SAO ~絆で紡がれし勇者たち~   作:SCAR And Vector

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アスナ、入団 2

 俺たちは団長の唐突な司令により、アスナを実力テストと称したデュエルをする為に、ギルドホーム備え付けの広場へと向かっていた。

 

「ちょっと!いきなりデュエルとか聞いてないんだけど!」

 

 血盟騎士団の新加入者アスナに胸倉を掴まれその美顔に引き寄せられる。付き人であり部下であるリンドが慌ててアスナの制止に向かうがアスナの鬼の形相に気圧され、普段は頼れるリンドがこの状況では全く頼りにならない。

 

「いや、俺だって今日初めて聞いたよ!イタタタタタ引っ張んなって!」

 

 SAOの痛覚遮断機能により実際には痛くはないが、痛がっとけばきっと胸ぐらを放してくれるだろうと言う淡い期待を胸にそう喚く。

 

「痛いわけ無いでしょうが!」

 

 ーーーバレてた。

 

 団長ヒースクリフの後を追い、半ギレのアスナに引っ張られるままデュエルが行えるスペースのある庭へ到着する。

 

 ヒースクリフ監修の元、今回のテストの規約が定められる。今回のテストはアスナの実力を見極める為と、もう一つ、リンドの昇格試験となっているらしい。

 

 戦闘は一対一の初撃決着モードで行われ、アスナのテストは先鋒にリンド、次鋒に俺を相手にアスナの実力が試される。続いてリンドの試験は俺と団長直々にデュエルを行い、その実力が確かならば昇格となる。

 

 俺ってただの判断材料?などと一瞬脳裏をよぎったが、団長の命ならば致し方なしと諦める。

 

「それじゃ、早速アスナくんの実力試験といこう。成績次第では即幹部もあり得るので、頑張ってくれた前」

 

 入団即幹部スタートだと!?

 

 血盟騎士団のメンバーに対する待遇は非常に厚い。幹部クラスになれば家一軒がほぼヒースクリフ団長の決済で購入でき、メンバーはそれ欲しさに躍起として幹部を目指す者が多い。俺の場合は初期からの吉見として32層のマンションを譲って貰った。幹部連中に家を買い与える程の財力がどこから出ているのか。全く団長の謎は深まるばかりだ。

 

 だがそんな高待遇を下積みなしで受け取れるとは、アスナの実力への団長の期待がそれだけ大きいことがうかがえる。リンドも先日定住出来る家が欲しいなどとぼやいていたので、今回の試験には2人とも頑張って欲しいところだ。

 

「それではリンドくん、相手を頼む」

 

「はい」

 

 チラリとこちらを伺ったリンドに向けて、激励を込めて小さく親指を立てる。リンドはコクリと頷くと、決闘の申請をアスナ宛に飛ばす。

 

 開始までのカウントダウンが始まった。俺は彼らの一挙手一投足を見極めようと戦場を見守る。

 

 リンドの実力は攻略組でもトップクラスの戦闘力である。キリトと言うチーターのせいで若干埋もれてはいたが、DKBという大所帯を導いていくカリスマも持ち合わせており、血盟騎士団に所属してからは他者を先導することで感じていた重圧から解放されたのか、その実力がめきめきと上達。今では組織のナンバー3と言うところまで達している。

 

 対してアスナだが、昔からその持ち前の戦闘センスに大きな可能性を秘めていた。長い間キリトと共に歩んで成長してきただけあって、その実力はキリトに次ぐ力を持っている。最大の欠点はその情報の無さだったが、頭の良い彼女は教えてしまえば何事もすぐに覚え、最近はわからないなりにキリトに教えを乞うなど、弱点をカバーすることで完全無欠の実力がある。

 

 戦闘スタイルとしては、相性はそう悪くはない。リンドは左手のバックラーとシミターによるバランスの取れた攻守で着実にダメージを稼ぐ堅実スタイル。

 

