新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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59、サハクィエルさん、衛星軌道上にIN(後編)

第十使徒は、電波攪乱によってレーダーから消失。

それから約2時間弱が経過しており、目標ロストまでの速度から計算して、そろそろ現れるものと推測された。

 

MAGIが算出した落下予測範囲は、地図上の第3新東京市をスッポリと覆ってなお余りある面積を真っ赤に染めていた。

エヴァンゲリオン三体は該当範囲内…北・南東・南西の三角形に配置され、パイロット共々待機している。

 

ミサトが「皆で危ない橋を渡ることはない」と職員・作業員達に退避を促した時も、首を縦に振る者はいなかった。

オペレーター衆が「子供達ばかり危険な目には合わせられない」と声を揃えたのが、皆の意見を代弁していた。

 

サポート態勢は万全。

その甲斐あってか、パイロットの三人は体調(バイタル)精神(メンタル)共に安定。

作戦前とあって多少の緊張はあれど、表情は穏やかだった。

 

『みんな、聞こえる?本部の葛城よ。

特別宣言D-17によって、全市民の避難は完了しているわ。

作戦開始したら、街だろうが森だろうが、気にせず突っ走って。

まずは、()()()()()()()を最優先に考えてちょうだい』

「かえすがえすも無茶よねぇ?

復興予算だって、湧いて出る訳じゃないでしょ?

どれだけの金が動くのやら」

「エヴァが一歩歩くだけで、アスファルトがヒビ割れるぐらいなのに…

使徒ならともかく、僕達のせいで住み慣れた家や、

町が壊される人の事を考えると、つらいですね…」

 

こんな状況なのに、いや、こんな状況だからこそ、だろうか。

周囲に気を回すアスカとシンジに、ミサトは苦笑した。

 

『気にするな、とは言わないわ。確かに責任の所在は大事なことよ。

けれど、あなた達子供に最前線で戦わせてるのは私達大人だもの。

最終的な資金や責任の問題…一番面倒なことぐらいは、任せてちょうだい』

碇司令(ゲンちゃん)が南極クルージングから帰ってきたら、

また偉い人達に土下座行脚(あんぎゃ)する日々が始まるお…」

『ぷふっ!』

 

組織の総司令を容赦なく弄るレイの言葉に、ミサトは噴き出す。

普段と変わらず振る舞えるのは、頼もしい限りだ。

 

改めて作戦を確認した三人は、深くLCLを吸い込み、深呼吸する。

 

 

(不思議だ…こんな時なのに、僕は凄く落ち着いてる。

エントリープラグの中…LCLは、血の匂いがするはずなのに…)

 

(確かに感じるわ。暖かくて安心する。

これは、ママの匂い…?うぅん、まさかね…)

 

(この感じ…碇くんと、アスカっちと、エヴァで繋がってる、あたし達の絆。

あんな目ン玉に、ブッちぎらせるもんかいっ!)

 

 

彼らが同時に目を開いたその時、プラグ内に赤いアラートランプが灯った。

 

『レーダーに反応あり!パターン青!使徒、再出現!』

『距離、25000!進路は想定コース内です!

本部への直撃確率、99.999%(ファイブナイン)!』

『おいでなすったわね、エヴァ各機、発進準備。

二次的データが当てにならない以上、以降は現場の判断に委ねます。

…エヴァとあなた達に、全てを賭けるわ!』

 

日向、青葉両オペレーターの報告を受け、ミサトは子供達に檄を飛ばした。

エヴァ各機はそれぞれの持ち場で、クラウチングスタートの態勢を取る。

 

「アスカっち、号令よろしく!」

「了解。奴が高度20000切ったら、始めるわ」

「うん、いつでも行けるよ」

 

大停電時、暗中行軍した時の流れか。

チームリーダーには自然とアスカが据えられていた。

レイとシンジが、映像回線越しに頷く。

 

走り出す前に電源を外す必要がある以上、エヴァの稼働時間は内蔵電源頼りの5分。

使徒が地表に落下する前に受け止め、殲滅までしなければならない…

高度20000フィートでのスタートは、そのギリギリのバランスを保った距離設定である。

 

『距離、20000!ゼロタイム!』

「…状況開始(シュタルト)!」

 

青葉の再報告を受け、アスカは叫ぶ。

電気の光を噴き、勢いよくパージされる電源紐(アンビリカルケーブル)

走り出す姿はランナー…されど獰猛な勢いは、鎖から放たれた獣の如し。

三体のエヴァは、それぞれのスタート地点から大股の足型を刻みながら、地図上に記された落下予測地点へと駆け出した。

 

 

「アスカ!綾波さん!頭頂部サブカメラをオンにして!

この方が使徒の位置情報を追跡(トレース)しやすい!」

「弐号機了解!どうせなら都市部を避けて迎撃するわよ!ポイント240(ニーヨンゼロ)!」

「零号機、240(フタヨンマル)了解っ!行っくよぉー!」

 

シンジが、エヴァに増設されたサブカメラの存在を思い出した事が幸いし、三機は地図上の一点…土色の山肌へと収束していく。

日本語、それも専門用語の細かな読みに慣れていないアスカに対し、レイがわざわざ軍隊式に言い直したのは御愛嬌というところか。

 

アスカの弐号機は、木々を薙ぎ倒しながら逃げる鳥の群れを背景に…

シンジの初号機は、山道を足場に大きく跳躍…眼下に田園風景を望み…

レイの零号機は、ハードル走のように、送電線を飛び越えていく。

 

(あの子達…!)

