新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
空母『オーバー・ザ・レインボー』喫茶室。
「…迂闊だったわ。加持が来るのは充分想像出来たはずなのに…!」
「何があったか知らないけど、ドンマイッ、葛城一尉!」
テーブルの片側にはNERV日本本部より葛城ミサト、綾波レイの二名。
溜め息をつくミサトの肩を、レイがポンポンと叩いた。
「ふふーん♪加持さんがエスコートしてくれるってだけで、
この退屈な船旅にも価値があるってものよ!」
「ま、そういうことだ。彼女の随伴がてら、
本部の皆様へ御挨拶に伺った…というわけさ。
…自己紹介が遅れたな。NERVドイツ支部、監査部所属…
加持リョウジ一尉だ。改めてよろしく、綾波レイさん」
上機嫌に声を弾ませる惣流・アスカ・ラングレーの隣で、加持が
名を呼ばれ、「ん?」と首を傾げるレイ。
「あたしのコト、知ってるの?」
「そりゃそうさ。エヴァンゲリオン零号機、専属パイロット。
未知の敵を相手に、見事な戦いぶりじゃないか。
俺達の間じゃ有名だよ」
「むぅー…」
憧れの人物が自分以外を褒めているとなれば面白くない。
アスカは一転して頬を膨らませ、レイをジト目で睨む。
「やぁんもぉー、そんな熱い目で見ないでよアスカっちー。
…でも実際、使徒との戦いでは碇くんに助けられてるけどねー」
「初号機の碇シンジくんか。出来れば彼にも会いたかったな。
「えぇっ!?」
加持とミサトの過去の関係を何となく察したアスカは、
ややオーバーアクション気味に仰け反った。
「な…な…なに言ってんのよアンタはぁッ!?」
「その様子じゃ、相変わらずか」
したり顔で口の端を持ち上げる加持。
一方のミサトは、一気に顔に血を昇らせ、声を裏返す。
彼女に叩かれたテーブルがガタン!と音を立て、コーヒーが跳ねた。
「葛城一尉のは知らないけど、碇くんは寝相いいよ」
「いぃっ!?」
「あと碇くんの寝顔はチョーかわいいよ」
「ハハ、参ったな。最近の中学生は進んでるねぇ」
レイの発言に、アスカの表情は百面相。
加持は苦笑しつつも驚きもせず、肩を竦める。
「…悪夢よ…悪夢だわ…」
………
……
…
一時解散後。
甲板にてアスカは手すりに腰を掛け、太平洋に向けて脚を遊ばせている。
一歩間違えば海に真っ逆さまだが、少女のバランス感覚に危なげはなく、
加持は壁に背を預けたまま、彼女を横目に見た。
「どうだった?綾波レイちゃんは?」
「頭の軽そうな女!やたらとなれなれしいし、おまけに色ボケ!
あんなのがアタシより先に選出された
「おぉ、はっきり言うねぇ?」
まくしたてるようなアスカに、加持は楽しげに笑い…その後、表情を引き締めた。
「だが、彼女の能力や戦果は確かだ。シンクロ率を含めた戦闘データ、知ってるだろ?
天才パイロット・アスカ様といえども、うかうかしていられないんじゃないか?
最近は、ずいぶんと訓練に熱が入っていたようだったしな」
「解ってますよ、加持先輩。好き嫌いと実力の有無は別だわ。
…負けてらんないのよ、アタシは」
IQ、身体能力ともに優れていたアスカにはエリートパイロットの自負があり、
シンクロ率80%台に乗った頃には天狗になっていた。
だがある時、加持が
日本のチルドレン達…
戦闘をこなすごとに上がっていくシンクロ率…
作戦立案能力、機転の速さ…そして純粋な戦闘能力。
井の中の
天才ともてはやされ、能力に胡坐をかいて難なくこなしていた訓練から、
自らを追い込み、叩き上げる訓練へと切り替えた。
…そうして気合を入れてこの空母に乗り込んだ結果、
レイ本人のお気楽な態度に肩透かしを食らったわけだが…
(とはいえ、切磋琢磨できるライバルが出来たのは良い傾向だ。
今まで、アスカに同年代の友人はいなかったからな。
綾波レイへの感情も…嫌い、というよりは、戸惑い、か)
潮風に揺れるアスカの赤毛を眺めながら、加持は煙草を咥え、火をつけぬまま揺らした。
………
……
…
「艦長さん、話の解る人だったね?」
「国連軍の将校ともなれば、プライドは高いものだけれど…
書類に上手いことサインもらえたのはレイのおかげよ、ありがと」
「えへへー」
ドイツ組から遅れることしばし。
お茶のお代わりを飲み直してようやく落ち着いたミサトは、
緩く笑うレイと共に長い船内エスカレーターに運ばれていた。
「…それに加持一尉も、面白そうな人だったなぁ」
「ぐっ、軽いのは昔からなのよ!あの
思い出したくない、とばかりにミサトは語気を荒げる。
一定速度で上がっていくエスカレーター…
その終点に、レイとミサトを仁王立ちで見下ろすアスカの姿があった。
「…ファーストチルドレン!ちょっと付き合いなさい!」
「お、女の子同士でっ!?でも…アスカっちだったら…あたし…」
「あらーレイちゃんご指名ねー?私はお邪魔かしらん♪」
頬を抑えるレイ。ニヤニヤしているミサト。
悪ノリする日本勢に、アスカはガシガシと頭を掻く。
「そういう意味じゃない!
アタシに着いてこいって言ってるの!
ミサト!こいつ借りてくわよ!」
「オッケー、楽しんでらっしゃーい♪」
「強引だねーアスカっちは。
あたしの事はアヤナンとかレイちょんとか、
気軽に呼んでくれていいのよ?」
「うっさいバカナミ!さっさと来なさい!」
きゃいきゃいとはしゃぐ少女二人を、ミサトは微笑ましく見送った。
アスカさんに「バカナミ」は一度言わせてみたかった。
愛称として割と気に入ってます。