新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
セカンドインパクトの爆心地…南極に、碇ゲンドウ司令と冬月コウゾウ副司令はいた。
防毒・防塵能力完備の国連軍空母…『科学の盾』に守られながら、という条件付きではあったが、この地に生きたまま立っている。
かつては生物学者達が
独自の生態系を築き上げていた生き物達の楽園は、今や見る影もなく。
いかなる生命の存在も許さぬ、血のごとき赤に染まった海…まさに、死海そのものと化していた。
「用が済んだら早々に引き上げたい、と思った矢先に使徒出現か」
「全ては葛城三佐に一任してある。何も問題はないよ、冬月」
「彼女も子供達も、お前の無茶振りによく応えてくれている。
散々振り回されている私からすれば、同情を禁じ得ないがね」
仏頂面のゲンドウを横目に、「いつも通り丸投げか」と冬月は苦笑する。
使徒のA.T.フィールドが衛星の電波までも遮っているのか、それとも別の能力で
このNERV2トップが本部へ連絡する手段は全て途絶してしまっており、あとは現場に任せるしかない。
後ろを振り返れば強化ガラス越しに、空母の甲板そのものにも匹敵する細長く巨大な何か…
シートに包まれた『槍』の如きものが括りつけられているのが見えた。
「碇、本当にいいんだな?」
「私が、迷っているとでも仰いますか?冬月
「レイを始めとして、シンジくんもアスカ嬢も変わってきている。
大人達の用意したシナリオも飛び越えるほどにな。
君は優秀な生徒ではあったが、
まぁユイくんは、そんな君の本質を見抜き、惹かれたのかもしれんがね」
「……」
司令と副司令から、いつしか元教授と元学生の会話へ。
最愛の女性の名に、サングラスに隠されたゲンドウの目尻が、ピクリと動く。
風のない南極の死んだ空気は、どこまでも静かだった。
第3新東京市・NERV本部。
チルドレンが招集される、少し前の事。
主モニターには国連軍の衛星による
スーパーコンピュータ・MAGIは三系統とも全会一致で撤退を推奨していたが、臨時責任者たる葛城ミサト作戦部長はデータのバックアップを松代支部に委託。
ここで敵を迎え撃つことを決めた。
『宇宙から飛来する使徒を、エヴァンゲリオン3体のA.T.フィールド全開で受け止める』
通常兵器が無効なのは明らか。
ならば目には目を。A.T.フィールドにはA.T.フィールドを、という結論ではあるが…
技術部が算出した作戦成功確率は
文字通り
「エヴァ初号機、最初の起動確率は
今回はその100万倍。余裕じゃない?」
「葛城三佐、冗談が通じる事態ではないのは解っているでしょう?
そもそも作戦と言えるの?このプランが」
「無茶は承知よ、だから…」
ミサトが呆れ顔の親友・赤木リツコに語った内容は、その後、到着した子供達にも改めて伝えられた。
「…だから、嫌なら辞退できるわ。その場合は、全員で撤退。
松代支部を拠点に、再起を目指す形ね」
「でも、逃げたらこの街が…第3新東京市が、消えてしまうんでしょ?
暮らした期間は短くても、ここは僕達の街です。
…逃げちゃダメだって、そう思います」
「ま、ミサトの無茶は今に始まったことじゃないし?
それに敵前逃亡なんて、アタシのスタイルじゃないわ」
「あーの面白愉快な目ン玉模様、一発ブン殴ってもっとアーティスティックな色合いにしてやらんとね!
このあたしに土下座させた事を、後悔させてくれるわ!」
ミサトの消極的意見を、シンジとアスカは即否定。
レイに至っては左掌と右拳を打ち合わせ、バシ、と小気味良い音を立てて気合を入れている。
ミサトは胸にかけた十字のペンダントを、祈るように握って一度瞑目した後、改めて子供達を見返した。
「シンジくん、アスカ、レイ…ありがとう…。
一応、規則では遺書を残すことも出来るけど?」
「やめてよね、縁起でもない。
最初から死ぬつもりじゃ、勝てるものも勝てなくなるわよ」
「僕もいいです」
「あたしも別に…あ、いや、ちょっと待って?
綾波レイ、辞世の句…
『親方!空から前衛芸術が!』
ってのはどうよ!?」
「あんたバカァ!?遺言でネタに走るとか不謹慎にも程があるわ!
だいたい五・七・五にすらなってないじゃないの!」
「そこはそれ、自由律って奴で…」
「アスカ、綾波さんはこういう人だから…」
「知ってるわよ!」
(絶望的な状況でも、いつも通り。この子達なら…)
何度でも、奇跡を起こせる。
ミサトはそう確信して微笑んだ。
悲壮感はない。やる事は変わらない。
奇跡は待つ物ではなく、捨て身の努力で勝ち取るものだと、皆、本能で知っていた。
作戦成功率、原作よりゼロが減っているのは、みんなのシンクロ率や共闘性の高さ、日本重化学工業の技術提供による外的要因のためです。
それでも普通に考えれば絶望的な数字ですが…
言うてもMAGIさんの言う確率って大体アテにならんし(´・ω・`)