新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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前回までのあらすじ

ゲンドウ「ぬぉぉぉ腕がぁぁぁ肩がぁぁぁ腰がぁぁぁ」
冬月「筋肉痛だな」


55、地球防衛バンドさん、文化祭にIN

街一つが停電するという大事件から数週間。

 

第3東京市・第壱中学校は、11月の最終日曜日に文化祭を開催した。

セカンドインパクト以前は、土日の二日間で文化祭を行う学校が多かったが、同校では一日だけ。

エヴァパイロットという重要人物が集まっている関係上、警察やNERV保安部でガードをガチガチに固める必要があるため致し方ない。

それでも、相次ぐ使徒襲来の爪痕に沈む空気を吹き飛ばすように、各クラス、部活、同好会の出し物がお祭りモードを演出する。

 

 

文化祭も終わりに近づいた午後三時…学校側の計らいで、大講堂がライブステージと化していた。

 

「大停電がなんだ!使徒(バケモノ)がなんだ!

来るなら来てみろ大災厄(インパクト)

でもNN(エヌツー)兵器だけは勘弁な!!

第3新東京市は!否、地球の平和は!

俺達の手で守ってみせる!」

「「「「「「地球ッ!防衛バンド!!」」」」」」

 

ケンスケの語りと、バンドメンバー全員の掛け声と共に、舞台が照らされた。

 

祭のラストを飾るのは2年A組・地球防衛バンド。

メンバー以外のクラスメート達も、音響機材・照明などの効果演出を手掛けている。

強制参加ではないにも関わらず、全校生徒の半数近くが観客として訪れているあたり、その期待の程が伺えた。

 

クラスの女子達がデザインを凝らした多層フリルの手作りドレスに、小さなシルクハット型の飾りをあしらった可愛らしいカチューシャ。

アスカは真紅、レイは水色、ヒカリはライトグリーン…鮮やかな衣装を纏った少女達の姿に、生徒達の歓声が上がった。

 

一方の野郎連中は、シンジがTシャツとジーンズ。ケンスケが迷彩服。

トウジに至っては、いつもの黒ジャージに()()()の野球帽という有様だったが、男共が地味な方が女子達が際立つ、という事でそのままとなっている。

 

ギター・ベース・ドラム・キーボード…タイミングを合わせて始まった演奏…

目を引いたのは、やはり主役…美少女パイロットコンビ、レイとアスカのツインボーカル。

かつて分裂型の第七使徒戦でバンド練習が役に立った事があったが、歌もダンスも当時から更に精度を高めており、息はピッタリだ。

 

「「見よ!我ァが(まな)()ァ~っ!第壱中学校ォ――ッ!」」

 

よりによって、最初に演奏した曲が()()()()()()()()()()である。

『クサい・ダサい・でもカッコいい』を旨とする洋楽ヘヴィメタル調に作り替えられた校歌は、笑いと共に生徒達の心を掴む事に成功した。

間奏に入り、サイリウムが織りなす色とりどりの光の海へ「いぇ~い!」と余裕で手を振ってみせるレイ。心底ライブを楽しんでいる様子である。

 

曲と曲の合間には、

「罵ってください!」「踏んでください!」

「アンタらバカァ!?」

「「「ありがとうございます!ありがとうございます!」」」

という、赤き歌姫(アスカ)名もなきドM衆(ゆかいなげぼくたち)との()()()()()()()()もあったが、まぁ『いつもの事』である。

学年とクラスの垣根を越えている分、ドM衆が普段より大規模だったり、「アスカお姉様ぁ!」という女生徒らしき声が混じっているあたり、性別の垣根まで越えている節もあるが、ささいな事だ。たぶん。

 

 

二曲目、前世期に流行したアニメソングのカバー曲では、ベース担当のヒカリが思わぬ行動に出た。

おそらくは様々なアーティストのステージ動画を見て研究したのだろう。

弦楽器同士が背中合わせで演奏するという…つまり、ギター担当のトウジに寄り添うという大胆な位置取りをしたのだ。

生来の真面目さでベースラインを淡々と保ちながらも、はにかむような笑顔を見せるヒカリの姿に聴衆はどよめいた。

 

「な、なんか今日の委員長、めっちゃ可愛くね!?」

「あの堅物(カタブツ)の洞木さんが…」

「アレは間違いねぇ。恋する乙女の顔ですわ」

 

そして『台本にない行動』を仕掛けられたトウジ本人は、ざわめいている彼ら以上に驚いており、真横に『温もり』と『良い匂い』を伴った少女の微笑みが現れた途端、ギターをトチりまくった。

 

「うっははは!トウジの奴、焦りすぎだろ」

「おーい、しっかりしろよ()()()()!」

硬派(笑)(コーハ・カッコワライ)になってんぞー!」

「や、やかましわい!」

 

男友達に(はや)し立てられ、ユデダコ状態で声を裏返すトウジ。

後ろでビートを刻み、時折ペン回しの如くドラムスティックを器用に回転させていたケンスケも流石に目を見張った。

 

(うぉ~~っ、委員長の激レアショット!?カメラ担当、ちゃんと撮ってくれてるだろうな!?)

ドラムを叩きながらも騒ぐカメラ小僧の血。

プロモーションビデオを作るため、今回はクラスメートに撮影を任せているが…

ケンスケはこの時ほど『身体が二つ欲しい』と願った事はなかったという。

 

 

シンジはメンバー達の様子を確認しつつ、後方でキーボードを弾いていた。

エヴァパイロットという肩書を持ってはいるものの、教室では普段から必要以上に目立とうとしないシンジ…

本人としてもライブ本番では脇役に徹するつもりで、職人のようなストイックさで多彩な音色を操っていたが、

「「「い・か・り・く~ん!」」」という少女達の黄色い声には危うくミスしかけた。

 

声を上げたのはレイと仲の良い女子グループ。

どうやらレイからの仕込みだったらしく、仕掛けた張本人は、にまーっ、と笑っている。

 

(綾波さん、時々こういう悪戯するんだよなぁ。ビックリするし、なんだか恥ずかしいや。でも…)

 

嫌ではない。むしろ嬉しいし、楽しい。

学校(ここ)にいる時はパイロットの意味を持つ適格者(チルドレン)ではなく、遊び、学ぶ、()()()()()()()()に戻れる。

 

往年のジャズ曲のアレンジバージョン、そして、バンドの切っ掛けとなったオリジナル楽曲でセットリストは終了。

拍手と歓声、そしてアンコールの声の中…シンジは、仲間達の笑顔を眺めながら、表情を緩めた。




原作ではザトウムシエル君とゼンエーゲイジュツエル君の合間だったミサトさん昇進パーティを前借りしちゃった関係上、日常回として地球防衛バンドのライブが入りました。
セガサターン版無印&2ndインプレッションだけのパラレル設定ですが、ベタすぎるぐらい青春してて好きです。


ちなみにライブ当日のセットリストは、

1.第壱中学校校歌
(ヘヴィメタル風アレンジバージョン)

2.残酷な天使のテーゼ
(この世界観では別のアニメのOP曲)

3.FLY ME TO THE MOON
(J-POP風アレンジバージョン)

4.奇跡の戦士エヴァンゲリオン
(地球防衛バンド・オリジナル楽曲)

となっていました。

アンコールでは「チチをもげ!」をやろうとしたケンスケが、アスカっちとイインチョから全力のダブルパンチを喰らって沈み、「今日の日はさようなら」のアコースティックで綺麗に終わったそうです。

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