 

確かに「現場の判断に委ねる」とは言ったが、ミサトは子供達のやり取りと動きに、舌を巻いた。

共に日常を過ごし、一緒に修羅場を潜り抜けた、その信頼の賜物か。

エヴァという()()()()()を動かしている以上、被害ゼロは無理にしても、建物の損壊は最小限に食い止められている。

 

使徒の高度は12000フィート。

落下を続ける目玉模様を中心に、真っ白な雲がA.T.フィールドの干渉を受け、美しい円形の渦を巻きながら広がって、散らされていった。

 

「あっ、あの野郎(あんにゃろ)っ、オモシロ前衛芸術の癖に無駄にカッコいい演出しやがって!」

「文句つける所が違うでしょバカナミッ!来るわよ!」

「絶対に落とさせない!」

 

山の上に、三体の巨人が円陣を組む。

相対的に近づけば、もう目と鼻の先…

視界には、原色の巨大な目玉が迫っていた。

 

「「「A.T.フィールド、全開!!」」」

 

空に掲げられた六本の腕。硬質の衝撃音が響き渡る。

エヴァの掌と、使徒の目玉の接触面…地面と水平に広がる、光の八角形。

可視化したA.T.フィールドは天体現象(オーロラ)とも見紛う鮮やかさで明滅した。

これが、街を守る最後の砦。最後の壁だ。

 

「「「っっっ…!!」」」

 

歯を食いしばる三人の少年少女。

双肩に掛かる重圧、めり込んでいく足元。

ギリギリ拮抗してはいるが、危ういバランスだ。

 

もとより、無謀は承知の作戦。

まず使徒が大きくコースを反れたらアウト。

エヴァの機体が衝撃に耐えられなくてもアウトだった。

この第一、第二関門をなんとか突破出来ただけでも、ほぼ奇跡に近い。

 

だが、まだ最大の難関が待っている。

エヴァには稼働時間に制限があり、その中で使徒を殲滅できなければ作戦失敗だ。

カウントダウンは赤文字。残り1分を切った。

 

「う、ぐぅぅっ!?」

 

シンジが呻くと共に、初号機の人工筋肉が断裂し、その腕から血液めいた赤い液体が噴き出す。

 

(ヤバい、攻撃に回らないと時間が切れる!

碇くんは重心を支えてて、身動きは取れない。

A.T.フィールドを破るには…あたしの『コレ』しかない!)

 

瞬間、零号機の掌から赤み掛かった光のエネルギーが発せられ、使徒のフィールドに突き刺さった。

第四使徒を『喰った』事で得た、使徒の武器。使ったのは、第五使徒戦以来である。

中和、というよりはフィールドの表面を引っ掻くように強引に切れ目を入れて、

零号機の手でベリベリとフィールドを()()()()目玉(コア)への道を空けた。

力技、ここに極まれり、という所だ。

 

「アスカっちぃぃ!」

「解ってるわよ!」

 

レイが作った穴に向け、弐号機は全力でプログナイフを刺し込む。

 

手応え、有り。

 

使徒の巨体が張力を失ったように、エヴァのA.T.フィールドの上にベチャリと潰れた。

 

『も、目標のA.T.フィールド消失を確認。使徒、沈黙』

『やった、の?』

 

日向の言葉に、ミサトが問う。

モニターのグラフを見ていた伊吹マヤ二尉が、血相を変えた。

使徒の身体は、重油のような粘っこい液体がボコボコと泡立つように膨れていく。

 

『変です、使徒のボディーが、膨張しながらエネルギー反応を高めて…これは、まさか…!?』

『自爆する気!?』

 

リツコが、最悪の可能性に思い至る。慌ててマイクを取るミサト。

 

『三人とも、A.T.フィールド展開を続行!爆発に備えて!』

「や、やってるけどさ!エヴァの残り電源があと15秒ぐらいなんよ!

しかも(やっこ)さん、タイミング的に()()てるみたい!

こっちのエネルギー切れ待ってるんじゃないの!?」

『そんな…!』

 

レイの声も、さすがに上擦っていた。

エヴァの電源が切れて、A.T.フィールドが消えたタイミングで使徒が爆発すれば、何もかもが水の泡だ。

 

ここまで来て。ここまで奇跡を起こして。何も守れないのか。

誰もが、目の前が暗く…否。()()()なった。

 

 

 

どこからともなく、極太の白光…()()()()()()()が、A.T.フィールドの消えた使徒の横合いから飛んだ。

醜く膨れ上がった使徒は大穴を開けられ…エヴァ三機のA.T.フィールドの上で爆発を起こし、そのエネルギーは真上へと逃げる。

 

エヴァの電源が落ち、フィールドが消えたのはその数秒後。真っ白な光に包まれていたモニターが回復した。

 

「状況はっ…?」

「パターン青、消失!エヴァは…初号機が小破、零号機、弐号機ともに損傷軽微!

各パイロットの生存を確認しました!」

 

眼鏡を直し、日向が報告する。

 

「あの援護射撃は…いえ、聞かなくても解るわ。戦略自衛隊(センジ)ね?」

 

ミサトは、唯一の可能性に気づく。

第五使徒戦でも効果を上げた、自走陽電子砲。

威力はあの時よりも随分上がっているようだが、どんな魔改造を施したのか…。

 

使徒はボディーの大部分を吹っ飛ばされ、爆発規模を大きく削られていた。

それだけではない。誘爆によって爆発が早められ、エヴァのA.T.フィールドが残っているうちに、間に合った。

 

「この街が、あの子達が、私達が救われた。…今は素直に感謝するべきね。

みんな、ありがとう」

 

奇跡。上手く行きすぎたぐらいの奇跡。

それらは全て、人の手によって為されたのだと、ミサトは疲労と安堵の中で感じた。




陽電子砲は、この世界線ではポジトロン・スナイパーライフルとして接収されておらず、戦自の所属のままです。
(22、ネルフのみなさん、作戦会議にIN より)

あと色々魔改造されてます。気が向いたら閑話として書くかも。

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