新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN   作:植村朗

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プロローグ
リナレイさん、第伍話冒頭にIN


「ダメです!信号を受け付けません!」

 

NERV本部、第二実験場にオペレーター達の緊迫した声が交錯する。

汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン零号機の起動実験。

突如暴走した零号機は停止信号も受け付けず、制御不能に陥っていた。

 

白い灯りに照らされた実験棟と、薄暗いオペレーティングルームを隔てる分厚い強化ガラス。

 

それが山吹色の一つ目巨人(キュクロプス)を思わせる零号機の拳に何度も殴りつけられ

蜘蛛の巣のようなひび割れが広がっている。

 

自動射出装置(オート・イジェクション)が作動し零号機のコックピット…エントリープラグが強制排除された。

 

「いかん!」

 

実験を見守っていたNERV総司令・碇ゲンドウは、普段の冷静沈着ぶりからは想像もつかぬ切迫した声で叫んだ。

 

ジェット噴射により、零号機から弾き出された円筒形のプラグは実験棟の天井にぶち当たり、壁にぶち当たり、隅にぶち当たって…

 

やがて推進剤が切れ、重力に従って落ちていく。

 

「レイッ!」

 

パイロットの名を呼ぶゲンドウ。金属質の重い落下音がした。

プラグ内の内用液(LCL)が緩衝材になるとはいえ中のパイロットには相当な衝撃が行っているはずだ。

 

零号機はパイロットを失ってなお暴れ続ける。

まるで人が精神を病んで自らを痛めつけるがごとく。

何度も何度も壁に頭突きを繰り返し…

 

予備電源がゼロになってようやく、頭を壁にめり込ませて停止する…

 

「レイッ!」

 

ゲンドウは再び名を呼びながらプラグに駆け寄り、入口に手を伸ばす…

ジュ、と『焼け付く』音。

 

「ッ、ぐぅぅっ!」

 

金属のハンドルは高熱を帯びており、ゲンドウは呻いて後ずさった。眼鏡が落ちる。

 

だが彼は迷わなかった。眼鏡を拾う暇も惜しんでハンドルを再び握り、回し始める。

両手の皮と肉が焼ける激痛に歯を食いしばり…回し続け…ついに、扉が開いた。

 

生暖かいオレンジ色のLCLが流れ出し、濃厚な血の匂いが広がる。

 

…白いプラグスーツ…いわゆるパイロットスーツ姿の少女が、震えていた。

プラグの内壁に側頭部をぶつけたか、白磁の顔には血の筋が幾つも流れている。

 

「レイ!大丈夫か!?レイッ!!」

 

少女…綾波レイはゆっくりと顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

「…っ、痛ぁ―――っ!大丈夫じゃないよぉ!めっちゃ痛いわ!」

 

「…えっ」

 

その場をつんざく少女の大声に、ゲンドウも、オペレーターや科学者達も目を見開いた。

 

綾波レイは、さながら人形のような寡黙な少女だった。

感情の起伏も現さず、淡々と、最低限の事しか喋らない。

この実験が始まる前もレイは「はい」「問題ありません」程度しか口にしなかった…

 

それが今はどうだ。

 

年相応の不機嫌な顔で、そして同時に手負いの獣のように「うぅー!」と喉を唸らせている。

 

「ちょっとー責任者呼んでこーい!ってか碇司令いるじゃん!

司令が最高責任者じゃん!つーか何よそのヒゲ!剃れ!

「!?」

 

ビシィ、と指差すレイ。ゲンドウはアゴヒゲに触れ、目を見開いた。

オペレーティングルームで、何人かが肩を震わせていた。

 

…碇ゲンドウはNERV総司令…つまり組織の『いちばんえらいひと』だ。

 

本人的にはカッチョイイと思っている、威厳を出すためのヒゲを。

若い女子職員とかには「司令ってムサいよね♪」と思われつつ誰も口に出せないそれを。

 

よりによってお気に入りの美少女中学生パイロットに『剃れ!』とか言われて茫然としてても、誰も笑っちゃあダメなのだ。給与査定とかに響くのだ。

 

(((笑っちゃダメだ。笑っちゃダメだ。笑っちゃダメだ…!)))

 

状況を打開したのは、数人の足音と、寝台(ストレッチャー)の車輪の音だった。

 

「あー、来た来た!衛生兵(メディック)衛生兵(メディッーク)ッ!

って、痛い痛い!優しく運んで優しくー!」

 

実際痛いのだろうが、その痛みを訴える声すらどこか能天気なレイ。

 

彼女が駆けつけた医療班に担ぎ出され、静寂が再び訪れるまで

第二実験場は困惑に包まれていた。

 

キュラキュラと遠ざかる寝台の音を背にゲンドウは、ただ立ちつくし…

流れ出したLCLに沈んだゲンドウの眼鏡が、パキ、と音を立ててひび割れた。

 

「剃るか…」

 

ぼそり、力ない呟きは、誰にも届かなかった。




碇司令が例のヒゲ剃りCM出演する事になった経緯です(大嘘)

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