新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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メシを食うだけの回。セリフは新旧いろんな所から


39、地球防衛バンドのみなさん、ミサトさん昇進パーティにIN

中層マンション・コンフォート17の一室。

葛城ミサト三佐昇進パーティは大所帯だった。

 

誕生日席には『本日の主役』と書かれた(タスキ)を掛けたミサト本人。

 

親友のリツコは、明るい緑基調のカジュアルな服に身を包んでおり、

怜悧な白衣姿の『赤木博士』とは違う、柔らかい印象を纏っている。

加持リョウジは普段と同じクールビス姿だ。

 

そしてテーブルを囲うのはパーティを企画した第壱中学・地球防衛バンドの6名…

プラス、()()

 

 

「それでは僭越ながら、わたくし、相田ケンスケが音頭を取らせて頂きます!

葛城ミサト三佐!ご昇進、おめでとうございます!乾杯!」

「おめでとうございまーす!」「かんぱーい!」「クァックァー!」

「ありがとうみんな!」

 

成人はビールを、子供達はソフトドリンクを手にコップを掲げる。

葛城家のマスコット、ペンペンまでも、両羽で挟んだ缶ビールで乾杯に参加していた。

 

(なぁんでアホメガネが仕切ってるのよっ!

こういうのは素敵な大人がやってこそじゃないの?

アンタなんか加持さんに比べれば月とスッポン…

いいえ、月とゾウリムシよっ!)

 

…約一名、不満げにコーラをあおった少女もいたが、めでたくパーティは始まった。

 

 

所狭しと並ぶ料理に、思い思いに手を付ける面々。

白っぽいソースの小鉢にはポテトチップスが添えられており、

まずはケンスケがそれを掬って口に運ぶ。

 

「…これはっ、クリームチーズの濃厚さ、ツナの旨味っ!

普段食べてる駄菓子が、こうも美味しくなるとは!まさに驚愕だよ!」

「ふっふっふ、碇くん直伝のチーズディップだよん♪

『混ぜれば出来る』って、料理初心者にはありがたいよねー♪」

「ふぅん、まぁまぁね。バカナミにしちゃ、やるじゃないの」

 

基本的に()()()()()はレイが担当しており、

アスカは明太子マヨネーズで味付けされたマッシュポテト…

薄ピンク色のタラモサラダをパクつきながら評する。

『まぁまぁ』と言いつつ、アスカの箸のペースは早かった。

 

 

 

 

テーブルの中心には、シンジが作った魚介パスタが山盛りになっている。

皿に取り分けたそれを口にしたミサトが、目を見開いた。

 

「うンまっ!ホタテの貝柱が効きまくってるわ、このパスタッ!

あとシンちゃん、アンチョビなんていつ買ったの!?」

「買ってませんよ。パスタに入ってる魚は、煮干しのオリーブオイル漬けです。

ニンニクと鷹の爪を一緒に漬けこみました。

その、勝手にツマミを料理に使っちゃってすいません」

「いいのいいの。こんだけ美味しくなるなら大歓迎よん♪」

 

上機嫌な本日の主役を横目に、加持は同じくパスタを味わっている。

ミサトの料理の酷さを知る加持は、ニヤついていた。

 

「葛城、お前中学生に負けてるんじゃないか?」

「祝いの席に水を差さないでくれる?

加持一尉、後で覚えておきなさいよ」

「ハッ、失礼致しました!いやぁ参った参った。

上官殿に不敬を働いたら処罰されちまうなぁ?」

「なァに言ってんのよ、バァカ」

 

加持は一瞬だけ真面目な表情を作って敬礼した後、すぐに表情を緩めて軽口を叩き、

ミサトはビールで喉を湿らせながら、ジト目を返す。

睨まれた加持は、おぉ怖い、と悪びれもせず肩を竦めた。

 

「しかしシンジくん。見事な味付けだな。台所に立つ男はモテるぞぉ?」

「いや、そんな…」

「リョウちゃん、必ずしもそうとは言えないみたいよ?」

 

リツコがクスリと笑い、視線をやった方向には、

ガツガツと掻っ込むトウジと、食べっぷりを嬉しそうに見つめるヒカリがいた。

 

「イインチョ!この唐揚げめっちゃ美味いで!メシ何杯でも行けるわ!」

「あ、ありがと…でも、鈴原?

