未来から帰って来た死神   作:ファンタは友達

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第十六話(第三十六話)

「……」

 

狐蝶寺はドゥミナスが倒れた後も数秒間警戒を怠らなかった

 

「ふう…」

 

緊張が解けたと同時に狐蝶寺の卍解が解けた。また狐蝶寺はふら付いて座り込んでしまった。またドゥミナスが倒れたことによりそれまで雷山たちの動きを封じていた技の効力が解けた

 

「春麗!大丈夫か?」

 

雷山は座り込んだ狐蝶寺に心配そうに駆け寄った

 

「…大丈夫だよ。こう見えても私ってタフなんだよ。さてと…」

 

狐蝶寺はふら付きながらも刀を杖代わりに使って立ち上がった

 

「あなたが雷山君が言ってたイミフィナリオって言う虚なんでしょ?」

 

「いかにも、妾がイミフィナリオ・エンペル・ヴェルティスじゃ」

 

「…一応念のために聞くけどさ、あなたも首謀者と考えてもいいんだよね?」

 

「…いかにも、事の発端を辿れば妾がそなたらに戦争を仕掛けたことが始まりじゃ」

 

「…そう、それじゃあ安心できるね!」

 

その時の狐蝶寺は純粋無垢で無邪気な笑顔を浮かべていた。しかしその笑顔を見た雷山と銀華零だけは狐蝶寺が次に何をしようとしているのかを察した

 

「…白」

 

「ええ…」

 

雷山と銀華零が互いに同じことを思っていることを確認したまさにその時

 

「安心できるとはどういう意味じゃ?」

 

「気にしなくてもいいよ。ただ安心して…あなたを()れるっていうだけの話だから…」

 

突如として狐蝶寺はイミフィナリオに斬りかかった

 

「春麗さん!?」

 

「隊長!?」

 

その行動は椿咲や山吹には完全に予想外の出来事だった

 

ガンッ!!

 

狐蝶寺の剣がイミフィナリオに届く直前、雷山と銀華零が間に割り入り斬撃を受け止めた

 

「…そこまでにしろ。春麗」

 

「…どいてよ。雷山君、白ちゃん…!!」

 

「大人しく刀を納めてください…」

 

「どいてって言ってるでしょ!!いくら二人が相手でも私の邪魔をするのなら…殺すよ…!!」

 

狐蝶寺の殺気は周りにいる者すべてに届く程の強烈なものだった

 

「春麗…?いや、お前誰だ?」

 

「……!!」

 

雷山に誰かと問われた時、狐蝶寺は一瞬驚く素振りを見せた

 

「……」(なんだバレちゃったのか…)

 

雷山は狐蝶寺が何かを呟いたように見えたが、声が小さすぎて聞き取ることが出来なかった

 

「雷山君?何を言ってるの。私は私だよ。ただ今は、あいつを消そうとしているだけだよ」

 

その瞬間狐蝶寺は雷山と銀華零を押し退けた。押し退けられた二人はすぐに狐蝶寺の後を追おうとしたが狐蝶寺が密かに作り出していた風の壁に阻まれ一歩出遅れた

 

「くそっ!!これじゃ…」

 

「間に合わない…!!」

 

「これで――――」

 

イミフィナリオは狐蝶寺の初撃を躱したが、狐蝶寺の”悪風(おふう)”により動けなくなってしまった

 

「ッ!!足が…」

 

「――――終わりだッ!!」

 

ガンッ!!

