新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
アスカ「ケンカの話の時間だ!コラァ!!」
扉(グァシァァァ!バァァァン!)
"!?"
3バカ「「「なっ…」」」
アスカ「相田、鈴原、碇ィ!てめーらブッ殺す!!」
"!!"
学校の屋上で対峙する二人の
片や臨戦態勢の惣流・アスカ・ラングレー。
戸惑いながらも迎え撃つは碇シンジ。
彼らの戦いを見守る観戦者は三人。
ビデオカメラを構えた相田ケンスケ。
手に汗を握った鈴原トウジ。
そして、腕を組んだ綾波レイ。
(んー、
アスカっちも怪我しない程度には手加減する構えだし、
よっぽどヤバくなきゃ静止はナシか。
鈴原の「お前を殴らなアカン事件」の時もスルーだったしね)
レイが一度周囲を見回し…そして視線を戻した時、アスカが踏み込んだ。
距離を測るために、祈るような片手を眼前に構えていたシンジは、
アスカが打ち出したワンツーパンチを、掌と手の甲で続けて打ち払う。
続けて繰り出された前蹴りを、サイドステップで軸をずらして回避…。
動から静へ…二人の間を、一迅の風が流れた。
「…か…かかっ…格好イイ~~ッ!!まるでアクション映画だぁ!」
ファインダーを覗き込んだまま大興奮なのはケンスケである。
アスカは次いで身体を反転させ、シンジの側頭部を狙って上段蹴りを放った。
フォンッ…!と風を切る音が響く。シンジ、これを頭を屈めて回避。
掠められた黒髪が巻き上がり、少年の冷や汗を散らせる。
アスカの髪が赤い渦を巻くように流れ…陽光を反射して煌めいた。
「いやぁ絵になるなぁ!おっ、ハイキック!?
パンモロ来るかっ!?くぅぅっ…見えっ…ない!!
スパッツ装備済みか!いや、だがこれはこれで!!」
「黙んなさい外野!エッチ、バカ、変態!信じらんない!」
「こっ、これが惣流のマシンガン罵倒!?ご…ご褒美じゃないかぁ!」
ケンスケの欲望ダダ漏れ発言に、アスカの頭の中で「ぷつん」と何かが切れた。
「気持ち悪いっ!」
「ウッボァーッ!?」
怒りのハイキックは、今度はケンスケの方に牙を剥き、
彼はレンズがひび割れたカメラを構えたまま屋上に倒れた。
「…続けるわよ!」
「う、うん」
再び向き合うアスカとシンジ。
意識を失ってなお幸せそうな顔でヒクヒクと痙攣するケンスケは、
見事にドM勢の仲間入りを果たしていた。
………
……
…
トウジは、目の前の戦いに完全に見入っていた。
「惣流のヤツ、めっちゃ喧嘩慣れしとるやないか!
しかしセンセェもあの攻撃をよう捌くのぉ…
いつの間にあんな強うなったんや?」
「碇くん、格闘訓練は苦手だったんで、
オフの日は、あたしが自主訓練に付き合ってたんだよね。
アレだ。『碇くんはワシが育てた』ってやつよ」
「どやー」と胸を張るレイに、トウジは呆れ顔を返す。
「綾波…お前が師匠ってガラかいな」
「まーそれは冗談として…。実際、コツさえ掴めば上達は早かったよ。
料理とか楽器演奏が趣味なだけあって、器用で機転も利くしね」
「はァー…センセェは大したもんやな。隠れた才能っちゅう訳か」
「…とはいえ、碇くんにも弱点はあってさ」
アスカがまたラッシュを仕掛けた。
パシパシッ、と小気味よく拳と掌が打ち合う音が連続する…
クリーンヒットは未だないが、シンジの表情は徐々に陰っていった。
「くっ…!」
「ほらほら、どうしたの!?避けてばっかじゃアタシには勝てないわよっ!」
トウジはハッと目を見開く。
そう、アスカに対し、シンジは一度も
トウジ自身『女は殴らない』を信条とはしているが、
今回ばかりはシンジにそれを強要は出来ない。
してしまえば、今のような打たれっぱなしのままだ。
ぽりぽり、レイはコメカミを指で掻く。
「良く言えば優しい性格、悪く言えば引っ込み思案。
碇くんは根本的に
だから防御は上手いんだけど、攻め手に欠ける。
…アスカっちを殴る事を躊躇っちゃってる感じかな」
「ジリ貧やないか!ほんならどないすんねん!?」
「あたしに聞かれても知らんよ、そんなん。
碇くん自身が何とかしない事には、しょーがない」
慌てたトウジに、レイは突き放すように言った。
プライベートでは甘ったるいレイとシンジだが、それはそれ。これはこれ。
以前、トウジが食って掛かった時には、シンジが怪我をする可能性や、
非常招集という緊急性も踏まえてレイが割り込んだが、
今回は実力試しの手合せだ。私情は挟まない。
「シンジィ…」
