことを思い出していた

 

(しかし、なぜ急に苦しみだしたんだ…?それに霊圧の振れ幅の中にわずかに感じた別の霊圧…)

 

「雷山隊長!!」

 

騒ぎの近くにいた薬師寺が雷山に駆け寄ってきた

 

「薬師寺、とりあえずお前は今すぐ命に関わる者を中心に頼む。他の奴は俺と椿咲で応急処置をする」

 

「は、はい!」

 

その後薬師寺と雷山の指揮のもと、迅速に行われた処置の甲斐があり豊生を含めた全員が快方に向かうのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豊生の暴走が起きた直後、元柳斎は緊急の隊首会を開くと全隊長に通達した。その後2時間も経たないうちに治療を受ける豊生愁哉とその治療に当たる卯ノ花烈。空席となっている八番隊隊長、九番隊隊長を除く9名が集まった

 

 

「急な招集じゃが、よう集まってくれた。これより、緊急の隊首会を執り行う!!」

 

ッターン!!

 

元柳斎は、現状来ることのできる隊長全員が揃ったのを確認した後、手に持っている杖状に封印している斬魄刀を突き隊首会の開始を宣言した。

 

「皆も知っての通り、七番隊隊長・豊生愁哉が謀反を起こす事態が起きた。さっそくじゃが、最も早く現場に着いた隊長として雷山から事の詳細を説明してもらおうかの」

 

「山本、詳細を説明するのなら俺だけでは足りない。そもそも俺が着いた時には既に椿咲が豊生を鎮静化させた後だった。その椿咲からもまだ詳細までは聞けていないからな」

 

「…つまりは椿咲副隊長をこの場に召喚しなければならぬということじゃな?」

 

「ああ、こうなるだろうと思ってすでに椿咲を連れて来てはいる。あとは山本が許可するかどうかだ」

 

「…良いじゃろう。五番隊副隊長・椿咲南美の入場を許可する!」

 

隊首会議場の扉が開かれ外から椿咲が入って来た。本来、副隊長が隊首会議場に立ち入ることはありえないことだったが、豊生の事の発端を知っているのは椿咲ただ一人であるためこのような措置が取られた

 

「し、失礼します!」

 

椿咲は各隊長たちとほぼ毎日顔を合わせてはいるが、隊首会中に顔を合わせることは当然初めてなので緊張した様子だった

 

「椿咲、そんな緊張しなくてもいい。とりあえず俺が来るまでのところまでは説明してくれ。こればっかりは俺もまだ知らないんだ」

 

「は、はい!そ、それでは報告します!」

 

その後椿咲は雨入たちと休暇中に外から悲鳴が聞こえ駆け付けると豊生が隊士を斬り倒していたこと、豊生の普段の性格からは想像もできない言動など雷山が来るまでに起きたことと自信が不審に思ったことを述べた

 

「うむ、大方のことは皆に伝わったかの。椿咲副隊長、もう下がってよいぞ」

 

「はい!それでは失礼します!!」

 

椿咲は一礼すると隊首会議場を去って行った

 

「豊生愁哉が隊士を切り捨てていた事実はあるが、それは豊生自身の意思ではなく何者かに操られて行っていた可能性がある…か」

 

「ああ、それなら俺も感じたことだから間違いない。それに俺が動きを封じた後に急に霊圧の振れ幅が大きくなったこととその際に僅かだが正体不明の霊圧も感じた。さすがに誰のかまでは分からなかったが…」

 

少しの沈黙の後、二番隊隊長・四楓院朝八が語りだした

 

「隊長格を操れるとなると、相当な実力と共に護廷十三隊のことをよく知る者の可能性が高いということになる。そして、私の記憶でそれに該当する人物が一人だけいる」

 

「申してみよ。四楓院隊長」

 

「はい、護廷十三隊五番隊副隊長・椿咲南美です。おそらく奴が今回の首謀者と思われます」

 

朝八が放った言葉は周囲の隊長、特に銀華零と狐蝶寺を驚かせた。それと同時に雷山は眉をしかめ不快感を示した

 

「…何の冗談だ?」

 

雷山が放ったその言葉には怒りが込められていると銀華零と狐蝶寺は感じた

 

「冗談などではない。状況をまとめた私なりの見解だ」

 

「お前、椿咲の話を聞いていなかったのか?そもそも護廷十三隊や豊生のことをよく知るのは椿咲だけではない、可能性でいえばお前だって首謀者に成りうる話だぞ」

 

