SAO ~絆で紡がれし勇者たち~   作:SCAR And Vector

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シリカとの修行 3

 シリカと修行を始めて、1週間と5日が経った。シリカの修行も第2ステップに移り、ほぼ全ての敵mobに順応出来るようになっていた。

 

 レベルも9つも上がり、要求値に達したところで装備も多少新調し、俺が譲ったフィールドボス攻略で手に入れた短剣「ジャック・ザ・リッパー」を主武器にしている。

 防具も強化を施し、チェストガードをブロンズからジュラルミン製にランクアップさせていた。

 

「よし、もうほとんどのmobの攻撃は避けれるようになったな」

 

「はい!ユーマさんの指導のお陰です!」

 

 満面の笑みを浮かべるシリカの成長を素直に喜び、1つ、伝えねばならない事をここで告げる。

 

「シリカ、心して聞いて欲しい事があるんだ」

 

 突然のシリアスな雰囲気に、シリカは戸惑っているようだ。俺は構わず言葉を繋いでいく。

 

「もう俺が君に教えることは何もない。だから最後に、卒業試験としてフロアボス攻略に行ってみないか?」

 

 この発言に、シリカは驚きを隠せないようだった。

 

 事実、もう俺がシリカに教える事は無くなってきていた。レベルも俺と大差ないし、これならば前線で戦う事だって出来るだろう。

 

 

 だからこそ俺は、シリカに俺の元を離れてもらいたいと思うようになっていた。彼女が前線で戦えば、それだけクリアへの道が短くなるのだ。そして、様々なパーティを転々としてこのSAOという世界を学んで欲しい。

 

 シリカの成長のために、俺が彼女をいつまでも縛り付けていい理由がない。少し寂しくなるが、彼女には俺の元を離れてもらわねば。

 

 そうシリカに告げると、シリカは口を結んで俯いてしまった。

 

 もしかしていきなりで泣かせてしまったかと思ったが、シリカは少し間を置くと、顔を上げた。

 

「わかりました。私、ボス攻略に挑戦してみます!」

 

 真剣な眼差しで、シリカはそう告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、早朝に届いた救援要請に参加の意を表明し、俺たちは準備を整えるために主街区『ツェンティ』へやってきていた。なんでも、先日ようやく偵察隊を派遣したギルド『ドラゴンナイツブリゲード』によれば、ボスは亜人種系統の大型モンスターらしく、状態異常系のデバフを繰り出すとの報告が来ていた。

 

 故に俺たちは解毒、麻痺の解除ポーションを買いに来ているのだ。

 

「すみません、解毒と麻痺のポーションを10本ずつ、それとミドルポーションを5本下さい」

 

「毎度あり!」

 

 NPCショップ店員が指定した本数のポーションを草籠に入れ、渡してくれる。

 

 俺はそれを受け取り、コルを支払って売買を終える。シリカもそれに続くのを見て、買いたてのポーション達を腰のアイテムポーチに並べて入れる。こうする事で、緊急時でメニューを開いてアイテム欄に行き、ポーションを有効化しなくてもポーチから取り出せば素早く回復出来るのだ。

 

 俺のポーチには万が一の回復結晶とポーション類、さらに希少価値が高く、値段も高騰している「丹」が収納されている。

 丹は、自分の体力を持続的に減らすデメリットがあるが、その分最高位の攻撃力アップのバフが自分の好きなタイミングで付与出来る多大なメリットがある。連撃出来ないカタナの一発一発の重い攻撃に乗算出来ればダメージディーラーとしては充分役割を果たせるだろう。

 

 シリカも買い物を終え、俺たちはその足で鍛冶屋へ向かった。

 

 NPCに現時点での最高装備のメンテナンスを頼み、耐久値を回復してもらう。ボス戦に向けた攻略会議までやる事もないので、俺たちは鍛冶場へお邪魔させてもらう事にした。

 

 愛刀の「妖刀 村正」の刀身が竃に突っ込まれ、ふいごから送られた空気によって激しく燃焼する炎に包まれる。やがて刀身が白く輝き始めると、鍛治士によってアンビルの上で叩かれる。

 