 

イミフィナリオと狐蝶寺の間に一人が割って入り、狐蝶寺の斬撃からイミフィナリオを庇った

 

「…どうして…どうしてみんな私の邪魔するの…?ねぇ…答えてよ南美ちゃん…」

 

狐蝶寺は消え入るような声と泣きそうな顔で椿咲に問いかけた

 

「春麗さん…」

 

狐蝶寺の刀を受け止める椿咲の腕が震えはじめた。いくら隊長クラスの実力を持っている椿咲でも狐蝶寺との間には実力差があった

 

「春麗さん…どうしちゃったんですか…!?」

 

「さっきも言ったじゃない…私はただ、あの虚を消そうとしているだけだって!!」

 

狐蝶寺が力業で椿咲を徐々に押し始めたその時だった

 

「いくら春麗さんでも、これは見抜けないでしょ」

 

「え…!?」

 

狐蝶寺は驚愕した。1秒前、否、それよりも短いほんの少し前まで目の前にいた椿咲が突如として自身の目の前から消え失せたのである

 

「かはっ!!」

 

その直後、今度は後頭部から激しい痛みが狐蝶寺を襲い意識を徐々に奪い取って行った

 

(何が…起きたの…?)

 

薄れゆく意識の中、狐蝶寺は自身を襲った状況を理解しようと後ろを見た。そこには悲しそうな表情を浮かべた椿咲が立っていた。が、そこで狐蝶寺の意識は途絶えた

 

「……」

 

その光景を見たイミフィナリオは反撃しようと袖から出していた右腕を再び袖の中にしまった

 

「…あぁ…怖かったぁ…」

 

椿咲は腰が抜けたようにその場に座り込んだ

 

「椿咲、大丈夫か?」

 

それと同時に雷山が歩み寄って来た

 

「何とか大丈夫ですけど…すっごい疲れました…」

 

「ああ、ご苦労だったな。ところで一体どうやって狐蝶寺を止めたんだ?一瞬お前が二人になったように見えたんだが…」

 

「ああ、あれですかぁ…あれはですね…はぁ…また後でいいですか…?何か話すのもすごい疲れます…」

 

「ああ、悪い。とりあえずそこでゆっくり休んでてくれ。後は俺と白で何とかする」

 

雷山が目を向けるとイミフィナリオは憐れむような眼で雷山たちを見ていた

 

「それであんたはどうするんだ?」

 

「…もちろん降参するつもりじゃ」

 

「ッ!!イミフィナリオ様…!!」

 

イミフィナリオはエンジェリーナを制した

 

「バラガンやドゥミナスが妾に刃向かっていようが、いなかろうが、最初の戦いで決着がついておったのは事実。我々虚圏は尸魂界に全面降伏する」

 

「…分かった。それでは、あんたの降伏宣言を受けてあんたに虚圏の安定化をやってもらいたい。こちらからの要求は以上だ」

 

イミフィナリオは自身を処刑しようと考えなかった雷山に対して驚きを示した

 

「良いのか?妾は命を取られても文句も言えぬ立場じゃ。ましてや妾はこの戦いの首謀者のようなもの。その様な奴を生かしておけば、いずれ同じことをやりかねないという可能性を考えないのか?」

 

「ああ、もちろんこれから先そんなことが全く起きない保証はどこにもない。しかし今回の戦いで荒れた虚圏を治められるのはあんたしか居ないのも確かだ。そこでここは互いに手を引くことが最善だと思ったんだが…」

 

「そなたたちがそれで良いと言うのならそれで構わぬ。そもそも妾にその決定権はない」

 

「よし、それじゃあ虚圏のことはあんたに任せた。もう二度とあんたと戦うことがないのを願いたいな」

 

去って行く雷山たちを見送ったイミフィナリオは小声で呟いた

 

「恩に着るぞ…雷山悟…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虚圏から尸魂界に帰還した雷山たちは尸魂界の光景に驚いた。大虚との戦いには勝利していたようだが、それでも各建物はボロボロになり、怪我人が大量に出ていた様子だった

 

 

「おお、これはまた随分と双方共に大暴れしたな」

 

「ええ、まさか懴罪宮や一番隊舎などが大きく破損しているとは…」

 

「全く、誰がこれを元に戻すと思って戦ってたんだよ」

 

