新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
NERV本部・作戦会議室。
技術オペレーター・伊吹マヤは、滑らかな手つきでキーボードに指を走らせる。
その隣には、彼女の上司である赤木リツコ博士が席に着き、
向かい合わせにエヴァパイロット達…レイ、アスカ、シンジの3名が並んでいた。
「現場の葛城三佐、日向二尉よりデータが届きました。
日本重化学工業は局地仕様の人型ロボット、ジェットアローン・マグマダイバーを投入。
同機をサポートするため、通信車両や補給車両が浅間山周辺…
つまり、足場の悪い山岳地形に先行しています。
その関係でこちらの車両台数が制限され、エヴァの展開は二体が限界です」
マヤは童顔に渋い表情を浮かべ、モニターに地図を映し出す。
日重の車両配置ポイントが赤い光点で、NERVのそれが青い光点で示されていた。
「それと、もう一つ悪い知らせが…。
さきほど情報部の青葉二尉から連絡がありましたが、
葛城三佐が要請した『特令A-17』は、委員会により却下されました」
「まさか、このタイミングで外部の介入とは…状況は
恐らく日重は、NERVに対抗できるだけの力を溜めていたんだわ」
リツコは愛弟子に相槌を打ちつつ、溜め息をついた。
『A-17』はNERV権限を最優先させる強力な特令であり、他組織の介入に対して資産凍結の可能性をも含むが、それが却下されたという事は、日重のバックにいる日本政府に根回しされていたのだろう。
アスカが来日する直前頃に予定されていたジェットアローン完成披露パーティーは、リツコが思い返す限り急遽延期になっていた。
ミサトの話では時田代表はA.T.フィールドの情報まで得ていたという。
第五使徒戦…攻守ともに優れた敵生体との戦闘データも手に入れ、機体に反映させているかもしれない。
(時田シロウ代表…自己顕示欲が強いだけの俗物ではないという事かしら)
思案を巡らせるリツコの表情を伺いつつ、シンジが遠慮がちに挙手する。
「あの…エヴァは今回、二体しか出せないんですよね?編成はどうすれば…」
「そうね。弐号機は今回外せないから、零号機と初号機、いずれかが待機よ。
どうするかは貴方達で決めてちょうだい。なるべく早く、ね」
名指しされた肝心の弐号機パイロット…
アスカは尊大に腕と足を組んだまま、口を『へ』の字に曲げている。
ひょい、とレイが彼女の顔を覗き込んだ。
「アスカっち、ご機嫌ナナメだねー?」
「あったりまえよ!もしマグマの中の『何か』が使徒だったとして、
その日本重ナンチャラって組織が捕獲成功したら、アタシ達NERVは出し抜かれた事になる。
失敗したら失敗したで、アタシと弐号機が
不機嫌にもなるわ!」
「じゃあコアを変換して、僕か綾波さんが弐号機に乗れば…」
「それはもっと嫌!アタシが弐号機で出るのは確定よ!」
椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がったアスカは、腰に手を当てて
シンジがたじろいで身を引くのとは対照に、レイは小首を傾げる。
「やっぱ、愛機を
「…そこまでは言わないわよ。NERVでもバンドでも、それなりの時間を過ごしたもの。
バカナミとは
でもアタシにとって、弐号機は特別なの。それだけは解って」
「りょーかい。んじゃーアスカっちのバックアップには、あたしが付こうか」
レイはそれ以上アスカの事情に踏み込まず、相方に立候補する。
出遅れたシンジは二人の間で視線をさまよわせ、アスカはそれを見て肩を竦めた。
「シンジ、もし迷いがあるなら待機しときなさい」
「でも、綾波さんとアスカを戦わせて、僕だけが…」
「まさか『戦いは男の仕事』なんて前時代的なコト考えてんじゃないでしょうね?
それとも…ふふぅん?
「うぐっ」
図星を突かれて真っ赤になったシンジを見て、機嫌を直したアスカは悪戯っぽく笑う。
椅子から立ち上がったレイも、前傾姿勢でシンジに視線を合わせた。
「大丈夫だよ、碇くん。
良い子にしてたら、お土産に温泉まんじゅう買ってきてあげるから…
あ、ヤバッ!今の約束って、なんか死亡フラグっぽかった!?
ここは逆に
どうしよう?パインサラダ作る!?結婚する!?」
「え、えぇぇ!?」
「暴走してんじゃないわよバカナミッ!ほらっ、とっとと行く!」
「はぁ…先が思いやられるわね…」
「ふふっ、でも先輩。なんだか、この子達らしい気がします」
すっかり緩んだ空気にリツコは額を押さえ、マヤは苦笑しつつもデータを入力した。
エヴァ弐号機:惣流・アスカ・ラングレー 出撃
エヴァ零号機:綾波レイ 出撃
エヴァ初号機:碇シンジ 本部待機
布陣決定である。