未来から帰って来た死神   作:ファンタは友達

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第三話(第二十三話)

雨入が雷山に挨拶に来た日の翌日。雷山は五番隊の隊士全員を集めて集会を開いていた

 

「よし、大体の奴は来たみたいだな。いない奴にはまた後々伝えるとしよう」

 

雷山は隊士たちより一段高いところから見渡しほぼ全員が集まったのを確認した

 

「今回は、新しく五番隊に配属された面々を紹介しようと思ってな。忙しい中悪いんだが集会を開かせてもらった。じゃあ、俺の堅苦しい挨拶も抜きにして自己紹介でもしてもらうか」

 

雷山は、隊士たちから見て一番左側に立っていた水乱に自己紹介をするように言った

 

「ご、五番隊に配属されました。水乱霞(すいらんかすみ)です。よ、よろしくお願いします」

 

水乱はとても緊張した面持ちで挨拶をした。その後順々に挨拶をして行ったがどの隊士も緊張していたように見えた。…ただ一人を除いて

 

「五番隊に配属されました、雨露雨入です!!一日も早く皆さんの役に立てるように頑張りたいです!!」

 

雨露雨入は前日に雷山や銀華零と言った隊長たちに既に会っていたため緊張はせず堂々としていた

 

「ほぉ…我々の前でも堂々としているとは…」

 

それを感心してみる者もいれば

 

「ちっ、あの小娘…」

 

それをよく思わない者もいた

 

「さて、今回配属されたのは6人だ。一部の者に言っておくが、こいつらが気に入らないからって…」

 

雷山は一部の隊士をチラッと見てそこで言葉をいったん止めた。

 

「ッ!!くっ…」

 

雷山と目の合った数人の隊士は考えを見透かされたことに驚き咄嗟に目を逸らした

 

「あんまり悪さはするなよ。じゃあ、今日からも頑張って行こう」

 

 

 

 

そこから雷山は新入隊士を連れて五番隊隊舎内を案内し始めた。本来は椿咲か実松が行う予定だったのだが、椿咲は副隊長会に参加するために出かけ、実松はこの間椿咲と藪崎が喧嘩した後片付け時に出てきた書類を急いで他の隊へ提出するために出かけてしまい急遽雷山が行うことになったのだった

 

 

 

 

 

「さて、ここが五番隊の隊長執務室だ。俺はここにいることが多いな。もちろん他の隊舎にもあるが場所はバラバラだからまだ慣れない間はその隊の者に聞いて行けばいい」

 

その後も雷山は新入隊士たちに今後業務を行う上で必要なことを教えた。その中には椿咲の捕まえ方なども含まれていた

 

「よし、教えておくべきことはこれで全部かな…」

 

その時雷山の後ろからボソッと声が聞こえてきた

 

「雷山隊長ってすごく昔から隊長をやってるって聞いたのに全然そう言う感じには見えなかったよね…」

 

「でもすごく強いと噂が立っているよ」

 

「本当ですか?でもなんかこう…」

 

「うん。なんとなく強そうに見えないというか…」

 

「ちょっと、それはいくらなんでも失礼だよ」

 

それを聞いた雷山は入って来たばっかりの隊士に怒るのも難だと思い何も聞かなかったことにしたが

 

(…そうか、こいつら俺が本気で戦ってるのを見たことがないんだよな。ちょうどいい機会だし、こいつらと一回戦ってみるかな。俺と戦えばこいつらにもいい経験になるだろうしな)

 

 

 

 

その日の内に雷山は実松経由で新入隊士たちに明日瀞霊廷の郊外に集合するように伝言を流した。新入隊士たちは初めのうち何かしたんじゃないかと気が気ではなかったが、集められたときに雷山が別段怒りをあらわにしている様子ではなかったので一安心した

 

 

 

 

「よし、全員揃ったな。それじゃあ今からお前たちは俺と戦ってもらう」

 

「え!?」

 

その場にいた雷山以外の全員が口を揃えて言った

 

「あ、あの雷山隊長…嘘ですよね…」

 

水乱が不安げに言った。他の隊士たちも顔が強張っていた

 

「何でこんな嘘をつかないといけないんだ。それに安心しろ本気は出さねぇし、お前らを怪我させるようなこともしないしな」

 

そうは言っても水乱の不安は払拭できなかった

 

「はぁ…そんなに怖がらなくてもいいだろ。それに現世の駐在任務と比べたらまだマシな方だ。虚は俺と違ってお前らを殺す気で攻撃してくるからな。これは、お前らが死なないようにするために行うんだ」

 

雷山にそう諭された隊士たちは渋々斬魄刀を構えた。しかしそれは構えと呼ぶにはひどいものばかりで雷山に言わせれば、実践ならまず間違いなくすぐに死んでいるという状態だった

