本格的な戦闘は次回になりますが、許してください。次回は、既にある程度構成が考えてあるので、早めに投稿できると思います。
戦争というのは、様々な形が存在している。
因縁のある同士で戦う一騎打ちや、軍を真正面からぶつけ合う野戦。隙をついた奇襲や、謀略を用いた戦い。
あげればキリがないだろう。数あるうちの戦争の方法で、もっともセイヴァーが面倒と思うもの。
それは、攻城戦だ。攻める側は相手の倍以上戦力を投下し、漸く守備側と同等に戦える方式の戦争。
しかしあくまで、人間単位での話だ。英霊同士であれば関係なく、戦えるだろう。
だが、今回敵側にいる魔術師は、城を要塞化させた。
「……打ち損じた英霊が、陣を構えている。傷も回復しているようだ。
これは辛い戦いになるか」
「目が良いなセイヴァー。我らと戦力差はどれくらいと考える?」
「敵の英霊が俺たちと戦った時と、同じスペックならば数で優っているこちらが有利だろう。
だが、カエサルの時同様、英霊三騎を同時に相手取り、なお有利を誇っていた強化が施されていれば、こちらが不利だろう」
「ふむ。だがそれは、あくまでスペックで見てだろうセイヴァー?」
どこか誇らしげな表情で言うネロ皇帝。
その顔を見て、はぁと溜息を吐くセイヴァー。
「その通りだ。連中の中で死を覚悟してでも、守りきるなんて気概のやつはいない。
俺たちが勝利を収めるには、そういう不確定要素を入れれば十二分にある」
セイヴァーがそう言うと、この場にいる英霊が全員、ポカンとした顔をする。
何か変な事を言ったかと首をかしげるセイヴァー。
「いやなに、やはりお主は良い奴だと思ってな」
代表するようにネロが言う。サーヴァント達もそういう事だと言わんばかり頷く。
セイヴァーには、よく分からなかったがまぁいいかと納得した。
「よしっ!では、各自己が場所につけ。諸君らが全力で戦えば我らに負けはない!
余にはよく分からんが、人理を修復する戦を始めようぞ。案ずるな、このネロ・クラウディウスが率いるローマだ。
偽りの皇帝を名乗るやからごときに負けんはせん!ローマの栄光は余とともに!」
ネロの宣言により、カルデアと各サーヴァント達が配置へ着く。
カルデア組は、陣形の一番先頭。連合の城内に最も早く辿り着くための位置だ。カルデアの英霊の中でも、突破力に優れるクー・フーリンとジャンヌ・オルタが敵軍を一閃し、道を作る。その隙間をカルデア組は駆け抜ける。人間の障害はネロのローマ軍が、それ以外の障害はネロに力を貸しているサーヴァント達が引き受ける算段となっている。
「大軍同士で戦闘かよ!面白そうじゃねぇか。なぁ、嬢ちゃん?」
「ふん。あんなの有象無象じゃありませんか。簡単に蹴散らせます」
「そうかい。なら、頼むぜ嬢ちゃん。前みたいに醜態を晒すなよ」
「分かってるわよ!……あんたに言われなくても、もうあいつに苦労はかけないわ」
ジャンヌ・オルタの言葉に、ニヤリと笑うクー・フーリン。
彼は表情から、ジャンヌ・オルタに変化があった事を悟った。
「じゃあ、いっちょやりますかぁ!」
槍を構え、大量の連合軍へと突撃するクー・フーリン。その風圧と、解放した魔力による衝撃波で一般兵士は吹き飛ぶ。
「ちょ、あんただけ先に行ってどうすんのよ!」
少し遅れて、ジャンヌ・オルタも突撃する。スピードはないが、憎悪により強化された圧倒的魔力で一般兵士を吹き飛ばす。
連合軍の陣形に空いた大きな穴。そこを、カルデア組が走り抜ける。
「クー・フーリン、ジャンヌ・オルタ。手加減してあげてね!」
走る速度を一切緩めず、立香が二騎に言う。
戦場において、敵の命を気にかける。歴戦の英雄からすれば、甘いと感じるだろう。
だが、それが立香の魅力でもある。だからこそ、この二騎は口をそろえる。
「「分かってるわよ(分かってるぜ)マスター‼︎」」
信頼でき、己の力を生かしてくれるマスターであると確信しているからこそ、二騎は頷けるのだ。
二騎が蹴散らした空間を、駆け抜けていくカルデア一行とネロ陣営のサーヴァント達。すでに、呂布とスパルタクスの二騎は本能の赴くまま暴れているが、問題はない。