 対してアスナは防御を棄て、その放つ剣技ひとつひとつに全霊を込める速攻スタイル。

 

 リンドの守りとアスナの攻め、どちらが上にいくのか俺には想像出来ないが、それもこのデュエルを拝見すれば自ずと見えてくるだろう。

 

 カウントダウンは刻々と進み、そのカウントがゼロを刻んだ時、開始のブザーとともにアスナは地を蹴った。対してリンドはバックラーを突き出し腰を落とす。完璧なセオリーに沿った迎撃体制だ。

 

 アスナは手始めに単発細剣ソードスキル《リニアー》を放つ。1層から磨かれ続けた彼女の剣技は凄まじく、アスナの右手の細剣『サイクロンフルーレ』とリンドのバックラーが轟音をあげて衝突する。赤い火花が散り、リンドは同じ光を放つ単発曲剣ソードスキル《リーバー》で反撃を狙った。しかしそれは硬直の少ない単発技を放ったアスナは硬直が解けると同時に後ろへ跳躍し、リンドの反撃を寸前で回避する。

 

 この攻防によるダメージは双方ともに無く、彼らの戦技がいかほど高度なものかを物語っていた。

 

 互いに様子見の済んだのか、今度は大きく攻撃に向かう。先制を取ったのはアスナだった。先のステップからのリニアーよりも高速度の突撃技《シューティングスター》を放つ。初手のリニアーのコンボも常人からすれば異常な速さだったが、今度の突撃はそれを上回る速度だった。残像が見える程の高速移動で距離を詰め、それは文字通り流れる流星を思わせた。想定よりもさらに上を行く速度で突進してきたアスナに、リンドは反応が遅れたようだ。咄嗟にバックラーで防御体制をとるが、アスナのサイクロンフルーレの切っ先がリンドの肩のアーマーを引っ掻く。

 

 ただ掠めただけだったが、リンドのHPの減少からそれが直撃していればどれほどのダメージを稼ぐか、俺は恐ろしくて考えるのをやめた。それほど恐ろしく素晴らしい剣技だったのだ。

 

 リンドもやられっぱなしでは居なかった。曲剣の3連撃ソードスキル《ファラント・フルムーン》をアスナに放つ。右の袈裟懸け、返す刀で水平に薙ぎ、左足を軸にして回転ざまに左側から水平斬りを見舞う、中級位のソードスキルである。これがアスナに全発ヒットすれば、勝敗は着く。しかし、それは今までアスナの戦い方を近くで見てきたリンドには予想も出来ない行動で打ち砕かれた。

 

 アスナは細剣には珍しい斬撃属性のソードスキル《アヴォーブ》でリンドの一撃目を狙ったかの様に弾き飛ばした。

 

 敵の攻撃と正反対な軌道を描くソードスキルで武器を弾き上げるシステム外スキル《パリング》をアスナは使用した。恐らく密かにキリトに使用法を習っていたのだろう。だが、普段の戦闘ではキリトがそれを用いてアスナがソードスキルで仕留める戦闘セオリーを真近で見てきたリンドはそれを知っている筈がない。

 

 アスナがパリングを使える事を知らなかったリンドにはなす術もなく、ガラ空きとなった腹にアスナの細剣ソードスキル《パラレル・スティング》の2連撃を喰らう。

 

 それが決定打となり、第1戦はアスナの勝利で終わった。

 

「アスナさん、パリング使えたんだね...」

 

 敗戦を喫したリンドが、俺の方までやってきてしてやられたとばかりに頬を掻いた。にしても、アレは初見ではどう対処しようにも出来ないだろう。

 

 早速敗北の二文字がよぎったが、それをブンブンと振り払い、俺はアスナに申請を飛ばした。

 

 アスナの注意すべきものとして新たに魅せた《パリング》の項目を書き加える。彼女はそれだけで驚異的なソードスキルに加え、パリングまで身につけているのだ。こちらには《受け流し》があるが、斬撃属性のスキルなら兎も角、刺突系には効果が薄い。

