「あなたは私を簡単に倒せると判断したんだよね。だったらやれるものならやってみなよ!!」
そう言ったとたん狐蝶寺が数センチ浮かんだ。それはドゥミナスはおろか雷山すらも見えない程度のちょっとした変化だった
「…何年ぶりだろ。本当に久しぶりだなぁ…本気で戦うのは」
狐蝶寺は戦いを愉しんでいるように見えた
「まずは挨拶代わりにこれをあげるよ。『
狐蝶寺は扇を振るい切り傷が出来る程の風を生み出した
「…
その瞬間まだ残っていたバラガンの配下の虚の死体が、ドゥミナスの盾になる形で狐蝶寺の技を受けた
「ありゃ?」
「ふふっ、雷山悟以外の隊長と言うのはこの程度の者たちばかりなのですか?正直、落胆しました」
「他の虚を身代わりにしておいてよく言うよ。そう言うのは自分で受けて無傷だったら言う言葉だよ」
「…勘違いをさせてしまいましたね。てっきりわたくしは身代わりにした虚を
その言葉を聞いた狐蝶寺は不快感を示した
「本当にあなたは私たちを小バカにするのが好きなんだね。不愉快だよ」
「不愉快ならば、わたくしを実力で黙らせてみてはどうですか?とてもいい案だと思うのですが」
「はぁ…”縛道の五十六”『
それと同時に狐蝶寺のいる場所に雷が落ちた
「自身に雷を落としてどうするの…おや?」
(なるほど。自身の姿を一瞬だけ隠す技…ですか。さて、どこに行ったのでしょう)
その直後ドゥミナスの背後に狐蝶寺が現れた
「やはり背後でしたか。ですが――――」
その瞬間ドゥミナスは右膝から崩れ落ちる形となってバランスを崩した
「――――力が入らない…!?くっ…!!」
ドゥミナスは咄嗟に先ほど使った”
シュッ!!
猛烈な風切音がその場に響くと共にドゥミナスは前方に倒れる形でギリギリ狐蝶寺の剣を躱すことに成功した
「…今のはさすがにヒヤリとしました。ですが、あなたの実力ではわたくしに勝つことはできないのです」
ドゥミナスは仕返しと言わんばかりに狐蝶寺の背後に周り斬りつけた
「かはっ!!」
「この程度の太刀筋を躱せないとは、隊長とは名ばかりですか?」
前のめりに倒れた狐蝶寺だったが、突如首が180度回転し首だけがドゥミナスを見ている状態になった
「なっ…!?」
その光景は異様でさすがのドゥミナスも動揺を隠しきれなかった
「てっきり気づかぬフリをしているのかと思って警戒してたんだけど、どうやら気づいてないみたいだね」
その瞬間倒れている狐蝶寺の姿が足元から靄のように消え始めた
「”縛道の八十七”『
倒れていた狐蝶寺が消えたと同時にドゥミナスの背後からドゥミナスの首元に斬魄刀を当てている狐蝶寺が現れた
「この程度の鬼道が見破れないなんて、虚圏の女帝の最側近は名ばかりなのかな?」
「…なるほど。わたくしの背後をとったことは褒めて差し上げましょう」
「別に褒めてもらわなくてもいいよ。私にとっては不愉快にしかならないからね。さあ、決着も付いたんだし早く雷山君たちに掛けてる技を解いてくれない?」
「決着がついた…と?」
その時狐蝶寺は何かを感じ取った。何かと言われれば、それを具体的に説明することが出来ないが、得体のしれない不気味さがドゥミナスから感じ取れた
「…どうやら勘がいいみたいですね。ですが、気づいた時にはもう遅いですよ」
ザシュッ!!
「うっ…!!」
「隙が出来ましたね」
「かはっ!!」
ドゥミナスはその隙を見逃さず、狐蝶寺を蹴り飛ばした
「まだだよ!!」
狐蝶寺は空中で態勢を整え上手く着地することに成功した
「
そう説明するドゥミナスの横には、申し訳なさそうにして立っている山吹の姿があった
「ううっ…すいません隊長」
「…気にしなくていいよ、雷花ちゃん。もう、すぐに終わらせるから」
「ッ!!これは…」
その時ドゥミナスは狐蝶寺の霊圧がどんどんと膨れ上がって行っていることに気づいた
(まさか…わたくしの予想を上回っている…)
「”卍解”『
狐蝶寺が卍解したと同時に巨大な扇だった斬魄刀がそれぞれ通常のサイズの扇二つに変わり、さらに狐蝶寺の背後に風の溜まり場が出来る格好になった
「私は本気で怒ったよ。ドゥミナス・ミドフォーゼ!!」
狐蝶寺は浮いている状態で二つの扇を使い回転し始めた。その回転によって小さなつむじ風が出来、次第に大きくなっていき竜巻程の大きさまでなったとき、狐蝶寺回転するのを止め、叫んだ
「『
その瞬間竜巻程の大きさだったつむじ風が一気に膨張し周りにあるものをどんどんと破壊していった
「くっ…!!このわたくしが…抑えているので精一杯とは…!!」
その攻撃は凄まじく
(あの場所は…まずいっ!!)
