新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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24、ラミエルさん、お空の彼方にIN

午後八時(フタマルマルマル)。夜闇が落ちた第3新東京市。

煌々とした満月がコバルトブルーの正八面体を照らしている。

 

使徒下部から穿孔を続けるシールド・ドリルは等速で進み続け、

地下の特殊装甲は、全22層のうち実に半分以上…13層までもが貫通されていた。

 

遥か下…NERV本部にて反撃を狙う者達は、虎視眈々と牙を研ぐ。

作戦部長・葛城ミサト一尉は、細く長く、息を吸い込んだ。

 

「いいわね、シンジくん、レイ。

この作戦は、A.T.フィールドの中和がカギとなります。

…人類の未来、あなた達に預けるわ!」

「はい!」

「いつでもどーぞ!」

 

碇シンジのエヴァンゲリオン初号機、および綾波レイの同零号機から通信が返る。

シンクロ率は70%台にて安定、ハーモニクス正常…ミサトは頷いた。

 

「まずはデコイを展開!奴の気を引いて!」

 

郊外に、4つの巨大な人影が浮かび上がった。

エヴァの1/1バルーン・ダミー…零号機型と初号機型が2体ずつ。

それらが模擬銃を構えると、使徒の内部に高エネルギーが収束する。

闇を切り裂いて走る、大出力の加粒子ビーム砲…

直撃を受けたダミーが次々と餌食になり、蒸発していく。

 

 

そしてその光は…

 

 

開戦の狼煙(のろし)となった。

 

 

 

「エヴァ零号機、初号機、高速射出!竜騎兵作戦(オペレーション・ドラグーン)…発動!」

 

 

ミサトの号令で、二機のリフトが火花を散らしながら上へ上へと走る。

本来であれば、地上で一度止まって拘束具を解除するところ、

調整を施されたリフトはエヴァ両機を、勢いを殺さずに空中へと飛ばす。

高さ、幅、ともに1kmを超える巨大クリスタルの上方へ、二体の巨人が舞った。

 

ダミーにカマけていた使徒は、そちらへの対応が遅れ…

再び放たれた加粒子ビーム砲は、エヴァの下方をすり抜けていく。

 

「…ぃ良しッ!」

「…っ!」

 

短く快哉するレイ。油断は出来ぬと表情を引き締めるシンジ。

眼下に流れるビームは、さながら破壊エネルギーの奔流。

飲み込まれれば終わり…だが、彼らは第一関門を超えた。

 

「碇くん!最高高度に到達したら、推進装置(スラスター)噴かすよ!」

「解ってる!目標直下、第五使徒!」

「せぇ~~のっ!」

「「フィールド全開!!」」

 

合図を交わした二人は、背部スラスターに点火。

ロケット噴射の白光に落下エネルギーを上乗せした二機のエヴァは

円錐型のA.T.フィールドを纏った二筋の矢となり、

青いクリスタルの表面を砕いて突き刺さった。

 

 

 

初号機が持っているのは耐熱光波防御兵器…すなわち等身大の黒い盾。

元々は宇宙船(SSTO)の底面を加工したものだ。

急造品で不格好ではあるが、表面には電磁コーティングが施されている。

 

大気圏突入時の摩擦熱に耐えうるだけあって、耐熱、耐久性とも折り紙付き。

今回の作戦では、盾自身の尖った下部…船首部分であった所を武器としていた。

 

片や零号機が装備しているのは両手持ちの20型陽電子銃(ポジトロンライフル)

先端に取りつけられた銃剣型の刃(バヨネット)は、プログナイフの開発段階でお蔵入りになっていたものだ。

 

「エヴァ両機、使徒に取りつきました!A.T.フィールド中和!通常兵器、今なら有効です!」

「ナイスよ二人とも!次っ!」

 

伊吹マヤ二尉の報告に、ミサトは拳を握った。

作戦名となった竜騎兵(ドラグーン)は二重の意味を持つ。

エヴァは未知の(フィールド)を破壊する、言うなれば創作の竜騎士(ドラグーン)

続いて攻撃を加える通常兵器は、史実における銃兵(ドラグーン)だ。

 

青葉シゲル二尉と日向マコト二尉が、状況を伝える。

 

「独12式自走臼砲、照準よし!誤射なしで撃てる兵装ビルは、14番から19番です!」

「戦略自衛隊、つくば技術本部より入電!自走陽電子砲、発射準備完了しました!

