打ち拉がれるように私とハーマイオニーは死んだセブルスを見た。
そして、逆転時計で元の世界に戻る。
私の横には無言で佇むハーマイオニーがいるだけだ。
「……あり得ないわ、だって」
「矛盾が生じるから?」
「そうよ、私達の記憶と矛盾するわ」
それは尤もな話である。
例えば、リーマスルーピンを殺害したとする。
その際、ロンとハーマイオニーと私とセブルスの記憶に私の姿が残ってしまう。
だが、記憶される前に気絶させ弄ってしまえば良いのである。
リーマスルーピンを殺し、シリウスブラックを殺し、そして気絶させた全員に整合性のある記憶を植え付ければ問題ない。
服従の呪文を応用すれば、思い込みで記憶を作る事くらい出来る。
思い出さないように、記憶を消しておけば記憶による矛盾も発生しない。
だとしても、セブルスは死んでしまう。
「どうして、未来は分岐するはずよ」
「貴方の理論が正しかった、そういうことよ」
もしかしたら、私も記憶を弄られていたのかもしれない。
だから、あの時に私が私にあった記憶を忘れていたのかもしれない。
結局、何をしたところで無駄なのである。
「もう、どうせ生きていたって意味はないわ」
「まさか」
どうして思いつかなかったのか、私は救われる方法を思いつく。
もしかしたら、彼処で私が過去に戻るまで気付かせないように修正力が働いていたのかもしれない。
私は自分自身に杖を向ける。
どうせ一人殺したところで、世界は変らない。
私が死んだくらいで、世の中に影響なんてないのだ。
「ダメよ!」
「ッ!?」
呪文を唱えようとした瞬間、私の顔が叩かれた。
ハーマイオニーが私をビンタしたのだ。
「痛い」
「私の方が痛いわよ!」
「えぇ……」
まさかの逆ギレに、思わず言葉が漏れてしまう。
というか、目の前で泣きながらポカポカしてくるハーマイオニーに心が痛くなる。
物理的に痛くは無いけど、そのポカポカ殴ってくるのは私に効く。
「何か、何か手があるはずよ」
「もう、無理よ。私、頑張ったわ」
「そんなはずは無いわ。だって、貴方の理論が間違っているなんて論理的に証明できてないわ」
「でも、事実は無理だったわ」
可能性はあるかもしれないと、私も思っていた。
でも、実際は何度やっても成功はしなかった。
何度やっても死は確定しているのだ。
しかし、それを否定するためかハーマイオニーは唸り続ける。
答えは見つかる訳も無く時間だけが過ぎていく。
「わぁ!?」
「ロン、煩いわよ!今、考え事してるの」
「だって、今そこで消えて、えっ?えっ?」
「同じ人間が二人居る訳……ハッ!?」
そこで、ハーマイオニーは何かに気付いたのか私の肩を掴んで顔を近付ける。
「分かったわ!」
「えっ?」
「貴方よ、貴方が見ていたの!だから、歴史は変わらなかった!貴方自身が、歴史を修正していたんだわ!」
ハーマイオニーの言葉がどういうことか、突然すぎて理解が及ばなかった。
私が歴史を修正していた?
それは一体どういうことだろうか。
「貴方が例え変えたとしても、矛盾がないように歴史を修正したとしても、それを過去の貴方が見ていたのよ。だから、歴史を変えることは出来なかったんだわ」
「そんなはずは、いやだとしても……」
「本来、自分自身に出会ってはいけないの。過去、それで自分自身を殺すなんて混乱する事態があったらしいから!でも、違った。本当は、観測点が増えることで歴史を変えられなくなるからだったのよ」
もし、自分だけで無く他人を巻き込むほどに最悪の状況を作ってしまった場合に修正しようとする。
しかし、その状態を知っている者がいればいるほど、修正力が働くのでは無いだろうか。
それがハーマイオニーの考えた憶測であった。
「ちょっと待ってよ、歴史を変えるって言った?ダメだよ、そんなのダメに決まっている」
「その通りじゃよ、グレンジャー」
ハーマイオニーが興奮して大声を出したせいか、それともロンが制止するように咎めたせいか、私は忌々しい人物と遭遇する。
かつて、私の目の前に立ちはだかり歴史の修正を頑なに阻止しようとしたダンブルドアだ。
「……ダンブルドア」
「ハリエット、そしてグレンジャー。歴史は変えてはならないのじゃ。例え肉親が死のうとも、過去を変えるということは思いを否定するということだからじゃ」
「知った風な口を利くな!」
私の声に、私以外の人物が面食らったように固まった。
だが、もう止まらないし、止まれない私は知っていることを洗いざらいぶちまける。
「お前だって、妹を救おうとしたじゃないか!それに、私の両親を見殺しにしたことも知ってるぞ!それが、予言のために必要だからってな!」
「何故それを、いやまさか!」
「全部、全部知ってるわ!お前から、セブルスから聞いたわ!セブルスがママを生き返らせようとしたのも、邪魔したことも!」
