新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
「もぉーっ!潔く倒れなさいよ、うっとうしいわねぇ!」
「うひー!切っても切っても生えてくるよ!こいつらプラナリアかってーの!」
「ダメだ、銃も効かない!」
アスカ、レイ、シンジ…3人の
分離した第七使徒と、エヴァ零号機・弐号機との
初号機による狙撃もまた、どこに当たっても効果は見られない。
二体の使徒は、弐号機へと肉薄した。
「避けろナッパァ!」
「誰がナッパよっ!」
レイの警告に対し、アスカは
袈裟掛けに振り下ろされる使徒の腕…三日月の先にある『爪』を横飛びに回避する。
斬 ッ
水面から突き出たビルの残骸が
風化が進んでいるとはいえ、鉄筋コンクリートの建物が、だ。
その切れ味に目を見開いたアスカは、もう一体の接近を許してしまう。
三日月型の腕の一端が鞭のごとく
アスカの駆る弐号機はグレイブを構えて爪を防ぐも、
腕そのものにアッパーカットの要領で下から打ち上げられ、遠く吹っ飛ばされた。
「きゃあっ!」
へし折られたグレイブを飛び散らせ、頭から落ちていく弐号機。
真下に伸ばした片手の先にA.T.フィールドを展開し、海面を弾いてバク転した。
両足と左手をつき、屈んだ体勢で着水…空いた右手でプログナイフを装備する。
「クソッ、見た目ショボいくせに馬鹿力ね!
危うく『イヌガミケ』になる所だったじゃないのよ!」
アスカは以前、興味本位で見た日本映画のワンシーンを思い出す。
湖から逆さまに両足が出ているシュールな図…
自分の弐号機に、あんな恥ずかしい格好はさせたくない。
しばしの後、エヴァのパイロット達に通信が入った。
『聞こえますか!NERV本部の伊吹です!
二体は元々同じ使徒…互いのダメージを補い合っている模様!
「マヤちゃんってばっ!簡単にっ!言ってくれるなぁ!ってか手数多い多いっ!」
本部と松代支部、二台のMAGI総動員でのデータ解析結果を、童顔の技術オペレーターが伝える。
その最中に使徒二体は目標を零号機へと変え、レイはその回避行動に掛かりきりになっていた。
弐号機が追いついて2対2に戻るも、同時にコアを攻撃するのは至難の技だ。
片方が当たったと思えばもう片方が外れ、コアは瞬く間に修復されてしまう。
「バカナミッ!3秒遅いわよ!」
「アスカっちが2秒速いんだってば!」
「臨機応変!合わせなさい!」
「無茶をおっしゃる!って、わぁあ!」
使徒も黙ってやられてはくれない。
爪の横一閃で零号機のグレイブも刃を吹っ飛ばされ、ただの棒になったそれをレイは投げ捨てた。
状況を見守っていたミサトは、苦い顔で目を細める。
『
「エヌツぅ~~!?そんなんやったら地図が描き変わっちゃうじゃん!
エヴァ以外で現状唯一ダメージを与えうる兵器の名に、レイは声を裏返す。
第三使徒戦でも、郊外に大きなクレーターを作りながら、使徒の
NN兵器の使用要請は、国連軍から法外な値段の請求書を送られることに繋がり、
破壊された施設の被害についてはNERVの責任が追及される。
予算を捻出する上層議会からの嫌味と、セカンドインパクトからようやく復興してきた一般市民から来る抗議との板挟みだ。
さらに碇ゲンドウ総司令は、副司令の冬月に面倒ごとをブン投げる事が多く、レイはそれを懸念していた。
作戦部長のミサトとて、出来ればあの破壊兵器は使いたくない。
甚大な被害は免れず、始末書の海に溺れるのは自分なのだから。
不意に、シンジの初号機がライフルを放って前に駆け出した。
素体ダメージが残っているぶん、
『シンジくん!?今の初号機で格闘戦は不利よ!』
「ライフルは誤射の危険があるだけで使徒に効きません!
囮とA.T.フィールドの中和だけなら僕にも出来ます!
アスカと綾波さんが、タイミングを合わせる隙を作らないと…」
『タイミングを…合わせる?