トウジは、心配そうに友人を見守る事しか出来なかった。
…
……
………
シンジは攻めあぐねていた。
慣れていない試合形式の手合せ…
そして、相手が
レイとは『深い関係』になっている上、
多少拳が身体に当たっても、互いに訓練と割り切っているからいい。
だが、アスカは別だ。
顔や腹は殴れない。胸や下半身も同様。
女への暴力・セクハラの
万一他の女子生徒に見られたら社会的に死ぬ。
建前上フェミニズム半分、本音として自己保身半分といった所か。
アスカから仕掛けてきた戦いだというのに理不尽だとはシンジも思うが、
おそらくアスカ自身はそこまで深くは考えていまい。
せいぜいが名目通りの腕試し…
あるいは教室で溜まったストレスの発散程度だろう。
さらに、シンジの心を掻き乱す要因として、
アスカの持つ『中学生にしては立派なもの』は…揺れた。
激しく動くたびに、ぽよんぽよんと跳ねた。
必死に連撃をかわしながらも、シンジの顔に血が昇る…。
「どこ見てんのよ!まったく、なんで男の子ってこうバカでスケベなのかしら!」
「しょうがないじゃないか!目立たないようにサラシでも巻いとけばいいだろ!?」
「キツいから嫌よ!」
「じゃあどうしろっていうんだよ!」
「うるさい!さっさと沈みなさい!」
「ほんっと理不尽だなぁ!」
アスカとシンジの舌戦は、観戦していたレイにも影響を及ぼした。
太平洋艦隊…輸送艦オセローでアスカに掛けられた言葉を、ふと思い出す。
『体型
だけは… だけは…… だけは………
(アスカっち…あたしの胸見て鼻で嗤ったんだよなぁ…。
チクショウ、心の中でエコーしてるじゃんよ。
…あ、思い出したらなんかムカムカしてきた)
次の瞬間、レイはシンジとトウジまでもを唖然とさせる言葉を叫んでいた。
「碇くん!構う事ぁない!おっぱいもいじゃえ!!」
「「はぁッ!?」」
「アンタもアンタで女を捨ててんじゃないわよバカナミッ!
もういいわ、これで終わりよ!」
アスカはシンジの
踏み込みにスピードが乗った一撃だったが、
怒りに捕われたその拳は、いかんせん荒い。
「っ…ここだ!」
後退する一方だったシンジは、その一瞬を待っていた。
斜め前に踏み出し、アスカの拳に右手を、手首に左手を添え…
自らの身体を反転させつつ、捻る。
「きゃっ!」
関節を極められたアスカはバランスを崩し、
今までの狂戦士ぶりが嘘のような可愛らしい悲鳴を上げて尻餅をついた。
「セ、センセェ…今、何やったんや?」
「小手返し。合気道をベースにした技だね」
理解の追い付かないトウジに、レイが答える。
NERV式格闘術は様々な武術や格闘技を取り込んだ総合格闘術…。
シンジは、外傷を負わせずに相手を制圧する技を、
懸命に覚えようとしていた。
…ちなみにレイが第四使徒戦で使った
格闘術のカリキュラムには入っておらず、完全に趣味である。
一方のアスカは、自分の状況を見直し、溜め息をついた。
「…手首が完全に極まってるか。無理に動いたら関節が外れるわね。
チッ!悔しいけど、アタシの負けだわ。アンタを認めてあげる。
でも、次は負けないわよ!」
「勝てたのは運だよ。でも、惣流さんに認めてもらえたのは光栄だな。
お手柔らかにね」
「
アタシも…その…バカシンジって呼ぶから」
「うん。よろしく、アスカ」
紅潮した頬を隠すように顔を反らすアスカ。
バカ呼ばわりは彼女なりの親愛表現か。
シンジは軽く笑い、握った手でアスカを引き起こした。
緊張が解けたトウジは、倒れたケンスケを背負う。
「さてさて…一件落着やな。ワシはコイツを運んでくかの」
「放っておきなさいよ、そんな奴!」
「しょっちゅうアホな事抜かすけど、ケンスケはワシの
惣流はあんまり良い印象持っとらんかもしれんが、悪気はないねん。
許したってくれんか」
「ふん。友達想いですこと。アンタに免じて、保留しておいてあげるわ」
困ったようなトウジの笑いを受け、アスカは憮然と返す。
昼休みの終わりは近い。皆揃って屋上を後にした。
「つーかバカナミ…『もいじゃえ』はないでしょアンタ」
「ふーんだ。これ見よがしにアピールするアスカっちが悪いんだよ。
またぷるんぷるんしよったら、もぐぞ!むしろ揉むぞ!」
「やめなさいよ、このバカッ!」
戦いの合間の、平和な会話であった。
エンディングテーマ:チチをもげ!(歌:2年A組地球防衛バンド&NERVオペレーターズ)
途中で委員長とかマヤちゃんの「不潔よ!」「不潔です!」って合いの手が入る。