新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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58、サハクィエルさん、衛星軌道上にIN(中編)

セカンドインパクトの爆心地…南極に、碇ゲンドウ司令と冬月コウゾウ副司令はいた。

防毒・防塵能力完備の国連軍空母…『科学の盾』に守られながら、という条件付きではあったが、この地に生きたまま立っている。

()の大災厄は、その科学を『人の力』と過信した罰であったのか否か…。

 

かつては生物学者達が(こぞ)って研究していた、極度の低温と大量の酸素を含んだ海水が創り出す、特異な環境。

独自の生態系を築き上げていた生き物達の楽園は、今や見る影もなく。

いかなる生命の存在も許さぬ、血のごとき赤に染まった海…まさに、死海そのものと化していた。

 

「用が済んだら早々に引き上げたい、と思った矢先に使徒出現か」

「全ては葛城三佐に一任してある。何も問題はないよ、冬月」

「彼女も子供達も、お前の無茶振りによく応えてくれている。

散々振り回されている私からすれば、同情を禁じ得ないがね」

 

仏頂面のゲンドウを横目に、「いつも通り丸投げか」と冬月は苦笑する。

使徒のA.T.フィールドが衛星の電波までも遮っているのか、それとも別の能力で妨害(ジャミング)(おこな)っているのか。

このNERV2トップが本部へ連絡する手段は全て途絶してしまっており、あとは現場に任せるしかない。

 

後ろを振り返れば強化ガラス越しに、空母の甲板そのものにも匹敵する細長く巨大な何か…

シートに包まれた『槍』の如きものが括りつけられているのが見えた。

 

「碇、本当にいいんだな?」

「私が、迷っているとでも仰いますか?冬月()()

「レイを始めとして、シンジくんもアスカ嬢も変わってきている。

大人達の用意したシナリオも飛び越えるほどにな。

君は優秀な生徒ではあったが、想定外(イレギュラー)を前にすると途端に臆病になる。

まぁユイくんは、そんな君の本質を見抜き、惹かれたのかもしれんがね」

「……」

 

司令と副司令から、いつしか元教授と元学生の会話へ。

最愛の女性の名に、サングラスに隠されたゲンドウの目尻が、ピクリと動く。

風のない南極の死んだ空気は、どこまでも静かだった。

 

 

 

 

 

第3新東京市・NERV本部。

チルドレンが招集される、少し前の事。

 

主モニターには国連軍の衛星によるNN(エヌツー)航空爆雷が、軌道すら変える事が出来ずに()()()()()()()()()となってしまった映像が映し出されていた。

 

スーパーコンピュータ・MAGIは三系統とも全会一致で撤退を推奨していたが、臨時責任者たる葛城ミサト作戦部長はデータのバックアップを松代支部に委託。

ここで敵を迎え撃つことを決めた。

 

『宇宙から飛来する使徒を、エヴァンゲリオン3体のA.T.フィールド全開で受け止める』

 

通常兵器が無効なのは明らか。

ならば目には目を。A.T.フィールドにはA.T.フィールドを、という結論ではあるが…

 

技術部が算出した作戦成功確率は0.01%(オーツー)

文字通り()()()()()である。

 

「エヴァ初号機、最初の起動確率は0.000000001%(オーナイン)だったのよ?

今回はその100万倍。余裕じゃない?」

「葛城三佐、冗談が通じる事態ではないのは解っているでしょう?

そもそも作戦と言えるの?このプランが」

「無茶は承知よ、だから…」

 

ミサトが呆れ顔の親友・赤木リツコに語った内容は、その後、到着した子供達にも改めて伝えられた。

 

 

 

 

「…だから、嫌なら辞退できるわ。その場合は、全員で撤退。

松代支部を拠点に、再起を目指す形ね」

「でも、逃げたらこの街が…第3新東京市が、消えてしまうんでしょ?

暮らした期間は短くても、ここは僕達の街です。

…逃げちゃダメだって、そう思います」

「ま、ミサトの無茶は今に始まったことじゃないし?

それに敵前逃亡なんて、アタシのスタイルじゃないわ」

「あーの面白愉快な目ン玉模様、一発ブン殴ってもっとアーティスティックな色合いにしてやらんとね!

このあたしに土下座させた事を、後悔させてくれるわ!」

 

ミサトの消極的意見を、シンジとアスカは即否定。

レイに至っては左掌と右拳を打ち合わせ、バシ、と小気味良い音を立てて気合を入れている。

ミサトは胸にかけた十字のペンダントを、祈るように握って一度瞑目した後、改めて子供達を見返した。

 

「シンジくん、アスカ、レイ…ありがとう…。

一応、規則では遺書を残すことも出来るけど?」

「やめてよね、縁起でもない。

最初から死ぬつもりじゃ、勝てるものも勝てなくなるわよ」

「僕もいいです」

「あたしも別に…あ、いや、ちょっと待って?

綾波レイ、辞世の句…

『親方!空から前衛芸術が!』

ってのはどうよ!?」

「あんたバカァ!?遺言でネタに走るとか不謹慎にも程があるわ!

だいたい五・七・五にすらなってないじゃないの!」

「そこはそれ、自由律って奴で…」

「アスカ、綾波さんはこういう人だから…」

「知ってるわよ!」

 

(絶望的な状況でも、いつも通り。この子達なら…)

 

何度でも、奇跡を起こせる。

ミサトはそう確信して微笑んだ。

 

悲壮感はない。やる事は変わらない。

奇跡は待つ物ではなく、捨て身の努力で勝ち取るものだと、皆、本能で知っていた。




作戦成功率、原作よりゼロが減っているのは、みんなのシンクロ率や共闘性の高さ、日本重化学工業の技術提供による外的要因のためです。

それでも普通に考えれば絶望的な数字ですが…
言うてもMAGIさんの言う確率って大体アテにならんし(´・ω・`)

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