新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
(54、マトリエルさん、停電した街にIN(後編) 前書きより)
アスカっちが青葉ロンゲくんの事を「コーチ」と呼んでいるのは、彼がバンドのギター指導担当していた事に由来します
(53、マトリエルさん、停電した街にIN(前編) より)
『エヴァ弐号機、機体各部正常。パイロット、異常なし』
「…当ったり前でしょ。アタシはいつもと同じ事やってるんだから。
ねぇ
『いままでの使徒戦での反応速度や、動作パターンを基にしてシステムを調整してるんだ。
今回弐号機の連動試験が長いのは、それだけアスカちゃんが優秀だって事さ。容赦してくれ』
「むぅー、とりあえずおだてておけば良いと思ってぇ…」
肩を竦めて笑う青葉に、アスカは憮然とした呟きを返した。
レイは既にオペレーティングルームに引き上げている。
プラグスーツ姿のまま、指を組んだ両腕を頭上に持ち上げて気持ちよさそうに背伸びをするレイがモニターに映っていた。
その様子から、「んー!」と呑気な声でも漏らしているに違いない。
アスカは頬を膨らませた。
一方、相互互換テストは被験者をシンジに、機体を零号機へと変えて続いている。
『どう? シンジくん。零号機のエントリープラグは?』
「不思議な感覚です。初めての機体なのに、なんていうか…」
『違和感があるのかしら?』
シンジは数秒間、視線を上に向けて思案した後、モニターパネル越しのリツコとマヤを見返した。
「そうだ…逆に、
確かに初号機の方が慣れてるし、勝手も解るんですけど。
別の意味で、しっくりと嵌まるような…
…なんでだろう? 綾波さんの
血臭のするLCLが満ちている以上、ここでいう『匂い』とは嗅覚によるものではない。
だがシンジの感覚は、『気配』よりも『匂い』と表現した方が一番近いと感じた。
ピッ、と電子音がして弐号機からの通信パネルがポップし、やたらと早口でまくし立てる声が割り込む。
『
別にバカップルが今更どうイチャつこうが構いやしないけどさ! どうせアレでしょ?
あぁーんレイちゅわ~ん♪ いい匂いだよぉ~ クンカクンカー♪ スーハースーハー♪
みたいな感じなんでしょ、普段から!?
あぁーもう甘いわ! 甘ったるいったらありゃしないっ!!』
『あ、ごめんアスカっち。それむしろあたしの方が碇くんにやってる』
『要らんわそんなカミングアウト!!』
『レイ! アスカ! ノイズが混じるわ。邪魔しないで頂戴!』
『アッハイ』
『はいはい! 悪ぅござんしたねー赤木博士!』
『…騒がしくてごめんねシンジくん。興味深いデータだわ。もう少しテストを続けてくれる?』
「わ、解りました…」
通信越しに聞こえた美少女二人の会話がリツコによって遮られるまで、シンジは口を挟む間もなかった。
『ふふっ…匂いをかぎ合うって、なんだか子犬みたいで微笑ましいわね。
シンジくんとレイが犬耳を頭に付けてじゃれ合ってる所を想像したら、ちょっと和んじゃったわ』
「うっ!? いや、その…」
口元に片拳を当ててクスクスと笑うマヤに、シンジはしどろもどろになる。
潔癖症のマヤのことだ。
シンジとレイがカップルだと知ってはいても、おそらくは前世紀の少女漫画のようなプラトニックな絵を想像していることだろう。
レイとの『関係』を考えれば、実際の映像はもう少し
真実を誤魔化す後ろめたさを振り払うべく、シンジは深呼吸し…肺の中にLCLを循環させた。
…
……
………
「シンクロ率は、初号機の時とほぼ変わらず…いや、零号機の方が少し高いぐらいですね。
シンジくんの事だから、僕の見立てではもう少し緊張すると思ったんですが」
「んっふっふー♪ 愛しのレイちゃんの機体だからじゃなーいのぉ?
本人達さえ良ければ、このまま機体を交換して実戦運用を目指すのも、視野に入れるかしらね?
もちろん、調整は今まで以上に念入りにする必要があるけど」
日向マコト二尉が浮かべた驚きの表情に対し、直属上司のミサトはニンマリと口の両端を持ち上げる。
『少しでも機体とパイロットのシンクロ=総合力が上がる方法を模索する』という意味では、非常に有意義なテストだった。
「でも葛城さん。弐号機の方は…」
「…そうねぇ。確かに互換性は効かないわ。
まぁ、性能的にもピーキーな弐号機を乗りこなすのはアスカが一番の適任だから…
互換を考えるにしても、参号機以降が配備されてからね」
「はい…」
新たなエヴァの配備は天文学的な額のカネをはじめとして、関係各所の複雑な思惑や責任問題が関わる事象だ。
こればかりは『上』の決定を待つ以外にはない。作戦部の二人は、揃って真剣な表情に転じていた。
………
……
…
『
『ハーモニクスレベル、プラス20…』
リツコとマヤのアナウンスが、零号機のプラグに届く。
エヴァンゲリオンと繋がる…シンクロする感覚。
暖かなものに包まれるような馴染みの感覚に、別のものが混じるのをシンジは感じている。
(やっぱり、綾波さんの
本人はモニターの向こうにいるはずなのに、なんでこんな近くに感じるんだ?)
オペレーティングルームのレイは、四六時中シンジを見ている訳ではない。
マイクがOFFになっているため音声は届かないが、ミサトや日向…その他作戦部の面子数人と何か言葉を交わし、思案したり、頷いているところだ。
突然、シンジの視界が真っ暗になった。
「っ!? なんだ!?」
…不具合で、エントリープラグ内の照明が落ちたのか?
いや、その割には機械の動作音の一つもしなかった。
それに、プラグそのものにも独立した電源は存在する。
不測の事態だとしても非常灯が
だが、それすらもない、完全な闇。
LCLの循環が止まっている様子はない。
マイクが生きていることを期待して、シンジは外部へと通信を試みる。
「リツコさん! マヤさん! どうなってるんですか!?
ミサトさん! 日向さん! 青葉さん! 聞こえますか!
アスカ! 綾波さん! いるなら返事してよ!」
沈黙。じわりとした恐怖が、シンジの心に迫る…。
「…綾波さん…」
縋る様に、もう一度呟く少女の名…。
(あなたにとって、綾波レイとは、なに?)
(!? なんだ…? 頭の中に、なんだこれっ…!?)
『それ』は声ではない。音ではない。
心の中に直接響く、
(あなたにとって、綾波レイとは、なに?)
(綾波さんは、僕の、大事な人だ)
もう一度、まったく同じ言葉で繰り返された問いかけに、シンジは答える。
(本当に?)
(ひっ…!?)
燐光を伴って眼前に現れたのは、蒼髪に白磁の肌…
よく見知っているはずの少女。
だがその顔は、魚眼レンズで覗いたかの如く。
見開かれた赤い瞳は、ギョロリと白目を目立たせ…
美しいはずの顔が、醜悪な笑みを浮かべ、シンジを見ていた。
あのギョロっとした綾波さん、昔は超怖かったんですが何回か見返すうちに可愛いと思えてきました(錯乱)
次回、エヴァンゲリオン特有のクソ長哲学回くん予定