この素晴らしい世界に問題児が大暴れらしいですよ? 作:世界は嘘で出来ている
幻の街、ロンドンが砕け散る。
煉瓦の小道も尖塔群も跡形もなくなり、これまでの全てが夢や幻から醒めるように崩れていく。
だが、彼ら。コミュニティー『ノーネーム』を中心として、悪しき魔王を打倒せんと立ち上がった彼らの流した血潮と散っていった命の山河が先ほどまでこの場で繰り広げられた戦いが現実であると雄弁に物語っている。
その最終決戦と呼べる戦いは、時間にしてしまえば1時間も無かったであろう攻防だった。
廃都となった煌焔の都
廃墟が広がり残るのは、幾年もの間空爆にでも晒されたかのような閑散とした退廃空虚の街並み。
・・・・・・・・・。
静寂が訪れた。誰も微動だにせず眼前に示されたその光景を見守っている。
絶対悪をその身に宿す三頭龍アジ=ダカーハ。我が屍の上にこそ正義はあるとのたまい神々を敵に回した暴虐の王。
誰よりも自らを打ち倒せる英傑正義を信じた化物。
見た者を絶望の底へと叩き落としたその体にその心臓には、帝釈天の眷属たる黒ウサギの投げた必滅の槍が芯々と確かに食い込んでいた。
そしてその槍を握ろうとしたが間に合わず体に深々と突き刺さり己が身で槍の方向を変えた。大きな恩恵を持った少年、逆廻十六夜の姿があった。
それがどういうことなのか。
あの一瞬の攻防で何があったのか。
芯々と心臓を貫く槍を見て、三頭龍は感慨深く頷く。
『………ふむ』
三つ首がそれぞれ違うものを見つめる。
心臓を穿つ槍を。
満身創痍の主催者を。
そして、同じく槍に深々と刺されている逆廻十六夜を。
紅玉の瞳を細め三頭龍は、どこか満足そうにしてやられたとばかりに笑って再び頷く。
『………やられたぞ。まさか……あぁ……まさか、一度放たれた必滅の槍を、己が身で受け止め方向を変えて我に当てるなどと考える大馬鹿者が存在しようとは………‼︎」
ーーー発動した神槍を受け止め、敵のわずかな安堵の隙をつく。
口にするのは容易いが、そこにかかる覚悟、勇気は並大抵の物ではない。
放たれた神槍は『当たれば必ず勝利する槍』のレプリカだ。その恩恵は当たればその身を灰燼に帰すまで半永久的にエネルギーを供給し続けるという物だ。黒ウサギの投げた槍が十六夜をも殺してしまう。これでは勇気ではなく蛮勇だ。それは十六夜自身も分かっていたことだった。
「……ぐはっ……ちきしょうが」
少年は奥歯を噛み締めながら吐血する。
地面に崩れ落ちようとした三頭龍は、そこでふと、槍がわずかに震えていることに気付く。
そして、まるで勇者に最後の褒美を与えるように手を力強く握りしめて告げた。
『…恥じることはない。知らぬというなら此処で学べ。その震えこそ恐怖だ』
「っ、違う‼︎俺は...俺は!!」
『違わぬ。そして忘れるな。恐怖に震えても尚、踏み込んだその足。
ーーそれが勇気だーー』
違う。と十六夜は駄々を捏ねる子供のように首を振る。反論を口にしようとしたその時にはアジ=ダカーハは炎に包まれ崩れ落ちてしまっていた。
途端に周りにいた者たちから叫び声ががあがる。
人類最終試練ラストエンブリオの一角である『絶対悪』を打倒したのだ、ここで歓声が本来なら起こるはずだだが今の状況では起こるはずもない。
そんな叫び声の渦の中にあってただ一人悔し涙を一滴流す少年がいた
「……違う……違うんだ、アジ=ダカーハ。俺のは勇気なんかじゃない。これはただの.....」
逆廻十六夜は一人悔恨の涙を流す。
「十六夜さん!何故!何故なのですか!....黒ウサギは黒ウサギは...」
「がはっ...俺もそろそろ駄目みたいだな。悪い黒ウサギ、約束守れそうにない」
「いざ....よいさん......そんな、そんな....黒ウサギのせいで......」
「お前のせいじゃねえよ....俺が.............」
「いや.....嫌ですよ.......十六夜さん?目を開けてください。こんなの......十六夜さぁああああああん!!!」
「ここは?」
「逆廻十六夜さん。あなたは死んだのです」
目が覚めた俺の前には青い髪のどこか神々しい女が立っていた。
「お前誰だ?」
「私の名前はアクア。アクシズ教団が崇拝する女神アクアです」
「女神?」
「はい」
「それでここはどこなんだ?」
「ここは死んだ人間を導く所です」
「へえー。やっぱり俺死んでたのか」
「はい。死因は何故かボヤけていて見れないのですが。何か特別な力が加わったみたいに」
「どういう意味だ?」
「私にもわかりません。それよりあなたには2つの選択肢があります。0から新たな人生を歩むか。天国的な所に行って暮らすか。実は天国ってのはね、あなたたちが想像しているような素敵な世界ではないの。そもそも肉体が無いのだから、エッチーことも出来ないしね」
「へぇ。そりゃ困るな」
「でしょでしょ?天国なんて行きたくないわよね!?かといって0からやり直すってのもね。そこでちょっと良い話があるのよ!あなたゲームは知ってる?」
「ん?ああ。ギフトゲームをやってたからな」
「?ギフトゲームってのがなんなのか私には良く分からないけど。まぁ良いわ!その世界は長く続いた平和が魔王の軍勢により脅かされていた。人々が気付きあげてきた生活は魔王軍の無慈悲な略奪と殺戮に皆怯えて暮らしていたーーーーいたーーー」
「へえ。魔王....ねぇ」
