新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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前回までのあらすじ

弐号機「ドイツ語でおk」
レイ「クーゲルシュライバーッ!」
アスカ「えぇ…(困惑)」


29、ガギエルさん、海の底にIN

正体不明の敵の攻撃を受けた太平洋艦隊。

 

正規空母オーバー・ザ・レインボーには、

艦艇が次々と沈黙させられるという悪い知らせ(バッドニュース)が舞い込む。

その中で、輸送艦オセローからは『エヴァ弐号機・起動』との入電があった。

 

「葛城くん!?君が命令を出したのかね!?」

「艦長!今起こっているのが()()()()()()です!

各艦には回避を最優先に!エヴァが取りつくまで、弾薬は温存させてください!

それと、甲板の上に非常用ソケットの準備を!」

 

葛城ミサトは、問いへの肯定代わりに艦長へ要請する。

そこに、慌て気味の副長の声が被さった。

 

「し、しかし大丈夫ですか!?エヴァ弐号機はB装備のままです!」

「っ!?」

 

ミサトは息を飲む。

B装備…武装はプログナイフのみ。

外装も陸戦仕様のため、水中戦闘は期待できない。

書類上は引き渡しが済んだ弐号機だったが、元は艦長も言っていた通り、

海上での起動は想定していなかったのだ。

 

(海に落ちたら不味いかしら?)

ミサトの表情が渋くなりかける。

だが船外を見て状況を確認すれば、そこはNERVの作戦部長。

いつもの不敵さを取り戻した。

 

「…艦長、副長。大丈夫です、ほら」

「「な…何ぃ~~ッ!?」」

 

ミサトが指さした先…

二足歩行・大質量の巨大な人型が、()()()()()()()()()()()()()のを見て、

船長と副長は揃って口をアングリと開ける。

 

足と水面が接触するたびに、高い硬質音を上げながら円形に広がる光の力場…

A.T.フィールドが、その無茶を可能にしていた。

 

 

……

 

………

 

「こんな所で使徒襲来とは。

少々シナリオが違いませんか、碇司令?」

 

加持リョウジは、船室の窓のブラインドを指で広げ、外を覗きながら、

携帯電話で連絡を取っていた。荷物の一つ…アタッシュケースを横目で見る。

 

『そのためのエヴァ弐号機だ。保険としてレイもつけてある。

最悪の場合、君だけでも脱出するのがよかろう』

 

電話越しに聞こえるNERV総司令・碇ゲンドウの声。

加持は再び外に視線を戻し、海を走る弐号機を見た。

 

「…同じ逃げるにしても、みっともない格好を見せて、

前線で戦っているお姫様達に嫌われるのは気が咎めましてね。

やれる事はやります。ま、あくまで僕なりにですが」

『…好きにしたまえ』

 

加持の道化めいた笑いは伝わらぬままに。

ゲンドウの静かな声をもって通話は切られた。

 

………

 

……

 

 

 

「うっひょお~!さっすがアスカっち!シンクロ率・8割強!

ニンジャか波紋使いかレツ・カイオーかって感じだねー!すっげぇー!」

「ワケ解んないわよっ!舌噛むから大人しくしてなさいバカナミッ!」

 

海を駆ける赤い巨人…エヴァンゲリオン弐号機のエントリープラグの中。

 

惣流・アスカ・ラングレーはエヴァの操縦桿を強く握りながら、

ハイテンションな同乗者…綾波レイに怒鳴り返す。

 

(ホント、変なヤツね…)

 

アスカはそんな事を思いつつも、レイが口にした裏表のない称賛に、

荒い口調とは裏腹の柔らかい笑みを無意識に浮かべていた。

 

弐号機はなおも軽やかに、オーバー・ザ・レインボーに近づく。

 

エ、エヴァ弐号機、本艦に接近中!(EVA-02 is approaching this ship!)

総員っ、着艦時の衝撃に備えろ!(All hands!Prepare for the impact of landing!)

心配性ね(Don't worry)甲板潰すような無粋なマネはしないわよ(I'll not destroy the deck)

「おー、なめらか英語!」

 

副長と艦長の懸念にアスカは通信を返すのを聞き、レイは呑気に感心していた。

艦上を飛び越えざま、電源ソケットを()()()()()()()()()()

空母には僅かな振動を与えるに留め、そのまま空中でソケットを装着…

A.T.フィールド越しに着水。

 

アスカは弐号機が外部電源に切り替わったのを確認した後、

エヴァ右肩部のウェポンラックから武器を取った。

 

弐号機の手の中、専用のプログナイフがカッター型の刃を伸ばす。

 

「敵はっ!?」

「来てるよ!右舷三時方向!」

 

レイの返答に、アスカは視線を向ける。

爆発炎上している数隻の巡洋艦を背景に、水の中を走る『何か』…

第六使徒は徐々に浮上し、その姿を現した。

 

深海魚ともシャチともつかぬ、クリーム色の巨体。

ボディに見合った大きな口中に、鮫のような多数のギザ歯…

その奥には、赤い球体が不気味に光っている。

口の上には等間隔で無数に並んだ、目玉と思しき真紅の小球体群。

 

