申し訳ございません!
「おぉ!!」
数多の男たちが怒声を響かせながら、目の前の人間を敵を屠っていく。
ついに開戦したガリア遠征軍と連合ローマ軍の戦い。
戦況はガリア遠征軍が有利だ。
敵の連合軍の半数はただの人間。歴戦の英霊に勝てる道理はない。
連合軍の中には魔術で作られた獣も混ざっているが、カルデア組の敵ではない。
「……」
しかも、英霊が敵でなければ遠慮なしに殺すセイヴァーが無言で肉塊を作っている。
その表情はまるで、機械の様に温かさのない無機質なモノの様だ。
「…セイヴァー……どうしたの?なんで、そんな悲しい顔で戦ってるの?」
オルガマリーには彼が何かを堪えているように見えた。
まるで、自分はこうあらなくてはならないとそう言い聞かせて戦っているような。
言いようのない不安に駆られるオルガマリー。
そんな彼女だから、特攻気味に突撃してきた兵士に気が付かなかった。
「ローマに栄光あれ!」
その声に気づいて彼女が振り返った先に見えたのは……
「ひっ!?」
飛び散る血しぶきと頭のない体がゆっくりと地面に倒れる瞬間だった。
その光景を生み出した存在に彼女はすぐ気づく。
夢で見るサーヴァントの景色と同じなのだから。
「…ご無事ですか?マスター」
見ていられない。
見たくない。
セイヴァーのつらい顔。
聞きたくない。
言わせたくない。
セイヴァーのどこか虚ろな言葉。
彼女が最も見たくないセイヴァーの姿がそこにはあった。
「えぇ。大丈夫ですセイヴァー。ありがとう」
でも、それを悟られないように彼女は平常心を取り繕う。
セイヴァーに何かは起きたことがわかる。
だけど、私はセイヴァーを信じる。彼が私に話してくれるまで。
私が彼にとって、頼られる存在になるまで。
そう、自分の覚悟を思い出すオルガマリー。
幸いなことに立香とマシュはこの光景を見ておらず、目の前の戦闘に集中していている。
「あらら、随分と危険な状態だね彼。
此処は私とスパルタクスに任せて先に行って」
ブーディカが若干暴走しているスパルタクスを制しながら、カルデア一向に伝える。
「分かった!死なないでよブーディカ」
戦場に出れば各自の判断に任せるという指示があったため立香は返事を返し、自身のサーヴァントを連れて軍勢をかき分けて行く。
オルガマリーは一瞬、不安げにセイヴァーを見るも進軍を再開する。
「あ、オルガマリーさん。一つ言っておくよ」
そんな彼女にブーディカが声をかける。
「ええ。何かしら?」
「信じて待つのは女性の仕事。
だけどね、男ってのは大抵馬鹿だから言いたい事は言ってあげないと手遅れになるかもよ?
特に彼は自分のうちに秘める様だからね」
ブーディカは見抜いていた。
セイヴァーの癖も、オルガマリーの悩みも。
だからこそ、彼女は人生の先輩として、また一人の女性としてオルガマリーに助言した。
「……そうですね。確かに、彼は色々と溜め込んでしまいます」
足を止めてブーディカを見ながら答える。
そして、オルガマリーはでもと続けて発言した。
「彼は心配されるのを凄く嫌うんです。
なら、私は彼を信じて話してくれるのを待つ選択を取ります。
だって、セイヴァーは唯一私に応えてくれたサーヴァントですから」
右手に宿る令呪に触れ、何処か悔しそうにだけど嬉しさが隠しきれていない笑みを浮かべるオルガマリー。
戦場で肩を並べて、カルデアで一緒に仕事をして、過去を夢という形で垣間見て。
オルガマリーはセイヴァーを信じると決断を下した。
「ふふっ。君達は随分と信頼関係を作ってる様だね。
なら、お節介ついでにもう一つ。彼を一人にしないであげてね?」
そう言って軍勢の中へと姿を消すブーディカ。
オルガマリーも即座に立香達を追う様に動く。
追いかけようとした僅か先にセイヴァーが立ってオルガマリーを待っていた。
「お話は済みましたか?マスター」
「えぇ。終わった。セイヴァーは待っていてくれたの?」
「はい。ブーディカと何か話していた様なので、会話は聞こえないこの場所で待機してました。
……先ほどの様になっては嫌ですので」
少し、俯くセイヴァー。
オルガマリーは先ほどの件を悔やんでいると判断した。
だから、俯いたセイヴァーの額を引き良いよくデコピンした。
「ッツ!?」
「あれは私の不注意です。セイヴァーが気に病む必要はありません。
それより、今はやる事があるでしょ?」
結果の全てが自分に責任がある様に判断するセイヴァーに向けて責任は貴方だけでは無いと込めて言うオルガマリー。
それが届いたのかは分からないが、セイヴァーの表情に少し人間らしさが戻る。
「そう……ですね。行きましょうマスター。
既に藤丸立香達が先に行って敵の大将と思われるサーヴァントと交戦中です」
セイヴァーの後ろからは激しい戦闘音が聞こえる。
「ますたぁ。行くなら早く行きませんとあのサーヴァント、かなり手強いですよ。
恐らく何かしらの魔術が付与されているかと」
「了解した清姫」
そう返したセイヴァーの顔は、一介の戦士としての顔になっていた。
オルガマリーと話していた時の優しさを感じる顔ではなく、彼女の障害と足りうるものを葬る戦士の顔へと。
「行きましょうセイヴァー」
それを見てオルガマリーも魔術師としての顔になる。
そんな二人を見て清姫は不器用な方々だと思う。
戦う時にその仮面を被らなければならない。
それは、心に負荷をかける。だから、不器用だと清姫は感じた。
「ーーそれでも貴方はその道を選ぶのですね」
その呟きは二人の耳には入らなかった。
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