「そんな世界だから誰も生まれ変わるの嫌がって人口が減る一方なのよ。んで他の世界で死んだ人を肉体や記憶はそのままで送ってあげてはどうかってことになったの」
「面白そうな話だなぁ」
「それに大サービス!何か1つだけ好きな物を持っていける権利を与えているの。強力な武器とかとんでもない才能だったり。あなたは記憶を引き継いだまま人生をやり直せる。しかも何か1つだけ好きなのを持っていけて!」
俺の頭にあるのは人生をやり直せるという言葉だった。アジ=ダカーハを倒したときに言われた言葉。お前が正義だ。絶対悪を撃ったものが、誰であろうと正義。例えそれが蛮勇だとしても。
「人生をやり直す....か」
「?どうしたの?」
「その世界に行く前に1つ聞きたいがいいか?」
「はい、いいですけど」
「その世界は面白いか?」
「面白いかどうかは人によると思いますが天国よりは面白いと思いますよ?」
「そうか。それだけ聞ければ充分だ。すぐにその世界に飛ばしてくれ」
「い、いや。ですからこのカードの中から好きな物を選んでくださいと」
「んなもんいらねぇよ!そうだな。なんならお前一緒にくるか?」
「ふぇ?いや、え?」
その瞬間俺の足元には魔方陣が浮かび上がり少しずつ体が浮かんでいき何もない空間が光だして翼が生えた女が降りてきた。
「承りました。では今後のアクア様のお仕事はこの私が引き継ぎますので逆廻十六夜さんの願いは規定に乗っとり受諾されました」
「え!?ちょっと!何これ?嘘でしょ?いやいや。ちょっとあの...おかしいから!!女神連れてくとか反則でしょ!?無効でしょ?こんなの無効よね!?」
「行ってらっしゃいませ。アクア様。無事魔王を倒された暁には迎えの者を送ります」
「私、女神だから癒す力はあっても戦う力なんてないんですけど!魔王討伐なんて無理なんですけど!」
「ヤハハハ。悪いな付き合わせちまって」
「いやその....別に今のはあなたのせいってわけでもないし......」
「さあ!勇者よ。願わくば数多な勇者候補の中からあなたが魔王を打ち倒すことを祈っています。さすれば神々からの贈り物としてどんな願いでも叶えて差し上げましょう」
「!?どんな願いでも....か」
「ああ!あたしの台詞!!」
「さあ!旅立ちなさい」
「いやぁああああ!!」
~~駆け出し冒険者の町~~
アクセル
「ここが異世界か」
「ねえ!どうしよう!私どうしよう....ねえどうすればいいの!?」
「心配するなよ。駄女神」
「だ、駄女神ってなによ!!私の名前はアクアよ!」
「とりあえず魔王を倒すっていっても主催者を見つけないと魔王の居場所だってわからないんだ。とりあえず情報集めだな」
「あなた、本当に魔王を倒す気でいるの?」
「ああ。言っただろ?面白いことならなんでもやるぜってな」
「言ってないわよ!」
「そうだったか?ヤハハ。それよりこの世界のこと知ってることを教えてくれないか?」
「そ、そうね。この世界では冒険者っていうのが存在しているわ。冒険者になって魔王軍を倒していくのね」
「それで冒険者っていうのはどうやったらなれるんだ?」
「そこまで知るわけないじゃない」
「アクア。超使えねー」
「しょ!しょうがないじゃない!私は女神なのよ!」
「ああ、その話はいいや。というかさちょっとその辺見てきてもいいか?」
「良くないわよ!!こんなところに置いていく気!?泣くわよ!」
「それじゃあ、お前も一緒にくるか?」
「ふぇ?な、何するのよ!?」
アクアをお姫様だっこの要領で持ち上げて足に力をいれる。
「舌噛まないように気を付けろよ」
「ふぇ!?なに.....いやぁああああああ!!!」
アクアも一緒にいるのであまりスピードは出せないが速度にして100キロで町から移動した。
「さてと、ここまでくればいいか」
「はぁはぁ.....あんた。一体何者なのよ!?」
「逆廻十六夜様だぜ」
「そ、そんなことを聞いてるんじゃ....」
「ゲコ、ゲコ、ゲコ」
「何あれ?」
「ああ、なんか走ってたら草原に出て休憩しようと思ったら巨大な蛙がいたって感じだ」
「て!あれジャイアント・トードじゃないの!」
「なんだそれ。強いのか?」
「家畜の山羊を食べたり、人も食べるらしいわ!新人冒険者がよく依頼されるらしいけど結構強いって噂よ!」
「へえ。まっ暇潰しにはなるか。なあ、アクア。あれ食えると思うか?」
「え、ええ。美味しいらしいわよ?」
「へえ。ちょっといってくるわ」
「え?ちょっと....てあれ?どこに...」
俺は初速で600キロほど出して一気に蛙の腹のしたまで移動した。
「ゲコっ」
蛙は俺に気付くとその巨体を活かして飛び跳ねてくる。
「ハッ!しゃらくせー!!」
俺は飛び跳ねてくる蛙の腹に拳を軽く当ててあまり飛ばしすぎないように殴る。
蛙は俺の場所より500メートルほどのところまで吹き飛び動かなくなる。
「あ、あんた。強いのね....」
「たいしたことねーだろ。さてこいつを食べるには町に戻らないと食えねえな」
「ちゃんとした依頼じゃないから自分達で運ばないといけないのよ?」
「ああ、それなら問題ない」
「え?」
俺はポケットの中に入っていたギフトカードを取り出して目を回している蛙にかざして収納する。
「ほらさっきの町に戻るぞ」
「あはは.....あんた本当にとんでもないわね」