未来から帰って来た死神   作:ファンタは友達

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彼岸の梅雨篇
第一話(第三十七話)


「…今日は久しぶりに晴れになると聞いたんですが、また見事に外れましたね」

 

虚圏、尸魂界を巻き込んだ【高貴なる神の左腕】ドゥミナス・ミドフォーゼの叛逆から数日、尸魂界では梅雨の時期のように連日雨が降っていた

 

「…そう言えば、山吹ちゃんにこんな話をしたことあったっけ?」

 

「どのような話ですか?」

 

「雨を見てるとね、遠い昔に出会った子のことを思い出せそうな気がするっていう話なんだけど」

 

山吹は腕を組み記憶を過去に遡った

 

「うーん…私が覚えている限りでは初耳ですね。…思い出せそうということは覚えていないんですか?」

 

「うん。雨は今までに幾度となく見てるし、そのたびに思い出せそうな気がするんだけど、何故か顔も名前も出来事も思い出せないんだよね。確かにあったっていうのは覚えているのにね」

 

「失礼ですが、夢っていうことはないんですか?」

 

「そんなことないよ。ちょっとした用事で現世に行ったのはちゃんと覚えてるし、記録にも残ってるし」

 

「うーん…はっきりとしたことは言えませんが、いつかふとした時に思い出せるのではないですか?」

 

「そうだね、私もそんな気がするよ。そうだ、雷山君のところに行くつもりなんだけど、何か持っていくものってある?」

 

「あっ!でしたらこれを持って行ってもらってもいいですか?ちょうど三番隊と四番隊にもっていくものが多くて困っていたんですよ」

 

山吹はいくつかの書類を狐蝶寺に渡した

 

「じゃあ、行ってくるね!山吹ちゃんも気を付けてね!」

 

「すいません、ではよろしくお願いします。隊長こそお気をつけて行ってきてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~尸魂界・瀞霊廷内~

 

 

「ここで最後か?」

 

「はい、この地区で最後のはずですよ」

 

「全く、こんな雨の中自分が壊したものではない物の修復をやらないといけないんだ…」

 

「まあまあ、でもよかったじゃないですか。今回の戦いで虚圏側との強いパイプが出来たじゃないですか」

 

「…まあ、イミフィナリオと繋がりができたのは今後にとっては大きな収穫と言えるな」

 

雷山は修繕し忘れている箇所がないことを確認し五番隊舎へと歩き出した

 

「それにしてもすごいですよね。まさか隊長全員が無事だったなんて」

 

「それなんだがどうやらヴァストローデ級は全員山本が消し炭にしたらしい。後の連中はアジューカスとギリアンを中心に叩いていたそうだ」

 

「ヴァストローデ級の大虚を消し炭って…相変わらず容赦がなくて恐ろしいですね。山本総隊長は…」

 

「それくらいやらないと総隊長は務まらないだろ。お前が思っている以上に今の隊長たちや未来の隊長たちは個性豊かすぎるからな」

 

「そう言えば未来の私ってどんな隊長だったんですか?」

 

「さあな?詳しくは知らんが、評判はとても良かったと未来の春麗に聞いたぞ。それもあってかお前が隊長を辞める時に十三隊の隊士ほとんどから考え直してほしいと言われたらしい」

 

それを聞いた椿咲は顔を赤らめ照れ出した

 

「えへへっ…えへっ…」

 

「気持ち悪いからやめろ。それに評判が良かったのはあくまでこれから数十年先のお前だ。今のお前じゃない。大体そんな情けない顔を他の奴に見られたらお前だって…っと噂をすれば…」

 

その時雷山の視線の先には藪崎が立っていた。幸いにも雷山たちに気づいている様子はなかったが、それでも雷山自身も驚いたことには変わりなかった

 

「…どうしたんだ?もっと喜んでみたらどうだ」

 

「隊長ってホントに人の気持ちを考えませんね。はぁ…あんな所を見られなくてよかったです。でもなんでこんなところに渋崎君がいるんでしょう」

 

「…前から思ってたんだが、なんでお前はあいつの名前を覚えられないんだ?」

 

「なんででしょうね。私にも分かりませんよ」

 

「…お前まさかまだあの事を根に持ってるのか?」

 

「べ、別に根に持ってなんかいませんよ…」

 

(あー、なるほどな…)

 

その時雷山は椿咲が過去に藪崎、安、浮葉の三人にいいように利用されたことをまだ根に持っているんだなと察した。が当然そのことを目の前にいる椿咲にいう訳にもいかず

 

「…そうか。ならいいんだが」

 

と言葉を濁すことを選択しその場をやり過ごした。そんなことをやっている間に藪崎は誰かを見つけたように手を振り出したのを椿咲が目にした

 

「…なんか手を振りはじめましたけど」

 

「誰かをと待ち合わせしてたんだろ。っと、あれは…ん?確か雨露雨入だったかな。それとその隣にいるのはこの前白が言ってたその弟か」

 

藪崎と雨露姉弟は親しげに一通り話した後どこかへ去って行ってしまった

 

「意外な接点があったな」

 

「そうですね。今度渋崎君をとっちめて聞き出しま――」

 

「やめておけ。あんまり人の私情に土足で踏み込むのは良くない」

 

「分かりました。私はそう言う死神にはなりたくないので止めておきます」

 

「よし、じゃあさっさと戻って仕事の続きと行くか」

 

「あっ!私ちょっと行くところが…」

 