 規定の回数叩き終わったNPC鍛治士は、グラインダーで刀身を研磨し始める。赤い火花が散り、完成された村正は刀身が鏡のように反射していた。一点の曇りのない刀身を鞘に納め鍛治士にコルを支払う。シリカの分も終え、俺たちは少し余裕を持って攻略会議の会場へ向かう。

 

 開始20分前だが、会議場所の噴水前広場には多くのプレイヤーが集合していた。

 

 俺たちは手頃なベンチに座り、会議の開始を待っていると、ふとバリトンボイスに声を掛けられた。声がする方に目を向けると、そこにはツーハンドバトルアックスを背負う巨漢エギルの姿があった。

 

「よう、ユーマも今回は参加するのか」

 

「ああ、総指揮のリンドさんから救援が来てな。前回の攻略戦には不参加だったから参加しないとなって」

 

「お、シリカの嬢ちゃんじゃねぇか。どうだぁ?元気にやってるか?」

 

 そう言ってエギルがニヤリをシリカに笑みを向ける。シリカもそれに応え、勿論です、と力こぶを作ってみせた。エギルはそれを見て陽気にサムズアップを返す。お陰でここに来るまで緊張気味だったシリカの緊張も解れた様だ。

 

「それじゃあ、ちょっと早いけど攻略会議を始めるとしようか!」

 

 ある男の掛け声で、騒がしかった広場が一斉に静まり返った。石造りの壇上に立つその男は青い長髪を後ろに束ね、ギルドを象徴する銀色の軽装備を身につける「リンド」というDKBのギルドリーダーである。

 

「今回相手するのは『デビルス・トゥーヘッド・ジャイアント』という巨大な亜人種モンスターだ。奴は主に麻痺や毒と言った状態異常系のデバフを付与する傾向にあり、HPがレッドにならない限りは彼の持つ巨大な斧で攻撃して来ることはないとの報告が出ている」

 

 写真付きのボードを指示棒で指しながら、リンドは淡々と説明を続ける。

 

「巨人の通常攻撃パターンはデバフ付与のガス攻撃と、拳による攻撃のみ。胸にある宝玉が弱点らしく、AとBのタンク隊が攻撃を受け止め、C、Dのアタッカー隊が足を斬りつけ転倒を狙ってくれ。E、Fのハルバード・アックス隊はリーチを活かして胸の宝玉を極力狙って欲しい。余った部隊は...遊撃だ」

 

 順調に説明を行っていたリンドだが、どこにも属した様子のない俺たちやほかのパーティを見て言葉を濁した。俺たちあぶれ組は基本する事がない。あぶれ組を無理に編成すると、セオリーの出来つつあるレイドの連携に支障をきたすからだ。その為あぶれ組は蚊帳の外で遊撃に回される。

 

「それじゃあ、後よりボス部屋前まで転移向かう!出発は20分後、各自最終確認を行ってくれ!」

 

 リンドの号令により、仲間内で会議を始めるもの、忘れ物を取りに行くもの、あぶれてしまい呆然と空を見上げるもので又も喧騒が生まれる。

 

 俺たちは戦術を確認し、結果的にエギル達アニキ軍団に編成してもらえることになった。シリカは彼らとに連携は初見だが、俺は彼らとの共闘したことが何度かあるので大丈夫だろう。

 いざとなればシリカと俺の連携だけでも充分役目をこなせるはずだ。

 

「よし、それでは迷宮区へ転移する!各自、気を付けてくれ!」

 

 リンドの号令で小隊が迷宮区最上階、行き先がフロアボスの待つボス部屋に設定された回廊結晶の転移門が開かれる。

 

 各々がゲートを潜り、ワープしていくのを見て、アニキ軍団with俺たちもゲートを潜る。最後尾にいた黒コートの剣士が転移されて来た所で、回廊結晶のゲートが閉じられた。

 

 人混みの中から背伸びして、眼前の双頭の巨人が多数の騎士相手に巨大な斧で戦闘を繰り広げるレリーフが彫られた扉を仰ぎ見る。

 とうとう始まる攻略戦に高鳴る鼓動を感じ、俺はひとり武者震いをしていた。

 

 リンドの最期の演説が始まる。

 