 

「まあ、こんなもんか…よし、遠慮はいらない。どっからでもかかってこい!」

 

雷山は斬魄刀を構えてすらなく隙だらけの状態を維持していたが神臥達新入隊士は誰一人動くことが出来なかった。それほどまでに雷山が普段から放つ威圧感と言うものはすごいものだった

 

「そんな…」

 

「ついこの前霊術院を卒業した俺でも分かるぞ…」

 

「この人…とてつもなく強い…!!」

 

神臥達全員がそう思った時、しびれを切らした雷山が言った

 

「ほら、どうしたよ。そっちから来ないんならこっちから行くぞ」

 

神臥達にその声が聞こえた時にはすでに雷山は背後に回り込んでいた

 

「いつの間に…!?」

 

「ほれ!」

 

雷山はそんな気の抜けた掛け声とともに神臥の頭をコツンと(はた)いた

 

「…!?痛くない…?」

 

「当たり前だろ。訓練なんだから本気でやるわけないだろ。それよりいいのか?今俺に最も近くにいるのはお前なんだぞ?」

 

雷山のその言葉に神臥はハッとし、咄嗟に雷山に斬りかかった。しかし雷山は当然その攻撃を読んでいていとも簡単に躱した

 

「おっと!残念、まだまだ甘いぞ!」

 

「今のは囮ですよ…!!」

 

そう言うと神臥は斬魄刀を捨て雷山の右腕を掴んだ

 

「誰か雷山隊長に鬼道をぶつけろ!!」

 

「えっ…!?で、でも…」

 

「いいから早くしろ!!」

 

「なかなか面白い攻撃だが、俺にはまだ左手があるぞ?」

 

「”縛道の四”『這縄』!!」

 

雷山が神臥に左腕を見せたと同時に黄色の縄が雷山の左腕を捕らえた。さすがの雷山もそれは予想外のことであり驚いた様子だった

 

「神臥君!私が詠唱し終わったらギリギリまで赤火砲を引き付けてから逃げて!」

 

「おう!任せろ!!」

 

(なるほどな…俺に『這縄』を掛けたのは水乱か…あの一瞬でそこまで意識が回るとは大したやつだ…)

 

雷山に鬼道を掛けた正体は水乱だった。そして水乱はそのまま破道を詠唱し始めた

 

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ”破道の三十一”『赤火砲』!!」

 

水乱が詠唱を終えると赤い火の玉放たれ雷山へと向かって行った

 

「一瞬でも逃げ遅れたら危ないからお前は退いてな。神臥」

 

そう言うと雷山は神臥を巻き添えを食らう範囲から投げ出し、そのまま何の素振りを見せず水乱の鬼道を正面から受けた

 

「はぁ…はぁ…いくら雷山隊長でも今のが直撃したら…」

 

しかし数秒後その心配が無用であったことと雷山と自分たちとの圧倒的な力の差が思い知らされることとなった

 

「なっ!?」

 

「無傷…!?」

 

雷山は多少の土煙を浴び羽織や死覇装が汚れてはいたが傷はただの一つも負っていなかった

 

「今の攻撃の仕方は褒めれられるものじゃないが、俺に鬼道を当てたのは見事だ」

 

雷山は羽織についた土埃を払いながら言った

 

「それじゃ、今度は剣の打ち合いと行こうか」

 

雷山は抜刀し、神臥達新入隊士たちでも十分見えるように瞬歩を使わず、歩いて、すごくゆっくりと近づいた

 

「ほら、霊術院で習ったろ?相手が剣を振り下ろそうとしているとき、どうするのが正解だ!?」

 

「くっ…!!」

 

―――――ガキンッ!!

 

「…そう。霊術院では逃げられるならば逃げ、逃げられないと判断したら刀を逸らして威力を殺し、受け止めると習う。だが、それはあくまで相手の実力が自身と拮抗しているときの場合だ。なぜなら…」

 

そう言うと雷山は刀を素早く引き離し、そのまま峰内を神臥の腰部分に優しく当てた

 

「相手が自身より強ければ、高確率でこうやって二撃目が飛んでくるからだ。こればっかりは実力差が開きすぎている時点で防ぎようがない。これを防ぐにはただ一つ、剣の腕を磨くことだけだ」

 

「……!!」

 

神臥は驚きを隠しきれていない様子だった。雷山はその状態の神臥を我に返させてから地面に寝そべるように言った

 

「さて、今から教えることは持論でしかなく根拠がないが、心の片隅にでも置いておいてくれ。今から教えるのは、相手が見せる最大の隙だ」

 

「最大の…隙…?」

 

「これは実力が高かろうが低かろうが共通して言える。例えば、今ここで水乱、雨露、極夜、轟、火波、神臥の誰かが俺を斬り倒したとしよう。どういう気分だ?」

 

