東方狂世録   作:myo-n

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第7話

 レミリアの後を付いて行って五分程で館の外へと出る。

 館の外はとても寒くコートが無いと死んでしまいそうな寒さだった。

 それに加えて猛吹雪で視界がかなり悪い、10m先が見えないぐらいだ。

 ちなみに、そんな外をコート類を着ないで平然と歩いているレミリアと十六夜さんと霊夢さんは色々と可笑しいと思う。

 しかも十六夜さんとレミリアは半袖だし、寒くないのかよ。

 

「うぅ…少し冷えるわね」

「私も同感ね。咲夜、氷妖精を倒し終わったら温かい紅茶をお願い」

「かしこまりました。では皆様…始めましょうか」

「「そうね」」

 

 霊夢さんとレミリアが返事をすると同時にパッと吹雪が止む。

 まつ毛に積もった雪を払って前を見るとそこには水色の髪の女の子が……浮いていた。

 しかも彼女の背中には氷の塊みたいな物が浮いている。

 

「う…浮いてる?」

「あら、そんなに驚くものなの?ここの人間は能力持っている奴らは大抵飛べるわよ?」

 

 レミリアはさして驚いていない様子で俺に言う。

 

 ここの人間は浮けるのか…驚きだな。

 なんかもう常識どーのこーの言っているのが辛くなってきた。

 よし、これからは割り切っていこう。

 そうした方が気が楽だ。

 

 色々考えていると、霊夢さんがめんどくさそうにため息を吐いた。

 

「はぁ…やっぱりチルノね」

「チルノ?霊夢さん、ひょっとしてあの子と知り合いなのか?」

「さん付けはやめなさいよ、なんか気持ち悪いわ。普通に霊夢でいいわよ」

「そうか。じゃあ霊夢、あの子は?」

 

 俺は空中に浮いているチルノと呼ばれた女の子に指を指す。

 

「えーと…後でじゃ駄目?」

「あぁ、出来れば今説明して欲しい」

「はぁ…分かったわよ」

 

 俺がそう答えると、霊夢はまたため息を吐く。

 本当に面倒くさがりな性格をしているなと思う。

 でもなんだかんだ言って説明してくれるからきっと根は優しいんだろうな。

 

 そう思っていると霊夢が喋り始める。

 

「あいつはチルノっていうここら辺に住んでる氷の妖精よ。あいつは妖精の中で特に無鉄砲でバカだから度々勝負を挑まれたりするのよ」

「妖精っていうと自然の化身みたいなやつか?」

「えぇ大体はそれで合ってるわ。他に何か聞きたい事はある?」

「氷の妖精って言ってたけど…具体的には何が出来るんだ?」

「冷気を操って物を凍らしたりすることが出来るわね。夏は重宝される能力よ」

「そうか、つまり今ここが物凄く寒いのはチルノのせいなんだな?」

「えぇ多分そうね」

 

 一通りの質疑応答が終わると浮いているチルノが叫んだ。

 

「あたいはさいきょーのチルノよ!今すぐ勝負しろー!」

 

 無邪気で自身満々な様子のチルノを見たところ、特に正気を失っているというわけじゃない。

 本当に勝負を挑みにきただけらしい。

 彼女が正気を失っていない事を知って、めんどくさそうに前へと出る霊夢。

 霊夢は服の袖からお払い棒みたいな物と3枚のスペルカードを取り出す。

 

「はぁ…どうやら正気のようね。じゃあ私一人でやるから、あんたたちそこで見てなさい」

「何言ってるのよ、私の館が襲われたのだから私がやるわ」

「はぁ?これは私が買った喧嘩よ、手出ししないで」

 

 霊夢がいざ勝負を始めようとしようとしたが、直前にレミリアが割って入った。

 彼女の言い分は分かると思う、俺だって人に殴られたら殴り返すしな。

 

 レミリアと霊夢の口論は3分程続いた末、何故か十六夜さんが出る事になった。

 どう口論したらそうなるんだ一体。

 

「じゃあ咲夜、お願いね」

「かしこまりました、お嬢様。紅魔館付近を二度と近づけないように〝懲らしめて〟参ります」

「うん、頼んだわ」

 

 レミリアと霊夢に一礼した後、十六夜さんは前に出て空を飛ぶ。

 あの人も空を飛べるんだな…そんな事を思っているとチルノが腕を組んで自身満々に笑う。

 

「ふふふ!霊夢もとうとうあたいのさいきょーさに怖気づいたようね!!」

「…ふふっ」

「何笑ってんのよ!」

「いえ…貴方の無謀さに笑ってしまいました。どうかお気になさらず」

「むーっ!あんななんか直ぐにやっつけてやる!!」

 

 十六夜さんの挑発に乗ったチルノは怒りながらスペルカードを3枚取り出す。

 そして十六夜さんとチルノの勝負が始まる。

 

「それではそちらからどうぞ」

「言われなくてもやってやるわよ!!【氷符:アイシクルフォール】!」

 

