新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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前回までのあらすじ

シンジ「ペ…ペンペーン!!」
ペンペン「(ヒクッ…ヒクッ…)」
リツコ「毒よッ!毒にやられているわ!」
トウジ「なんちゅうことを…(憤怒)」
ケンスケ「衛生兵!衛生兵ーッ!!」
ミサト「(*´3`)~♪」


19、シンジくん、リナレイさん宅にIN

『事故…ですか?』

『そう、あの時…彼女は頭を打って…それからよ。にわかには信じ難いけれど』

『野菜惑星出身の戦闘民族が、頭を打って穏やかになった例もありますからねぇ』

『それマンガの話やろ?で、実際、大丈夫なんでっか?』

『前は、ちょーっち意思疎通に問題あったし、むしろプラスだと思うわよ?

今の方が話しやすいしねん♪』

 

 

……

 

………

 

ダンッ……ダンッ……

建築作業らしき、工事の打音が響く。

 

碇シンジが向かっているのは、街外れの団地区画。

今日も今日とて朝から暑く、

ドミノのように並んだ灰色の建物群が、陽炎に揺られていた。

 

メモ用紙に書かれた住所は、綾波レイのマンション…

建物の外壁は、ところどころ崩れていて、

窓ガラスに穴が開いた部屋まである。

 

ここに来るまでの道路も、アスファルトがひび割れており、

シンジは、どうしようもなく不安になった。

 

「一応、エレベーターは動いてる…

電気は来てるから、廃墟じゃないんだろうけど…うわっ」

 

エレベーターの扉が開く。

通路には、紙屑やペットボトルが散乱していた。

少なくとも数ヶ月単位で清掃業者が来ていないらしい。

 

気を取り直して通路を進み、たどり着いた部屋には、

確かに【402 綾波】という表札があった。

 

インターホンを押す。

 

………

 

……

 

 

反応がない。

 

「ごめんくださ…」

 

 

バスッ、ボスッ、ドスドスドスッ…!

 

 

部屋の中から聞こえる鈍い連続音に、シンジの挨拶が途切れた。

外で聞こえる工事音とは別の、柔らかいモノを叩く音。

 

何かを、殴る音?

 

何者かが部屋に押し入って、

レイが暴力事件に巻き込まれたのでは…!?

不吉な想像が、シンジの脳裏をよぎった。

 

「綾波さん!?」

 

ドアには鍵が掛かっていなかった。

あっさり回ったドアノブが、シンジを余計に焦らせる。

飛び込んだシンジの視界に、殺風景な部屋の光景が広がった。

 

打ちっぱなしのコンクリートが露出した壁。

奥には血らしき染みのついた枕を乗せたベッド。

小さなタンスと冷蔵庫…そして…

 

 

「っしゃーおらー!」

 

気合…というには少々不思議な声を上げながら、

スタンドに吊るされたサンドバッグ相手に、連撃を加えている綾波レイがそこにいた。

 

黄色と白…横縞柄(ストライプ)のスポーツブラを纏った上半身からは、

ワンツーパンチに合わせて汗の玉が散る。

 

黒のスパッツからスラリと伸びた足が、鞭の様なミドルキックを決めた。

キィ、キィ…と鎖が鳴き、サンドバッグは左右に揺れる。

 

シンジは、しばし茫然とレイのモーションに見入っていた。

自分の想像が杞憂だったから安心した、というのもある。

しかしそれ以上に、レイのその動きが、その姿が、美しかった。

 

「…っふー…あれ、碇くん?なんでここに?

あ、ヤバッ、あたしカギ閉めてなかった?」

 

振り返りざまの、呑気なレイの声…。

 

 

(なんでここに?

そうだ、僕は綾波さんに用があって来たんだ。

なんだっけ。渡すものが。ええっと。

あぁ、綺麗だな、綾波さん。

…違う、そうじゃない。

僕は、なにを、混乱して、考えが、まとまらな…)

 

 

「ご、ごごごごめん!なんか、音がしたから!

別に僕は、勝手に上がるつもりじゃなくてっ、その!

カ、カード!カードが、新しくなったから、届けてくれって!

あぁあ!ごめん、靴脱いでなかった!」

 

トマト色の顔から湯気を噴きながらテンパるシンジ。

べちっ、という痛そうな音を立て、レイは彼の両肩を勢いよく叩いた。

レイの赤い瞳が、シンジの見開かれた黒目を見据える。

 

「落ーちーつーけー!まず息を整えて!

