新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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27、日独ネルフのみなさん、喫茶室にIN

空母『オーバー・ザ・レインボー』喫茶室。

 

「…迂闊だったわ。加持が来るのは充分想像出来たはずなのに…!」

「何があったか知らないけど、ドンマイッ、葛城一尉!」

 

テーブルの片側にはNERV日本本部より葛城ミサト、綾波レイの二名。

溜め息をつくミサトの肩を、レイがポンポンと叩いた。

 

 

「ふふーん♪加持さんがエスコートしてくれるってだけで、

この退屈な船旅にも価値があるってものよ!」

「ま、そういうことだ。彼女の随伴がてら、

本部の皆様へ御挨拶に伺った…というわけさ。

…自己紹介が遅れたな。NERVドイツ支部、監査部所属…

加持リョウジ一尉だ。改めてよろしく、綾波レイさん」

 

上機嫌に声を弾ませる惣流・アスカ・ラングレーの隣で、加持が飄々(ひょうひょう)と続けた。

名を呼ばれ、「ん?」と首を傾げるレイ。

 

「あたしのコト、知ってるの?」

「そりゃそうさ。エヴァンゲリオン零号機、専属パイロット。

未知の敵を相手に、見事な戦いぶりじゃないか。

俺達の間じゃ有名だよ」

「むぅー…」

 

憧れの人物が自分以外を褒めているとなれば面白くない。

アスカは一転して頬を膨らませ、レイをジト目で睨む。

 

「やぁんもぉー、そんな熱い目で見ないでよアスカっちー。

…でも実際、使徒との戦いでは碇くんに助けられてるけどねー」

「初号機の碇シンジくんか。出来れば彼にも会いたかったな。

()()()()()()()()()()()()()()、聞きたかったんだが」

「えぇっ!?」

 

加持とミサトの過去の関係を何となく察したアスカは、

ややオーバーアクション気味に仰け反った。

 

「な…な…なに言ってんのよアンタはぁッ!?」

「その様子じゃ、相変わらずか」

 

したり顔で口の端を持ち上げる加持。

一方のミサトは、一気に顔に血を昇らせ、声を裏返す。

彼女に叩かれたテーブルがガタン!と音を立て、コーヒーが跳ねた。

 

 

「葛城一尉のは知らないけど、碇くんは寝相いいよ」

「いぃっ!?」

「あと碇くんの寝顔はチョーかわいいよ」

「ハハ、参ったな。最近の中学生は進んでるねぇ」

 

レイの発言に、アスカの表情は百面相。

加持は苦笑しつつも驚きもせず、肩を竦める。

 

 

「…悪夢よ…悪夢だわ…」

 

子供達(チルドレン)の前で汚点を暴露されたミサトは一人、頭を抱えて震えていた。

 

………

 

……

 

 

一時解散後。

甲板にてアスカは手すりに腰を掛け、太平洋に向けて脚を遊ばせている。

一歩間違えば海に真っ逆さまだが、少女のバランス感覚に危なげはなく、

加持は壁に背を預けたまま、彼女を横目に見た。

 

「どうだった?綾波レイちゃんは?」

「頭の軽そうな女!やたらとなれなれしいし、おまけに色ボケ!

あんなのがアタシより先に選出された第一の適格者(ファーストチルドレン)だなんて、幻滅!」

「おぉ、はっきり言うねぇ?」

 

まくしたてるようなアスカに、加持は楽しげに笑い…その後、表情を引き締めた。

 

「だが、彼女の能力や戦果は確かだ。シンクロ率を含めた戦闘データ、知ってるだろ?

天才パイロット・アスカ様といえども、うかうかしていられないんじゃないか?

最近は、ずいぶんと訓練に熱が入っていたようだったしな」

「解ってますよ、加持先輩。好き嫌いと実力の有無は別だわ。

…負けてらんないのよ、アタシは」

 

IQ、身体能力ともに優れていたアスカにはエリートパイロットの自負があり、

シンクロ率80%台に乗った頃には天狗になっていた。

だがある時、加持が()()してきたデータが、他人に興味を持っていなかった彼女を変えた。

 

日本のチルドレン達…

戦闘をこなすごとに上がっていくシンクロ率…

作戦立案能力、機転の速さ…そして純粋な戦闘能力。

 

井の中の(かわず)であったアスカが、その時、大海を見た。

天才ともてはやされ、能力に胡坐をかいて難なくこなしていた訓練から、

自らを追い込み、叩き上げる訓練へと切り替えた。

 

…そうして気合を入れてこの空母に乗り込んだ結果、

レイ本人のお気楽な態度に肩透かしを食らったわけだが…

 

(とはいえ、切磋琢磨できるライバルが出来たのは良い傾向だ。

今まで、アスカに同年代の友人はいなかったからな。

綾波レイへの感情も…嫌い、というよりは、戸惑い、か)

 

潮風に揺れるアスカの赤毛を眺めながら、加持は煙草を咥え、火をつけぬまま揺らした。

 

………

 

……

 

 

「艦長さん、話の解る人だったね?」

「国連軍の将校ともなれば、プライドは高いものだけれど…

書類に上手いことサインもらえたのはレイのおかげよ、ありがと」

「えへへー」

 

ドイツ組から遅れることしばし。

お茶のお代わりを飲み直してようやく落ち着いたミサトは、

緩く笑うレイと共に長い船内エスカレーターに運ばれていた。

 

「…それに加持一尉も、面白そうな人だったなぁ」

「ぐっ、軽いのは昔からなのよ!あの馬鹿(ブヮカ)ッ!」

 

思い出したくない、とばかりにミサトは語気を荒げる。

一定速度で上がっていくエスカレーター…

その終点に、レイとミサトを仁王立ちで見下ろすアスカの姿があった。

 

「…ファーストチルドレン!ちょっと付き合いなさい!」

「お、女の子同士でっ!?でも…アスカっちだったら…あたし…」

「あらーレイちゃんご指名ねー?私はお邪魔かしらん♪」

 

頬を抑えるレイ。ニヤニヤしているミサト。

悪ノリする日本勢に、アスカはガシガシと頭を掻く。

 

「そういう意味じゃない!

アタシに着いてこいって言ってるの!

ミサト!こいつ借りてくわよ!」

「オッケー、楽しんでらっしゃーい♪」

「強引だねーアスカっちは。

あたしの事はアヤナンとかレイちょんとか、

気軽に呼んでくれていいのよ?」

「うっさいバカナミ!さっさと来なさい!」

 

きゃいきゃいとはしゃぐ少女二人を、ミサトは微笑ましく見送った。




アスカさんに「バカナミ」は一度言わせてみたかった。
愛称として割と気に入ってます。

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