 

 リンドの様に盾で全面的にガードできるならまだしも、俺もキリトに似た感じのシステム外スキルを多用する戦い方だ。システムに忠実な動きをするアスナに対して、付け焼き刃の防御では対処のしようがない。

 

 俺の戦闘スタイルと、アスナの戦闘スタイル、相性がかなり悪いと見た。

 

 早速白旗を降るまいかと考えたが、それは決闘開始ブザーによって排除された。

 

 先のデュエルと同じく、アスナはステップからのリニアーを放った。俺は右にステップでその刺突を躱し、難を逃れる。

 

 いきなり牽制をかけられたが、俺はそれに臆せず相棒『セイクリッド・ロングソード』を肩に担ぐ様に構え、腰を落とし上体を屈める。これが俺の戦闘時の構えだ。俺の構えは変だと過去にキリトに笑われた事があるが、俺は右からの袈裟懸けの初動が短縮されるこの構えを一貫して貫き通して来た。

 

 アスナはサイクロンフルーレの切っ尖をまっすぐ俺の方に向け、剣が線では無く正面から見て点になる様に構えた。これは実に嫌らしい構え方だ。アスナの構え方だと、初手を正面から四方八方まで全ての方向に同じ動きで放つ事が出来る。まさに殺す為の構え方と言ってもいいだろう。

 

 先に動いたのはアスナだった。正面、右、左の水平の3連突きを見舞う。ソードスキルを発動していない通常の刺突だったが、その刺突は余りに早く、ひゅっという風を斬る音が聞こえた程だ。俺はその3連撃を紙一重で躱し、あからさまな隙を魅せたアスナへの追撃を諦め距離を取る。

 

 不味い。非常に不味い。

 

 俺がこのまま攻めあぐねていれば、ジリ貧でアスナの攻撃を受けて負けてしまう。血盟騎士団副団長と言う肩書きを背負っている以上、ここでそんな無様な負け方をすることは許されない。いつの間にか辺りを囲んでいる血盟騎士のギャラリーがいる手前、ここはひとつ彼らに見せつけねば。

 

 俺はひとつ大きな賭けに出ることにした。先程アスナが露骨にやってみせた様に、技と隙を晒してカウンターを見舞う戦法だ。

 

 俺は片手剣単発ソードスキル《スラント》を放つ。日頃のから使用してきたこの技は熟練度が溜まり、技後硬直も極短くなっている。ただでさえ硬直の短い単発技の硬直を熟練度を上げる事で更に短くしたら、その先は語るまでもないだろう。

 

 俺が放った深緑の軌道をアスナは紙一重でかわし、リニアーを放つ初期動作に移った。予定通りに動いてくれたアスナに、礼として2連撃ソードスキル《スネークバイト》を撃つ。ブーストアシストによってほぼ同時の着弾となるその技が発動した時、俺は勝利を確信した。

 

 だが、それは無惨にも打ち砕かれた。アスナの裏の裏をかいた戦法。先程リニアーを放とうとした筈の細剣から、未だに黄色い閃光が放たれている。俺は直感的に危機を察知し、発動したスネークバイトの軌道をなぞる右手の意識を意図的に遮断させた。

 

 刀身からエフェクトが消えるよりも早く、後ろのステップで難を逃れる。

 

 そして、その直後に俺がいた場所に閃光が疾る。アスナのサイクロンフルーレが轟音を鳴り響かせ衝撃で地を震わせる。その光景、正に落雷の様で、あれが直撃したらと思うと俺の頬を冷や汗が伝った。

 

「ちっ...」

 

 えええええ!?この人いま完全に舌打ちしましたけどおおお!!?

