未来から帰って来た死神   作:ファンタは友達

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第九話(第二十九話)

~ 瀞霊廷上空 ~

 

 

「それではみなさん。戦いの準備の程はよろしいですか?」

 

一人のアジューカス級の大虚がそう言うと同時に黒腔(ガルガンタ)が開いた

 

「さて、それでは思う存分余興を楽しみましょう!!」

 

(そう、わたくしが虚圏の全てを牛耳る舞台の余興をね…)

 

 

【緊急報告!!緊急報告!!瀞霊廷上空に大多数の虚の反応有り!!その中にはヴァストローデ級の大虚も含まれています!!各隊至急守護配置についてください!!繰り返します――――――――】

 

 

「やはりさっきの気配は…」

 

「た、隊長!!ヴァストローデの大虚が攻めて来たんですか!?どうしようどうしよう!!」

 

椿咲は自身よりもはるかに強いと言われているヴァストローデ級の大虚が攻めて来たと言う事実に驚き、そして狼狽え始めた

 

「狼狽えるな。ヴァストローデなら余程実力差がない限り二人で対処すれば確実に倒せる。問題は…」

 

雷山はヴァストローデが攻めてきたことはもうどうしようもない事実であり受け入れていた。しかし雷山が危惧していることはその数だった

 

(俺の予想では単身でヴァストローデを倒せるのは俺含め5人。その中の二人は不在、残りの二人は前線においそれと出ることが出来ない…つまり、ヴァストローデが5体以上いたらかなり不利な状況になる…)

 

「くそっ!考えていても良知が明かないか。とにかく出るぞ!!」

 

「は、はいぃ!!」

 

雷山が隊舎の外に出ると、そこら中で虚と死神の戦いが始まっていた。その数は約2000体、席官クラスならものともしない下級虚もいれば、副隊長以上でようやく対処できる大虚と様々な種類の虚が入り乱れていた

 

「まるで地獄絵図だな」

 

雷山がそう言った時、背後から一体の虚が襲い掛かって来たが雷山はそれを見ることもせずに斬り倒した

 

「仕方がない。手こずってる奴を助けながらヴァストローデを倒す作戦で行こう」

 

「はい!!」

 

雷山が他の者の手助けに行こうとしたその時、目の前に一体のアジューカスが現れた

 

「貴方の相手はわたくしが務めましょうか」

 

ガンッ!!

 

雷山の斬魄刀とアジューカスの三叉槍がぶつかり辺りを制するほどのけたたましい音が響いた

 

「…何者だ」

 

「わたくしは【高貴なる神の左腕】”ドゥミナス・ミドフォーゼ”と申します。今回の侵攻の全ての権限を与えられております」

 

「【高貴なる神の左腕】だと…?…なるほど、つまりはイミフィナリオの側近の一人と言う訳か…」

 

「ご名答です」

 

雷山とドゥミナスは互いに武器で相手を弾き距離を取った

 

「貴方の名前を聞いておきましょうか」

 

「護廷十三隊五番隊隊長、雷山悟だ」

 

「五番隊隊長ですか…」

 

そう呟くとドゥミナスは口元をニヤァとさせ、不気味な笑みを浮かべた

 

「そうですか。それはとても良いですね」

 

「…椿咲、お前はとりあえず先に行け。俺はこいつを片してから行く」

 

雷山はドゥミナスに聞こえないくらい小さな声で椿咲にそう言った。椿咲は、目の前にいるドゥミナスと名乗るアジューカスが不気味さを醸し出していたのは気付いていたが雷山を置いて行くわけにもいかずにそれを拒否した

 

「隊長を残しては行けないですよ」

 

「共倒れになるよりマシだろ。何よりこいつはお前じゃ相手にならない」

 

「…分かりました」

 

「その必要はない、ここは儂が残ろう」

 

その声が聞こえたと同時にドゥミナスの周りに炎の壁が形成され、ドゥミナスを閉じ込めた

 

「くっ…!!この炎は一体…!!」

 

「…お前が出てくるなんて珍しいな。それほどまでにお怒りか?山本」

 

「そういう訳ではない。現時点を以て雷山、椿咲両名に総隊長命令にてイミフィナリオ・エンペル・ヴェルティス討伐を命ずる。すぐさま虚圏へ出発するのじゃ」

 

「…尸魂界(ここ)は任せていいのか?」

 

「おぬしにしては愚問じゃの、よもや儂が倒れると思うてか」

 

「それが聞ければ結構。それじゃあ、この場はお前に任せるからな」

 

そう言うと雷山は、椿咲と共に空に開く黒腔へ向かった。それを見届けた元柳斎はドゥミナスが閉じ込められている炎の壁に目を向けた

 

「さて、小童。おぬしにはこの場で消し炭になってもらおうかの」

元柳斎が炎の壁をどけるとそこにはドゥミナスの姿はなかった。自身に逃げ出すことを一切悟らせずに逃げ果せたドゥミナスに元柳斎は感服した

 

「…儂に一切悟らせぬとは…あのアジューカス思いの外やりおる…」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「…よし、今のところ敵影は無しだな」

 

黒腔を抜けた雷山と椿咲は敵陣のど真ん中に出ることを恐れ、椿咲の始解の能力を使いしばらく身を潜めていた。その後敵の姿がないことを確認し、始解の能力を解除した

 

