新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
「うぉぉ、酔いそう。なんじゃこりゃ!?」
エヴァ初号機ごとアダムに取り込まれ、母の胸に抱かれるが如く安らいでいたレイ。
気がつくと彼女は、白黒のマーブル模様が渦巻く謎の空間に
夢の中にしては、意識ははっきりしている。
だが足は地についておらず、なんとも非現実的で、不安定だ。
同時にレイは、背中から暖かく柔らかい感覚が伝わってくるのを感じていた。
あの女性化したアダムが……もっとも、今はレイより少し身長が高い程度だが……抱きついてきている。
レイが「あ、どうも」と間の抜けた挨拶をすると、人間サイズのアダムは黙したまま優しく微笑み返した。
一時は涙が溢れるほど動揺していたレイだったが、いざ冷静になってアダムの顔を見てみれば、思い当たる事はあった。
「やっぱり、碇くんのママだよね?
本人じゃなくてアダムさんが仮の姿を取ってるだけだと思うけど……
今は、この気持ち悪い空間から、脱出することを考えんと」
(させない。逃がさない。ようやく見つけたんだもの。アダム)
「んっ!?」
レイが慌てて視線を戻した先、目の前の空間に人影がまろび出た。
自分と同じ蒼髪、顔立ち、身長、体型の少女。
白目のない瞳と、身に着けたスクール水着めいた衣には、背景と同じように白黒が渦巻いている。
レイにとっては、自分の姿を使った出来の悪いコラージュを見せられたようなもの。
警戒に赤眼を鋭く細め、レイは相手に問うた。
「あなたは、だぁれ?」
(使徒。あなた達が、使徒と呼ぶ
「使徒? ヒト? はっきりしないな。まー、ともかく……
今まで力押しだった使徒さんが、今回は精神的に干渉しに来たってワケですか。
いや、『アダムをようやく見つけた』って事は……あたしは
(サードインパクトは、私が主導で起こす。そのためには、アダムが必要。邪魔をしないで)
「だぁぁっ!? サラッと洒落にならん事言ってるな、この子!? こっち来るなぁッ!」
レイは右手を突き出し……その手の甲が、
キィン、という高い硬質音とともに、半透明の虹色をした障壁が現出……使徒は
もっとも使徒以上に驚いたのは、レイ自身の方だったが。
「うぉ、なんか出たっ!? あたし、素手でA.T.フィールド出してる!?」
(第十一使徒イロウルを取り込んだのね。
やはり貴女は、究極の
「一人で勝手に納得してんじゃないよ、このドッペルゲンガーめ。
会話は言葉のドッジボール……じゃなくてキャッチボールだって、学校で習わんかったか!?」
(貴女が、綾波レイが……
「くっそぉ、ムカつくなぁ……ワケ解んない事を、解ったよーに言われんの!
それもあたし自身の姿でさぁ!」
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後手後手ながら市民の避難が完了した頃、第3新東京市の地上にも変化は訪れていた。
白い女巨人が胸の前に差し出した両手の上に、何の前触れもなく
直径100メートル前後……奇妙なモノクロの真球。
アスファルトをすり抜けて湧き出た巨人と同じく、やはりあらゆる物理法則を無視して空中静止している。
「あの巨人の武器なの?」
「いいえ、球体は巨人とはまったく別の個体です。
パターンオレンジ。使徒とは断定出来ず……
修正! 巨人の直下にパターン青! 使徒発見!」
「直下!?」
ミサトと日向が言葉を交わした、その直後。
夜闇より暗い『漆黒そのもの』が、パターン青が検出された地面に広がった。
空中の球体が落とすにしてはあまりに大きい、直径にして5,6倍はあろうかという円形の影である。
ず、ずずずずっ、ずっ……
ビル群が、電信柱が、信号機が、無人の自動車が……
まるで底なし沼にでも飲み込まれるように消えていく。
その中心で女巨人だけが沈むことなく、ゼブラの球体を見つめていた。
発令所がどよめき、ミサトは息を飲む。
「街が……なんてこと!? あの影に飲まれたらひとたまりもないわ!
でも、なぜ巨人は影響を受けないの? 実体がないのかしら?」
「巨人からはエネルギー反応がありますが、質量がほぼゼロ。
使徒の持つマイナスエネルギーと、干渉しあっています。
……しょ、初号機の反応あり! 巨人の体内ですっ!」
「初号機!? じゃあレイは?」
「反応は一瞬だけです。安否不明!」
焦り気味の青葉の声に、ミサトは頼りの親友を振り返る。
赤木リツコ博士は幾分平静を取り戻していたが、首を横に振った。
「目下解析中よ、葛城三佐。
けれど、今回は規格外が多すぎるわ。
巨人と影の使徒の相関関係は、未だ不明……。
大質量のエヴァがあの巨体の内部にいるはずなのに、この計測結果だもの」
(不可解な事……そして私達人類にとって幸運な事。
アダムと使徒が接触している以上、
もっとも、首元にナイフを突きつけられている状態で、予断を許さない状況だけれどね)
リツコは真実を隠したまま、コンソールと格闘を続けた。