新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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63、ゼーレのおじいちゃん達、会議にIN

あらゆる場所に様々な機器類が満ちているNERV本部だが、中にはひどく殺風景な小部屋も存在する。

 

『そこ』で目立つものといえば、武骨で機能的な造りの机と椅子のみ。

ライトグリーンがかった明単色の壁。空調が静かに稼働する音。

おおよそ()()()()もしない空間であった。

 

総司令である碇ゲンドウが歩を進め、席に着いた途端に、小部屋の明かりが不意に落ちる。

 

十秒近い沈黙の後、暗闇を照らすように淡く光る長方形のテーブルと、それを取り囲む人影が浮かび上がった。

ゲンドウから見て左前方に二人、右前方に二人……。

国籍こそバラバラだが、いずれも年齢を重ね、老獪な光を目に称えた男達の虚像(ホログラム)

 

NERVの上層組織である『委員会』…その正体は、圧倒的な財力と、裏世界の人脈をバックボーンに暗躍する、秘密結社SEELE(ゼーレ)

そう。ここは特別に(しつら)えられた()()()である。

 

『久しぶりだねェ、碇ゲンドウくん』

『随分と、()()()のようだな』

「恐れ入ります。皆様におかれましては、ご壮健でなによりです」

 

向かって左、七三分けの委員と、黒縁眼鏡に口髭の委員が、挨拶代わりに言葉を発した。

彼らを前にしてもゲンドウは机の上で指を組んだまま姿勢を崩さない。

 

『ふん、皮肉も通じぬか。先日の件…忘れたとは言わせんぞ』

『さよう。全てが水泡に()すところであったのだ。我々としても、看過はしかねるよ?』

 

ゲンドウの慇懃(いんぎん)な敬語に刺激されたか…反対側、鷲鼻の委員が吐き捨てた。

それに続くのは他の三人の低音に比べ、妙にかん高くねちっこい丸眼鏡の委員の声。

 

(…この老人達はいつもそうだ。俺を吊るし上げる事こそが、最大の娯楽らしい)

ゲンドウは白手袋に口を沈め、冷笑を隠した。

 

『皆、静粛に。その辺りも含めて、今までの出来事を振り返りながら聞かせてもらおう』

 

(しゃが)れた声とともに、ゲンドウの対面に最後の人影が浮かび上がる。

白い髪をオールバックに撫で付け、目元をバイザータイプの色眼鏡で隠した老人…

SEELEの首魁、キール・ローレンツ議長であった。

 

『では、会議を始める』

 

 

……

 

………

 

闇の中、今までの使徒との戦いの記録…

NERV・国連軍・戦略自衛隊・日本重化学工業共同体…使徒戦に関わった各機関から提供された、動画と静止画が織り交ぜられたスライドショーが映し出された。

 

 

胸部に仮面をつけたモスグリーンの首無し巨人 第三使徒 サキエル

 

複数の海洋生物を組み合わせたような飛行体 第四使徒 シャムシエル

 

無機質な美しい正八面体の青いクリスタル 第五使徒 ラミエル

 

大海原を自在に駆けて国連海軍を苦しめた怪魚 第六使徒 ガギエル

 

合体・分離機能を有する細身の人型 第七使徒 イスラフェル

 

二つの腕と強固な外殻を持つ溶岩魚 第八使徒 サンダルフォン

 

強力な溶解液で本部への侵入を試みた四つ足の虫型 第九使徒 マトリエル

 

自らを爆弾としてはるか上空から本部を狙った前衛芸術のごとき異形 第十使徒 サハクィエル

 

 

戦いの過程・結果や予算のデータを添えて、それらが順々に映し出されていく。

莫大な桁の金が、それこそ()()()()()()()ように動いていた。

 

だがエヴァンゲリオンと子供達の活躍の甲斐あって、殲滅が比較的スムーズに行われている事。

また、戦自や日重といった外部機関の介入が図らずもプラスに働いている事から、想定に比べて被害はかなり少なく済んでいる。

それでもセカンドインパクト復興にしわ寄せが行っていることは揺るぎなく、発展途上国では数千人単位の餓死者が出てはいたが。

 

 

『碇があの()()()()を息子にくれてやったと聞いた時には肝を冷やしたが…

ここまでは幸先が良いではないか。我々の先行投資が無駄にならなかったのだから』

『フン、まだ解らぬよ。エヴァンゲリオンはそれ自体が金喰い虫だ。

ヒト、モノ、カネ、そして時間。

この先、維持にも運用にも、いくら使うか知れたものではない』

『そして、今回に至っては使徒に本部……

それもセントラルドグマにまで侵入を許したではないか。

いかんなこれは。早すぎる!』

「どれだけ科学技術が進歩したところで、使徒は人智を越えた存在です。

彼らが我々の上を行っただけの事…想定外の事態ですよ」

()()()!君達日本人は、事故や災害のたびに何かとその言葉を使いたがるな!