はい深呼吸ーっ!ひっひっふー!ひっひっふー!」

「そ、それラマーズ法!深呼吸じゃないよ!?」

 

「はーいどうですかー碇さーん、生まれそうですかー?」

「生まれないよ!?お腹撫でないで!」

 

「うん、今日もツッコミがキレてるね!

これだけツッコめるなら大丈夫そうだね!

…ツッコめるですって!?碇くんのえっち!」

「僕何も言ってないよ!?」

 

レイがボケて、シンジがツッコむ。

そんなやりとりが5分ほど続いた後…

 

「な…なんで僕、こんなに疲れてるんだろ…」

「いやー。碇くんってば良い反応してくれるから、

つい楽しくなっちゃって…メンゴ」

 

orz(よつんばい)でゼーゼー言っているシンジ(靴は脱いだ)を見て

レイは冷蔵庫から2リッターのペットボトルを取り出し、

清涼飲料(スポドリ)を二人分のコップに注ぐ。

 

 

「で、なんぞ?カードって?」

「うん、綾波さんの新しいID。リツコさんに頼まれて」

「赤木博士から?おー、ありがと!

危うくNERV本部の前で立ち往生するところだったわ!

ま、飲みねぇ飲みねぇ。熱中症対策は大事だから。

水分と必須アミノ酸を身体中に巡らせておきんさい」

 

カードを受け取ったレイは、コップの中身を一気に飲み干し、

肩に掛けたタオルで顔の汗を拭うと、早々にお代わりを注いだ。

 

彼女とは対照的に、シンジは喉を湿らせるようにチビチビとドリンクを啜る。

一息つくと、シンジは改めて灰色の部屋を見回した。

 

「その…綾波さん、凄い所に住んでるね。不便じゃない?」

「電気・ガス・水道…一通りのライフラインは揃ってるし、住めば都だよ。

こんな見た目でもエアコンは効いてるし、Wi-Fi環境もあるしね。

電話一本で通信販売(ツーハン)は来るし、別に不便って(こた)ぁない。

…あと、武骨なコンクリの壁って()()()っぽくて超カッコよくね?」

 

ベッドに腰かけ、レイはニヤリと笑う。

5本の指で上から掴んだコップをゆるやかに弄ぶと、

半分ほど残ったスポドリが静かに波打った。

 

「カッコいいっていうか、ちょっと怖い、かな。

周りの建物は妙に荒れてるし、治安が心配だよ。

それに、さっき鍵、閉め忘れてたじゃないか」

「あー、そこはあたしの不注意だった。

今は呼び鈴(ピンポン)もブッ壊れてるしね。

でもまぁ、来たのが碇くんで良かったよ」

「どういうこと?」

「碇くんには、あたしを押し倒すような度胸はないっしょ?」

「お、押したっ…!?」

 

シンジには短絡的な行動に及ばないだけの理性はある。

だが年頃の男としての欲求もあり、理性のタガが外れる可能性も然りだ。

 

そういえばレイは、四肢もヘソも露わなスポーツウェア姿のままだった。

仲間として信頼されているのか?

それとも単に無害な存在として見られているのか?

 

…いや、第三使徒戦の前、エヴァ初号機のエントリープラグの中で

レイはシンジの()が反応していたのに気づいていた。

体育の授業中も、わざわざプールから挑発するようなことを言ってきた。

レイとてシンジに人並みの性欲がある事は理解しているはずだ。

 

胸の中のモヤモヤした何かに駆られてシンジは立ち上がり、

ベッドに腰かけたレイを、見下ろす。

 

「ぼ、僕だって男なんだからさ!

綾波さんの、そんな無防備な姿を見せられたら…」

()()()()()()()?」

 

 

次の瞬間。

 

 

シンジは左手首と右肩を掴まれるのを感じ。

 

 

ベッドの上に仰向けになって。

 

 

レイに、マウントされていた。

 

 

「忘れちゃった?

あたしはNERVで年単位の訓練受けてるんだよ?

…無防備なのは碇くんじゃないかなぁ?

丸腰であたしの領域(テリトリー)に入ってきたんだからさ」

 

 

彼女の不敵な笑みと、灰色の天井が視界に広がる。

 

あっ

ここも

知らない天井だ

 

シンジの思考は、場違いなままに固まっていた。




この後めちゃくちゃ以下略
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