「どこ行くんだ?」

 

雷山は逃げ出そうとした椿咲の襟をつかみそれを阻止した

 

「いやぁ…ちょっと仕事は遠慮したいなって思ったり…」

 

「バカ言うな。前々から言ってるだろ、早く俺を追い出して隊長になりたいんだったらちゃんと仕事しろって」

 

「雷山隊長を追い出そうなんて思ってないですよ。隊長になりたいのは事実ですけど…」

 

「そう言う比喩表現だよ。むしろそれくらいの意気込みでやらないといつまでも副隊長のままだぞ?」

 

「ちぇ…」

 

「ほら、さっさと行くぞ」

 

 

 

 

 

~五番隊・隊長執務室~

 

 

帰って来た雷山は実松に開口一番で「狐蝶寺隊長が来ております」と言われ、思わずため息を漏らした。普段からよく来ることは分かっていたが、虚圏での出来事があってからは会うのは初めてで、何より仕事の最中に来ているのだから明らかにサボりに来ていることは明確だったからだ

 

 

「で、なんでお前がここにいるんだ?」

 

雷山は椅子に座りお茶を飲んでいる狐蝶寺に問うた

 

「いやね、ちょっと聞きたいことがあって」

 

「聞きたいことってなんだよ。はぁ…お前も本当に仕事しないよな。また山吹の怒りを買うぞ?」

 

「いやいや、今回はちゃんとお仕事の一環で来たんだよ。はい、これ十三番隊から五番隊への書類ね」

 

狐蝶寺から手渡された書類に一度目を落としその書類を椿咲に渡した

 

「とりあえず、俺の机の上にでも置いておいてくれ。あと、逃げたら怒るからな?」

 

「…ちゃんと仕事をやれば本当に隊長になれるんですよね?」

 

「俺がくだらない嘘を言う奴だと思うか?」

 

「…分かりました!じゃあ、ちゃんとやりまーす」

 

そう言うと椿咲は自分の席に着き五番隊内のことに関する書類を確認し始めた

 

「…それで、聞きたいことってなんだ?」

 

「…私って虚圏で何か起こしたの?」

 

 

”ガシャーンッ!!”

 

 

その音と共に雷山と狐蝶寺は目線をそっちに向けた。見るとその音の正体は椿咲が湯呑を落とした音だった。湯呑を落とした椿咲は大慌ててそれを片付け始めていた

 

 

「…何かあったんだね」

 

その一連の流れを見て狐蝶寺は自身が虚圏内で何かをやってしまったと言うことを確信した様子だった

 

「一応聞くが、そんなに知りたいのか?」

 

「うん。あんまり秘密にされるのは好きじゃないんだよ。何て言うか仲間外れにされたみたいでさ、それに私もこれから気を付けることだってできるかもしれないし」

 

「…分かった。単刀直入に言うと、お前が暴走したんだ」

 

「暴走…?どんな感じになの?」

 

「う~ん。何と言えばいいのか分かんないが、一言で言えば『戦闘狂』と言う感じだな」

 

その時雷山は後の十一番隊隊長・更木剣八を思い浮かべていた。しかしあの時の狐蝶寺の様子は戦いを愉しむ更木とはまた違う異質な感じだとも思っていた

 

「…私どうしちゃったんだろ。実はね、あの時の記憶がないんだ。雷山君は知らないかもしれないけど、白ちゃんたちとバラガンて言う虚の前に行ったんだよ。それでその時にドゥミナス・ミドフォーゼがいなくて探してたはずなんだけど…」

 

「途中からの記憶がない…ってことか」

 

「うん。気付いたら戦ってたし、卍解した後なんか急に視界が真っ暗になったんだよ。それで気が付いたらベッドの上に寝かされていたんだよね」

 

「そうか…最近誰か知らない奴に会ったとか、攻撃を受けたとかないか?」

 

「ないない。最近ずっと隊舎から出してもらえなかったんだもん。最近会ったと言えばそれこそ山吹ちゃんくらいだよ」

 

「…まあ、何ともないんなら今は警戒する程度に留めておけばいいんじゃないか?一応虚圏で一波乱あったことは山本の耳には入れてるからな」

 

それを聞いた狐蝶寺は、尚更落胆したような様子だった。普段なら焦るなり、なんで勝手に言ったのかと雷山に詰め寄ったりする狐蝶寺がここまで思い詰めているのは今までになかったため雷山の一層心配になった

 

「…あんまり思い詰めるなよ。お前が自ら命を絶てばお前は楽になれるだろうが、残された奴らは不幸でしかない。お前の幸せが必ずしも他人の幸せと同じとは限らない事は覚えておけよ。まあ、何かあったら、白や山吹、なんなら十三番隊の隊士でもいいから相談しろ。決して一人で抱え込むなよ」

 

「うん、分かった。ありがとうね、雷山君」

 

「礼なんかいい。たった三人の幼馴染だからな。縁起でもないが、死ぬまで付き合ってやるよ」

 

「…本当にありがとうね。ところで何か持ってくものとかある?」

 

その時、狐蝶寺がまだまだ本調子ではないが普段の狐蝶寺に少し戻ったと雷山は直感した。

 

「いや、何もないぞ」

 

「じゃあ、私は戻るね。また明日~」

 

「また明日って…山吹にあんまり迷惑かけるなよ」

 

「ばいば~い!」

 

「全く、本当にしょうがない奴だな。…あれが空元気じゃないといいんだけどな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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