新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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36、イスラフェルさん、紀伊半島にIN

紀伊半島沖を哨戒していた国連(UN)・第二方面軍の巡洋艦「はるな」より、海中の巨大潜航物体発見の報があったのは、その日の午後だった。

 

先の第五使徒戦で第3新東京市は、復旧した兵装ビルを含めても、迎撃システムの半分以上を失っており、実戦での稼働率はほぼ期待出来ない状態である。

 

 

故に、作戦部長・葛城ミサトは上陸直前の目標を水際で迎撃するべく、エヴァンゲリオン3機を輸送機(ウィング・キャリアー)に搭載。一路、西へと飛ばした。

 

セカンドインパクトの際、津波や地球規模の水位上昇で水没した沿岸部の都市は多かったが、ここ紀伊半島も例に漏れず、かの災害から15年経った今でも、海からは建物の残骸が覗いている。

生々しく爪痕が残った海辺で、パイロット達はエヴァ各機に搭乗。

地上の輸送部隊が運んできた電源ソケットを装着し、フォーメーションを組んだ。

 

 

惣流・アスカ・ラングレーの駆るエヴァ弐号機、および綾波レイの零号機は、ソニックグレイブという薙刀状の武器を手に前衛を担当。

 

碇シンジの初号機は、第五使徒の加粒子砲のダメージが素体そのものに残っており、格闘戦を行うには機動性に不安が残るため、長銃身(ロングバレル)の実体弾ライフルで後衛を担当する。

 

「NERV松代支部・MAGI2号の分析では、波長パターン青。

目標は、第七使徒と判明したわ。

国連軍との会敵の結果、ビーム攻撃、およびA.T.フィールドを確認。

どちらも出力は第三使徒と同等。またはそれ以下というデータが出てる。

少なくとも、第五使徒のように難攻不落の要塞ではないわね」

 

ミサトは後方の通信車両より、データをエヴァ各機へと送りながら言葉を付け加えた。

 

「楽勝じゃん!アタシ一人で充分ね!」

「なんで急に弱いのが出てくるんだろう?何か、裏があるんじゃないかな」

「はァん?ビビッてんの、ヘタレシンジ?

怖いならバカナミと一緒に第3に帰って、バカップル同士で乳繰り合ってれば?」

「なっ、なんだよ、そんな言い方ないだろ!?

僕は油断しない方が良いって言いたいだけで!」

 

映像回線で噛みつき合うアスカとシンジ。

その間にレイの明るい青髪が、割り込むようにポップする。

 

「まーまー碇くん、いい機会だしさ。

格好(カッチョ)よく啖呵(タンカ)切った()()()()()()()()()様のゲルマン魂、見せてもらおーじゃないの。

あ、あとアスカっち、あたしらは休日(オフ)ん時に存分にイチャついてきたから。

お気遣いは無用だよん♪」

「ちょっ、綾波さん!?」

「あーそうですかー!お熱いわねぇっクソったれ(シャイセ)ッ!」

 

弄るつもりがカウンターを返され、アスカは母国(ドイツ)語で悪態をついた。

明るく惚気るレイと真っ赤なシンジを、ミサトは呆れ半分、苦笑半分に見やる。

 

「あんた達ねぇ……まぁいいわ。

バンド練習を通じて、忌憚なくモノを言い合える仲になった、としておきましょう!

アスカ!今回は、そのやる気を買って先鋒を務めてもらうわよ!」

「望むところよ!来たわっ!」

 

 

第七使徒は、飛沫を上げて海中から姿を現した。

エヴァと同等の大きさ、そして頭のない二足歩行という点では第三使徒と同じだが、

上半身から伸びる両腕は三日月のように一繋がりでシャープな形だ。

胴体と下半身はヒョロっと細長く、ヤジロベエに近い。

 

金属質な光沢とは裏腹に、その三日月はゴムめいた柔軟性を持っており、

万歳でもするように、上弦と下弦を行ったり来たりした。

 

 

文字通りの()()()。アスカは一気にレバーを押し込んだ。

足と海水の接触面にA.T.フィールドの疑似波紋を広げ、弐号機は高速で使徒に迫る。

 

零号機のフィールドでは水を拒絶しきれず、

浅瀬にエヴァの足首を沈めながら、レイは弐号機を追った。

 

「くぅー、やっぱシンクロ率80パーが境目か!

さすがにあたしにゃ()()()()()は無理だな……ん?」

 

レイは使徒の胴体に目をやる。

三日月型の腕の中間点には、赤と青の勾玉を横に重ねたような、陰陽(Yin&Yan)に近い正円。

その下には、小さな赤い球体が縦に並んでいた。

 

「アスカっち!この使徒、コアが二つある!」

「だったら一緒に叩ッ斬りゃいいだけよ!」

 

使徒が陰陽円から放ったビームを跳躍回避し、弐号機はその流れで大上段から薙刀(グレイブ)の刃を振り下ろす。

頭の無い三日月の中心から股下まで、見事な唐竹割りだった。

極彩色のゼリーのような切断面が覗いている。

 

「ふん、あっけないわね。やっぱりアタシ一人で……なにこれ!?」

 

アスカは目を疑った。二つのコアはそれぞれ右と左に移動し、刃を()()()のだ。

ずるり、と脱皮するように、使徒は姿を変えた。

 

陰陽円はボーリング玉のような三つ穴のついた円に。

そしてコアは一つに変わっていたが、それ以外は攻撃前と同じ姿の使徒が()()立っている。

 

「くっ!……えぇっ!?」

 

アスカは後方に跳んで距離を取ろうとし、バランスを崩す。

相手のA.T.フィールドを中和した時、()()としてのフィールドも中和されていたため、弐号機の足も浅瀬に取られたのだ。

 

赤い機体を後ろから抱き止めるように辛うじて支えたのは、追いついた零号機。

もう片手で突き出したグレイブを、分裂した片方の使徒に突き立てて足止めする。

 

「バカナミッ!?助けろなんて言ってないわよ!」

「こら!強がってる場合と違うぞアスカっち!複数には複数で……ヤバッ!?」

 

使徒のもう片方がエヴァ二体に飛びかかる。三日月腕の先端に光るのは、鋭い爪。

 

「目標をセンターに入れて……スイッチ!」

 

後衛にいたシンジはスコープ越しにもう一体を睨みつけ、トリガーを引いた。

初号機の狙撃(スナイプ)は、使徒の中心を捉えてその身体を後方に押し戻す。

爪の攻撃はギリギリで反らされ、その隙を見て零号機と弐号機は後退した。

 

薬莢を排出し、シンジはもう一度銃声を響かせたが、

使徒の胸にある赤い光球は、ヒビを見る間に修復していく。

 

「ミサトさん!コアを直撃してるはずなのに効いてないっ!奴の弱点はどこですか!?」

「いま解析中よ!三人とも、なんとか持たせて!」

「もーっ!なんなのよコイツ!こんなんインチキッ!」

第五使徒(サイコロ)より楽かと思ったらこれだよ!」

 

不安を交錯させるNERVの面々。

戦いの行方に、暗雲が立ち込めていた。


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