「ーふ。知らず、私も力が緩んでいたらしい。
最後の最後で手を止めるとはな 」
霊核を貫かれた為、消える速度が今までのサーヴァントに比べて早いセイバー。
だが彼女の魔力量はそれに僅かに抗う。
「そこのサーヴァント。貴様の因果は私の知った事ではない。
だが、貴様の歩む道は困難を極めるぞ」
セイヴァーを見ながら言うセイバー。
彼女は戦いの時に、セイヴァーの生き方を垣間見た。
その生き方は、己を最後まで守ろうとした弓兵の覚悟に近いものだった。
「…忠告を感謝するよアーサー王。
だけど、俺はこの道を選んだ 」
そう言ってオルガマリーの方をチラッと見るセイヴァー。
そして、こう続けた。
「歴戦の英雄に比べるのも烏滸がましい願いだ。
だからこそ、この手で掴み取ると決めた」
「そうか。ならば、何も言うまい」
そこで言葉を切り、上を見上げるセイバー。
「…結局、私一人では同じ末路を迎えると言うことか」
「あ?どう言う意味だそりゃあ?
テメェ、何を知っていやがる?」
上を向いていたセイバーがクー・フーリンの方を見る。
「いずれ貴方も知ることになる。アイルランドの光の御子よ。
グランドオーダー。聖杯を巡る戦いはまだ始まったばかりと言うことをな」
そう言って光の粒子となって消えるセイバー。
そして、彼女がいた場所には謎の水晶体が現れる。
「ヤベェ、此処で強制送還かよ!?
チッ、納得がいかねぇが仕方ねぇ。坊主、あとは任せたぜ!
次があるんなら、ランサーとして喚んでくれ!」
藤真立香を見ながら言うクー・フーリン。
その表情は笑顔だ。
「あと、テメェは無茶すんなよ!そこの美人マスター泣かしたらゆるさねぇからな!」
クー・フーリンがセイヴァーを見て言う。
セイヴァーは思わず笑う。
「ああ。約束しようクー・フーリン」
セイヴァーはクー・フーリンに近づき、手をあげる。
意味を悟ったクー・フーリンも応じる様に手を上げて、セイヴァーとハイタッチをして消えていった。
「セイバー、キャスター、共に消滅を確認しました。
…私達の勝利、なのでしょうか?」
マシュ・キリエライトが戸惑いながら呟く。
確かに敵陣営のセイバーと味方として共に動いていたキャスターが消えればどちらが勝ちなのか分かりづらいだろう。
『良くやってくれた!マシュ、立香!
所長もさぞ、喜んでくれて…あれ?』
「…
あのサーヴァントが何故、その呼称を…?」
オルガマリーはロマニの声に気づかずに、顎に手を当ててセイバーの残した言葉を考えている。
セイヴァーが近づいて、顔の前で手を合わせ音を出す。
「ひゃ!」
「マスター。考える事はあるでしょうが、二人に賛辞を。それが、上司の責任ですよ?」
「そ、そうね。良くやったわ。立香、マシュ。
不明な点は多いですが、ここでミッションは終了とします。
水晶体を回収して、原因を突き止めます」
セイヴァーに言われて、賛辞を送る。
これで良い?っといった感じでセイヴァーを見るオルガマリーにセイヴァーは優しい笑顔で返す。
オルガマリーは顔を赤くして、そっぽを向いた。
隙があれば、妙な空気を出すマスターとサーヴァントである。
「先輩!私、しっかりやれてましたか?」
「うん。ありがとうマシュ。マシュのお陰でオレは生きる事が出来たありがとう」
「い、いえ。先輩の指示があってこそですので…」
…ここにも妙な空気を出すマスターとサーヴァントがいたようだ。
マシュの言葉に感謝を込めて、笑顔で返事を返す立香。
画面越しに見ているロマニやダヴィンチちゃん、カルデアのスタッフ達が微笑ましい顔をしてるのも仕方がない。
「…いや、まさか君たちがここまでやるとはね。
ただでさえ、計画が乱れたというのにさらに計画外だったよ」
そんな空気の中、一人の声が響く。
「48人目のマスター適性者。全く、見込みのない子供だからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ」
水晶体を掴みながら、現れたのは緑色の服を着た男。
「レフ教授!?」
マシュが混乱した声をあげる。
彼がここにいるわけがない。だって、彼がいた場所は爆心の中心、生きている訳が無いのだから。
『レフ!?レフ教授だって!?彼がそこにいるのか!?』