 チルノはスペルカードの一枚を掲げる。

 すると十六夜さんの頭上に先が鋭くなっている氷の塊が形成される。

 それはかなり広い範囲の攻撃で俺たちにも氷塊が降り注いでくる。

 

「こらチルノ、危ないでしょ!…ったく仕方ないわね」

 

 チルノに注意する霊夢はお札を床に貼り付ける。

 そして俺とレミリアに自分に近寄るように言う。

 

「あんたたち、私の側にきなさい!」

 

 言われるがまま霊夢に近づいた俺とレミリア。

 それを確認すると霊夢が目をお払い棒を振る。

 

「二重結界」

 

 霊夢が言うと、水色のバリアが俺たちを覆う。

 展開されたバリアは落ちてくる氷塊を見事に防いだ。

 

「凄いな…」

「何言ってんのよ。あんたもこれくらいできるようになるわ」

 

 涼しい顔で答える霊夢。

 俺もこんな事ができるようになるのかと思いながら十六夜さんとチルノに視線を戻す。

 十六夜さんはチルノの攻撃を次々と避けていく。

 しかしどうやって避けているのかが分からない。

 疑問に思っているとレミリアが『咲夜には時を止める力があるじゃない』と言われてあぁそうだったと思った。

 つまり時を止めて攻撃を避けているってことか。

 果たしてこの人と弾幕ごっこして勝てる人間はいるのだろうか。

 まあそんな事はどうでもいいので再度視線を戻す。

 

「どうして当たらないのよ!さいきょーのあたいの攻撃はよけられないはずなのに!!」

「最強?ふふっ、私には止まっている様に見えますけど」

「うるさいうるさい!絶対にあたいは負けられないのよ!!【吹氷:アイストルネード】!!!!」

 

 チルノはもう一枚スペルカードを掲げて叫ぶ。

 すると降り注いでくる氷が消えて彼女の周りに8個もの巨大竜巻が発生する。

 竜巻はチルノの周りでごうごうと音を立てて回っている。

 

「氷の塊の次は竜巻ですか。単純ですね」

「ふっふっふ!!甘く見てると痛い目みるよ!!!」

「やれるものならばどうぞ」

「いけーっ!」

 

 チルノは竜巻を十六夜さんに向かって移動させる。

 8個の竜巻が十六夜さんに襲い掛かる。

 もしあそこに俺がいたならかなり慌てた事だろう。

 しかし十六夜さんは特に慌てることも無く平然とした様子で時間を止めて避けようとする。

 十六夜さんがまさに動こうとした時、チルノが叫んだ。

 

「引っかかったわね!!くらいなさい!!!」

 

 十六夜さんの前に突如竜巻が発生する。

 それはちょうどそれぞれの竜巻を隙間を縫うように塞いだ。

 つまりそれは逃げ場を失くすという事だ。

 最初に作られて前にあった8個の竜巻は陽動だったのか。

 中々考えないとできないことだ、敵ながら凄い奴だ。

 もしかしたらあいつ本当は賢いんじゃないか?

 

「しまっ―――」

 

 色々と考えていたら十六夜さんの姿が竜巻に隠されて見えなくなる。

 そしてその後十六夜さんの悲鳴のようなものが聞こえた。

 その悲鳴を聞いて俺は霊夢の二重結界から外に出て叫んだ。

 

「十六夜さん!!!」

「はい、何でしょうか」

 

 十六夜さんに呼びかけたと同時に後ろから十六夜さんが返事をする。

 後ろを振り向いて彼女の姿を確認すると、若干ながら傷を負っていた。

 服も所々破れていたのでかなり心配する。

 

「大丈夫か!?」

「はい、掠り傷ですのでご心配なく」

「咲夜~、まだ終わらないの?」

「只今終わりました、お嬢様」

「咲夜は相変わらず仕事が早いわね!」

「ありがたきお言葉です」

 

 レミリアが褒めて十六夜さんが礼をしているやり取りを見て、終わったのか?と思う。

 そしてチルノの方に視線を戻すと、そこには体にナイフが刺さっているチルノが倒れていた。

 慌てて彼女の下に近づく。

 

「ナイフが刺さってる…!?」

 

 ナイフが刺さっているチルノを驚きながら見つめる。

 弾幕ごっこってこんなに危険なのか!?

 慌てて霊夢に呼びかける。

 

「おい…これナイフが刺さっているけど……」

「あー…それは大丈夫よ。弾幕ごっこやっている奴らはナイフ刺されたぐらいじゃ死なないの」

 

 そんな馬鹿な事があるわけないだろと言おうとした時、霊夢がチルノを叩く。

 するとチルノがスッと起き上がった。

 

「痛ーい!なにすんのよ!!」

「勝負は終わったわ、あんたの負けよ」

「嘘だ嘘だ!!あたいはまだ負けてないもん!!!」

「ったく諦めが悪いわね…。とにかくあんたは負けたの」

 

 ごねるチルノをあやす霊夢。

 そんなチルノはふと俺の方を見て近寄ってくる。

 

「あたいはまだ負けてないよね?ね?」

 

