新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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前回までのあらすじ

ゲンドウ「ヒゲ剃ってから対人コミュが不安でござる(´・ω・`)」
冬月「あれは精神防壁だったのか…」


8、リナレイさん、学校生活にIN

第3新東京市、第壱中学校に編入学したものの、碇シンジは教室では孤立しがちだった。

 

おはよう、と挨拶をされれば、おはよう、と返すことは出来る。

いかにも真面目そうなクラス委員長からは、

「解らない事は何でも聞いて欲しい」

とは言われている。

 

だが、それで終わってしまう。

知らない街。知らない道。知らない天井。知らない人々。

人との距離を測りかねているシンジは、それ以上を踏み込む事を躊躇っていた。

 

ヤマアラシのジレンマ。

近づきすぎれば互いの針で相手を傷つけ、離れすぎれば凍えてしまう。

そのジレンマの狭間に、シンジはいた。

 

 

 

「おっはよー!っはー、間に合ったぁ!」

 

とある朝。教室に響いた女子生徒の声に、クラスの皆が眼を疑った。

 

綾波レイ。しばらく前に怪我をして入院した、青髪に赤眼の寡黙な…

いや、寡黙「だった」少女が、息を切らせながら教室に入ってきたのだ。

 

「あ…綾波さん!?」

「おっ、おはよー!碇くん、このクラスに転校してきたんだね。これからよろしくね!」

 

息を整えつつ、シンジの席の傍に歩み寄るレイ。

 

「う、うん。綾波さん、もう怪我は大丈夫なの?」

「ん、ばっちり!でも時間ギリギリでさ、パン咥えて走っちゃったよ。

退院早々遅刻しちゃ流石にマズいって感じだよねぇ~」

「あ、あはは…」

 

楽しそうに談笑する二人を見て、クラスの面々は思う。

 

 

綾波ってあんな奴だったか?

ボソボソ話す事すらレアなアイツのあんな声、聞いたことあったか?

…そして、その綾波と親し気に話してるあの転校生は何者なんだ?

 

 

疑問が巡る中、一人の女子生徒がおずおずと近づき、紙束を差し出した。

 

「あの、綾波さん。これ、休んでた間のプリント…」

「お!ありがとね、ヒカリちゃん!」

 

満面の笑顔。素直なお礼。名前にちゃん付け。

綾波レイが今までしたことがない、ありきたりな行動。

この2年A組を見てきた委員長、洞木ヒカリでさえ、彼女のそんな一面を見るのは初めてだった。

 

 

程なく、担任の老教師が入ってきて、ヒカリの「起立、礼」の号令でホームルームが始まった。

 

授業の合間にいきなりセカンドインパクトの苦労話を始め、

『その頃、私は根府川に住んでましてねぇ…』

という口癖から、彼はネブカワ先生の仇名で親しまれている。

 

皺の刻まれた温和な顔…のんびりとした口調で、ネブカワ先生は名簿をチェックする。

 

「ではー、出席を、取ります。えー、相田くん」

「はい」

「あー、秋月さん」

「はい」

「綾波さん」

「はーいっ!」

 

ネブカワ先生はボールペンを持ったまま、レイを見て…

 

「…あー、綾波さん、今日はー、とてもー、元気ですね」

 

(え、『元気』で片付いちゃうの!?)

(綾波、完全に別人だよなぁ?)

(ネブカワ先生、大物すぎんだろ!)

 

生徒達の声にならない声が、教室に満ちていた。

 

「えー、出席、続けます。碇くん」

 

(みんな、なんで綾波さんの事を不思議そうに見てるんだろう…?)

 

「…碇くん?」

「あ、はいっ」

 

反応が遅れ、慌ててネブカワ先生に答えるシンジ。

奇妙で平和な一日が始まった。


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