新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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エヴァンゲリオン特有の視点がコロコロ変わりまくる回。

某女巨人さんは原作よりもかなり小さめ(大気圏越え→特撮怪獣サイズ)
姿はあの人です。


70、アダム?さん、第3新東京市にIN

少年は夢を見ていた。

見覚えのある本部施設の明るい実験棟を俯瞰(フカン)する視点。

だがオペレーター達は皆知らない顔で、制服のデザインも現在のNERVのものとは違う。

 

幼い頃の自分が、白衣姿の女性科学者を見上げ、無邪気に笑いかけていた。

 

「何故子供が……」

「所長の息子さんだそうで……」

「ここは託児所では……」

 

不機嫌そうな壮年の男性と、困惑気味の女性科学者が話し合う声。

壮年の隣には、若き日の父が座っている。

『所長』……そう、『司令』とは呼ばれていなかった。

 

 

『ごめ…なさ……月先生。私が…れてきた…です』

 

スピーカー越しに聞こえる、別の女性の声……。

少年にとっては聞き慣れた声のようで、どこかが違う。

 

「ユ…くん! 今日は君の…験……だぞ!」

『この子に…未来を……』

 

ノイズ交じり、途切れ途切れで聞き取りづらい会話。

それをさえぎるように、赤いランプが点滅する。警報が鳴り響く。

オペレーター達が、自分に解らぬ専門用語で怒号を交わし合っている。

 

4歳の自分は何が起こっているかも解らず……

消えていく大事な人に向かって、笑いながら手を振っていた。

 

それが誰だったのか、思い出した。今なら解る。

 

 

(あの人は、僕の)

 

 

そして、視界も音も、ホワイトアウトする。

 

 

 

―――NERV総合病院・201病室―――

 

「……っはっ!?」

 

目を覚ました時、シンジの眼に入ったのは白い天井……四角いカバーに覆われた蛍光灯。

第三使徒戦後以降、もうずいぶんと見慣れたが、あまり好きな天井ではない。

 

先のテストで零号機は暴走を起こしたが、幸いにして外傷はなかった。

NERVの面々が見舞いに来てくれたが、その実、体調自体は良好そのもの。

懸念されていた精神汚染の後遺症もなく、医師からは問題なく退院できると言われている。

 

湿った病衣の胸元を掴み、涼しい空気を招いた。

 

(変な夢だったな。汗掻いたせいで、気持ち悪いや。

あぁ、そうだ、夢。

綾波さんに、零号機の中で見た夢のこと、結局聞けなかった。

聞きづらいけど……いつか、聞かないと)

 

昨日見舞いに来たレイは、マシンガンのごとく学校での出来事を語った。

シンジ自身、彼女の話を楽しんでいた事もあり、なかなか話を切り出せず、一度聞こうとして、ためらってしまった。

 

 

おぞましい表情の、アヤナミレイの嗤い。

LCLの水槽に浮かぶ、無数のクローン体。

首を絞められて動かなくなった、幼いレイ。

 

 

思い出したくない。だが忘れられない。

ただの夢だと一笑に伏すことが出来れば楽だっただろうが、心を離れない。

 

物思いにふけっていたその時、通信端末から聞こえた非常招集の音が、不安に駆られるシンジの心臓を更に跳ねさせた。

 

 

 

―――NERV地下最奥部・ターミナルドグマ―――

 

二又の聖槍(ロンギヌス)に胸を貫かれていることすら意に介さず、アダムと呼ばれていた白い女巨人は初号機を抱きしめた。

プラグ内のレイにフィードバックされるのは、あまりにも優しい、暖かいものに包まれる感覚……

使徒と戦っている時に馴染みのある痛みや熱とは、真逆のそれだ。

 

レイの右手は赤い光を宿したままだが、既に痛みはなく……

しかし操縦桿(インダクションレバー)を握ったまま震えるばかりで、抵抗しようという意志は最早なかった。

 

 

「……解る。今なら、ママを想って泣いてたアスカっちの気持ちが解るよ。

ヒトの心は()()()だから、痛みを癒してくれる温もりを求めているんだって。

大好きな誰かを守りたくて、この温もりを与えたいんだって。

きっと、あたしは碇くんに、でも、でもあたしは……」

 

 

レイは唇を歪め、なおもLCLに涙を溶かしながら肩を震わせた。

自分は、普通の人間のように生まれてはいないはずなのに。

否、だからこそ……心地よい、この温もりを感じていたいと思ってしまう。

 

 

女巨人は微笑みをたたえたまま、半液体のように真っ白な胴体を波打たせ、初号機を取り込んだ。

胎内回帰……すなわち、私に(かえ)、とばかりに。

 

エネルギー保存法則、質量保存法則、その他あらゆる物理法則を無視し……

女巨人はそのサイズを大きく変えながら、コンクリートの壁も、特殊鋼の隔壁もすり抜けて上へと昇っていく……。

 

 

―――NERV本部発令所―――

 

「碇、あれは……!」

「あ、ああぁ……!」

 

冬月コウゾウ副司令に言葉を向けられた碇ゲンドウ司令は、無意識に立ち上がっていた。

おおよそNERV職員達が見たこともない組織2トップの狼狽(うろた)え方である。

赤木リツコ博士もまた、信じられない、という表情で口元を手で隠していた。

 

主モニターに映し出されたのは、異様な光景だった。

地上カメラからの映像……夜の(とばり)が降りた第3新東京市に、突如現れた白い女巨人。

ビルディングの数倍の高さを持ち、均整の取れた艶姿はそれ自体が光源となって、暗闇の街で絶大な存在感を誇っている。

 

葛城ミサト三佐は、NERV幹部達の表情に眉を動かした後、モニター類の中にメッセージを見つけ、その目を険しく細めた。

 

EVA-01    LOST

1st Children  LOST

 

(初号機とレイが行方不明!? このタイミングで!? 

それに、あの謎の巨人を見た司令達の様子……

間違いない。彼らは私が知らない何かを知っている。隠している……!

けれど今は……)

 

作戦部長として、目の前の事態に対応しなければならない。

ミサトはなんとか唾を飲みこんで乾いた喉を湿らせた後、副官である日向マコト二尉に問う。

 

「使徒なの? あの女巨人は?」

「分析結果が出ました。パターン、赤!? に、()()ですっ!」

「そんな……!?」

 

スーパーコンピューターMAGIが全てシステム正常なのは確認済み。

日向マコト二尉から返ってきた答えに、ミサトは声を詰まらせた。

 

「う、うぅぅっ……!」

 

眼をきつく閉じて呻き声を漏らし、吐き気をこらえて口元を抑えたのは伊吹マヤ二尉。

あまりにもヒトに似た……そして、MAGIによってヒトとされたモノ。

 

もしこれが敵だった場合、NERVは女巨人を倒さなければ……

もとい、中学生の少年少女に()()()()()()()ならない。

潔癖の気があり、なまじ頭の回転が速いマヤにとって、この現実は生々しすぎた。

 

ミサトは、勢いよく息を吸って吐き……性急に酸素を肺に取り込んで、青葉シゲル二尉に視線をやった。

 

「青葉くん、国連軍と戦略自衛隊に通達。彼らが先走らないように釘を刺しておいて。

日向くんは分析を続行。兵装ビルでの攻撃はせず、警戒待機」

「「了解」」

「あとは、パイロットね」

 

既に招集は掛けた。

シンジとアスカには、自分から状況を伝えなくてはならない。

ミサトは、唇を噛んだ。


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