新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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71、レリエルさん、夜の街にIN・そのいち

「うぉぉ、酔いそう。なんじゃこりゃ!?」

 

エヴァ初号機ごとアダムに取り込まれ、母の胸に抱かれるが如く安らいでいたレイ。

気がつくと彼女は、白黒のマーブル模様が渦巻く謎の空間に()()()()()()

 

夢の中にしては、意識ははっきりしている。

だが足は地についておらず、なんとも非現実的で、不安定だ。

 

同時にレイは、背中から暖かく柔らかい感覚が伝わってくるのを感じていた。

あの女性化したアダムが……もっとも、今はレイより少し身長が高い程度だが……抱きついてきている。

レイが「あ、どうも」と間の抜けた挨拶をすると、人間サイズのアダムは黙したまま優しく微笑み返した。

 

一時は涙が溢れるほど動揺していたレイだったが、いざ冷静になってアダムの顔を見てみれば、思い当たる事はあった。

 

 

「やっぱり、碇くんのママだよね?

本人じゃなくてアダムさんが仮の姿を取ってるだけだと思うけど……

今は、この気持ち悪い空間から、脱出することを考えんと」

(させない。逃がさない。ようやく見つけたんだもの。アダム)

「んっ!?」

 

 

レイが慌てて視線を戻した先、目の前の空間に人影がまろび出た。

自分と同じ蒼髪、顔立ち、身長、体型の少女。

白目のない瞳と、身に着けたスクール水着めいた衣には、背景と同じように白黒が渦巻いている。

 

レイにとっては、自分の姿を使った出来の悪いコラージュを見せられたようなもの。

警戒に赤眼を鋭く細め、レイは相手に問うた。

 

 

「あなたは、だぁれ?」

(使徒。あなた達が、使徒と呼ぶ()()

「使徒? ヒト? はっきりしないな。まー、ともかく……

今まで力押しだった使徒さんが、今回は精神的に干渉しに来たってワケですか。

いや、『アダムをようやく見つけた』って事は……あたしは()()()か?」

 

(いぶか)しむレイに対し、ためらいも急ぎもせず、使徒は大胆に歩み近づく。

 

サードインパクトは、私が主導で起こす。そのためには、アダムが必要。邪魔をしないで)

「だぁぁっ!? サラッと洒落にならん事言ってるな、この子!? こっち来るなぁッ!」

 

 

レイは右手を突き出し……その手の甲が、()()()()()

 

キィン、という高い硬質音とともに、半透明の虹色をした障壁が現出……使徒は後退(あとずさ)る。

もっとも使徒以上に驚いたのは、レイ自身の方だったが。

 

 

「うぉ、なんか出たっ!? あたし、素手でA.T.フィールド出してる!?」

(第十一使徒イロウルを取り込んだのね。

やはり貴女は、究極の不確定要素(イレギュラー)だわ)

「一人で勝手に納得してんじゃないよ、このドッペルゲンガーめ。

会話は言葉のドッジボール……じゃなくてキャッチボールだって、学校で習わんかったか!?」

(貴女が、綾波レイが……()()()()を言う時点で、この()()は全てが狂っているのよ)

「くっそぉ、ムカつくなぁ……ワケ解んない事を、解ったよーに言われんの!

それもあたし自身の姿でさぁ!」

 

心の壁(A.T.フィールド)を隔て、レイは鏡合わせのような使徒を睨んだ。

 

 

******

 

後手後手ながら市民の避難が完了した頃、第3新東京市の地上にも変化は訪れていた。

白い女巨人が胸の前に差し出した両手の上に、何の前触れもなく白黒縞(ゼブラ)の球体が出現したのだ。

 

直径100メートル前後……奇妙なモノクロの真球。

アスファルトをすり抜けて湧き出た巨人と同じく、やはりあらゆる物理法則を無視して空中静止している。

 

 

「あの巨人の武器なの?」

「いいえ、球体は巨人とはまったく別の個体です。

パターンオレンジ。使徒とは断定出来ず……

修正! 巨人の直下にパターン青! 使徒発見!」

「直下!?」

 

 

ミサトと日向が言葉を交わした、その直後。

夜闇より暗い『漆黒そのもの』が、パターン青が検出された地面に広がった。

空中の球体が落とすにしてはあまりに大きい、直径にして5,6倍はあろうかという円形の影である。

 

 

ず、ずずずずっ、ずっ……

 

 

ビル群が、電信柱が、信号機が、無人の自動車が……

まるで底なし沼にでも飲み込まれるように消えていく。

その中心で女巨人だけが沈むことなく、ゼブラの球体を見つめていた。

発令所がどよめき、ミサトは息を飲む。

 

 

「街が……なんてこと!? あの影に飲まれたらひとたまりもないわ!

でも、なぜ巨人は影響を受けないの? 実体がないのかしら?」

「巨人からはエネルギー反応がありますが、質量がほぼゼロ。

使徒の持つマイナスエネルギーと、干渉しあっています。

……しょ、初号機の反応あり! 巨人の体内ですっ!」

「初号機!? じゃあレイは?」

「反応は一瞬だけです。安否不明!」

 

 

焦り気味の青葉の声に、ミサトは頼りの親友を振り返る。

赤木リツコ博士は幾分平静を取り戻していたが、首を横に振った。

 

 

「目下解析中よ、葛城三佐。

けれど、今回は規格外が多すぎるわ。

巨人と影の使徒の相関関係は、未だ不明……。

大質量のエヴァがあの巨体の内部にいるはずなのに、この計測結果だもの」

 

(不可解な事……そして私達人類にとって幸運な事。

アダムと使徒が接触している以上、()()()()()()()()()()()()のサードインパクトが、まだ起こっていない。

もっとも、首元にナイフを突きつけられている状態で、予断を許さない状況だけれどね)

 

リツコは真実を隠したまま、コンソールと格闘を続けた。


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