突然やって来た事態に頭が痛くなりそうだった。
何が拙いかというと、周囲の視線である。
この時代にいるはずのない人物を、みんなが見ている。
不幸中の幸いは、それが私では無くリリーエバンズとして見られているという事実だ。
……どうする、タイムパラドックスが起きてしまう。
「どうしたんだい、エバンズ?」
「ル、ルーモスマキシマ!」
話し掛けられたせいで、思わず私は呪文を唱えてしまった。
それは極大閃光魔法、ルーモスの光を強化しまくって出来た簡単に言ってしまえば閃光弾のような魔法だ。
うわっと、此方を見ていた生徒達が目を眩ます。
もうこうなったら逃げるしかないと私は走り出した。
逃げる場所は何処にも無い、見られれば見られるだけ歴史を歪めてしまう。
人気の無い場所、そうだあそこなら……。
私は必要の部屋まで掛けだした。
ここを知っている者は殆どいない、この時代ならヴォルデモートと私くらいだ。
廊下をグルグル回って扉に駆け込んだ私はドアにもたれ掛りながら深く息を吐く。
何故なら、この状況が理解できないからだ。
私の考えでは、私が生まれる前の時代には戻れるはずが無かった。
まさか、過去に戻って自分のパパに会うなんてとても危険な行為だ。
「戻らないと……その前に修正しないと」
あの時点に戻って私を止める。
虐めをスルーするように行動を制限するのだ。
「あれ?」
同じようなことをしていたけど、今までの過去改変の矛盾点に私は気付いてしまった。
今の私をBだとして過去の私をAとして考える。
Bは失敗した経験から過去に戻ってAを止めると考える。
Bは過去を変えようと戻ってAに接触、過去を改変する。
するとAは失敗した経験が無くなり、過去に戻ろうとは思わなくなる。
Aが過去に戻らないため、Bは発生しなくなる。
Bは発生しないためAは失敗する経験を得る。
「無限ループだ、なにそれこわい」
もし、仮にそれが出来たとしても結局失敗するという経験がないと矛盾が生じるために絶対に失敗するという事が確定しているのかもしれない。
また、別の世界から失敗を経験した人が止めたから問題ないという解釈をしても、過去に戻る理由となったことは消すことが出来ない確定事項になるのかもしれない。
一つのことですらこれなのに、ハーマイオニーの観測点が増えることで修正が困難になるという話を合わせたら余計にややこしいことになってしまう。
「何か、何か別の策を考えないと」
一旦、私は必要の部屋から出て魔法について知ることが出来る部屋を投射した。
それにより、再び部屋に入る頃には部屋の内装は沢山の蔵書や研究器具のある部屋に変った。
「問題点を考えないと、一つは過去に戻ることが戻った瞬間に確定してしまうこと。だから戻ればどのみち私はあの場に出てしまう。もしくは、別の未来に変動するかもしれないけどそれを成す為に行動した私の世界は失敗した世界のままなので戻ったところで失敗した世界の未来になる」
AをBが止めることでAの世界は失敗した世界に確定する。
AをBが止めることでAの世界は失敗しないが、Bの世界は失敗した世界に確定する。
どちらかとしてなった場合、私が未来に戻ったら本来の歴史では無い世界の未来に行く……ことになるはずだ。
この時代じゃ無い私を見られたという失敗を無かったことに出来れば良いのだが、どうして私は飛び出してしまったのか。
あの時の私を止めることが出来たら、わざわざ戻ることもしなくて良いのに……いや待てよ。
「この世界を破棄してAの身体を奪うことが出来たら、私はAの世界から未来にいけるのでは無いか?」
Bが未来に行くと失敗した世界に確定するが、それによってAは失敗しなかった世界の未来に行くことが出来る。
仮に、私がAとなることが出来れば、もしくはAがBと意識を同化すればBが望む世界に行くことが出来るはずである。
意識だけのタイムスリップ、いやタイムリープだ。
問題があるとすれば、タイムリープは自身に依存するために存在しない時間には戻ることが出来ない。
戻ったところでAという存在がいないなら、Bの意識は消えるしかない。
「でも、戻ろうとした切っ掛けになる時点でAの世界は存在が確定するはず」
絶対とは言い切れないが、推測上問題ないはずである。
では、私の情報をどうやって過去に送るかだ。
魂、そんなヴォルデモートくらいの技量がないと無理だ。
なら、記憶なんてどうだろうか。
憂いの篩をダンブルドアが使っていたが、アレくらいなら私にも出来そうだ。
「ダメだわ、物を飛ばしたところでそれを見るための媒体となる物が必要だもの」
それに私の意識はそこにはない、よくよく考えたら失敗じゃ無いか。
何か、意識を移す道具を作って……都合良く拾うかしらね?
