SAO ~絆で紡がれし勇者たち~   作:SCAR And Vector

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シリカとの出会い END

若干十二歳の幼い少女、シリカは目の前にけだるそうに佇む少年プレイヤーを見て、当時の光景を鮮明に思い出していた。

 

それはまだ八層が開通された日の翌日のことである。シリカの当時のレベルは12であった。シリカは普段はホームにしている一層主街区にある貧相な宿屋に部屋を借りていた。

 

八層開通の報せが届いたとき、それはそれはお祭り騒ぎで転移門広場がお祭り騒ぎだったのを今でも鮮明に覚えている。何せ、七層が開通してエリアボス攻略、七層ボス攻略と一週間もかからなかったのだ。なにやらすべてのボスに何かしらのβ時との変更点があったらしいが、テスターでないシリカには関係のない話だった。

 

ゲームクリアが現実味を帯びてきたことを誰もが実感し、シリカもその雰囲気に飲まれていた。

 

そんな時だった。最近知り合った同年代の少女プレイヤーから最前線を見学しないかと誘いのメッセージが届いた。あまり乗り気はしなかったが、フィールドには出ないということなのでシリカは誘いを受け入れた。

 

転移門から八層に到着すると、そこに広がっていたのは息をのむ様な景観だった。街並みはほとんどが木材と石材により建てられたログハウス風で、街の中心を流れる川沿いの商店街は活気に満ち溢れていた。

 

少し歩くと展望台があり、そこからはフィールドが丸々見渡せた。そこから見る景色にシリカは心躍った。

 

主街区を取り囲むように雄大な自然が立ち並び、南のほうには海も見える。小規模だが港もあるようで、スキルを習得すれば釣りも楽しめそうだ。そして目を引くのは迷宮区前にある大きな川。八層のフィールドを横に線引きするかのように存在するその川は、おおよそ幅1キロ。当然アクティブmobが存在するはずなので、攻略組はどう攻略するのだろうなどと他人事に考えていた。

 

シリカは、自然あふれるこの八層を大層気に入っていた。元々物静かな優等生だったため、自然に触れるのが好きだったシリカは、ゆくゆくは八層をホームタウンにしようと考えていた。

 

そんな矢先、一緒に物見遊山していた少女プレイヤーが居なくなった。

 

心配になったシリカは少女を探しに主街区を奔走した。もともと不思議ちゃんな少女ならふらっとフィールドにでてしまうことも考えられなくもない。

 

mobとエンカウントしないように注意しながらフィールドに足を踏み入れると、案の定少女はいた。しかしその状況にシリカはひどい焦りを覚えていた。少女は懸命に逃げ惑うが、その後ろを大量の緑バチが追いかけている。少女はシリカよりもレベルは上だが、ここ八層の安全マージンには足りていない。

このままだとジリ貧で少女が危険な目に遭ってしまう。心優しいシリカは後先考えずに間に割って入っていた。

 

腰からダガーを抜き、逆手に構える。戦闘の経験は浅いが、もしかしたら逃げ切れるだけの時間は稼げるかも知れない。

 

この甘い考えが、二人を窮地に追いやった。

 

ハチの大群は見事に統制のとれた動きでシリカを翻弄していく。常にツーマンセルで攻撃を仕掛け、サイドから展開してくる。右を防げば左から、逆も然り。前後に避けようも次の一手に対応出来ず。

 

ダガー特有の身軽さにものを言わせ回避するが、いずれHPが全損するのも明確だった。

 

精々五層程度の防具では、ジリ貧でやられてしまう。頭によぎった死の一文字に、体が恐怖を覚えた。

 

足が動かない。いつの間にか四方を塞がれ逃げ場も無くなっていた。刻々と迫りくる死に拍車をかけるように、ハチたちがとどめと動き出した。体をエビのように曲げ、針を突き出し突進してくる。

 

もう駄目だと思ったその時、ポリゴンの爆散するサウンドが聞こえた。だが、まだ自分の視界にはゲームオーバーの文字はない。反射で瞑っていた目を開くと、そこには日本刀のような武器を構えるフードを被った少年がいた。

 

顔は隠れて見えなかったが、ポンチョのようなマントを羽織り、忍者のような出で立ちの彼は、あっという間にハチ達を全滅させた。

 

彼がこちらに気付いて手を差し伸べてくれたが、シリカは腰を抜かしていたせいで立つことはできなかった。

 

彼は一言「危ないから街からでるんじゃない」としか言わなかったが、シリカは彼の強さに絶句していた。

 

 

 