『あ、あれを、ですか?』
『はやく!』
『は、はいっ!』
シンジの言葉に『得たり』とばかりにミサトは手を打ち、傍らの部下…
日向マコト二尉に命令を出した。
本部発令所と、エヴァ各機のエントリープラグ内に曲が流れ始める…
「なによこれ、今バンドで練習してるアレじゃないの」
「ははーん?メロディーに合わせればタイミングも合うか!」
聞き慣れたメロディーに怪訝な顔をしたアスカに対し、レイはニヤリと笑った。
双使徒は同じ動きでエヴァ零号機と弐号機に爪で刺突…
エヴァ二機は
使徒から
(身体が自然に動く!?なにこれっ!?まさか、あの曲の振りつけ!?)
アスカは、自分の動きに驚く。
学園祭ライブを想定し、作曲者の相田ケンスケが自ら考案したモーション…
ボーカル担当のレイとアスカが鏡合わせに動く振りつけは、
この一週間で身体に染みついていた。
無論、戦いはそれ自体が生き物である以上、動きにはアドリブが必須だが、
それでも零号機と弐号機の動きは、見事なまでに
「アスカっち!
「その言い方で解るアタシが嫌だわ!
どっかの
「碇くん!サポートよろしく!」
「やってみる!」
初号機は、使徒達のちょうど真ん中を目指すように突進。
両手に一本ずつ持ったプログナイフで爪を受け、力に逆らわずに流す。
キーボードの役目は音の隙間を埋めること。
勝負を決めるのは主役のボーカルだ。
動きの鈍い今の初号機で敵にダメージを与えることは期待しない。
敵二体を引きつける囮役と、A.T.フィールドの中和に専念し、
零号機と弐号機が、同時攻撃できるだけの隙を作れれば、それで充分…!
「綾波さん!アスカ!今だっ!!」
「「やぁ――っ!!」」
赤と黄、二機が高く跳躍し、降り注ぐような飛び蹴りを放つ。
同時にコアに突き刺さるつま先…
相互補完されていたダメージは行き場を無くし…使徒は十字架型の爆発を起こした。
水しぶきは高く高く…紀伊半島の空に虹が掛かる。
歌の一番が終わったタイミングジャストでパターン青、消失。
人類はまた、使徒との戦いで勝利を納めたのだ。
「わぁーっ!溺れる!溺れる!泳げないんだよ、僕はーっ!」
「落ちつけー碇くーん!LCLがあるんだから窒息しないぞー!」
「バカシンジ!ヒーローアニメを気取るなら最後くらい格好よく決めなさいよっ!」
なお、その爆発により水底が盆のような形に削れたため、周りからは大量の海水が流れ込んだ。
じたばたと暴れる初号機の首根っこを掴み、零号機と弐号機が曳航していく、
なんとも締まらない図になったという…
………
……
…
時は少々遡る。
葛城ミサトが突発でユニゾン作戦を提唱し、曲が始まった頃。
司令席のゴンドラが下からせり上がり…碇ゲンドウ総司令その人が上がってきた。
髭を剃ったため、幾分強面度は下がったものの、
長身黒服サングラスという姿はやはり威圧感があった。
その司令が、手に、
「「「司令!?」」」
「碇、お前…」
どよめく職員一同。ドン引く冬月副司令。
ゲンドウは瞳をサングラスの逆光に隠したまま、マイクを手に取る。
「青葉二尉」
「は、はい!碇司令」
「エアギターを弾きたまえ」
「へっ!?」
「二度は言わん。曲が始まってしまう。やらんなら…帰れ!」
「イ、イエス・サー!青葉シゲル、エアギター、やらせていただきます!!」
青葉は命じられるままに実体のない楽器を構え、ゲンドウは渋い喉を響かせて歌い出した。
モニターの中ではエヴァ三機が、即席のユニゾンアタックで使徒を圧倒している。
それに合わせて、ゲンドウはマイクを掲げ、空いた腕を伸ばし、キレッキレの動きで踊る。
青葉が高く掲げた左手でエアギターのエアネックを抑え、右手のエアピックでエア弦を掻き鳴らす。
「…Wooooo!!」
「ジャッジャッジャッジャジャジャン!!」
「…あ、パターン青、消失しました…状況終了です…」
戦闘が終了した事を、遠慮がちに伝える日向マコト二尉。
無駄にクオリティの高いパフォーマンスを終え、
NERVの『いちばんえらいひと』とロンゲオペレーターは、
「碇め…恥をかかせおって…」
職員達がフリーズしている中、冬月は一人、目頭を押さえていた。
エンディングテーマ:「奇跡の戦士エヴァンゲリオン(歌:碇ゲンドウ)」
碇司令、学生時代はバンドのボーカルやってたらしいよ。確か、タカダバンドとかいうの