新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
中層マンション・コンフォート17。葛城ミサトの部屋。
夕食の鍋には、焦茶色の水っぽい何かが満たされている。
「なによこれー!?」
ミサトの親友、赤木リツコの叫びが全てを現していた。
「ミサトさんお手製のカレーです…
トウジ、ケンスケ…ご飯は大盛りでいい?」
死んだ魚のような目で配膳するミサトの同居人、碇シンジ。
女性の手料理が食べられる、という事で
ウキウキしながら正座待機していた友人達はというと…
「い、いや!俺は少な目でお願いするよ!
俺、わりと食が細いし、残しても悪いしさ!ハハハ…」
声と顔を引きつらせた、相田ケンスケ。
「ワシも…なんちゅうか…スマンかったな…シンジ…」
テンションお通夜状態の鈴原トウジ。
「ク…クァァ…」
ペット用の皿に盛られたカレーライス
弱弱しく鳴き声を上げるのは、
葛城家のもう
「あ、シンちゃーん!私はここにカレー入れちゃって!どっぷゎぁ~っと!」
「正気ですか!?」
一人ご満悦なのは、このカレー
サイズ1.5倍(当社比)のカップラーメンを差し出したミサト。
混沌が、そこにあった。
…少なくとも、夕食の前までは平和だったのだ。
そう、この時までは…
**2時間半前・下校途中**
「シンジー!いい加減白状しろよ。
あんな美人と一緒で、何もない訳ないだろ?」
「お、大人の階段を昇ってしもうたんか…センセェ!」
「だから何にもないってば!もう、二人ともしつこいなぁ~」
**2時間前**
「お帰りなさいシンジくん。相田くんと鈴原くんも、ゆっくりしていってね?
仲直りしてくれて私も嬉しいわ。これからも、シンジくんをよろしくね!」
「「はい!ミサトさんっ!」」
「はぁ…」
**1時間半前**
「クェー?」
「なんか…二足歩行の鳥がおりまっせ?」
「あぁ、彼?新種の温泉ペンギンよ。名前はペンペン!可愛いでしょー?
シンジくんってば、始めて家に来た夜…お風呂で鉢合わせちゃって…
ぷぷっ、
「ミサトさんっ!?」
「センセェ…
「ちなみに普通サイズだったわよ?」
「ミサトさんっ!!」
「シンジはふつーサイズ。ちぃ、おぼえた」
「ちぃって誰やねん…」
**1時間前**
「あの、やっぱり僕が作りますよ…」
「いいのよー、シンちゃんは座ってて?ふふーん♪
せっかくのお客様だし、ちょーっち腕をふるっちゃうわよん♪」
「嫌な予感しかしない…」
**30分前**
「お邪魔するわね。あら、シンジくんのお友達?こんばんは」
「どうも、リツコさん、こんばんは」
「金髪のクールビューティー…これは絵になるぞぉー!
すいません!写真撮らせて頂いてもいいですか!
全身とバストアップを!それと後でミサトさんとの2ショットも!」
「はァ~…ホンマNERVは
こりゃあ華やかな夕食になりそうやなぁ!」
「悪い気はしないけれど、褒めても何も出ないわよ?フフフッ」
**そして、現在**
「「「「う゛っ」」」」
スプーンを口に運んだリツコ、シンジ、トウジ、ケンスケの呻きが重なった。
カレーの風味は、ほんのりと残っている程度。不自然に甘くて、苦くて、しょっぱい。
「ミサト…レトルトを原料に何故こんな味になるの!?」
「んー?量を確保する為にお水でしょー?味が薄くなるからお醤油でしょー?
元が甘口カレーだからお砂糖入れてー…隠し味に飲みさしのビール!
ラーメンに入れる時は、スープとお湯を少な目にしとくのがコツよん♪
行けるのよーこれが!最初からカレー味のラーメンじゃ、この深みは出ないのよ!」
「ミサトさん…隠し味が隠れてないです…
カレーの甘口と、砂糖の甘さは別物です…
あと、そのラーメンが『行ける』のは人工の旨味です…
カップラーメンの科学調味料でマシになってるだけです…」
「ど、独創的なカレーですね!
初めての味でっ、お、俺、なんか、涙がっ…!」
「ケンスケ、顔真っ青でフォローせんでええって…
ワシ、次来る時はシンジが当番の時に頼むわ…」
ズルズルと美味そうにカレーラーメンを啜る家主。消沈する他の面々。
ドサ、と何かが倒れる音に、シンジが様子を見にいくと…
「あぁっ、ペンペン!ペンペェーン!!」
「グ…グァ…」
一口食ってそのまま横倒しになり、ヒクヒクと痙攣する哀れなペンギンがそこにいた。
リツコは深い溜め息をつき、困ったような笑みを浮かべる。
「シンジくん、やっぱり引っ越しなさい?
ガサツな同居人のせいで、人生を棒に振ることはないわよ?」
「もう慣れました…それに、普段の食事は僕が作りますから」
「この分だと、普段の掃除もシンジくんの担当ね?」
「はい…初めて来たときは『ちょっち』散らかってました…
ビールの空き缶と、カップラーメンの容器と、ゴミ袋で」
なんとか息を吹き返したペンペンを撫でながら、シンジは淡々と答える。
リツコは悟った。ミサト基準の『ちょっち』はゴミ屋敷だ。間違いなく。
「赤木博士、人間の環境適応能力を侮ってはいけないわ!」
「
「
シンジくん、
「カード…そうだわ、忘れてた!」
むくれるミサトを他所に、リツコはバッグを探って一枚のカードを取り出した。
「レイの更新カード、渡しそびれたままになってたの。
シンジくん、明日NERV本部に行く前に、彼女の所に届けてもらえるかしら?」
「あ、はい…ん?」
IDカードを見たまま、シンジの動きが止まる。
綾波レイの顔写真…その表情は、まるで人形のように冷たく、
ある意味、ゾッとするような美しさがあった。
「なんやセンセェ、綾波の写真、ジーっと見おってからに」
「いや…綾波さんらしくない表情だな、って」
「俺とトウジが見慣れてるのは、こっちの綾波だよ。
そうだ、ミサトさんとリツコさんがいるんだし、聞いてみようぜ?」
級友達の言葉は、肩越しにシンジの手元を覗きながらのもの。
状態異常:毒から回復し、ようやく、本来の目的を思い出した所だ。
「あぁ、それはね…」
リツコは機密に触れぬ範囲で、レイが変わった時の事を話し出した。