 

奈落の如き(あぎと)を開いて食らいつこうとする異形の化け物を、

エヴァ弐号機は横飛びに回避し、擦れ違い様にナイフを走らせる。

 

「チィッ、浅い!」

 

悪態をつくアスカ。使徒の側面に一筋の傷…なれど致命傷には遠い。

回頭して再び接近する敵に、アスカは弐号機を向き直らせ、

順手で持っていたナイフを逆手に反転…振り下ろしの構えをとった。

 

「ふん、海の上で闘牛士(マタドール)の真似事か。相手が魚じゃ、サマになりゃしないわ」

「あの使徒、弐号機が赤いから興奮してんのかねー?

どーするアスカっち、3枚におろして料理しちゃう?」

「どうせ大味で旨かぁないわよ、あんなデカブツ!」

 

少女二人とも、軽口を交わすだけの余裕はある。

狙うのは、使徒が再び喰らいつこうとする瞬間…

アスカは弐号機で海面を蹴り、跳躍にて突進を避け…

同時に、その背に飛び乗ってナイフを突き立てた。

 

「聞こえる、ミサト!?A.T.フィールド中和したわ!」

『艦長!有効射程内の艦に、通達願います!魚雷、一斉射!』

『心得ておる。…魚雷、一斉射!(Torpedo Salvo!)

 

艦長の号令と共に、魚雷が次々と放たれた。

硬質だった第五使徒とは違い、魚のような第六使徒そのものの身体は柔らかく、

魚雷が起こす水中爆発の形に、巨体は面白いように削れていく。

 

だがそれでも、巨大な身体全体からすれば微々たるダメージ。

動き自体は止まらず、使徒はエヴァを取りつかせたまま、艦隊の包囲網を抜けるように泳いだ。

 

「くっ!図体が大きいだけあって、タフな奴ねぇ!」

「コアは口の奥にあったよ。背中を切り開くには、ナイフじゃキッツいなぁ…」

『もう一押し、いるかい?』

 

アスカとレイの会話に男の通信が混じった。

上空には青緑色の戦闘機の姿…アスカの表情が明るく花開く。

 

「加持さんっ!」

『Yak38改は戦闘機としちゃ旧式(ロートル)もいいところだが、

空対地ミサイルはあってね。アスカ、回避しろよ!』

「任せてっ!」

 

ともすれば誤射しかねない位置だが、アスカは加持を疑わなかった。

爆風の余波程度なら、たとえフィールドが中和されていても装甲で防げる。

エヴァ弐号機は、倒立するように射線を空ける。

戦闘機と使徒の相対速度を合わせ、放たれたミサイルは使徒の背に着弾。

半球状に抉られた背肉に赤い球体が露出したのを、レイが指さした。

 

「アスカっち!あそこっ!」

いただきっ(マールツァイト)!!」

 

エヴァ弐号機はアクロバティックに姿勢を変えながら、

左手でもう一本のプログナイフを抜き…

蜂のような一刺しを見舞う。コアは光を失い…完全に沈黙した。

 

『状況終了だな。アスカの勇姿も見届けられたし、俺は先に本部に向かってるよ。

じゃあレイちゃん、彼女のことを頼む』

「はいっ、ありがとうございました、加持先輩っ!」

「うぃー!おつかれー加持一尉ー!」

 

明るく言葉を交わし合う面々…。

戦闘機が空に消え行くのを、アスカはうっとりと見送っていた。

 

「んふふふふー、アスカっちー?乙女の顔ですなぁ。

憧れの加持一尉のナイスアシストに目がハートですなぁ。

カワユスなぁカワユスなぁ」

「う、うるさいわよバカナミ!こらっ!抱きつくなっ!頭撫でるなっ!」

 

図星を突かれた恥ずかしさと、レイの過剰なスキンシップに赤面しながらも、

アスカの抵抗は強いものではなかった。

 

 

……

 

………

 

「Ms.葛城?大丈夫ですか?もしや熱でも?」

「な、なんでもありませんのよ副長!?ほほほほ!

太平洋艦隊のご助力に、感謝致しますわ!」

 

そして、戦闘機の消えた方向を赤い顔で見送っていた女は、ここにももう一人。

狼狽のあまり口調がおかしくなっているミサトである。

()()()が見せた思わぬ漢気に、あやうく惚れ直しかけてしまった、という所か。

 

(加持の奴とはもう何も関係ないはずでしょ!しっかりしなさいよ私!

…それにしても、使徒の動き…どうにも()()()()()()()()()()()わ。

海中に逃げようと思えば出来たはず…どうして…?)

 

落ち着くにつれ、浮かぶのは疑問。その答えは出なかった。




読者の皆様の感想を幾つか反映させて頂きました。
海の上を走ったのはリナレイさんじゃなくてアスカさんでしたが…

原作と違い、Yak38改は加持さん自身が動かしてます。
多芸な人だしパイロット免許ぐらいは持っておろう、ということで。

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