「……忘れてたか。この特異点はそうだった、威光やカリスマはこうも人を狂わせるか」
死すら恐れぬ覚悟で、突貫してくる兵士と連合国民。
それらを立香やマシュの目に映る前に、弓矢で屠っていくセイヴァー。主に闇討ちを狙う連中を殺していく。
ネロ皇帝を見るセイヴァー。陰ることのない威光を放っているだが、この先にいるであろう彼に出会えばネロ皇帝はどうなるだろうか。
セイヴァーには、僅かながらネロ皇帝の輝きが鈍くなってると感じた。
「ネロ皇帝。貴女が揺るぐことがあれば、軍全てが崩壊する。覚悟を決め進んでくれ、貴女の命は無数の命の象徴になるのだから」
鈍くなった理由。それは、あまりにも兵や民が自分に敵意を見せているからだろうと考えたセイヴァー。
ここは連合国の領地とはいえ、元はネロが治めていた地域。そこに住まう人々が敵意を向ける。
ならば、己が皇帝でいる理由はと考えてしまうそういう皇帝だと知っているから。
「ネロォォォオ!!」
咆哮とともに上空から強襲してくるサーヴァントが一騎。
バーサーカー、カリギュラ。彼から感じる圧力は前回より上がっている。
「ここは私が引き受けるよ。先に進んで」
ブーディカがネロに向け駆け出すカリギュラを、盾で押しとどめる。
「ブーディカ!」
「……ネロ皇帝、あたしはは正直に言えばあんたを恨んでるよ。でも、世界がどうこうって時にそんな事言ってられないし、貴女を知って悪い人じゃないと思ってしまった。だからね、そういう鬱憤を晴らすためにここはあたしに暴れさせてよ」
盾に力を込め、カリギュラを飛ばす。その後ろすがたをネロ皇帝は見て、一瞬目を閉じ言う。
「分かった。客将ブーディカよ、この場を任せる。存分に武を振るってくれ!」
「任せて!」
そのやり取りを最後に、ブーディカはカリギュラとの戦いを始める。
ネロ皇帝は、振り返らず先を進む。カルデア一行も一瞬、動きを止めたがその後を追う。
「ネロォォォオ!」
「行かせないよ。あの、純真で太陽のような笑みを浮かべる子を、あたしは守るからね!」
ローマによってすべてを失った女王の戦いが始まった。
大軍が城門への道を塞ぐ。連合の兵士、民、魔獣の混成軍。
いくらサーヴァントといえど、人間を殺さないように手を抜きつつ、この大軍と戦うには辛いところがある。
「くっ…さすがに面倒だなこれは」
穴を開けても即座に補充が入る。それをもう何度も繰り返し、セイヴァー達には疲労と苛立ちが溜まってきた。
そんなタイミングだった。
「にゃはは!」
間の抜けた声が聞こえ、着物を着た猫?の様なサーヴァントが敵の陣形を乱しながら、こちらに向かってきた。
セイヴァーはそれを見て、げっという感じで顔を歪める。あのサーヴァントがここに来たという事は……
「
凄まじい音波が敵を薙ぎ払う。ただの人間がこの音に耐え切れるわけはなく、直撃していなくても気絶しているのが分かる。
心なしか魔獣の数も減っている。逃げたのだろうか。
「ますたぁ、この声は」
「……場所が変わっても、彼女はよく出てくる様だな」
「まぁ、それでこそエリザベートさんですし」
そう気楽に会話している様に見えるセイヴァーと清姫だが、互いに表情は少し死んでいる。
だが、状況に変化は起きた。ならば、そこを突くのが上策だと彼等は分かっている。
セイヴァーはその身に電気を纏う。清姫は、魔力を高め宝具の準備を進める。
オルガマリーは、それに気づき、二人に近づく兵士や民を魔術で阻害する。
「魔獣の残りは、わたくしが引き受けましょう。
その身を炎の蛇に変え、魔獣を焼き殺していく清姫。
その様子に、驚きまたは臆した兵士や民を狙い、セイヴァーは身に纏った電撃を放つ。
電力を下げたそれは、スタンガンの様に意識のみを刈り取った。
そして、敵が消えたところを悠々歩きながら、こちらに向かっくるサーヴァント。
「争いは苦手だけど、そこのサーヴァントが煩いから来てあげたわよ」
『この反応は……神格!?君らの目の前にいるのは、間違いなく神様だよ!』
「えぇそうですけど、今はそういう話をしている状態ですか?