「よし、今回はクォーターポイントということで今までより強力なボスが現れる筈だ。だが、俺たち攻略組のメンバーならきっと倒せる!全員死なない様に気を引き締めてくれ!いくぞ!」

 

「「「おおーっ!!」」」

 

 リンドの掛け声に合わせ、巨大な鉄扉が開かれる。レイドメンバーの全員が部屋に入った事で、壁に掛けられた燭台に青白い炎が灯された。

 

 青白い炎に照らされ、それが姿を表したのは直径20メートル程の円形に部屋のど真ん中。大理石の玉座に腰掛けるのは、俺たちレイド共通の撃破目標である《デビルス・トゥーヘッド・ジャイアント》。

 

「...ふざけんなよ...」

 

 双頭巨人の姿を見て、俺は思わず呟いた。いや、もしかしたら俺ではないのかも知れない。それだけ、眼前に広がる光景に誰もが目を疑ったのだ。

 

「情報の倍はあるぞ!!!」

 

 そう、双頭巨人の体躯が、前情報の倍近くあるのだ。巨人の全長は少なく見ても優に4メーター、腰にぶら下げている筈の片手斧も、背中に背負う巨大な両手斧へ変わっていた。レイドメンバーのざわめきが大きくなる。巨人は俺たちの動揺を更に駆り立てるように、立ち上がって背中の両手斧に手を回した。

 

「やばいやばいやばいやばい!!」

 

 巨人がその巨大な両手斧を後ろへ振り絞る。大きくテイクバックされた両手斧の刀身から紅のライトエフェクトが放たれる。振り絞って放たれた横殴りの大振りのスイング《ブルータルクリムゾン》が炸裂した。

 巨人による先制攻撃は、レイドの体制を大きく狂わせた。前衛で突撃したタンク達のHPを根こそぎ奪い取り、その身体を爆散させる。命からがら生き延びた者も、巨人の拳による追撃で命の灯火を消されてしまう。

 

「リンドさん!一体どう言うこと...、は?」

 

 先程まで確かにいた筈のリンドは、忽然と姿を消していた。それどころか、DKBの連中全員の姿が見えない。恐らく2つ目の回廊結晶でDKBメンバー全員が何処かへ転移してしまったのだろう。

 

「クソっ!嵌められたんや!」

 

 ALFの指揮を取るキバオウが、辛酸を舐める思いで声を荒げた。見れば、先の攻撃で命を落とした者は、全てがALFのメンバーだ。ALF側の指揮を執っていたキバオウにとって、自軍の犠牲は自身の責任となる。

 

「全員下がれ!」

 

 少年の怒声がボス部屋に響き、1つの黒い影が前衛に飛び出しボスへ向かって跳躍した。少年は背中に背負う黒の片手剣を抜刀しざまにソードスキルを発動し、迫り来る巨人の反撃の左ストレートを空中で踏み台にして、無防備な顔面に3連撃の片手剣ソードスキル《シャープネイル》を叩き込んだ。

 

 右目、左目、眉間の順に縦に蒼茫が走り、巨人の5本のHPバーの1本目の3割を減らす。

 

 技後硬直に陥った片手剣士へ、巨人の反撃に鉄槌が下される。空中で炸裂したソードスキルによる技後硬直で、なす術もなく自由落下する剣士への横殴り。単なる拳に横殴りにだが、殴られた事によって発生した衝撃波が、その威力を物語っていた。

 

 剣士は床に強く叩きつけられ、身体を鞠のように二、三度弾ませる。

 幸いHPを全損させるに至らなかったようだが、それでも赤の危険域に物凄い速さで低下して行った。

 

「クソ!キリト!」

 

 堪らず剣士の名を叫び、エギルが救援に駆けつける。俺たちもそれに続き、剣士に立ちはだかるように壁役を演じる。

 

「大丈夫か?」

 

 エギルがポーションを剣士に飲ませて、風前の灯火だった体力を回復させる。剣士はエギルに支えられながらも体を起こすと、ぜいぜいと息を切らしながら手応えを伝える。

 

「やっぱり、顔面の攻撃はあまり効かないようだ...どう考えても手応えが薄い」

 