「椿咲南美の話か。成程、確かに信頼に足る話だろう。だが、それはあくまで椿咲南美以外の者が述べたのならの話だ。しかし今回意見を述べたのは最も信頼に足らぬ椿咲南美だ。あのような者の話を信じろと言う方が無理であろう」

 

朝八は自身の価値観と偏見で話していた。”あのような悪戯しか能がない死神など時間を割いてまで話を聞く価値もなければ、述べた話が信用に足るものでもない”と言うのが彼の持論であり、護廷十三隊内で最も椿咲を嫌う死神であった

 

「…言いたいことはそれだけか?」

 

「ッ!!」

 

その直後、朝八は強い圧力で押しつぶされる感覚に襲われた。朝八はすぐに雷山が霊圧を自身に向けて放っていることに気付いたが、圧倒的な霊圧差の前にどうすることも出来ない状況だった

 

「確かにあいつは悪戯好きのどうしようもない副隊長だ。だが、あいつがこんなバカな真似をしないのもましてや重要な場面で嘘を吐かないのも俺は知っているんだよ。お前のくだらない価値観であいつを語るな。クソガキが…!!」

 

雷山は朝八に放つ霊圧を徐々に強めていった。それに比例して朝八も立っていることが出来なくなり、遂に膝を地面につけた

 

「……」

 

それを見た雷山は朝八に対して放っていた霊圧を鎮めた。一方の朝八は冷や汗をかき立ち上がることが出来なかった

 

「口だけが…もう少し頭を使って言葉を発しろ」

 

「…雷山、お主の気持ちもわかるが、このような場所で霊圧を荒げるな」

 

「…それは悪かったと思っている。この通りだ」

 

雷山はこの場で霊圧を荒げたことは自分の非であると認めて事の発端である朝八を除く全隊長に頭を下げた

 

「四楓院隊長も、根拠のない憶測で発言するのは控えよ」

 

「も、申し訳ございません…」

 

「…話を戻そう。実は先日の虚圏との戦争時、虚圏内で今回と同様の事態が発生しておる。これに関しては雷山隊長、銀華零隊長両名に説明してもらおう」

 

そう言われ雷山と銀華零が一歩前に出た。雷山は銀華零をチラッと見て自分が話すということを暗に伝えた。そして前置きに”先に言っておくが、これから話すことで変な偏見を持つのは止してほしい。俺と白からの希望だ”と伝え、隊長たちは了承した様子だった

 

「さっき山本から言われた通り、この前の戦争時、虚圏に乗り込んだ春麗が突然人格が変わったように暴走し始めたんだ。今考えてもあの時の春麗の様子は明らかに異常だった」

 

「雷山隊長はどの点で異常だと思ったのですか?」

 

「春麗が止めに入った俺と白に”殺す”と呟いた時だ。春麗は仲間に対しては”倒す”と言う言葉は使っても絶対に”殺す”と言う言葉は使わない。これは400年来の付き合いだから確信が持てる。だからこそ俺も白も不自然に感じたんだ」

 

「俺も一つ狐蝶寺隊長に聞きたいんだがいいか?」

 

それまで黙って雷山たちの話を聞いていた大澄夜が口を開き、狐蝶寺に問うた

 

「疑っている訳じゃいないんだが、狐蝶寺隊長はその時のことを覚えているのか?」

 

「それが…覚えてないんだよね。卍解をしてドゥミナスって言う虚と戦ってた途中まで覚えているんだけど…」

 

「それは確かな話として受け取って良いのじゃな?」

 

元柳斎はその話の真偽を問うために雷山と銀華零を見た。それに気づいた二人は無言で頷いき、狐蝶寺の話に間違った部分もなければ嘘を吐いていない事を暗に伝えた

 

「卯ノ花、豊生はどれくらいで目覚めそうなんだ?」

 

「何とも言えませんが…あと数日は掛かると思いますよ」

 

「うむ…ともかく今は豊生愁哉の回復を待って話を聞く他ないと言う訳か…」

 

「そういや山本、昨日言ってた対策って言うのはもう考えられたのか?」

 

「昨日の今日で対策が練られるほどの程度の低い問題ではない。今はともかく誰が何の目的をもって此度の問題を引き起こしているのかを探るのが先決じゃろう」

 

「…では、各隊で何か変わったことがあれば他の隊へ連絡をし複数人で対処すると言うのを現時点での暫定的な処置としよう」

 

雷山に殺気を向けられてから今まで静かにしていた四楓院がそう提案した。現時点で有効な手がない以上そうするしか他にないと言う理由で雷山含め隊長全員が了承した

 

「では、これを以て解散とする。各々いついかなる事態が起きても厳正に、そして冷静に対処せよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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