新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
某音楽スタジオの一室には、バンドメンバーが集まっている。
いまいち乗り気でない惣流・アスカ・ラングレーは、
マイクを手に仏頂面で周囲を見回した。
「んじゃ行くぞォ~!ワーン、トゥー、スリー、フォー!」
ドラムセットの丸椅子に座り、スティックを頭上で打ち鳴らしてカウントを取るのは、
全ての元凶である
中高生という目立ちたい年頃には地味な印象で敬遠されがちな楽器も、
ヒカリにとっては新鮮で楽しいらしく、ドラムと合わせたリズム帯は非常に安定している。
彼を横目で見るたびに、ヒカリのお下げがピョコピョコと上機嫌に跳ねていた。
(優等生のヒカリが、3バカ&バカナミと絡むなんて珍しいと思ったけど…
ふーん、そういうことか…あんな関西弁山猿のどこがいいのかしら?)
親友の恋は応援するべきだろうが、アスカの想いは複雑だった。
キーボード担当の
鍵盤楽器はチェロの調律の時にピアノを使う程度ではあったが、
持ち前の感覚で『それっぽい』メロディを奏でられるようになってからは、
説明書を片手に
「Woo~♪Oh~♪Ah~♪」
先日はケンスケの顔にアイアンクローをかましていた
NERVからGOサインが出た今では、ノリノリでスキャットを歌っている。
演奏中、
(はいはいゴチソウサマ!言葉もなく惚気やがって。ケッ!)
優しい彼氏を持ったレイに嫉妬しているのか。
それとも
アスカ自身にも解らなかった。
………
……
…
レイと共にツインボーカルを務めるアスカは、その身体能力の高さから歌声にパワーがある。
しかし曲調の子供っぽさはやはり気に入らず、
可もなく不可もない
叩いていたドラムを止め、ケンスケは胸を掻きむしる。
「違う!違うんだよ惣流!
Bメロとサビの間には『ジャカジャカジャンッ』ってタメが入るんだ!
『ジャカジャカジャンッ』がさぁ!」
「あぁーっもう!知らないわよアホメガネ!
やってられないわ!こんなの小学校の学芸会…
いいえ、幼稚園の
苛立ちに任せ、アスカはスイッチが入ったままのマイクを床に叩きつけた。
ガゴンッ!キィィ――――ッ!!
「うわっ!」「きゃっ!」
マイクが増幅した落下音と同時に、不快なハウリング音が起こり、
シンジとヒカリが短く悲鳴を上げて耳を塞ぐ。
「おい惣流!機材は大事にせんかい!」
「うるさいわね!どうせ壊れたって修理費はNERV持ちでしょ!?」
トウジに咎められたアスカは、怒鳴り返して部屋の防音扉に手を掛ける。
その逆の手首を、細く白い手がガッシリと掴んだ。
噛みつかんばかりにアスカは振り返る。
「離しなさいよバカナミ!」
「アスカっち、子供のお遊戯っていうのが嫌ならさ、
アイドルみたいなモンだと思えばいいんでない?
美貌とカリスマでみんなの視線を釘づけなんて、アスカっちにピッタリじゃん?」
「ふん、そういうのは転校初日で懲りたわよ!
「例えが凄くイヤーンな感じ!」
レイがアスカを説得する合間に、ナチュラルにディスられ、仰け反るケンスケ。
「いーや、観客の中に加持一尉がいるって想像してみたらどうよ?
衣装もメイクもバッチリ決めたアスカっちの姿…
歌もダンスも最高に磨き上げて、観客席にいるカレに捧げる…どうよっ!?」
「…っ!?」
憧れの男性…加持リョウジの名を出され、アスカは息を飲んだ。
アスカにとってはワイルドで素敵な大人の男性だ。
5秒…10秒…考え込んだままアスカは静止する。
「…センセ、誰や『カジ』て」
「あぁ、NERVのドイツ支部から出向してきた人だよ。
アスカのボディーガードだって」
「ほォー…」
トウジに耳打ちされ、シンジは小声で答えた。
たっぷり1分考えたあと、アスカは顔を赤らめてマイクを拾い上げる。
「ふ、ふん。このまま逃げ出すのもカッコ悪いしね。
まぁいいわ。続けてやろうじゃないの」
(チョロいな)
(チョロいね)
(チョロいのぉ)
(チョロいわね)
(アスカっちチョロかわ)
誰も何も言わぬまま、皆が同じ事を思っていた。
ちなみに加持本人は、シンジとの初対面時、
当のミサトに手加減なしの腹パンを撃ち込まれてNERV本部の廊下で悶絶していた。
シンジがそれを暴露しなかったのは武士の情けである。
その後、NERVでの訓練や学校が終わった後にスタジオ入りし、
演奏に歌に踊りにとパフォーマンスを磨き上げていく地球防衛バンドの6名。
チルドレン達に緊急招集が掛かったのは、
開始からちょうど一週間経った日…練習の真っ最中だった。
地球防衛バンドはちょっと担当パートが変わってます。
イインチョがボーカルからベースに変更。
アスカっちとリナレイさんがボーカルに。
3バカは原作通りです。
次回、甲乙なアイツの予定