私は一度、ダンブルドアを頼った事があった。
その時、奴と私は敵対した。
歴史改変による影響を考慮したダンブルドアが阻止しようと動いたからだ。
私に服従の魔法を掛けようとして、そしてセブルスと私と敵対した記憶があったのだ。
「すまない」
「先生、何をするつもりですか!」
「闇の時代を訪れさせる訳にはいかん!」
ダンブルドアが私に向かって杖を向けようとする。
だが、そんなことはお見通しだ。
私はダンブルドアに向かって逆転時計をハーマイオニーから奪って投げた。
その行動に、まさかとダンブルドアも面食らう。
そして、杖先が私から逆転時計へと向いた瞬間、私は力任せに逆転魔法を使った。
「フェルティプォスト!」
杖先から私に向かって呪文が放たれ身体が吹っ飛ぶ。
同時に私を中心に景色が渦巻き、何もかもが混ざり合っていく。
それは子供が絵の具を適当に混ぜたときのような景色、いつしか混ざりきって真っ黒になるような混沌が表れる。
ここではないどこかに、私は行くという直感があった。
……しまった、咄嗟のことだったからコントロールが出来ない。
私の中の魔法力が感情のせいで暴走気味であると、感覚で分かった。
そして、弾き出されるように私はどこかに吹っ飛ぶ。
「このままじゃ……」
慣性によって動いているのは分かっていたが、それ以上は意識が保てず知覚できなかった。
「 ――い――お――起き――」
声がした。
どこかで聞いたような、懐かしい声だ。
あぁ、もっとこの声を聞いていたい。
そう、思わず抱かずには居られない。
「おい、急に何……を……」
「んんっ……」
無意識だったのだろうか、意識が覚醒して最初に見たのは困惑する少年とその子の服を掴む手だった。
まるで、抱きしめるようにお腹に顔を埋める形で押し倒していた。
……誰が?私だった。
「ひゃ!?」
恥ずかしさの余り、一気に目が覚めて現状を理解する。
どうやら私は寝ぼけて彼のお腹に抱きつき、そのせいで尻餅を突かせるという状況を作っていたらしい。
「ご、ごめんなさい!えっと、ここは」
「寝ぼけてるのかリリー、どうせテスト勉強のしすぎで寝てなかったのだろう」
リリー、と言う言葉を聞いて私は首を傾げる。
それは私の母の名前と一緒だからだ。
視線は私に向いており、周囲を見渡しても女子生徒は湖で足をバシャバシャさせて涼んでいる子達くらいだ。
少なくとも、その声量で届く距離では無い。
「一体、何が……」
「もう行くから、じゃあ」
そう言って少年は、近くに腰を下ろしていた木から立ち上がった。
そして、名残惜しそうに私の髪を一房触れると離してから歩き出した。
その仕草は、その行動は、まるで――
「スニベルス、元気か?」
誰かの大声と供に少年は鞄を捨ててローブから杖を取り出した。
「エクスペリアームス!」
「ッ!?」
「インペディメンタ!」
だが、杖は吹き飛び、それをキャッチしようと動くも妨害呪文を少年は喰らった。
助けなくては、呪いを掛けられているのを見過ごせず私は木の陰から立ち上がる。
「やめなさい!」
思わず声を上げた私は、自分の失策に気付いた。
私が声を掛けた相手は四人組の少年達、そのうちの一人が私の方を見て固まり、そして思い出したかのように口を開いた。
「元気かい、エバンズ?」
「こんなことって……」
私は気付いたのだ。
ここはホグワーツでも、過去のホグワーツ。
そして、目の前にいる男は私のパパだと。
ハーマイオニー「失敗することが必要だった」
ハリエット「鬱だ死のう」
ハーマイオニー「元気があれば何でも出来る」
ハリエット「あひん!?」
ロン「あり得ない過去に行ったはずだ」
ハーマイオニー「そうなんだけどね、戻ってきちゃった」
ダンブルドア「儂が養豚場の豚扱いしてたことがバレた」
ハリエット「跳べよぉぉぉぉぉぉ!」
スニベルス「ち、近い……」
リリー「だ、誰よ!もう、知らない!」
ハリエット「タイムパラドックスだ!」
リリー「何よあの女、嘘なにこの気持ち……」
※束の間の邂逅、向き合った過去、欲する手に望む物は戻らず、時の船は常に未来という見えぬ航路へと舳先を進める。
学校が再び魔法の嵐に包まれる時、未来に消え逝く声は悲しみの叫びか?
新たな悲劇を知る時、ハリエットは……
次回、魔法少女ハリエット・ポッター『さだめの楔』
意味深な予告は本編とは関係ないんじゃよ、機動戦士ガンダムとも関係ないんだよ。
だって、フィクションだから!
変更点
ハーマイオニー、ビンタする→世界が分岐。
ロン怒られる→世界が分岐。
ダンブルドア敵対する→世界が分岐。
スニベルスと会う→既に攻略されてるので好感度に影響なし。
リリーがラブコメ展開的勘違い→世界が大幅分岐。
ジェームズに話し掛けられる→別人と気付いてないので現状維持。