新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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57、サハクィエルさん、衛星軌道上にIN(前編)

ある日の昼休み。

昼食を済ませたレイは、ペットボトルの緑茶を啜りながら「平和だねぇ~」と呟き…

女友達に「アヤナン、縁側のおばあちゃんみたいだよ」と笑われた。

 

ある日の放課後。

ケンスケが編集した地球防衛バンド・文化祭ライブのビデオを見て、バンドメンバー一同で笑い合い…

シンジは、こんな日常が続けば良いな、と願った。

 

ある日の夜。

ハーモニクス試験を終えたアスカは大きく伸びをして…

「使徒が来ないとテストばっか!つまんなぁ~い!」

と愚痴り、オペレーター達を苦笑させた。

 

 

だが災いは忘れた頃にやってくるもの。

またある日の午前中。第壱中学校・2-A教室。

 

「その頃私は…根府川に住んでいましてねぇ…今では海の底に沈んでしまいましたが…ん?」

 

ネブカワ担任が、セカンドインパクトの話をしていた最中、サイレンが鳴った。

それを追うように、生徒達の持つ携帯電話が『不安感を催す警告音』を鳴らし始める。

 

全国瞬時警報システム…通称Jアラート。

液晶に映し出されたメッセージを見た生徒達がどよめいた。

 

D-17

政府より特別宣言『D-17』が発令されました。

以下の区域の住民は、各区長の指示に従い、ただちに指定の場所に避難してください。

 

 

表示された地図は、第3新東京市の中心…NERV本部から半径50km圏内を示していた。

普段のシェルター避難とは一線を画す規模…焦燥、不安、恐怖…教室の空気が凍りつき…勝気な洞木ヒカリ委員長ですら、顔を蒼ざめさせている。

 

…そんな中、三人の男女が立ち上がり、前に進み出た。

碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレー、そして…綾波レイ。

彼らの端末には「避難」ではなく、「非常招集」のメッセージが届いていることだろう。

 

そして、この非常事態に加えて、彼らの出番という事は…

この街の、この国の、あるいは…この星の存亡に関わる重大な危機が迫っている、という事なのだ…

 

 

 

「んじゃ、ちょっくら行ってくるね♪」

「「「「「「軽ッ!!」」」」」」

 

すちゃっ!と指を揃え、にっこり笑ったレイ。

一般生徒達に総ツッコミを受け、張り詰めた空気は一気にほどける。

次いでアスカが、すれ違いざまにトウジの上腕を軽く小突いた。

 

「ジャージ」

「なんや、惣流」

「ヒカリのこと、ちゃんと守ってやるのよ。男なんだから」

「お!?お、おぉ…そら、イインチョも一応女やからの」

「鈴原ぁ!?なによ一応って!」

「ひゃっ!?堪忍やイインチョ!」

「そうそう、沈んでる場合じゃないわ。

ヒカリにしか出来ないこと、あるでしょ?」

「っ…!?あ、ありがとう、アスカ。

みんな、集まって!これから避難します!」

 

()()()()()()()()()()をいじるのに慣れてきたアスカは、いつものペースを取り戻したトウジとヒカリを見て、悪戯っぽく笑う。

 

 

「…じゃあ、先生」

「解っています。碇くん、綾波さん、惣流さん。気をつけて行きなさい」

 

黒ぶち眼鏡越しの穏やかな眼を細め、シンジに答える老教師。

彼らが教室を飛び出すタイミングでケンスケはハッと我に返り、廊下に顔を出した。

 

「三人とも、がんばれよ!」

「おーぅ!(まっか)せぇ~い!」

「言われなくても、チャチャッと片してくるわよ!」

「ありがとう、ケンスケ!」

 

非力な一般生徒でも、応援なら出来る。

地球防衛バンドのリーダー…ケンスケの声が、エヴァパイロット達の背を押した。

 

 

 

 

インド洋上空の衛星軌道を巡回していた第6サーチ衛星団。

その一部が、何者かの干渉を受けて破壊されたのが始まりだった。

潰される寸前、人工衛星が送ってきた分析パターンは、使徒を現す『青』。

 

NERV本部の発令所に緊急招集された三人の子供達を前に、作戦部長・葛城ミサト三佐は説明を始める。

 

「これがギリギリ捉えられた、第十使徒の映像よ」

「ぶふっ!?っははははは!(すっげ)ぇ――っ!芸術が爆発してるっ!なにこれっ!?

この前の第九使徒(ザトウムシ)といい、使徒さん達の間では目玉がブームなの!?あはははは!!」

 

片手でモニターを指さし、もう片手で腹を抑え…レイは涙すら流して笑い転げた。

画面に広がったのは、暗いオレンジ色の、細い線で横に連なった三つの丸。

真ん中には極度に単純化された『真っ黄色の目玉模様』がある。

左右の丸は、やや小さな目玉模様が縦向きに配置されており、カエルの手のように丸く枝分かれしていた。

 

アスカは眉をひそめてミサトを横目に見る。

 

「…常識を疑うわね」

「私も同意見よ。けど…姿は滑稽でも、能力は決して侮れないわ。ほら、見て」

 

二機の人工衛星が、挟み込むように撮影していたのか、視界の対面、使徒の後ろにはもう一機の衛星が見え…

突如、対面にあるそれが()()()()、時を同じくして映像が灰色の砂嵐に変わった。

おそらく撮影していた衛星も同じ運命を辿ったのだろう。

シンジが「あっ」と声を上げた。

 

「衛星の太陽光パネルが、まるでアルミ箔みたいに…!

ミサトさん、あれってA.T.フィールドですか!?」

「そうよ。リツコいわく、新しい使い方らしいわ。

そして…生き残った衛星から送られてきた画像が、これ」

 

太平洋に大きく点々と残った円形の窪み…

あの奇怪な使徒から雫のように切り離された一部が、

その落下エネルギーとA.T.フィールドで()()()()()()()()()()()()()()

 

しかもそれは、徐々に誤差修正しながら日本列島に近づいてきている…

レイの馬鹿笑いが、さすがに止まった。

 

「えーっとこれ、次は、本部に直接来る感じ?

落ちたらアレかな?芦ノ湖とか増えちゃう?」

「街ひとつ丸々抉られて第3新東京()が誕生するわ」

「スンマセン、調子に乗ってました。指さして笑ってスンマセンでした」

「レイ、モニターに土下座しようが、落ちてくる物は落ちてくるわよ」

 

言葉の前後に謝罪をつけて平服するレイを、ミサトは苦笑しながら引き起こす。

文字通り、天から降り注ぐ災いに対処するべく、ミサトが子供達に告げた作戦…

 

 

「えぇ~~っ!?手で、受け止めるぅ!?」

 

 

前代未聞のそれに、アスカが声を響かせた…


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