「うん?その声はロマニ君かな?君も生き残ってしまったのか。
すぐに管制室に来るようにと言ったのに」
少しづつ、誰かと会話をするごとにレフ・ライノールの空気が変わっていく。
誰も初見では嫌うことのないだろう柔らかい雰囲気が、凄まじい圧をもつ邪悪なものに変わっていく。
セイヴァーが干将・莫耶を構えオルガマリーの前に立つ。
オルガマリーも自分の知っているレフと今のレフの感じが、違うことに困惑を隠せない。
「全く、どいつもこいつも統率の取れないクズばかりで吐き気が止まらないな!」
悪人ヅラになり声を荒あげるレフ。
「だがなぁ、一番予想外で腹立たしいのは君だよ。オルガに召喚されたサーヴァント!」
イラついて仕方がないといった表情でセイヴァーを睨みつけるレフ。
「…それはどうも。マスターの前で猫を被るのはやめた様だな。レフ」
憎くて仕方がないといった様子でレフを睨み返すセイヴァー。
「ふん。もう、その必要などないからな。貴様らに付き合う必要などない」
「そうか。なら、こちらも素直に動かせてもらおう」
立場も違えば目的も違う。
互いに理解などしたくはない。
だが、この場において二人の目的は確定した。
「計画を乱してくれた礼だ。貴様は私が殺してやろう」
「…それは結構。俺もお前を殺す。その存在の悉くをな」
レフから溢れ出す膨大な魔力量とセイヴァーが放出する殺意で空間が歪み始める。
不安定な特異点ではこの二人の戦いを耐えきることは無理だろう。
「待って、セイヴァー。レフに聞きたい事があります」
この場において、セイヴァーを止める事の出来る唯一の存在であるオルガマリーが制止をかける。
彼女はどうしても聞きたいのだ。何故、レフはカルデアにとって助けになる行動をしたのかについて。
セイヴァーはレフを睨みつけたまま、オルガマリーの後ろに下がる。
「レフ」
「…君は愚かだな。態々、殺されに来たのか?」
「一つ聞くわ。何故、カルデアに貢献する様なことをしたの?」
オルガマリーの言葉に動きを止めるレフ。
彼にも思うことがあったのだろうか。
「……それが信用を得やすかったからさ。計画を遂行するにもカルデアという組織は邪魔だったのでね」
「そう。そうだったとしても、ありがとう。貴方の技術にカルデアは助けられました。
この礼だけはしておきたかったのです。さようならレフ」
しっかりと頭を下げて、礼を述べるオルガマリー。
そしてそのまま、別れを告げる。
彼女なりの覚悟のつけ方だったのだろう。
「…ハハハハハ!このレフ・ライノール・フラウロスに感謝だと!
つくづく人間は愚かなのか!」
顔に手を当てて、嗤うレフ・ライノール・フラウロス。
「…これは忠告だ。未来は消失したのではない。我らが王により焼却されたのだ。
未来は確定した。貴様らの時代はもう無い。カルデアの外はここ、冬木と同じ惨状だろう」
『そういう事ですか。外部との通信が取れないのは受け取る側がいないからですか』
空間が地面が揺れ始める。
特異点の崩壊が始まった。
「ではさらばだ。私には次の仕事があるのでね。
セイヴァーのサーヴァント。次の特異点で貴様は私自らの手で殺す」
「この場では殺さない。それは、マスターの気持ちを行為を貶すことになる。
レフ・ライノール・フラウロス。首を洗って待っていろ」
空間が歪み、レフがいた場所から消える。
「レイシフトの実行を急いで!ロマニ」
『やっているとも!だけど、そちらの崩壊が早いかもだ。
その時は諦めてそっちでどうにかして欲しい!』
「無茶言わないで!ロマニ」
崩壊がどんどん早くなっていく。
確実に間に合わない。そう判断した。
「セイヴァー!」
「ここにいます。マスター」
セイヴァーに向けて手を差し出すオルガマリー。
その顔は赤くなっている。
「来た時と同じ様にお願いします」
「了解です。マスター」
オルガマリーと手を繋ぐセイヴァー。
レフに対する気持ちは落ち着いてはいないが、手から伝わる柔らかさと温かさに笑顔が溢れるセイヴァー。
それは、彼特有の悲しい笑顔ではなく自然に出てきた和やかな笑顔だった。
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