新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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チルドレンは今回みんなお休み


34、ケンスケくん、NERV尋問室にIN

NERV本部・白一色のみの尋問室。

 

「お久しぶりね、相田ケンスケくん…

()()貴方を()()に呼ぶことになるとは思わなかったわ」

「ど、どうも…ミサトさ…葛城一尉」

 

淡々としたミサトの声が、縮こまるように座るケンスケを真綿の如く締め付けた。

 

美女と密室で二人きり、というのは少年の憧れのシチュエーションではある。

そんな美人に叱られる、というのも一部の人々に取っては垂涎モノではある。

 

だが、ケンスケが()()()()()のは二度目という事もあり、

空調装置による温度よりも冷たい空気が、その場に張り詰めていた。

 

 

「…さて、『例の歌』だけれど…

幸い、歌詞だけでは実質被害が出ていないわ。

機密と言っても単純な用語だけだしね」

「は、はい」

 

今のところ、大問題は起こっていない旨をミサトは伝えた。

 

特務機関NERVの特令には『コードB-22』という報道機関(マスコミ)向けの情報操作があり、

第三、第四使徒による街の被害は、()()()は爆発事故などとして処理されている。

 

ただ鈴原トウジの妹、アキ嬢のように逃げ遅れて使徒を目撃してしまうケースや、

前回のシェルター脱走などのイレギュラーは起こり得る以上、管制も万能ではない。

 

まして第五使徒に至っては、第3新東京市のド真ん中に

あの青いクリスタルの如き巨大な残骸が、半分ほど解体途中で残っているのだ。

隠しおおせるはずもない。

 

また碇シンジが懸念していたA.T.フィールドについても、

NERVをライバル視する何処ぞの民間企業が、

すでに諜報部を掻い潜って情報を得たとの報告もある。

 

機密は半ば、機密ではなくなりつつあった。

 

「さすがに歌の中で武器のスペック解説でもやってたら、

相田くんも拘束待ったなしだったでしょうけど」

(あ、あぶねぇーッ!)

 

ケンスケの冷や汗が滝になる。

…実は、曲の間奏に入る予定だったのだ。

 

『説明しようッ!プログナイフとはッ!』で始まるお決まり(アレ)が。

 

デモテープに間に合わなかったのは、逆に幸運だったと言えるだろう。

 

 

「ただ問題は、あなたが相田リュウノスケ二尉…

NERV職員であるお父様のIDを不正利用したという事実。

いくら損害が出なかったとはいえ、明確な犯罪行為をお咎めなし、とは行かないわ」

「…っ!」

 

来た、とケンスケは思った。

不正アクセス…嗚呼、軽率極まりない行動を取ってしまった。

罰金…懲役…そんな言葉が()ぎる。

あるいは監督不行き届きで、父が失職させられてしまうかもしれない…

 

身体が震える…息が詰まる…

 

「そこでっ、相田ケンスケくん!あなたには労役(しごと)をしてもらいます!

内容は『地球防衛バンドをプロデュースすること』!

CD音源とプロモーションビデオ…そして文化祭でのライブ映像を、NERVに提出しなさい!」

「…へっ?」

 

ピッ、と人差し指を立て、悪戯っぽい笑みを浮かべてウィンクしたミサトに、

ケンスケは間抜けな声と共に顔を上げた。

 

「今回の件は事件にせず、あなたやお父様の責任は追及しません。それが報酬よ。

音楽スタジオの使用料や、楽器のレンタル費用はNERV(こちら)で持ちます」

「お、俺は有り難いですけど…どうしてそこまで…?」

 

眼鏡越しに瞬きするケンスケに、ミサトは微笑んでみせる。

 

「あの音源、オペレーターのみんなにも凄い評判だったのよ。

軍歌っていうと変だけど、組織の士気向上に役立つんじゃないかってね。

かくいう私も、テンション上がったわー♪」

「マ、マジですか!?ミサトさんが…なんだか、意外ですね?」

「あら、私もセカンドインパクト前は小中学生(コドモ)だったわ?

()()()()()()()()()()()()()()()とか好きだったもの。

…期待してるわよ?」

「お任せください!男、相田ケンスケ!やってみせます!」

 

立ち上がり、拳を握るケンスケ。

地球防衛バンドは…かくして、始動に至った。

 


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