伝家の宝刀のつもりかね?』

 

 

議員達の視線と声が、ゲンドウに容赦なく突き刺さり、その反論にも怒号が返る。

第十一使徒イロウル…ナノマシンのような極小の個体が寄り集まった群体は、短期間の内に進化を遂げ、NERV本部に容易く侵入した。

メインコンピューターであるMAGIが一時は使徒に乗っ取られ、自立自爆を提唱。

 

それに対し技術部長の赤木リツコと、彼女の弟子である伊吹マヤが回線をMAGIに直結。

使徒に逆ハッキングを仕掛け、自滅促進プログラムを送り込む、という背水の陣で、NERV史上初・エヴァ無しでの使徒戦に臨んだ。

NERVオペレーター達が同時進行で懸命の防衛作業をおこなったお陰もあり、あわや、というところで使徒を沈黙させることに成功している。

 

『まあ良かろう…結果的には勝利を納めたのだ。

今回、君の罪と責任については追及しない』

「ありがとうございます、キール議長」

『だが、それ以上のイレギュラーがあるのを忘れてはおるまい。

エヴァンゲリオン零号機…そして、パイロットの綾波レイだ』

「!」

 

ゲンドウが眉を動かす。

次の瞬間、蒼髪赤目の美少女がいたずらっぽい笑みを浮かべてピースサインを作っている画像が映し出された。

相田ケンスケなる級友が撮った写真データである。

 

『零号機起動実験の事故から始まって、かつては厭世主義者(ペシミスト)めいていた少女が、ずいぶんと変わった。

君の息子、碇シンジをはじめ、級友のほぼ全てにまで影響を及ぼしていると聞く。

極め付けは、セカンドチルドレン…惣流・アスカ・ラングレーだ。

利己の塊だったあのドイツのジャジャ馬に()()()()()()など、元の綾波レイでは到底出来ぬはずだからな』

「子供達の事をよく解っておいでのようだ。教育委員会に転向なさったらいかがです」

『貴様…キール議長に対して言葉が過ぎるぞ、たかだか五十前の()()がッ!』

 

皮肉を口にするゲンドウに、鷲鼻の委員が声を荒げた。

キール本人は動じる事無く詰問を続ける。

 

『…第四使徒戦の段階で早々に零号機を復帰させたのは君だったな、碇。

使徒の一部を零号機に()()()()のは、君独自のシナリオか?』

「誓って、そのようなことは」

『気をつけて喋りたまえよ、碇くん。この席での偽証は()()()()()ぞ?』

 

甲高い声の委員が、くつくつと陰気に笑った。

ゲンドウとて嘘をついているつもりはない。

…つもりはないが…話題のレイが、完全に彼の制御外の事をやらかしてしまっていた、

 

零号機の早期復活は、パイロットであるレイからの要請によるものであるが、最終的に承認したのは、もちろん責任者であるゲンドウだ。

レイの笑顔の圧力により、あれよあれよと凍結解除の手続きを進めた結果…その数日後、司令不在時に第四使徒が襲来。

 

結果、零号機は使徒を()()()()()()のようにポリポリ喰らうという暴挙に出たのだ。

表情を変えぬまま、ゲンドウはコメカミに汗をたらりと伝わせた。

 

『改めて言っておこう。君が新たなシナリオを作る必要はない』

「解っております。全ては、SEELEのシナリオ通りに」

 

釘を刺すがごときキールの言葉に、ゲンドウは抑揚なく答えた。

 

………

 

……

 

 

一方そのころ。

 

「ぶぇっくしょいオラチクショウィ!!」

「あっはははっ!なに今のクシャミっ!?」

「アヤナン、すっげーオヤジっぽかったよ!超ウケる!」

「うー、誰かが噂してるのかなー…」

 

学校でいつもの女子グループとおしゃべりに興じていたレイは、呑気にズビズビ鼻をすすっていたという…


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