新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
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75、混沌(かおす)
「どおりゃあああっ!!」
「うおぁぁぁぁぁっ!!」
「ちょいやっさああ!!」
アスカの
NERV本部・パイロット用シミュレーションルームに響く。
戦闘技術向上のため、技術部が発案したミッションは、
『武器収納ビルをフル活用して、使徒の群れを迎撃・殲滅せよ』というものだった。
近接武器は
遠距離武器は
武蔵坊弁慶もかくや、とばかりに武器を持ち換え、A.T.フィールドを叩きつけ合い、あるいは中和し合う。
エヴァンゲリオン各機と使徒達の戦いはさながら特撮映画の怪獣大決戦。
今までミッションは一度も完遂できておらず、仮想空間に投影された第3新東京市は今回も
「ねぇ、これってっ! アクションゲームのボス・ラッシュ!?」
『そうね。街一つまるまる買えるだけの予算をつぎ込んだ、贅沢なゲーム機*1だけれど』
使徒の一体をスマッシュホークで一刀両断し、別の獲物に飛び掛かりながらアスカは皮肉った。
技術責任者の赤木リツコ博士は涼しい表情で
なにしろ今まで遭遇・殲滅してきた使徒達が大挙して襲ってくるのだ。
しかし終盤。
また実戦ではあっさりと倒され、レイからは
(ちなみに
「くっ……武器交換のタイミングがない!」
「まだまだぁ! やったるぞこらー! もう地球10回ぐらい滅んでるけど!」
シンジが険しい表情で弾の切れたライフルを捨て、すでに武器を失ったレイは蹴りwith A.Tフィールドで暴れまわっている。
その満身創痍の奮闘すら嘲笑うように、使徒の中でも特に
「……ちょっとぉ、最悪の組み合わせじゃないのコレ!?」
「ちくしょうっ……こんなぁぁっ!?」
「ぎゃぁーっす!?」
最後のレイの悲鳴がどうにも締まらないが、まあともかく。
空から降ってくる
『……三人ともお疲れ様。戦闘タイムは15分32秒。
だいぶ
これからも練度を高めていきましょう』
「持つも何もないわ! 何よ最後のアレ!
難易度以前の問題じゃない! この鬼! 悪魔! リツコ!」
『誰がババアですって!?』
「言ってねぇー!!」
アスカとリツコはギャースカギャースカと仲良く喧嘩中。
かつての
センパイ疲れてるのかなぁ、などと苦笑しながら、マヤはパイロット達に音声を繋いだ。
『訓練は終了です。お疲れ様でした。三人とも、ゆっくり休んでね』
「よーしみんなーお疲れー! 明日も元気に地球を滅ぼしていこう!」
「いや、救うことを考えようよ!」
笑顔を咲かせるレイに対し、即座にツッコミを入れるシンジ。
戦闘経験を積むのも一苦労だと、溜め息と共にLCLを吐き出した。
******
同時刻。
NERVのロゴをペイントされた深緑色のヘリコプターが、箱根山上空を飛んでいた。
眼下に広がる巨大クレーターは、第十使徒サハクィエルが大爆発を起こした時に出来た第二芦ノ湖*2……元の芦ノ湖と繋がって水が流れ込み、前方後円墳のような形を成している。
エヴァンゲリオンとパイロットの子供達の活躍……
そして戦略自衛隊の援護が無ければ芦ノ湖が更に増えるか、第三新東京市そのものが消し飛んでいた可能性もある。
それを考えればまだ幸いな方かも知れない。
「SEELEの幹部連中は、完全に
「人類補完計画は事実上、白紙に戻ったようなものですからね。
我々も身の振り方を考える時が来たということでしょう」
言葉を交わしているのはNERVの2トップ、碇ゲンドウ司令と冬月コウゾウ副司令。
非公式の場では上司と部下ではなく、元学生と恩師として会話をしている。
NERV本部地下に、第一使徒アダムとして安置されていた白い巨人……
実際は第二使徒リリスであったそれが、早々に表に出てしまった事。
影の使徒、第十二使徒レリエルがエヴァンゲリオン初号機もろとも綾波レイを取り込み、リリスと接触した事。
さらには虚数空間から脱出した初号機がリリスをロンギヌスの槍でブチ抜き、消滅させてしまった事。
SEELEの老人達を激怒させるには充分であり、彼らは真相究明を求めた。
しかし肝心の綾波レイは、使徒に取り込まれ接触していた時間帯の記憶が曖昧になっており、具体的な情報は得られず。
ならばエヴァ初号機のボイスレコーダーを提出せよ、という話になったのだが……
「碇くん碇くん碇くんうわぁぁぁぁぁぁん! 碇くんに会いたいよぉ碇くんとイチャコラしたいよぉカリカリモフモフきゅんきゅんきゅい!」(以下省略)
という、ネット上の怪文書をそのまま音読したような叫びしか入っておらず、SEELEの議員を凍り付かせた。
これに関してはキール・ローレンツ議長をはじめ、誰もゲンドウ達に非を問う事も出来ず、微妙な空気のまま議会は閉会となった。
「私は今までに、キール議長があそこまで困惑したのを見た事がないよ」
「
憂鬱なだけの吊るし上げ大会よりは良い。
我ながら不謹慎だな、と一人ごち、冬月は改めて顔を引き締めた。
「……だが碇、我々も楽観はできまい。
「えぇ、文字通り全ての個体が
仮に
いくらリツコくんでも、痕跡を一辺も残さずにダミーを処分するなど不可能です」
第十二使徒戦直後。
ターミナルドグマのLCL水槽にあったレイのクローン体は、全て姿を消していた。
理由は不明だが、今や
事態は、彼らが望むと望まざるに関わらず、確実に動いていた。
「
「低いでしょう。彼は有能でありますが、万能ではない。今は泳がせておきます」
ゲンドウは窓の外に視線を移す。
プロペラの音だけが、やかましく響いていた。