新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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今回シリアスさんばっかり出張ってます


6、サキエルさん、天国にIN

「行ィったらぁあー!!」

 

レイは()える。拘束具から解き放たれた初号機は、地を蹴って前へ。

道路に足形が刻まれ、街路樹脇の電話ボックスがひしゃげた。

 

エヴァと使徒。巨体と巨体。

距離はあっという間に縮まる。

 

使徒が前に伸ばした腕、そして、そこから更に伸びる光の(パイル)

エヴァは上体を半身に反らして突きをかわし、間合いを詰める。

 

二つの巨体を取り巻く夕暮れの空気が、僅かに揺らめいた。

互いを守る不可視の障壁…A.T.フィールドが干渉し合って中和される。

 

使徒の胸部にある赤い球体に、エヴァが前蹴りを一撃。

よろめく使徒に、パンチを一発、二発。

 

首なし巨人の肩にあるヒレのような器官が開き、ふわり、と直立したまま飛行…

使徒は後方へ離脱…仮面からまた光線を放つ。

 

「しゃらくさい!」

 

中和区間を離れれば、再びA.T.フィールドは有効に。

レイの張った障壁により斜め上方向に反らされた光線は、十字架型に広がってから空に消えた。

 

「凄い…!」

「エヴァはね、パイロットのイメージ通りに動くの。

けど、そのために必要なシンクロは、碇くんの方が相性がいいみたい」

「え?」

 

レイの戦いぶりに見入っていたシンジは、思わぬ言葉に聞き返した。

 

「自信を持って。碇くんがいるから、あたしは戦えるんだよ」

「綾波さん…」

 

戦い方を知っているがシンクロは不得手なレイ。その逆のシンジ。

欠けた互いを補完し合う、現時点で最も理想的な形。

レイから寄せられた信頼が、シンジを高ぶらせていた。

 

「シンクロ率上昇!41.3%!」

「よーし、良い感じに動きがキレてきた!

使徒は近づかれるのを嫌がってるみたいだし、畳みかけるよ!」

 

マヤの言葉を耳に、レイは再び使徒へと迫った。

…あるいはそれは、驕りだったのかもしれない。

 

使徒の両腕が倍以上に膨れ上がった。

そして、攻撃しようとしたエヴァの両腕を掴む。

 

「ぐあっ…なんだこれ…!?」

 

シンジは腕を締め上げられるような感覚に苦悶した。

エヴァをイメージ通りに動かすための神経接続…

それは、パイロットにもダメージをフィードバックさせてしまう。

 

「だい…じょうぶ…!掴まれてるのはあたし達の腕じゃない…!このぉ、離せっ!」

 

同じ痛みを感じていたレイは、至近で膝蹴りを何度も放つ。

ダメージは通っているはずだが、拘束は解けない。

業を煮やし、頭突きを一発…!

 

ズキリ。LCLの循環で誤魔化していただけの頭痛が、レイを襲った。

 

(しまった!)

 

反動で離れたエヴァの上体は、隙だらけだ。

何度目か、使徒の仮面が、光る。

 

「使徒にエネルギー反応!」

 

青葉シゲルが叫んだ。エヴァの視界が白に染まる。

 

「…(うっそ)(ゼロ)距離…!?」

 

レイが驚愕すると同時、光線はしたたかに一本角の顔面を打った。

腕の拘束は確かに離れたが、それはエヴァが身体ごと後方に吹っ飛ばされての事。

背から地に落ちる鈍痛はシンジにも襲い掛かる。

 

「あぁッ…!」

「やば…ぃ…」

 

レイの身体から、力が抜けた。

 

 

 

 

 

 

「ファーストチルドレン、意識喪失!」

「綾波さん!しっかり!綾波さん!」

「シンジくん!来るわよ!立って!」

 

日向マコトの叫び、そして葛城ミサトの叫び。

気絶したレイに呼びかけていたシンジは、ハッと前を見る。

 

使徒はゆっくりと歩いてきていた。

尻もちをついて倒れた初号機へと右手を伸ばしてくる。

迫る光の杭…

 

「フィ、フィールドッ!」

 

レイの言葉を思い出し、咄嗟に口走る。

杭の切っ先は、眼前で半透明の正六角形に弾かれ…止まる…

マヤが、身を乗り出し、モニターを凝視した。

 

「…っ、使徒もA.T.フィールドを展開!

位相空間が中和…いえ、侵食されます!」

 

杭が、じわじわと、迫ってくる。壁が、貫かれる。

反射的に防ごうとするエヴァの左手が、貫かれる。

 

「ぐあぁぁっ!」

 

伝わる苦痛。シンジには、自分の叫びすらもどこか遠く聞こえた。

 

(痛い、だめだ、怖い、ダメだ、殺される、駄目だ、逃げなきゃ、だめだ)

(だめだ、このままじゃ、ダメだ、死ぬ、駄目だ、逃げ…)

 

痛みと恐怖に歪むシンジの眼に、意識を失ったレイの横顔が入る。

…彼女の口の端から空気の泡が漏れ、LCLの中を昇っていく。

 

思い出す。

 

怪我を押して戦った小さな背中を。

軽い口調なのに、自分を気づかう明るい声を。

苦痛を隠して向けられる笑顔を。

命の重みと温もりを。

 

 

 

 

 

逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ

逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ

逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ

逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ

 

 

 

 

 

 

「…っ、立て!動け!…戦え!」

 

シンジの声。左手を貫かれたまま、エヴァは立ち上がろうとする。

それを阻止せんと動く使徒…

 

「日向くん!兵装ビル、3番と5番!誤射に気をつけて!!」

「はい!」

 

ミサトの声と共に、日向マコトの指がキーを叩いた。

使徒の背中で起こる、無数の短距離小型ミサイルによる小さな爆発。

 

A.T.フィールドが中和されている今、

それは僅かだがダメージを与え、

エヴァ初号機が体勢を立て直すだけの隙を作った。

 

「シンジくん!エヴァの右肩!ナイフがあるわ!

それで、赤い球体を、刺して!」

「っ…はい!っあああああああ!」

 

言葉を一つずつ区切り、ミサトは確実にシンジへの言葉を運んだ。

プログレッシブナイフ…高速で振動し、敵を焼き切るナイフは右手に。

赤熱する刃は使徒の(コア)へと吸い込まれ、火花を散らす…

シンジの声は、まるでレイの気合をなぞるように、高く、高く響く。

 

使徒が、最後の抵抗をと、伸ばした両手から、力が抜けて…倒れた。

 

「パターン青、消失。…使徒、殲滅!」

「…勝った、な」

 

日向マコトの宣言に、冬月副司令の感慨深げな声が続き…

 

発令所に歓喜の声が満ちた。


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