野菜サラダも作ったんだから、ちゃんとバランスよく食べなさいよ!」

「わかっとるがな!イインチョはまるで母親(オカン)みたいやのぉ!」

「なっ、何を言うのよっ!?」

 

他意のないトウジの言葉に真っ赤になり、その実、満更でもなさそうなヒカリ…

別の意味で腹いっぱいになりそうな光景に、加持とリツコは苦笑する。

 

(まぁ作る側としても、美味しく食べてくれる人がいれば嬉しいもんな)

普段からレイとイチャついて甘い空気を作っているシンジは、少々ズレた事を思っていた。

 

 

 

 

 

「クワァ~~ッ!クォッコッコッ!クァァッ!!」

「ちょ、ちょっと!せっかく分けてやったのに何よその反応!?」

「惣流の唐揚げ、全部レモンかけちゃっただろ。

ペンギンくん、かけない派なんじゃないの?試しに…ほーら、食った」

「クァフクァフ…クァー♪」

「鳥の分際で面倒くさい好みね!?アタシがアホメガネに負けるなんて…屈辱だわ!」

 

 

「センセェのスパゲッティも美味いのぉ!」

「トウジも作ってみる?よければ教えるよ?」

「ングッ!?いや!ワシゃ台所には立たんぞ!男のすることやない!」

「僕も男なんだけどな…」

「す、すまん!そういうつもりやなくてやな…!」

 

 

「ヒカリちゃーん!唐揚げうまー!外カリッカリで中が肉汁ジュワーでたまらん!」

「あ、ありがと…綾波さんのポテトサラダのレシピも教えてくれる?」

「おっけー!あ、でも明太子の分量どうだったかな?碇くーん!」

 

 

 

 

「本当に、変わったわ」

 

子供達の楽し気な声が交差する中、リツコはレイを見て呟いた。

人形めいた無表情さ、寡黙さも、最早見られない。

かつてはレイが()()()だったなど、誰が信じるだろう?

 

「生きるって事は、変わっていくってことさ」

変えようとする力(トランジスタシス)維持しようとする力(ホメオスタシス)ね」

 

加持の相槌に、リツコは科学者的な答えを返した。

そして昇進という()()を経た本人…

ミサトは、ちびちびとビールを啜りながら少年少女を見ている。

 

「浮かない顔だな、葛城。

晴れて三佐昇進、子供達も幸せそうに笑ってるってのに」

「私だって嬉しくないわけじゃないのよ、加持くん。

けれど、出世が目的でNERVに入ったわけじゃないもの」

「……」

 

加持とミサトの話を、リツコは黙って聞いていた。

子供達と同じ思春期にセカンドインパクトを経験した三人。

それなりの苦難や辛酸は味わってきている。

 

中でもミサトは父・葛城博士の調査隊に同行し、

2000年の南極でセカンドインパクト()()()()を体験した。

 

満身創痍の父により救命カプセルに入れられ、

ただ一人生き残ったミサトは、

光り輝く四枚の羽を広げる第一使徒・アダムを目撃。

 

セカンドインパクトは表向き、巨大隕石の衝突とされているが、

彼女は隠蔽された真実を知る数少ない人間のうちの一人だった。

 

 

「使徒を倒し、世界を守るなんて、ただの建前。

私は…最初、レイやアスカやシンジくんを復讐の道具として見ていたわ。

けれど、あの子達が私の心を変えたのも確かなのよ。

 

子供を危険に晒したくはない。

でもエヴァの操縦はあの子達に頼るしかない。

なら、しばらくは『気のいいお姉さん』で有り続けるわ。

偽善と解っていてもね」

 

喋って乾いた喉を、ミサトはビールで潤した。

 

「貴女も変わってきてるのかしらね、ミサト」

「いいえ、日常を守りたいだけよ」

「トランジスタシスとホメオスタシス、か」

 

静かな大人達と、賑やかな子供達。

穏やかに時は流れた。


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