そして今、その命の恩人である少年、ユーマが目の前に立っている。少年は黒髪の短髪で、眠たげな瞳は紅に光っていた。全体的に幼げな顔つきで、恐らく十四歳位か。

 

シリカはお礼と言っては何だが、使い道もなく貯めていた貯金を崩し、一万コルと商店で売っているポーションを渡した。彼からすればあってもなくても問題ない程度だろうが、お金もレア素材も全然もっていないシリカにとってはこれができる最大限だった。

 

「あ~、まぁ、えっと。ありがとう。こんな丁寧に」

 

ユーマは苦笑いしながらそれを受け取ると、それをストレージに格納した。

 

はした物じゃ受け取ってもらえないんじゃないかと考えてしまっていたが、彼がそれを受け取ってくれたことが、シリカは少しうれしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シリカという少女に出会い、俺は彼女を借りている宿屋の部屋に招き入れた。エギルも誘ってみたが、彼はまだ配達が残っているらしく、前線の二十二層へテレポートしていった。どうやらほかにもお得意様がいるらしい。関係ないが。

 

「散らかってるけど、入って」

 

おずおずと足を踏み入れる少女。まるで借りてきた猫のようだ。

 

「ミルクティーでいいかな?」

 

「あ、お構いなく・・・」

 

シリカの分のミルクティーと、自分の分のコーヒーを用意する。コーヒーには角砂糖を一つ入れ、テーブルに座らせたシリカの元まで持っていく。

 

「どうぞ」

 

どうも、と一言添えてシリカが一口ミルクティーを啜った。

 

「美味しい・・・!」

 

「ふふん。だろ?」

 

別段自分で栽培しているわけでもないが、得意げになってしまう。

 

「これ、私が今まで飲んできた紅茶の中で一番おいしいです!」

 

ここ、タクトゥフの村は、一見木材加工で栄えているようだが、その実ここは紅茶の産地として有名である、という設定になっている。

すべての宿屋は紅茶が飲み放題であり、現時点でレベリングに最も高効率なスポットもほど近いこの村は、俺がまったり攻略ライフを送るのに申し分ない穴場だった。

 

「いいですね、この村。私、自然も好きなので気に入っちゃいました」

 

そうはじける笑顔でシリカが言うと、まるで自分も褒められてるような錯覚に陥り悪い気はしない。

 

この後は、紅茶の飲み比べや雑談に花を咲かせた。

 

ついでに今までの経歴を聞くと、どうやら、俺が彼女を助けたあと、彼女は着実にクエストをこなしレベルを上げていったそうだ。今ではフリーベンをホームとし、十五層あたりでパーティを組んで力をつけているらしい。

 

みれば最初に見かけたときの装備から随分と強化がなされている。

 

たしか、あの時はレザーシリーズで固めていたか。いまはその2ランクうえのブロンズシリーズ。

スチールよりは若干性能は劣るが、きっとAGI型の軽装ビルドで立ち回り重視の戦闘スタイルなのだろう。重いスチールより軽量のブロンズで身を固めるのは間違いではない。

 

ざっとスキル構成やエクイップを見させてもらったが、前線までとは言わないが、中堅となれば上の方であろう。

 

「へぇ、軽装ブロンズで武器はイーボンダガーか。これなら十五層程度なら十分だな」

 

「ユーマさんは、スキル構成はどうなんですか?」

 

「え?俺?俺はね~」

 

俺のスキル構成もシリカと似たような感じである。強いていうなればこちらはカタナでの攻撃力を上げるためにSTRに重みを置いている。装備も軽装であり、個人的な好みで戦闘時は侍スタイルである。戦い方はカタナ特有の受け流しスキルで敵の攻撃をいなし、スキができたところで攻撃を噛ます。

 

現実の方では格闘技や武道といったものは一切経験無しなのだが、時代劇を小さいころから観ていたお陰か、カタナが使えるようになってから見よう見まねでやってみたら案外しっくり来たのだ。

 

個人的には体術メインで行きたいのだが、システム的な問題上、ダメージが稼げないため断念した。

 

「私たちって、スタイルが似ているんですね」

 

くすっとシリカが笑みを零す。そのあざとさに、少しどきりとした。

 

「あの、ユーマさんが良ければなんですけど」

 

シリカがたっぷり間をあける。次に発せられたのは意外な言葉だった。

 

「私、もっと強くなって攻略に貢献したいんです!なので、私を弟子にしていただけませんか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここから、シリカとの師弟関係が結ばれ、俺のなれない師匠が幕を開けたのであった。

 




 最後のオチで力尽きました。もう少し構想を練れるようにならなければ・・・!

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