 剣士は右手に持つ黒剣を杖に立ち上がり、指示を伝えた。

 

「全員体制を立て直せ!タンク、ボスの攻撃を受け止め、ハルバードで弱点の宝玉を突け!俺たち遊撃が満遍なく援護に回る!」

 

 剣士の的確な指揮により、残った少数のレイドメンバー達は辛くも体制を立て直したようだ。僅かながらもタンクは機能し始め上手く攻撃を受け止めるが、ハルバードや槍を持つ長物部隊が、弱点である宝玉が小さい為に連続して攻撃出来ず手こずっている様子だ。

 

 俺たちあぶれ組兼遊撃隊もエギル達アニキ軍団が防御の援護に回り、俺とシリカペア、剣士といつのまにか剣士の傍にいた美人な細剣使いペアのツーマンセルで攻撃の援護に回る。

 

「いくぞ、シリカ!」

 

「はい!」

 

 俺たちは同時に左右から展開し、剣士達が正面から突撃する。剣士達の攻略組トップクラスの攻撃が巨人の胸板を捉えるが、宝玉へのヒットとは行かなかった。

 

 俺たちも間髪入れずに俺が巨人の左の頭、シリカが右の首にソードスキルを叩き込むみ、HPバーの2本目へ突入した。巨人は堪らず後退し、腰の麻袋から黄緑の液体が入ったガラス瓶を取り出す。

 

 直感的に危機を感じた剣士、細剣使いは大きく後退し、俺は反応に遅れたシリカを抱えて全力ダッシュで距離をとる。レイドのタンク達も後ろへ下り、これから起こりうる特殊攻撃に万全に備える。

 

 巨人は透明のガラス瓶を軽く振り、地面へそれを叩きつけた。

 地面へ叩きつけられたガラス瓶は砕け散り、中の黄緑の液体が撒き散らかされる。それは次第に気化し、黄色い麻痺ガスが散布された。だが俺たちは巨人とガスの発生地から充分に距離を取っている。故にガスは不発に終わるーー筈だった。

 

「そんな無茶苦茶な!!」

 

 思わずそう声を荒げてしまう。それはガスの効果範囲に向けた者だった。

 

 ガスは不発に終わると思っていたが、その考えはどうやら甘かったらしい。ガスはみるみる効果範囲を広げ、俺たちは壁際に後退するもガスの拡大は収まらない。次第にレベル2の麻痺が付与され始める。部屋全体にガスが充満すれば、この場にいる全員が麻痺になる事は想像に難しくない。だが、俺たちには成すすべはない。窓も通気孔もないボス部屋では、ひとり、またひとりと麻痺によりバタバタと地に伏していくプレイヤーで埋め尽くされていた。

 

 首から上をなんとか動かし、巨人の行動を見やる。巨人は2つの顔でにやりと口を綻ばせ、両手斧を振りかぶった。そして、その巨体に似合わず天井すれすれまで跳躍し、部屋の真ん中、大理石の玉座手前に向けてその強大な斧を叩きつけた。迷宮タワーが崩れるのではないかと錯覚する程の轟音と、振動が衝撃となって地を震わせる。地面が波打つ程の衝撃に、俺たちは空中へ弾き飛ばされていた。

 

 そこで、ほぼ全員の麻痺が解ける。だが、全員武器は麻痺の影響で手放してしまっている。良くて、バックラーを腕に装備していた盾持ち位か。

 

 そこへ、巨人の360度の回転技《フェイタルサイクロン》がレイドを襲った。各々巨大な斧に斬られ、ダメージは小さいものの、それはレイドメンバーの戦意を挫くのに充分過ぎた。

 

 レイドはほぼ壊滅状態。俺は生還を諦め、ここに居る全員が死を覚悟したのだった。




ここに来て、初めてのレイドボス戦です。本編では25、50、75層は強力なボスが登場し、多くの犠牲を払った設定となっています。ここでも、フロアボスの強力さ、レイド壊滅の絶望感が伝わればと思います。
さぁ、次回でユーマ編は終了ですが、彼らレイドメンバーはどの様に攻略するのか。全身全霊を賭けて執筆致しますので、ご期待下さい。

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