新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
地上。エヴァンゲリオン初号機の
綾波レイが『キモカワイイ』『おいしそう』などと呑気な事を言っていたその姿。
第一印象では、複数の海洋生物を掛け合わせたように見えたが、
鎌首を持ち上げる様は、むしろ獲物を狙う毒蛇のようにおどろおどろしい。
使徒の頭部両脇、T字型の突起からは、まばゆいピンクがかった光が波打ち、揺らめいている。
第三使徒の武器が
「A.T.フィールド展開…目標をセンターに…」
訓練通りに…作戦通りに。シンジは思考を巡らせながら、
照準の中心に敵を収め、レバーを握り込む。
そして、人差し指でスイッチを押した。
パレットガン…エヴァ用の
劣化ウラン弾の嵐が使徒のコア目掛けて叩きつけられる。
だがそこで、シンジは実戦が何たるかを思い知らされた。
インダクションモード…訓練では、着弾による爆煙は再現されなかった、という事を。
「…っ!?煙で見えない…!ミサトさん!!」
「敵の側面に回って視界を確保!足を止めたら不意打ちを喰らうわよ!」
指示を求められた葛城ミサト一尉は、咄嗟にシンジへと答えた。
一度撃ち方を止めて地面を蹴り、サイドステップする初号機。
煙の中から光の鞭が伸び、先程まで初号機がいた地点を薙ぐ。
危うい攻防に、シンジは背筋がゾッとするのを感じた。
噴き出した冷や汗がLCLに溶けていく。
「このっ!」
シンジは使徒の横に回り、距離を取りながら再びパレットガンを斉射した。
順調にダメージを蓄積させていた攻撃…
だがある時、連続した硬質音と共に、空中に現れた光のモザイク・タイルが弾丸を弾く。
(A.T.フィールド!?そうか、離れすぎて中和できる距離を外れたんだ!)
兵士が長生きするためには臆病さこそ重要、とは言われるが…今回は引き過ぎた。
回頭し、再び正面を向いた使徒が、鞭を振るう。届かぬはずの一撃。
…だが初号機のA.T.フィールドが『見えない何か』を防ぎ、
空気が破裂する大音響に、シンジの足が竦んだ。
「使徒の鞭の先端は、音速を超えていますっ!」
「ソニックブームだわ…!」
青葉シゲルの分析報告に、赤木リツコ博士が驚愕の声を漏らす。
『戦闘機などが音の壁を超えた時に起こる衝撃波』…
シンジは、友人の相田ケンスケが目を輝かせながら語った軍事知識を思い出した。
(迂闊に近づけない。でも近づかなければ有効打は与えられない)(どうする…どうする!?)
シンジの動揺が、戦いの均衡を崩した。
使徒は這うように低空飛行で迫り、フィールドを中和…
二本の鞭を縦横に、無茶苦茶に、出鱈目に振るい、
初号機を四肢と言わずボディと言わず打ち据え、打ち倒す。
文字通り、全身を鞭打たれる痛みに苛まれるシンジ…
弾の切れたライフルが、そして防壁ビルが見る間に細切れにされ…
「ケーブル断線!エヴァ初号機、内部電源に切り替わりました!
活動限界まで残り5分…あぁっ!?」
エヴァに電力を供給する
それを伝えた伊吹マヤが叫んだ時、初号機は光の鞭に足首を絡め取られ、空中に放られた。
小高い山の斜面に仰向けに叩きつけられる初号機。
浮遊感と落下の衝撃に呻きながらも、
立ち上がろうとしたシンジは、視界の隅に
「相田…!鈴原…!?」
自分を殴りつけた生徒、鈴原トウジと、彼を止めようとした初めての男友達ケンスケ。
初号機の巨大な指の隙間で、シンジと因縁浅からぬ二人が怯え、震えていた。
NERVの頭脳とも言えるスーパーコンピューターMAGIが
二人の身元を割り出し、発令所のモニターに表示する。
「シンジくんとレイのクラスメート!?」
「何故こんな所に!」
「第334地下避難所のロックが外れています!内部から解除された模様!」
ミサトとリツコの疑問に、周辺情報を探っていた日向マコトが答えた。
(…何故、こんな時に、厄介な事を)
ミサトは唇を噛んだ。
言いたい事は山ほどあるが、決めるべき事もまた然り。
シンジへの指示は交戦か撤退か。民間人は救出するや否や…
だがその時、もう一つのカードが
「零号機、スタンバイOK!」
「葛城一尉ーッ!あたしいつでも行けるよ!
マヤの報告に、どこぞの吸血鬼漫画みたいなセリフを吐くレイの声が重なった。
ミサトの表情が、いっそ凶暴な笑みに転じる。
「シンジくん!いま
出来れば二人にシェルターへの退避を促して!」
「りょ、了解!」
「いいわよ、レイ!出撃!」
「待ぁってましたぁ!ちょっくら捕らわれの王子様を助けに行ってくるわ!
あとついでに
エヴァンゲリオン零号機…山吹色の
お転婆な美少女操者は
『ちょっとコンビニにプリン買いに行ってくる』
ぐらいのノリで、戦場へと飛び込んでいった。