地球自転、磁場、重力の影響をMAGIにより修正!誤差、0.001%(オースリー)!」

「了解!レイッ、援護射撃に合わせて!…()てぇ!!」

 

列車の線路を利用した自走臼砲が、陽電子の閃光を放ち、

別方向からはその数倍の威力のビーム…

戦自の秘密兵器、大型自走陽電子砲の攻撃が飛んだ。

 

「3、2、1…行ったらぁー!」

 

罅の入った表面を()()にし、銃剣を突き刺して構えていた零号機。

援護射撃が使徒に着弾する瞬間、レイはライフルの引き金を引いた。

零距離射撃…陽電子の光が、間欠泉のように余波を散らしながら、

青い結晶の表面に穴を穿(うが)つ。

 

反対側から飛んだ兵装ビルのミサイルが連鎖爆発。

その光を受け、使徒から砕け落ちた無数の青い欠片が、恐ろしくも美しい光景を彩った。

 

 

 

『ヒイイィィィアアァァァアアアアッ!!』

 

使徒は、無機質な見た目と真逆の、まるで女の悲鳴のような『声』を上げる。

整っていた結晶の表面は、いまや蜘蛛の巣状にひび割れていた。

 

だが敵もさるもの…反撃の加粒子砲が火を吹く。

 

次々と崩壊していく兵装ビル。

続く光の一閃に、独12式自走臼砲を擁していたディーゼル機関車が、

線路と石橋もろとも、丸く切り取られたように()()した。

 

「ッまだまだぁ!デコイ再展開!第二射は!?」

「ヒューズ交換しました!現在、砲身冷却中!」

「使徒、次射体勢!…ヤバい!戦自の陽電子砲が、狙われていますっ!」

「なんですって!?」

 

日向と叫びを交わしていたミサトは、青葉の報告に声を裏返した。

デコイには見向きもしない。これはまるで…

使徒に()()()()()()()()()()()()ようではないか。

 

「いかん!知恵をつけたか!」

 

冬月コウゾウ副司令が狼狽する。

使徒と、戦自の陽電子砲が攻撃を放ったのは同時…

二つの光線は、さながら光の蛇のようにぐにゃりと曲がって軌道を変える。

その結果…

 

「のわぁあ~~っ!?」

「綾波さんっ!?」

 

素っ頓狂な声を上げたレイ。

フィールド中和に従事していたシンジが、彼女を振り返る。

とっさに屈んだ零号機の頭上を、陽電子砲の放ったビームが掠めていった。

 

「だ、大丈夫!野郎(んにゃろ)ぉ~零号機に()()()()が出来る所だったじゃんよ!

どさくさ紛れ(ドサマギ)にあたしを亡き者にする気かー戦自ぃー!?」

「違うわ、加粒子と陽電子が干渉しあって軌道がズレたの!

気をつけて!次に使徒が『脅威とみなす相手』は、エヴァよ!」

 

赤木リツコ博士の警告の直後、再び使徒にエネルギー反応が起こる。

零号機の攻撃は、使徒の体表に穴を開けるだけのダメージを与えていたが、

それが皮肉にも、()()()()()()()()()()()()を、作ってしまった。

 

使徒の()()…開いた穴から斜め上に放たれた細いビームは、

零号機の使っていたライフルを、その()()()()()()()消し飛ばした。

 

バランスを崩し、山吹色の単眼巨人は、使徒の斜面を転がり落ちていく。

 

「あぁうッ!」

 

苦痛に悲鳴を上げながらも、レイは辛うじてレバーを握り、

スラスターを何度か噴かして勢いを弱めながら、地面に受け身を取る…

衝撃そのものと、背からのフィードバックダメージ…

レイの口から空気の泡がLCLに吐き出された。

 

「まずい!使徒の射線上だわ!避けて、レイ!」

 

ミサトの悲鳴が響く…上下のピラミッド接合部に宿る光。

零号機は…動きが鈍い。上体を起こすだけで精一杯だ。

回避は、出来そうにない。

 

(あー…()()()()()は…これで終わりか…)

 

レイは妙に冷静な諦念にかられた。

使徒から、死の光が放たれようとした瞬間…

 

 

 

 

割り込んだのは、紫の鬼。

 

 

スラスター全開で目の前に降り立った、エヴァ初号機だった。

 

 

「碇くん!?」

「ッッ!!ぐ…うぅぅぅっ!」

 

放たれる加粒子砲。襲い来る圧と熱と光。

歯を食いしばり、かろうじて開いた右目で前を睨みながら、

シンジは両手で初号機の持つ盾を保持した。

 

互いのフィールドが中和されている以上、攻撃を防ぐのは盾と装甲。

そして、エヴァ自身のボディのみだ。

理論上、使徒の加粒子砲に17秒耐えられるという盾は、

熱したバターのように溶けていく。

逆光の中に立つ初号機の背中へ、レイはヒステリックに叫んだ。

 

「もういいよ!あたしは戦えない!逃げてっ!」

「嫌だ!綾波さんは…死んでも守るっ!」

「だめ!碇くんは、()()()()()()()()()()()()()()()()

だめぇぇぇぇ―――――っ!!」

『オオオオオオオオオオオッ!!』

 

零号機が咆哮する。レイの赤い眼は、比喩でなく()()()()宿()()()()()

フィードバックの痛みを紛らわすように、脳内物質(アドレナリン)が大量分泌される。

感情の高ぶりから来る涙は、LCLの中に溶けていった。

 

「…碇くんを助けなきゃ…武器、武器、なにか、武器っ!!」

 

渦巻く思考を口走るレイ。それと共に、零号機の腕の切断面に光が宿り…姿を変えていく。

 

「ゼ、零号機、右腕(うわん)復元!?

