新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
12月第二週某日。
NERV本部、女子更衣室。
「まったく、
「システムの方にも、影響は出るらしいよ?あたしも詳しくは知らんけども」
ブツクサと文句を言うアスカに、レイが下着をつけながら答える。
第九使徒戦でサブカメラが役に立ったのを皮切りに、
現在行われているのは、NERVと日重の技術を合わせた、軽量かつ頑丈な装甲への換装…。
結果、その調整にパイロット達も付き合わされ、かなり長居させられてしまっている。
とはいえ、アスカにはテストが延びた理由を聞く気はなかった。
エヴァンゲリオンの性能アップに携わる技術部・整備部のスタッフ達…。
彼らは良く言えば全員が機械工学のプロフェッショナル。
…悪く言えば、
部のトップに立つ赤木リツコ博士など最たるもので、
「よくぞ聞いてくれたわっ!」
とばかりに、嬉々として説明してくれるだろう。
(命を預けるアタシ達としては、仕事熱心なのは有り難いけど、絶対に話が
いくらアスカが飛び級で大学を卒業していても、技術畑は専門外だ。
チンプンカンプンな用語まみれの長話なんぞ、疲れている時に聞きたくはない。
一足先に着替え終わったアスカは、更衣室中央の青いプラスチックベンチに腰を掛け、携帯電話を見ていた。
正確には携帯にぶら下がった青い天然石のオブジェを、溜め息をついて眺めている。
彼女の肩の後ろからブラジャー姿のレイが、ひょい、と覗いた。
「あらっ、可愛いねぇ、そのストラップ」
「加持さんからのプレゼントよ。タンザナイト…12月の誕生石だって」
「へぇー…って、アスカっち、誕生日だったの!?いつ!?」
「4日よ。先週の金曜日。いいから上ぐらい着なさいよバカナミ」
アスカのジト目もなんのその。
「そっかそっか誕生日かー」などと口にしつつ、ブラウスを着るレイ。
「言ってくれれば、皆でお祝いしたのに」
「どんちゃん騒ぎはバンドの打ち上げで、もうやっちゃったでしょ。
誕生日だからって、わざわざ仲間内でパーティ開くこともないわよ」
「んー…まぁ確かにいつもの面子よりは、デートの方が貴重かぁ。
でも、せっかく加持一尉と二人っきりになれたのに、表情が浮かないね?」
「そりゃあ、加持さんからのプレゼントだし、嬉しいわよ?けど、アタシだって女だもの。
指輪…みたいに重い事は言わないけど、せめてブローチかネックレスなら、って思ったわ。
そう言ったらさ…」
『俺みたいなオッサンのプレゼントしたアクセサリーなんて身に着けてたら、
アスカにボーイフレンドが出来た時、嫌な想いさせちまうだろ?』
「…だって」
「あー…うん…」
アスカのどこか寂しげな笑みに、レイまで心を締め付けられたように目を伏せた。
憧れていた、自分を大切にしてくれる大人の男性…。
結局はその気づかいが、父親が娘を見守るようなものだったと、解ってしまったのだ。
「アタシは子供の自分を捨てて、早く大人になろうとして…
でも加持さんは、アタシの成長を見守りながら、
…加持さんやミサトは、そう出来なかったから、って」
「セカンドインパクト?」
レイの言葉に、アスカは頷く。
体験者に「地獄しかなかった」と言わしめる大災厄。
大人と子供を隔てる、その壁の高さに、アスカは寂しさを感じた。
「…でもね、思ったよりショックじゃなかったのよ。
地球防衛バンドだって、元々は加持さんに見せたくて練習してたはずなのに…
いつの間にか、歌うことが楽しくなってた。
あぁ、加持さんが言ってた事って、こういう事だったんだ、って」
「アスカっち…」
「っ…あぁーあ、ガラにもない事ベラベラしゃべっちゃった!帰るわよ、バカナミ!」
吹っ切るように立ち上がり、アスカは笑った。
いつもの調子を取り戻した彼女に、レイも笑い返す。
「失恋して泣きたいなら、また抱きしめてあげようかと思ったんだけどナ♪」
「ふん、アンタの
ママの代わりを務めようなんて、十年早いっつうの!」
「おーっ、
「ふふっ、あははっ!」
楽し気な少女達の声が二つ、更衣室から遠ざかっていった。