新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
ある日の昼休み。
昼食を済ませたレイは、ペットボトルの緑茶を啜りながら「平和だねぇ~」と呟き…
女友達に「アヤナン、縁側のおばあちゃんみたいだよ」と笑われた。
ある日の放課後。
ケンスケが編集した地球防衛バンド・文化祭ライブのビデオを見て、バンドメンバー一同で笑い合い…
シンジは、こんな日常が続けば良いな、と願った。
ある日の夜。
ハーモニクス試験を終えたアスカは大きく伸びをして…
「使徒が来ないとテストばっか!つまんなぁ~い!」
と愚痴り、オペレーター達を苦笑させた。
だが災いは忘れた頃にやってくるもの。
またある日の午前中。第壱中学校・2-A教室。
「その頃私は…根府川に住んでいましてねぇ…今では海の底に沈んでしまいましたが…ん?」
ネブカワ担任が、セカンドインパクトの話をしていた最中、サイレンが鳴った。
それを追うように、生徒達の持つ携帯電話が『不安感を催す警告音』を鳴らし始める。
全国瞬時警報システム…通称Jアラート。
液晶に映し出されたメッセージを見た生徒達がどよめいた。
表示された地図は、第3新東京市の中心…NERV本部から半径50km圏内を示していた。
普段のシェルター避難とは一線を画す規模…焦燥、不安、恐怖…教室の空気が凍りつき…勝気な洞木ヒカリ委員長ですら、顔を蒼ざめさせている。
…そんな中、三人の男女が立ち上がり、前に進み出た。
碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレー、そして…綾波レイ。
彼らの端末には「避難」ではなく、「非常招集」のメッセージが届いていることだろう。
そして、この非常事態に加えて、彼らの出番という事は…
この街の、この国の、あるいは…この星の存亡に関わる重大な危機が迫っている、という事なのだ…
「んじゃ、ちょっくら行ってくるね♪」
「「「「「「軽ッ!!」」」」」」
すちゃっ!と指を揃え、にっこり笑ったレイ。
一般生徒達に総ツッコミを受け、張り詰めた空気は一気にほどける。
次いでアスカが、すれ違いざまにトウジの上腕を軽く小突いた。
「ジャージ」
「なんや、惣流」
「ヒカリのこと、ちゃんと守ってやるのよ。男なんだから」
「お!?お、おぉ…そら、イインチョも一応女やからの」
「鈴原ぁ!?なによ一応って!」
「ひゃっ!?堪忍やイインチョ!」
「そうそう、沈んでる場合じゃないわ。
ヒカリにしか出来ないこと、あるでしょ?」
「っ…!?あ、ありがとう、アスカ。
みんな、集まって!これから避難します!」
「…じゃあ、先生」
「解っています。碇くん、綾波さん、惣流さん。気をつけて行きなさい」
黒ぶち眼鏡越しの穏やかな眼を細め、シンジに答える老教師。
彼らが教室を飛び出すタイミングでケンスケはハッと我に返り、廊下に顔を出した。
「三人とも、がんばれよ!」
「おーぅ!
「言われなくても、チャチャッと片してくるわよ!」
「ありがとう、ケンスケ!」
非力な一般生徒でも、応援なら出来る。
地球防衛バンドのリーダー…ケンスケの声が、エヴァパイロット達の背を押した。
インド洋上空の衛星軌道を巡回していた第6サーチ衛星団。
その一部が、何者かの干渉を受けて破壊されたのが始まりだった。
潰される寸前、人工衛星が送ってきた分析パターンは、使徒を現す『青』。
NERV本部の発令所に緊急招集された三人の子供達を前に、作戦部長・葛城ミサト三佐は説明を始める。
「これがギリギリ捉えられた、第十使徒の映像よ」
「ぶふっ!?っははははは!
この前の
片手でモニターを指さし、もう片手で腹を抑え…レイは涙すら流して笑い転げた。
画面に広がったのは、暗いオレンジ色の、細い線で横に連なった三つの丸。
真ん中には極度に単純化された『真っ黄色の目玉模様』がある。
左右の丸は、やや小さな目玉模様が縦向きに配置されており、カエルの手のように丸く枝分かれしていた。
アスカは眉をひそめてミサトを横目に見る。
「…常識を疑うわね」
「私も同意見よ。けど…姿は滑稽でも、能力は決して侮れないわ。ほら、見て」
二機の人工衛星が、挟み込むように撮影していたのか、視界の対面、使徒の後ろにはもう一機の衛星が見え…
突如、対面にあるそれが
おそらく撮影していた衛星も同じ運命を辿ったのだろう。
シンジが「あっ」と声を上げた。
「衛星の太陽光パネルが、まるでアルミ箔みたいに…!
ミサトさん、あれってA.T.フィールドですか!?」
「そうよ。リツコいわく、新しい使い方らしいわ。
そして…生き残った衛星から送られてきた画像が、これ」
太平洋に大きく点々と残った円形の窪み…
あの奇怪な使徒から雫のように切り離された一部が、
その落下エネルギーとA.T.フィールドで
しかもそれは、徐々に誤差修正しながら日本列島に近づいてきている…
レイの馬鹿笑いが、さすがに止まった。
「えーっとこれ、次は、本部に直接来る感じ?
落ちたらアレかな?芦ノ湖とか増えちゃう?」
「街ひとつ丸々抉られて第3新東京
「スンマセン、調子に乗ってました。指さして笑ってスンマセンでした」
「レイ、モニターに土下座しようが、落ちてくる物は落ちてくるわよ」
言葉の前後に謝罪をつけて平服するレイを、ミサトは苦笑しながら引き起こす。
文字通り、天から降り注ぐ災いに対処するべく、ミサトが子供達に告げた作戦…
「えぇ~~っ!?手で、受け止めるぅ!?」
前代未聞のそれに、アスカが声を響かせた…