ドゥミナスがそう思った瞬間だった
「ッ!!何…この霊圧…!?」
狐蝶寺は地下から流れてくるとてつもなく巨大な霊圧を感じ取った
「…先程から何をやっておるのか分からぬが、随分と騒がしいのう。まるで無粋な戦いをしておる獣のようじゃ」
崩れ落ちた床の底からイミフィナリオのいる檻が見えるようになった
「なるほど…あれが雷山さんの言っていた…」
動けないながらもイミフィナリオの姿を確認する銀華零
「ああ、あいつが【虚圏の女帝】イミフィナリオ・エンペル・ヴェルティスだ。それにしても相変わらずの貫禄だな」
イミフィナリオは牢獄に入れられている状態だったが、それでもなおバラガン以上の貫禄と余裕の表情を浮かべていた
「どうやら思い通りになっていないようじゃな、ドゥミナスよ」
「…ふふっ、あなたの眼にはそう見えるでしょうが、すべて想定の範囲内ですよ…!!」
「…想定通りなのは結構なんだけどさ、私と戦いながら他の虚と話している余裕があるなんて私をなめているとしか思えないんだよね」
「……」
ドゥミナスは歩み寄ってくる狐蝶寺を警戒していた。否、警戒しているつもりだった
「ホントに不愉快だよ。世界もあなたも何もかもが…!!」
「なっ!?なんですかこれは…」
それは一瞬の出来事だった。突然地面から金色の縄が飛び出しドゥミナスの身体を絡め捕った
「”縛道の六十三”『鎖条鎖縛』」
「くっ!!」
ドゥミナスは腕力で縄を引き千切ろうとしたが、当然そんなことが出来るわけもなく時間だけが無駄に過ぎた
「無理だよ。何せその縄は雷山君でさえ腕力じゃどうしようも出来ないものだからね。さて…」
狐蝶寺は右手に持っている扇を閉じ刃先をドゥミナスに向けた
「これで終わりだよ。ドゥミナス・ミドフォーゼ」
「くっ…!!」
その瞬間、狐蝶寺の背後から何かが壊れる音が響いた
「何!?」
狐蝶寺は音に驚き背後を見た。そこには牢獄に捕らわれているはずのイミフィナリオが立っていた
「イミフィナリオ…!!」
ドゥミナスは驚きと焦りから呟いた
「どうした?妾がここにいることがそんなにもおかしなことなのか?」
「ええ、十分おかしいことですよ。あなたが入っていた牢獄は自力で出て来られないように細工をしていたはずなんですけど…」
「そなたこそおかしなことを言うな。あの程度で妾を閉じ込めたと本気で思えるのか?」
「…どうやらわたくしはあなたのことを見くびりすぎていたようですね。【虚圏の女帝】イミフィナリオ・エンペル・ヴェルティス」
ドゥミナスは三叉槍を手放し降参の意思を示した
「妾もそなたを見くびっておった。まさかここまでのことを一人でやってのけるとはの。どうじゃ?今までの無礼を水に流し再び妾と共に歩まぬか?」
「残念ですがお断りしますわ。一度裏切ったあなたに命を救われたとあればわたくしにとって生き恥にしかなりません」
それを聞いたイミフィナリオは心底残念そうな表情をした
「そんな顔をなさらないでください。すべてはわたくしの欲望が生んだことです。さあ、哀れな虚をどうぞその手で葬ってください」
「…良かろう。せめて妾がそなたに終わりを迎えさせよう…いや、そなたの言葉を借りるなら、この舞台を終幕とさせよう。”
「…わたくしの野望はここで潰えますが、それで決して終わりではありません。イミフィナリオ、あなたの座を狙っている虚はわたくしだけではありません。バラガンやバラガンの配下の虚が良い証拠です。あなたの味方は多くいるでしょうが、それと同時に敵も虚圏全域に多くいることをお忘れなく」
イミフィナリオの技の効力により、ドゥミナスは肩で息をするようになった
「はぁ…はぁ…そろそろ…ですかね…ふふっ…」
ドゥミナスはついに立っていられなくなり片膝を地につけた
「それでは…さらばです…すぐに会わないことを…願ってますよ…」
ドゥミナスは前のめりに倒れ息絶えた