 

 コイツ、殺す目をしてやがる。ここにいるギャラリーを含め、誰もがアスナを見てそう思った。彼女が幹部として名を馳せた暁には、絶対に逆らうまいと心に誓う。

 

 なんとか先のトリッキーな攻めを躱したものの、これで俺に残された対抗策はほぼ無くなった。このまま白旗を振ろうかと本気で考えたが、ここにいるギャラリーがそれを許してくれそうにない。

 

 俺は勝利を掴む為、最後の賭けにでる。

 

 それこそ、突撃。

 

 AGI振り構成のステータスを活かしアスナへ距離を詰める。アスナはそれに迎撃するように硬直が無いと言っていいリニアー3連発を放った。目が慣れてきたのか難なくそれを躱した俺は、恐らく最後のソードスキル《ホリゾンタル》を放つ。前進しながらの斬撃にカウンターを合わせるべく、アスナは俺の正面に陣取った。サイクロンフルーレの刀身を黄色い閃光が包み込み、彼女は共に磨いてきたリニアーでカタをつける気だと俺は察した。

 

 ーーーいまだ!!!

 

 俺はアスナがカウンターを狙う事に全てを賭けていた。これから俺が行うのは、きっとアスナが今まで目にしたことの無いようなものだろう。

 

 俺は、スキルキャンセルも効かない具合に発動しかかっていた剣を空中に置いた。

 

 それだけでも不可解な行動だが、俺は更にその先を行く。

 

 身体を回転させ、空中でスキルが発動したままの相棒を逆手持ちでキャッチする。これによって、ホリゾンタルの軌道は修正され、回転の勢いを殺さず正規の軌道とは真逆の軌道を描いた。

 

 俺が刺突寸前で射線から消えた為、アスナのリニアーは空を刺した。そして、アスナの後退も許さない完璧なタイミングで逆手持ちのホリゾンタルがアスナの右脇腹を捉えた。これが決定打となり、第2戦は、俺の勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 デュエル終了後、真っ先にアスナに問いただされたのは、俺の先の行動についてだった。

 

「なによあれ、一体どうやったのよ。チート?」

 

「な訳あるか」

 

 小首を傾げ俺にチートの濡れ衣を掛けてくるアスナに事細かく仕組みを説明する。

 

 SAOには、順手持ちと逆手持ちに対応したソードスキルが少数だが確かに存在する。俺が行ったのはそれの応用。

 

 スキルが発動し、スキルキャンセルも効かなくなった時に右手の意識を遮断する。そしてその場で回転し、左手で逆手持ちでキャッチする。そうなると、システム的に右手の順手持ちに対応した軌道が左手の逆手持ちに対応した軌道に上書きされ、システムブーストによってトリッキーな軌道を描いて攻撃することができる。

 

 ここで難関なのが、右手での剣を離しその場で回転、その後左手でキャッチするという一連の動作を0コンマ何秒と言う僅かなタイミングで成功させなければならないと言う事だ。これより遅ければソードスキルがキャンセルされ、敵に背中を向けたまま硬直を課せられる羽目になる。俺はこのシステム外スキルを《異常(イレギュラー)》と名付けた。このスキルが完成し多少月日が経った今でも成功する確率は3割と言ったところだ。

 

 イレギュラーの仕組みを解説されたアスナは、俺とキリトがよく似ていると告げ、大きな溜息をついた。

 

 あの存在自体がチートな男と言った一緒にしないで貰いたいものだ。キリトならきっと、これより使い勝手のいいシステム外スキルを沢山持ち合わせているだろう。自慢ではないが、一度アイツとデュエルした際、その技の引き出しの多さに翻弄され、ことごとく地を舐めた苦い経験がある。アイツ相手にこれはまだ試した事はないが、多分すぐ対策をたてられるだろう。

 

 俺は更にこのスキルを進化させコンボを繋げられる様になるまで研究するつもりだという旨をアスナに伝えると、彼女はまたも溜息を吐きこれだから廃人ゲーマーは、と嘆いたのだった。

 




カナデの開発したシステム外スキル《イレギュラー》のお披露目です。カナデの技の精度次第では、高い進化の可能性を秘めています。

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