 どうやら他人の意見を求めてまででも勝負に勝ちたいらしい。

 しかし…どう言ったらいいのか分からない。

 十六夜さんはスペルカード使ってなかった感じに見えたし、そもそも弾幕ごっこを見るのが初めてだし。

 迷った俺は取りあえず答えた。

 

「んー…多分負けたと思うぞ」

「そんな事ないもん!あたいは負けてないもん!!」

「でも十六夜さんの攻撃に負けただろ?」

「うー……」

 

 未だに負けたという事を認められないチルノは涙目になってこちらを見る。

 だけどこちらとしてもルールがよく分からないのでなんとも言えない。

 暫くの沈黙の後、ついにチルノが泣き出した。

 

「ひっく……えぐ…あたいは…負けてないもん…」

 

 泣き出したチルノに対して驚きながらも霊夢に助けを求めようとする。

 だが霊夢は素っ気無い表情で、

 

「あら、泣かせちゃったわね」

「えぇ!?俺は何もしてないぞ!」

「でもチルノは泣いてるじゃない」

「それは…そうだけど」

「ならあんたが責任持ってあやしなさい、私はそんな面倒な事は嫌なのよ」

「そんな…」

「ファイト♪」

 

 助け舟を出してくれる所か俺に面倒事を擦り付けてきた。

 もう嫌だ…でもやるしかない。

 レミリアと十六夜さんも見てるだろうし、今彼女達の心象を悪くするわけにはいかない。

 それに泣かせたのは俺のせいでもある。

 そう自分を納得させてチルノの方に向きなおす。

 

「えっと…何で勝負に負けたくないのかな?」

 

 なるべく幼児をあやすような口調で話しかける。

 するとチルノは服で涙を拭きながら答えてくれた。

 

「……大ちゃんを…助けたいから」

「大ちゃんっていうのは君の友達?」

「うん……」

 

 友達助けたいから勝負に負けたくないって…意味がわからない。

 もう少し聞いてみよう。

 

「どうして助けたいの?」

「だって…大ちゃんが、黒いのに襲われて…それで黒いのを使っている奴をたおせばたすけられるって…大ちゃんが…大ちゃんが……うわあああん!」

 

 再び泣き出すチルノ。

 俺は彼女の頭に手を置いて優しく撫でる。

 

「そっか…大変だったね。でも大丈夫、俺たちが君のお友達を助けるよ」

「……本当?」

「あぁ、約束する」

「じゃあ…指きりしてくれる?」

「いいよ」

 

 チルノは小指をこちらに出す。

 俺も小指で彼女の小指を握る。

 チルノの指はひんやりと冷たくて温かかった。

 

「ゆーびーきりげんまんー嘘ついたら針千本のーます、ゆびきった!」

「これで…大丈夫?」

「あぁ、大丈夫。絶対に助けてみせるさ」

 

 チルノとの指きりを終えてスッと立ち上がる。

 そして霊夢の方へと向く。

 

「やっぱりお前の言うとおり、これは異変ってやつかもな」

「最初からそう言ったでしょ?で、場所は何処なのチルノ?案内して」

「うんっ!」

 

 チルノが返事をすると同時に、話を聞いていたレミリアと十六夜さんが話に入ってくる。

 

「悪いけど、私達は一旦館に戻るわ。パチェの様子と咲夜の手当てが必要だしね」

「申し訳ありません、私が怪我を負ったばかりに……」

「別にいいわよそれくらい、ただ心配になっただけよ」

「分かった、手短に済ませてくる」

「気をつけなさいよ、貴方はただの人間だから。人間はとても脆いのよ、覚えておきなさい」

「あぁ、覚えておくよ」

「それじゃあ戻ってきなさいよ!」

 

 レミリアと十六夜さんがそう言って館に戻っていくのを見届けた後、俺は霊夢の方に向き直った。

 

「さぁ…チルノの友達を助けに行きますか」

「そうね…さっさと終わらせてゆっくりしたいわ」

「二人とも、あたいについてきて!あるいていくわ!大ちゃんの周りに行くと飛べなくなるから!」

 

 チルノが先導して歩く。

 そして俺と霊夢は彼女に付いて歩いていった。

 

 




~おまけ~

れ=レミリア 咲=咲夜

れ「ねぇ、咲夜」
咲「何でしょうか」
れ「あの氷妖精の攻撃をどうやって避けたの?」
咲「あぁあれの事ですか」
れ「そうよ、あの竜巻の攻撃」
咲「あれは中々骨が折れました…。まず時を止めて竜巻の中に入り途中まで避けます。しかし途中から能力が切れたので【時符:プライベートスクエア】を使って時を止め、ナイフを使って中に混じっていた氷を砕きながら外へと出ました。その後【幻符:殺人ドール】で氷妖精の周りをナイフで覆い当てました。しかしナイフの殆どが彼女の冷気によって凍らされて下に落ちたのですが1本だけ命中したのです。もっともそれらは全て回収しておきました。ですが刺さったナイフを上井様に見られたというのが今回の反省点ですね」
れ「……とにかく咲夜はすごいのね!」
咲「ありがとうございます」

~終わり~


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