この場は、嫌ですけど私達が引き受けましょう。今、キャットが城門を開けているところでしょう」
そう言うだけ言い、また何処かへ歩いていこうとする女神のサーヴァント。
歩き去るのかと思ったら、立香の前で歩みを止める。
「…貴方はきっとどうしようもない運命に流されるでしょう。
その時にどういう選択をするのか少しだけ、興味がありますわ。メドゥーサとエウリュアレを呼んだら私も呼んでね」
「それはどういう…」
「一人は嫌よ。だから、頼んだわね」
微笑み歩き去る。
立香は、頭に疑問符を浮かべていたが、おそらく城門だろう。それが砕け散る音で動きを再開する。
破砕音の元へ走り出すカルデア一行とネロ組。
「ヤッホー♪待ってたわよ、セイヴァーに清姫………って!なんで、当たり前の様にスルーして入ろうとしてるのあんたら!?」
待ってましたと言わんばかりのエリザベートを、見えてないと言わんばかりに通過していくセイヴァーと清姫。
その様子に苦笑しながら、オルガマリーが言う
「お礼を言ったらセイヴァー?」
「そうよ!よく言ったわ、子リス!」
「子、子リス!?」
「……まぁ、助かったのは事実だ。感謝するエリザベート。
だが、その音響兵器はボリュームを考えてくれ」
誰もエリザベートのフォローをしない。
全員、助かったとは思っているのだが、耳が少しやられたのだ。立香とオリガマリーに至っては、耳が未だにぼーっとしている。
しかし、この場に一人違う反応を取るのがいる。
「さっきの素晴らしい歌はお主がやったのか」
「私の歌が分かるなんてやるじゃない」
意気投合し会話が盛り上がる二人を無視し、城内へ進んでいく一行。
あの会話に混ざっても、得はないと直感で判断したのだ。
一度、皇帝に暗殺を仕掛けた荊軻の案内の元、玉座へとたどり着いた。
「…な、なぜ貴方が…」
「ローマである。我が愛し子よ、ローマへ来るが良い。ローマが許そう」
神祖ロムルス。ローマ帝国を建国した人物。歴代の皇帝の誰もが敬い神格とした人物。
それが敵であったという事実。ネロには、受け入れがたいものだろう。
そして、そんなロムルスの背後にいる人物が一人。
「………」
「………」
言葉など交わさない。
互いに理解している。目の前の存在とは何があろうと分かり合う事など出来はしない。
そもそも、存在しているという事自体が、何よりも疎ましいのだから。
「カエサルよ。お前は、あのサーヴァントとネロ以外と戦ってくれ」
「ふむ。分かった、ではいくぞカルデアのサーヴァントよ」
カエサルの攻撃をマシュが盾で防ぐ。その時、発生した金属音が開戦の証となった。
マシュと荊軻、清姫がカエサルと。ネロとエリザベートがロムルスと。そして、オルガマリーとセイヴァーがレフ・ライノールと。
人理を修復するため、己が尊敬する存在の真意を知るため、どんな存在よりも殺したいと思う敵を殺すため。
様々な想いが玉座という小さな空間で交差した。
神祖と向き合うネロが出す答えとは。
怨敵と戦うセイヴァー、彼のレフに対する殺意の高さはどこから来るのか。
次回予告、『己の道』
例え、どうなろうとそれが選択した道だ。
次回予告風にしてみました。どうでしょう?
感想・批判お待ちしています