「もちろん。それは我ら護廷十三隊の仕事じゃろう」

 

椿咲、山吹、浮葉三人は背後から突然声を掛けられ咄嗟に振り返った。雷山、銀華零の二人は声を掛けられる前から気配を感じていたため声を掛けられたことに特に驚きもしなかった

 

「よお、生きていて何よりだ。山本」

 

「おぬしはあの程度の大虚に儂が敗れると思うていたのか?」

 

「そんなわけないだろ。イミフィナリオが相手だったらいざ知らず、ただのヴァストローデなら楽に勝てるだろうと思っていたよ」

 

「そう言うおぬしはボロボロじゃな。それほどまでに苦戦したのか?」

 

「ああ、思ったよりも今回の戦争は裏が深くてな。ここで話すと長いからまた後で報告する。それより今はこいつらを四番隊の所に連れて行くのが先だろう」

 

「うむ…」

 

元柳斎はただ一人気を失っている狐蝶寺を見て不審に思った

 

「…雷山、何故狐蝶寺隊長のみ気を失っておる」

 

「それもあとで報告する。まあ、また近々隊長全員に言わないといけなくなるかもな…」

 

雷山が言葉を濁したことで山本はこの場で踏み込んではいけないと察しそれ以上追及はしなかった

 

「…相分かった。今は狐蝶寺隊長や椿咲副隊長たちの治療を優先しよう」

 

 

 

 

 

~四番隊・総合救護詰所~

 

 

 

 

 

「ふぅ…何とか全員無事に終わったな…」

 

「ホントに無事に終わって良かったですよぉ…春麗さん何か別人になったみたいに怖かったし…」

 

「ああ…」

 

(春麗のあの変わり様…)

 

 

 

 

 

”退いてって言ってるでしょ!!いくら二人でも私の邪魔をするのなら…殺すよ…!!”

 

 

 

 

 

(あんな春麗は初めて見た…それこそユーハバッハたちとの戦いですらあんな言動はしなかったはずなんだが…)

 

雷山はベッドに寝かされている狐蝶寺を見て不安を抱えた

 

(春麗の身に何か起きていると考えるのが妥当か…?いや、だとしても一体誰がこんなことをやれるんだと言うんだ…?少なくともしばらくは警戒すべきか…)

 

「…長~?もしもし雷山隊長~?春麗さん起きましたよ?」

 

深く考え込んでいたため気づかなかったが、見ると狐蝶寺が目を覚まし銀華零と卯ノ花が話している光景が見えた

 

「まーた考え事ですか?」

 

「ああ、ちょっとな…椿咲、一応お前も春麗の動向をしばらく警戒しておけよ」

 

「は、はい…」

 

椿咲も虚圏での狐蝶寺の暴走っぷりを目の当たりにしているためそう答えるしかなかった

 

「まあ、今は負った傷を癒すことに専念するか」

 

「そ、そうですね!春麗さーん」

 

そう言って椿咲は目が覚めたばかりの狐蝶寺の元へ駆け寄って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――俺は甘かった。この時から対処していればあんな面倒事にはならなかったはずだ

 

 

 

 

 

~ 虚圏の女帝篇 fin ~

 

 

 

 

 

 

 




~虚圏のその後~

虚圏は戦いが終わった後、再びイミフィナリオが虚圏を治めた。そして約300年たった時、権力というものに飽きた彼女がバラガン・ルイゼンバーンにその権力全てを明け渡し、エンジェリーナ・クァントや他数名の女性大虚と共に表舞台から姿を消した。その後の消息を知る者はいないが、死ぬことも藍染に利用されることもなく悠々自適な生活を送って居ると噂されている。
ドゥミナスの処遇については”裏切り行為に気づけなかった己の未熟さが招いた結果”とイミフィナリオは考えドゥミナスの死について詳細を知っている者には箝口令を敷き、知らない者にはバラガンとの抗争により死亡したと伝えている

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