A.T.フィールドに似た高エネルギー体が、螺旋状に収束していきますっ!!」

「凄い…!」

 

驚愕に満ちた青葉の報告に、ミサトは茫然と呟くことしか出来なかった。

使徒とエヴァ2機の『壁』としてのフィールドは、干渉しあって中和されている。

だがそれとは明らかに()()()()()()()()が、零号機から発せられているのだ。

 

「う、ぁああああああっ!!」

「戦自、陽電子砲!第三射、着弾っ!!」

 

レイの言葉にならぬ叫びと、青葉の報告が重なった。

突き出された零号機の腕は、赤み掛かったまばゆい白光…強烈なエネルギーの螺旋を放つ。

それは奇しくも、時を同じくして撃たれた援護射撃とX字型に交差して、使徒の青い体表を貫通。

コアを直撃した。

 

『キイイイイィィィイオオオオオオォォォォ………』

 

使徒は再び悲鳴めいた断末魔を発して…パターン青は消失した。

 

 

 

初号機が持った盾は飴細工のように溶けて、ほぼ残骸となっていた。

装甲が焼けただれ、立っているのがやっと、という有様…。

それももはや限界で、初号機は膝を突き、ゆっくりと前のめりに倒れる。

 

「碇くんっ!?」

 

レイは、零号機に僅かに残った内部電源を振り絞って初号機に駆け寄った。

カバーを外し、エントリープラグをイジェクトする。

緊急排水されるLCLからは、湯気が立っていた。

 

レイも零号機のプラグを飛び出し、緊急脱出用のロープづたいに地に降りる。

その場にはムッとする熱気が立ち込め、彼女が駆け寄った初号機プラグも、その入口のハンドルも未だ高熱を持っている。

レイはプラグスーツの設定を調整し、両手に循環液を集中させ…ハンドルを掴んだ。

 

「う…ぐ…碇くん…いかりくん…!!」

 

スーツの保護があってもなお、その熱はレイの掌を苛む。

何度も、何度も、彼の名を呼びながら細い腕にあらん限りの力を込めてハンドルを回し…

ついに、扉は開いた。

 

「碇くん!大丈夫!?…碇くん!!」

 

インテリアシートに疲労困憊した身を預けていたシンジは、ゆっくりと眼を開けた。

痛々しいその様子に、彼が生きていた安堵に、こみ上げる想いに、レイの表情が歪む。

 

「っ…うわああああああああん!!」

「あっ、あやなみ、さんっ!?」

 

大泣きしながらしがみついてくるレイに、シンジは目を見開いた。

 

「出撃前に、『死ぬかもしれない』なんてっ…縁起でもないこと言わないでよっ…!」

「…あ…」

「『死んでも守る』なんてっ…自分の命を放り捨てるような事しないでよぉっ…!」

「…ごめん」

 

ひっく、ひっく、と、しゃくり上げながらのレイの言葉に、

シンジは言葉少なに謝りながら、彼女の頭に手を置いた。

レイは無理矢理に笑顔を作り、緩く首を横に振る。

 

「…うぅん。いかりくんは、またあたしを、守ってくれた。だから」

「うん…」

「もうちょっと…このままで…」

「うん…」

 

ハッチから差し込む月の光と、夜の風が、プラグ内の熱と血の香りを僅かに洗っていった。

 

 

 

「…碇。()()より先に『一人目』が目覚めたな」

「何事にもイレギュラーは存在する。シナリオの修正は必要ない」

 

冬月の言葉に、碇ゲンドウ総司令は腕を組んだまま答える。

 

「前回の()()SS(エスツー)機関の発現は確認されなかったはずだが、

零号機のあれは明らかに使徒が使っていた武器と同じ力だ。また委員会が騒ぎ出すぞ」

「問題ない。むしろ我々の手札が増えたのだ。喜ぶべきだよ、冬月」

「レイ自身の事もか?」

「……」

「まぁいい。お前はいつもその調子だ。老人達が煩いのもな」

 

冬月は溜め息をつきながら、事後処理に追われる発令所を眺めた。




テレビ版6話、新劇場版「序」相当が終了しました。
戦術を変えつつも美味しい表現は原作から持ってくるという、
二次創作ならではの良いとこ取りを目指してみた次第です。
次回は原作との差異込みの人物紹介を入れる予定。

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