「それにしても、山本の奴も難儀な命令出してきやがったな。俺よりも実力が上かもしれない奴を討ち取ってこいとはな…」

 

「まあ、でもそうするしかこの戦いを終わらせる方法が無いのも事実なんですよね…」

 

「…今のうちに言っておくが、状況がヤバくなったらお前だけでも逃げろよ。ほら、返事!」

 

「は、はい!」

 

その時椿咲の眼には自身の死を覚悟し、自分を意地でも逃がそうと決意している雷山の顔が映った

 

「さてと、それじゃあ気合を入れて【虚圏の女帝】とやらの本陣に乗り込むとするか」

 

雷山は未来に於いて藍染が居城として使っていた虚夜宮の存在は知っていたため、イミフィナリオもそこを居城としていると考えていた

 

 

 

 

 

~ 虚圏内・虚夜宮(ラスノーチェス) ~

 

 

「うむ…」

 

未来に於いて藍染が座っていた虚夜宮の玉座に座る一人のヴァストローデが悩むように頭を抱えていた

 

(出来れば今は、死神たちとは事を構えたくはないのも事実だが、ドゥミナスが言うておった”死神たちが虚圏内の大虚を始末しようとしている”と言うのもまた事実。しかし…)

 

そのヴァストローデの元に一体のアジューカスがやって来た

 

「失礼します。イミフィナリオ様、バラガン・ルイゼンバーンのことでお話があるのですが…」

 

「バラガンの餓鬼か…大方、妾の部下が居らぬこの好機を以て妾の首を取りに来ると言ったところかの。だとしたら想定の範囲内の話じゃ、そう慌てんでも良い」

 

「いえ、それがここ最近どうにもバラガン一派にこちらの状況が筒抜けなのです」

 

「…その話はドゥミナスが戻ったらゆっくりとしよう。それに、たとえ妾たちの動向が筒抜けだとしてもあやつではどうすることも出来ん。放って置けば良い、それに今は敵方(客人)をもてなすことが先決じゃ」

 

「は、はぁ…」

 

アジューカスは何のことか分からないと言いたげな顔をしていたが、イミフィナリオはそれを意に介さず玉座より立ち上がり、四方に届く程の声で言葉を発した

 

「隠れていては話も出来まい。顔を見せたらどうだ?それとも、妾の不意を突くと言う無粋な戦いがそなたらの好みか」

 

「…これを見抜くとは、【虚圏の女帝】と称されているのは伊達ではないな」

 

そう声が聞こえたと同時に、椿咲の斬魄刀『月華』の能力により虚圏の風景を同化していた雷山と椿咲が現れた

 

「その羽織…隊長格か。ドゥミナスの包囲網を掻い潜ってここまでやって来るとはやりおるな」

 

「褒めていただき恐悦至極…と言えばよいのかな。【虚圏の女帝】イミフィナリオ・エンペル・ヴェルティス」

 

「死神にしては礼儀がなっておるの、少々見直したぞ。だが、所詮それまで名乗ることを忘れておるぞ」

 

「申し遅れたな。護廷十三隊五番隊隊長、雷山悟だ」

 

「…雷山とやら、そなたは妾の首を取りに来たと考えて良いのじゃな?」

 

「質問を返すようで悪いんだが、一つだけ確認させてくれ。お前は、尸魂界を占領下に置こうと考えていて、その考えを改めるつもりもないと言うことでいいんだな?」

 

「…如何にも、そうじゃ」

 

「はぁ…」

 

イミフィナリオからその答えを聞いた雷山は、期待が外れた失望感とやれやれと言う気持ちからため息を漏らした

 

「それじゃあ、さっきの質問の答えは”イエス”だな」

 

ガンッ!!

 

「これはまた血の気の多いアジューカスだな。お前もドゥミナス・ミドフォーゼと同じ”腕”か?」

 

「ドゥミナスと接触済みか。あたしは【高貴なる神の右腕】”エンジェリーナ・クァント”!!あんたを殺す者だよ…!!」

 

「なるほど。【左腕】があれば【右腕】もあると言うことか。だが、お前程度の大虚が俺を倒すのはちょいと早いぜ」

 

「くそっ!!早い…!!なっ…!!」

 

その瞬間雷山は瞬歩でその場から消え失せ、代わりに椿咲がエンジェリーナに追撃を加えた

 

「護廷十三隊五番隊副隊長、椿咲南美!!あなたの相手は私が務めるよ!!」

 

「っは!!副隊長如きがあたしに勝てると思うなよ!!」

 

「互いに一対一(サシ)の戦いと行こうぜ!!」

 

イミフィナリオは雷山の初激を飛び退いて躱し、すかさず懐からステッキ状の武器を取り出し反撃に転じた

 

ガキンッ――――――――

 

「…エンジェリーナの相手はあの小娘に任せると言う訳か。あの小娘如きがエンジェリーナに勝てると思っているとは妾たちの力をナメすぎではないのか?」

 

「あれでもうちの優秀な部下でね。信頼は十二分だ。それにこれであんたも俺との一騎打ちに集中できるだろ?」

 

「大した度胸じゃ、気に入ったぞ。だが、その余裕すぐに後悔に変えてやろう!!」

 

 

 

 

 

 


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