新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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52、リナレイさん、真っ暗なネルフ本部にIN(後編)

「…まるでネズミかヤモリの気分だわ」

「ちょーっと我慢してちょ、アスカっち。あと何回かダクト経由するしー」

「うぇぇ…」

 

レイが先導し、アスカとシンジが続く形で、狭いダクトを四つん這いで進んでいく。

あまり格好の良いものではないのは確かであり、アスカの声には不機嫌さが滲んだ。

 

「き、きっと大丈夫だよ!だんだん『下』には向かってるみたいだし…このまま進めば、本部に着けると思うよ?」

「あぁーハイハイ。()()()()()()()を疑うワケないですわねー?

まったく、すっかり飼い慣らされて…女の尻に喜んで敷かれる男なんて、最低(サイッテー)!」

「むっ…なんだよアスカ。そんな言い方ないだろ?」

 

懸命のフォローをアスカに一蹴され、シンジが唸る。そこに、振り返ったレイが一言。

 

「どっちかっつーと尻に敷くっていうより、あたしが()()()()()()()()方が多…」

「わー、わーッ」

「うっさいわねバカシンジ!

大声で誤魔化さなくたって、バカナミの話を聞いてればアンタ達が『どんな事してるか』ぐらい大体察しが着くわよっ!

間違っても委員長(ヒカリ)の前で、その手の話はしないでよね!」

「ご…ごめん」「てへぺろー☆」

「てへぺろじゃないわよ、ったく万年脳味噌()ピンクのバカップルがっ!」

 

使徒が接近しているこの状況で、なんとも緊張感のないことではあるが、『いつも通りのしょうもない会話』は、子供達の心を紛らわすにはちょうど良かった。

 

ダクトを出て、別の通路に降り立ち、レイが分かれ道を選別する…

果てない暗闇の中、僅かな明かりを頼りにまたダクトへ…その繰り返し。

 

(僕一人だけだったら、道も解らないし、不安で、怖くて、途方に暮れてただろうな)

 

床も壁も無機質で変わり映えせず、『進んでいる』という実感は、あまり得られない。

だが7番ルートから侵入して行軍するうちに、壁に書かれたルートの名が『75番』になった事から、順調に奥まで来られている事はシンジにも解った。

 

それにしても…地上とほぼ同じ速度で歩き続けるレイの背に、シンジは声をかける。

 

「綾波さん…こんな真っ暗な中で、よく平気で進めるね」

「言ったっしょ?本部の構造は、大体頭に入ってるって。

それに『視覚』は五感のうち、たった一個だよ?

その場の『空気』には、色んな情報があんの。

()()の反響具合、顔に当たる風の()()、含有水分量で変わる空気の()()()

ほら、他の四つの感覚、みーんなカバーされてるじゃーないですか!余裕余裕(よゆーよゆー)

「余裕って…」

「アタシはドイツ支部で暗中格闘訓練を受けたことがあるけど、それが言う程簡単じゃない事は解るわ。

…バカナミ、アンタ何者なの?」

 

あまりにも、人間離れしている。

シンジとアスカが抱いた疑問に、レイは歩きながらコメカミを掻いた。

 

「ま、『自分は何者であるか?』みたいな哲学(てっつがくぅ)~なお話はおいおい、ね。

そろそろ75番のゲートが見え…うっはぁ!?」

「これは…手じゃ開けられないよ…」

 

飄々(ひょうひょう)と話をはぐらかしたレイの声が裏返り、ゲートを見たシンジは溜め息をひとつ。

過去の使徒戦の振動で崩れたのか、肝心のゲートは下半分ほどが瓦礫で埋まっていた。

 

瓦礫の前には、建築資材と思しき鉄パイプや金属製の足場板…

大きなスコップなどが、無造作に打ち捨てられている。

以前に復旧工事を行おうとして、断念したのかもしれない。

レイの正体はさておき、今は目先の問題…アスカは横目に溜め息をついた。

 

「…どーすんのよ。ダクトの入口も、ここらには見当たらないわよ?」

「昔の偉い人は言いました。道がないなら作っちゃえばいいんじゃね?

「?」

 

怪訝な顔をするアスカを余所に、レイは(おもむろ)に鉄パイプの一本を手に取る。

シンジは、ハッと息を飲んで、レイの考えている事を察し、声を上げた。

 

「アスカッ!耳塞いで!」

「なによシンジ、ちゃんと説明しなさ…」

「そうるらぁっ!きゃおらぁっ!」

 

ゴォン!ギィン!ガァン!ゴォン!めりっ!めりめりっ!!

 

「いぃィッ!?」

 

耳をつんざく金属同士の打撃音に、アスカは反射的に耳を塞いで身を縮めた。

どこぞの格闘士(グラップラー)漫画の登場人物よろしく珍妙な気合を発しながら、レイは鉄パイプでダクトの()()()を打ち据える。

 

過去の事故で劣化していたのか、ダクトのブリキ板にはたやすく隙間が出来た。

そこに鉄パイプを突っ込んで、テコの原理で一枚をメリメリと()()()()()

 

額の汗を拭って、晴れやかな笑顔。本日の綾波レイは、非常に暴力的(バイオレンス)だった。

 

「ふー!いい仕事したっ!そんじゃ行くよ二人ともー!」

「こ…この独善者っ!手段ぐらい選びなさいよっ!」

「でも、綾波さんのおかげで本部に行けるよ。その、かなり、強引だったけど」

「この手に限るっ!」

 

耳を覆っていた手を恐る恐る離して絶叫するアスカと、困惑気味に苦笑するシンジ。

そんな二人を前に、レイは鉄パイプを己の肩に乗せ、ドヤァ!と胸を張る。

本部発令所は、目の前だった。




道に迷ってないので、チルドレンは原作より早く着けそう。
その煽りでザトウムシ兄貴を目視確認するシーンはカットです。
しょせん奴は最弱…我ら十七使徒の面汚しよ…

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