意識や記憶を宿らせた、そういう何かが私に影響を与える必要がある。
でも、私は元の世界には戻れないかもしれない。
いいえ違うわね、今の私が戻れなくてもセブルスが生きれるなら問題ないわ。
一つだけ、私は思い当たりがあった。
幸福な思い出、幸福なエネルギーを元に生み出す守護霊、伝言や物を届けたりすることが出来る。
もし、私の記憶の一部を持たせて時間を戻せば、私自身にその記憶を与えることが、植え付けることが可能かもしれない。
タイムスリップならぬタイムリープという奴である。
「エクスペクト・パトローナム」
ふわりと杖の円弧に合わせるように、白銀の霞が集っていく、形を成し、有体と成し、それは首を撫でろと言わんばかりに私の足にじゃれる子鹿となった。
私はその子にこめかみに杖を当て、取り出した記憶の糸を譲り渡す。
口元に咥えたのを確認し、私という存在を託し、過去に守護霊を飛ばす。
……頑張って、頼むわよ私。
「フェルティプォスト」
杖先から離れた呪文は、守護霊にぶつかった。
時間は戻る、守護霊は記憶を乗せて、次元を超越する。
「もう行くから、じゃあ」
そう言って少年は、近くに腰を下ろしていた木から立ち上がった。
そして、名残惜しそうに私の髪に一房触れると離してから歩き出した。
その仕草は、その行動は、まるで――
「……はっ!?思い……出した」
私は目の前で消えていく守護霊を見ながら、未来の記憶を思い出す。
正確にはそんな表現は間違っているだろうが、ここに至るまでの記憶を思い出した感覚のように認識したのだ。
「私は、戻ったのかしら?それとも、別の私の記憶を受け継いだの?」
今の自分は過去に戻った私か、それとも戻った気でいる過去の私か。
その違いは分からないけど、今はすることがある。
「スニベルス、元気か?」
誰かの大声と供に少年は鞄を捨ててローブから杖を取り出した。
「エクスペリアームス!」
「ッ!?」
「インペディメンタ!」
だが、杖は吹き飛び、それをキャッチしようと動くも妨害呪文を少年は喰らった。
助けなくては、呪いを掛けられているのを見過ごせず私は木の陰から立ち上がらない。
「やめなさい!」
制止する声が聞こえた。
私ではない、それは私に似た別人であるママだ。
ママがパパに向かって、やめるように言ったのだ。
「元気かい、エバンズ?」
「彼に構わないで!彼が貴方に何をしたというの!」
「そうだな、むしろコイツが存在する事実その物がね、分かるかな?」
あまりの物言いに、私の中のパパの好感度が急降下していた。
何というか、人間のクズってパパのことなんじゃないだろうか?
私の一番嫌いな人種である、差別主義者死すべし。
「冗談のつもりでしょうけど!でも、ポッター貴方は傲慢で弱い者虐めが好きな嫌な奴だわ!彼に構わないで」
「へへへっ、エバンズがデートしてくれれば親愛なるスニベリーには二度と杖を上げないけどな」
「貴方か巨大イカのどちらかを選ぶことになっても、貴方とはデートしないわ」
何でイカ?後、パパは最低だ、いやあの男は父親と認めたくないレベルのクズだわ。
なんで、どうやってここからママが惚れるの、理解できないんだけど。
「フン、スニベルス……エバンズが居合わせてラッキーだったな」
「あんな汚らしい穢れた血の助けなんか、必要ない!」
そろそろ未来に行こうと思った瞬間の事だった。
若かりし頃のセブルスが、パパの挑発に思わずと言った感じで酷い言葉を吐いていた。
その顔は後悔しているようにも見えるが、ママからは見えない位置であり、ママは怒り心頭だ。
……何だか、私とドラコのような、そんな似た光景だった。
「もう、いつまでも居られないわね」
このままじゃズルズルとずっと居座ってしまいそうになりそうだと思った私は未来に跳ぶ決心をした。
同時に、いつかドラコに謝ってまた仲直りしようと思うのだった。
ジェームズ「目が、目がぁぁぁぁ!」
ハリエット「修正してやるぅぅぅ!」
ハリエット「つまり、どういうことだってばよ……」
ハリエット「別の私が成功すれば問題ない」
ハリエット「あんな男の血が半分も入っているなんて……」
ハリエット「おっ、デジャブ」
ハリエット「戻るんだ、あの世界線へ!(フラグ)」
※本人もよく分かっていないけどタイムスリップ、難しいことは犬でも出せば良いんだろうか。
まぁ、本編と後書きは関係ないので本編では分かってるはず。
変更点
時代が修正される。
時代が違う歴史を辿る。
時代が原作通りになる。
ハリエットが過去から未来に跳ぶ。