「それは…すごく申し訳ない気分になります…」

 

「違う違う、そうじゃない。俺が敵だったとしてそれをやっとの思いで倒したらと言う意味だ」

 

「それなら、すごい達成感が感じられます!」

 

「私ならやっと倒せたと思います…」

 

「そう。まさにそれだ。相手を倒すのに苦労すればするほど倒したときに達成感も感じられるだろうが、やっと倒せたとほんの一瞬だが気が抜ける瞬間が必ず存在する。これはどう鍛えても無くすことはできない。どう頑張ってもずっと緊張していることが出来ないからな」

 

「そうですね…ずっと緊張なんかしてたら気が滅入りますもんね」

 

「ああ、しかしその瞬間こそ相手に少量でも傷を負わせられる絶好のチャンスになる。今から俺が目を閉じて神臥の前に立ってるから神臥が今まさに倒されたと仮定し各々好きなタイミングで攻撃してきてくれ。もちろん殺す気で構わない」

 

「こ、殺す気はちょっと…」

 

新入隊士たちは皆、雷山に刃を向けると言う時点で失礼だと感じていたため、殺す気で攻撃するなど尚更できないと言った

 

「…じゃあ聞くが、訓練でできないことが実践でできると思うか?実践は一つの判断ミスで生きるか死ぬかが変わるんだ。だったら訓練の時点でありとあらゆる想定をしておこうじゃないか。もちろん、それでもなお想定外の事態と言うものは生じるけどな」

 

そう言うと雷山は目を閉じ新入隊士たちの背を向け、相手を斬る絶好のチャンスを意図的に作り出した

 

 

 

 

その後疲労で動けなくなった神臥とずっと様子を窺っている雨露を除く4人が雷山に斬りかかったが、結局誰一人雷山に傷を負わせることはできなかった。雷山は段々攻撃のキレがなくなって来た4人を見て訓練はここまでにしようと考えていた時、雷山自身にとっても周りにとっても想定外のことが起きた。それは今まで攻撃に参加せず、雷山たちの動きを見ていた雨露が雷山に突きをしようとしていた時だった

 

 

 

 

(おっ!ようやく雨露が動いたか。まあ、この攻撃を最後に終わるか…)

 

雷山はそう考えつつ左足を後ろに下げ反時計回りで雨露の背後に回ろうとしていた。しかし雨露はそれを見越したように途中で突きの攻撃を止め、身体を捻り、雨露から見て左側に向かって動いている雷山を斬りつけようとした

 

「ッ!!」

 

雷山は一瞬驚いたが、防ぎきれないと言うほどの攻撃でもなかったため自身の斬魄刀で雨露の斬魄刀を上に弾いた

 

「うわっ!!」

 

斬魄刀を上に弾かれた雨露は重心が後ろに傾きそのまま倒れてしまった。倒れた雨露を見て雷山は先程の攻防を評価した

 

(いくら俺が手加減していたとはいえ、あの短い時間で俺の動きを読んで攻撃してくるとはな…なかなか面白い奴らが入って来たな)

 

「痛たた…」

 

「悪い悪い、大丈夫か?」

 

雷山は倒れている雨露に手を差し伸べた。雨露はそれに「はい!大丈夫です!」と応じた

 

「よし、今日はここまでにしよう。お前たち全員ちゃんと鍛錬をしたら上位席官くらい余裕で行けるだろうな」

 

雷山のその評価は本心から言ったものであり、それが分かった新入隊士たち全員大喜びした

 

「隊長ー!!雷山隊長ー!!」

 

その声が聞こえ、振り向くと椿咲が走って来るのが見えた

 

「どうしたんだ、そんなに急いで」

 

「はぁ…はぁ…雷山隊長、今日隊首会があると言うのは覚えていますよね?」

 

「ああ、覚えてるぞ。…それがどうかしたのか?」

 

「それが、隊首会を始める時間を少し早めるそうなんですよ。それでさっき春麗さんが呼びに来たんです」

 

「はぁ?全く、仕方がないな。俺はこのまま隊首会に向かうからお前はこいつらを五番隊舎まで送り届けてくれ」

 

「わっかりました!!」

 

「じゃあ、任せたからな」

 

そう言って雷山は瞬歩で消えた

 

「さて!じゃあ、早く帰ろうか!」

 

そして椿咲は新入隊士たちを連れて五番隊舎へと帰って行った

 

 

 

 

 

 

 

 




新しく五番隊に入った隊士全員の名前を乗せなかったのでここで紹介します。

雨露 雨入(あまつゆ あいり)

神臥 ヨウ(かみふし よう)

極夜 きいち(きょくや きいち)

水乱 霞(すいらん かすみ)

轟 天(とどろき そら)

火波 橙(ひなみ だい)

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