新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
「行ィったらぁあー!!」
レイは
道路に足形が刻まれ、街路樹脇の電話ボックスがひしゃげた。
エヴァと使徒。巨体と巨体。
距離はあっという間に縮まる。
使徒が前に伸ばした腕、そして、そこから更に伸びる光の
エヴァは上体を半身に反らして突きをかわし、間合いを詰める。
二つの巨体を取り巻く夕暮れの空気が、僅かに揺らめいた。
互いを守る不可視の障壁…A.T.フィールドが干渉し合って中和される。
使徒の胸部にある赤い球体に、エヴァが前蹴りを一撃。
よろめく使徒に、パンチを一発、二発。
首なし巨人の肩にあるヒレのような器官が開き、ふわり、と直立したまま飛行…
使徒は後方へ離脱…仮面からまた光線を放つ。
「しゃらくさい!」
中和区間を離れれば、再びA.T.フィールドは有効に。
レイの張った障壁により斜め上方向に反らされた光線は、十字架型に広がってから空に消えた。
「凄い…!」
「エヴァはね、パイロットのイメージ通りに動くの。
けど、そのために必要なシンクロは、碇くんの方が相性がいいみたい」
「え?」
レイの戦いぶりに見入っていたシンジは、思わぬ言葉に聞き返した。
「自信を持って。碇くんがいるから、あたしは戦えるんだよ」
「綾波さん…」
戦い方を知っているがシンクロは不得手なレイ。その逆のシンジ。
欠けた互いを補完し合う、現時点で最も理想的な形。
レイから寄せられた信頼が、シンジを高ぶらせていた。
「シンクロ率上昇!41.3%!」
「よーし、良い感じに動きがキレてきた!
使徒は近づかれるのを嫌がってるみたいだし、畳みかけるよ!」
マヤの言葉を耳に、レイは再び使徒へと迫った。
…あるいはそれは、驕りだったのかもしれない。
使徒の両腕が倍以上に膨れ上がった。
そして、攻撃しようとしたエヴァの両腕を掴む。
「ぐあっ…なんだこれ…!?」
シンジは腕を締め上げられるような感覚に苦悶した。
エヴァをイメージ通りに動かすための神経接続…
それは、パイロットにもダメージをフィードバックさせてしまう。
「だい…じょうぶ…!掴まれてるのはあたし達の腕じゃない…!このぉ、離せっ!」
同じ痛みを感じていたレイは、至近で膝蹴りを何度も放つ。
ダメージは通っているはずだが、拘束は解けない。
業を煮やし、頭突きを一発…!
ズキリ。LCLの循環で誤魔化していただけの頭痛が、レイを襲った。
(しまった!)
反動で離れたエヴァの上体は、隙だらけだ。
何度目か、使徒の仮面が、光る。
「使徒にエネルギー反応!」
青葉シゲルが叫んだ。エヴァの視界が白に染まる。
「…
レイが驚愕すると同時、光線はしたたかに一本角の顔面を打った。
腕の拘束は確かに離れたが、それはエヴァが身体ごと後方に吹っ飛ばされての事。
背から地に落ちる鈍痛はシンジにも襲い掛かる。
「あぁッ…!」
「やば…ぃ…」
レイの身体から、力が抜けた。
「ファーストチルドレン、意識喪失!」
「綾波さん!しっかり!綾波さん!」
「シンジくん!来るわよ!立って!」
日向マコトの叫び、そして葛城ミサトの叫び。
気絶したレイに呼びかけていたシンジは、ハッと前を見る。
使徒はゆっくりと歩いてきていた。
尻もちをついて倒れた初号機へと右手を伸ばしてくる。
迫る光の杭…
「フィ、フィールドッ!」
レイの言葉を思い出し、咄嗟に口走る。
杭の切っ先は、眼前で半透明の正六角形に弾かれ…止まる…
マヤが、身を乗り出し、モニターを凝視した。
「…っ、使徒もA.T.フィールドを展開!
位相空間が中和…いえ、侵食されます!」
杭が、じわじわと、迫ってくる。壁が、貫かれる。
反射的に防ごうとするエヴァの左手が、貫かれる。
「ぐあぁぁっ!」
伝わる苦痛。シンジには、自分の叫びすらもどこか遠く聞こえた。
(痛い、だめだ、怖い、ダメだ、殺される、駄目だ、逃げなきゃ、だめだ)
(だめだ、このままじゃ、ダメだ、死ぬ、駄目だ、逃げ…)
痛みと恐怖に歪むシンジの眼に、意識を失ったレイの横顔が入る。
…彼女の口の端から空気の泡が漏れ、LCLの中を昇っていく。
思い出す。
怪我を押して戦った小さな背中を。
軽い口調なのに、自分を気づかう明るい声を。
苦痛を隠して向けられる笑顔を。
命の重みと温もりを。
逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ
逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ
逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ
逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ
「…っ、立て!動け!…戦え!」
シンジの声。左手を貫かれたまま、エヴァは立ち上がろうとする。
それを阻止せんと動く使徒…
「日向くん!兵装ビル、3番と5番!誤射に気をつけて!!」
「はい!」
ミサトの声と共に、日向マコトの指がキーを叩いた。
使徒の背中で起こる、無数の短距離小型ミサイルによる小さな爆発。
A.T.フィールドが中和されている今、
それは僅かだがダメージを与え、
エヴァ初号機が体勢を立て直すだけの隙を作った。
「シンジくん!エヴァの右肩!ナイフがあるわ!
それで、赤い球体を、刺して!」
「っ…はい!っあああああああ!」
言葉を一つずつ区切り、ミサトは確実にシンジへの言葉を運んだ。
プログレッシブナイフ…高速で振動し、敵を焼き切るナイフは右手に。
赤熱する刃は使徒の
シンジの声は、まるでレイの気合をなぞるように、高く、高く響く。
使徒が、最後の抵抗をと、伸ばした両手から、力が抜けて…倒れた。
「パターン青、消失。…使徒、殲滅!」
「…勝った、な」
日向マコトの宣言に、冬月副司令の感慨深げな声が続き…
発令所に歓喜の声が満ちた。