新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
ゲンドウ「ヒゲ剃ってから対人コミュが不安でござる(´・ω・`)」
冬月「あれは精神防壁だったのか…」
第3新東京市、第壱中学校に編入学したものの、碇シンジは教室では孤立しがちだった。
おはよう、と挨拶をされれば、おはよう、と返すことは出来る。
いかにも真面目そうなクラス委員長からは、
「解らない事は何でも聞いて欲しい」
とは言われている。
だが、それで終わってしまう。
知らない街。知らない道。知らない天井。知らない人々。
人との距離を測りかねているシンジは、それ以上を踏み込む事を躊躇っていた。
ヤマアラシのジレンマ。
近づきすぎれば互いの針で相手を傷つけ、離れすぎれば凍えてしまう。
そのジレンマの狭間に、シンジはいた。
「おっはよー!っはー、間に合ったぁ!」
とある朝。教室に響いた女子生徒の声に、クラスの皆が眼を疑った。
綾波レイ。しばらく前に怪我をして入院した、青髪に赤眼の寡黙な…
いや、寡黙「だった」少女が、息を切らせながら教室に入ってきたのだ。
「あ…綾波さん!?」
「おっ、おはよー!碇くん、このクラスに転校してきたんだね。これからよろしくね!」
息を整えつつ、シンジの席の傍に歩み寄るレイ。
「う、うん。綾波さん、もう怪我は大丈夫なの?」
「ん、ばっちり!でも時間ギリギリでさ、パン咥えて走っちゃったよ。
退院早々遅刻しちゃ流石にマズいって感じだよねぇ~」
「あ、あはは…」
楽しそうに談笑する二人を見て、クラスの面々は思う。
綾波ってあんな奴だったか?
ボソボソ話す事すらレアなアイツのあんな声、聞いたことあったか?
…そして、その綾波と親し気に話してるあの転校生は何者なんだ?
疑問が巡る中、一人の女子生徒がおずおずと近づき、紙束を差し出した。
「あの、綾波さん。これ、休んでた間のプリント…」
「お!ありがとね、ヒカリちゃん!」
満面の笑顔。素直なお礼。名前にちゃん付け。
綾波レイが今までしたことがない、ありきたりな行動。
この2年A組を見てきた委員長、洞木ヒカリでさえ、彼女のそんな一面を見るのは初めてだった。
程なく、担任の老教師が入ってきて、ヒカリの「起立、礼」の号令でホームルームが始まった。
授業の合間にいきなりセカンドインパクトの苦労話を始め、
『その頃、私は根府川に住んでましてねぇ…』
という口癖から、彼はネブカワ先生の仇名で親しまれている。
皺の刻まれた温和な顔…のんびりとした口調で、ネブカワ先生は名簿をチェックする。
「ではー、出席を、取ります。えー、相田くん」
「はい」
「あー、秋月さん」
「はい」
「綾波さん」
「はーいっ!」
ネブカワ先生はボールペンを持ったまま、レイを見て…
「…あー、綾波さん、今日はー、とてもー、元気ですね」
(え、『元気』で片付いちゃうの!?)
(綾波、完全に別人だよなぁ?)
(ネブカワ先生、大物すぎんだろ!)
生徒達の声にならない声が、教室に満ちていた。
「えー、出席、続けます。碇くん」
(みんな、なんで綾波さんの事を不思議そうに見てるんだろう…?)
「…碇くん?」
「あ、はいっ」
反応が遅れ、慌ててネブカワ先生に答えるシンジ。
奇妙で平和な一日が始まった。