流れるように、時間は過ぎた。
シリウスブラックによる教師二人の殺害、魔法省は厳戒な警備を抜けられたのは内側から手引きされたからとしてダンブルドアに責任を負わせた。
新しい校長にはルシウスマルフォイ氏が就任し、ホグワーツの教師陣は一新されるという噂が学内には流れる。
だが、そんな変化など彼女には意味がないことだ。
ホグワーツ医務室、一人の女子生徒がそこでは眠っていた。
彼女の名前はハリエットポッター、哀れにも目の前で教師が殺害されるところを目撃してしまった被害者だ。
「マダムポンフリー、ハリエットは……」
「栄養失調で倒れてから容体は安定しています。ただ、自分から飲食を出来る精神状態じゃありません。もしかしたら、聖マンゴ魔法疾患傷害病院も検討しないとなりません」
「そんな……」
あれから暫くして、ハリエットは喋らず眠らず食事も取らずまるで死に急ぐように何もしていなかった。
一時期は、ダンブルドアによる事情聴取が行われたことが原因では無いかとすら言われたが、それはスリザリンの流した噂に過ぎないというのがグリフィンドールの見解だった。
ハーマイオニーは連日医務室に足を運び、ハリエットの様子を見ていた。
彼女はベッドの近くに座ると眠っているハリエットを見守る。
彼女は一日の大半を寝て過ごしていた。
まるで、現実を拒否するように起きている時間よりも寝ている時間の方が多くなったのだ。
その理由を、ハーマイオニーとロンだけが知っている。
世間の信じられている話と真実は違うという事を知っている。
あの時、何が正解だったのか今となっては分からない。
シリウスブラックを止めなければセブルススネイプは死んでいた。
なら、リーマスルーピンが杖を渡すのを阻止するべきだったのか。
どのみち、結果は余計に悪くなるか現状とは変わらない。
絶対にセブルススネイプは死んでいたし、それ以上に人が死ぬかもしれない状況にならなかっただけ最良だった。
「ねぇ、だから貴方は何も悪くないのよ」
ハーマイオニーは眠っている彼女の頬を撫でながら、慰める言葉を口から零す。
失った物を嘆く彼女に、拾い上げた物を教えるように自分達が救われたということを伝えようとしていた。
「ここは……」
「ハリエット!?」
「……ハーマイオニー?」
立ち上がり、彼女が目を覚ましたことにハーマイオニーが驚く。
その時、隣のベッドのカーテンレールが音を立てて動いた。
カーテンを動かしたのは、足を怪我していたロンだ。
「おはよう、起きたって聞いたから思わず開けちゃった」
「貴方、いつからそこに」
「ずっといたよ。足怪我してたからね」
ベッドから顔を覗かせるロンとそれに驚いたハーマイオニーが起きたばかりのハリエットを見る。
ハリエットは天井を見たまま、微動だにしていなかった。
「大丈夫?」
「……えぇ、問題ないわ」
そうは言うが、ハーマイオニーには問題しかないように思えた。
自分では分かってないようだが、普段のハリエットと今の状態は一線を画している。
もしやり直せたら……こんなことにはならないのだろうか。
ふと、そんな考えがハーマイオニーの中で浮かんだ。
そして、彼女はその手段を持っていた。
「ハリエット、話があるの」
「…………」
ハーマイオニーは、そっと耳元に顔を寄せて小声で言った。
「もしかしたら、スネイプを救えるはずよ」
「ッ!」
その言葉に、ハリエットの瞳に光が灯る。
どうしようも無い絶望の中に、一筋の光が見えた瞬間だ。
彼女はすぐさまに理解し、ハーマイオニーが何をしようとしているのか見当がついた。
「まさか、でも、それを私が考えないとでも?」
「どういうこと?」
「貴方が言ったのよ、起きたことは変わらないって」
その言葉を聞いて、ハーマイオニーは自分が失念していた事を思いだした。
確かに時間を巻き戻そうと、もし運命がスネイプの死を確定していたら覆すことは出来ないからだ。
だが、それが正しいかどうかは確認するまで分からない。
「やってみなければ分からないわ」
「ハーマイオニー」
「ウィンガーディアム・レビオーサ」
ハーマイオニーは杖を使って砂時計を宙に浮かべた。
そして、経過した日数だけ回転させていく。
砂時計は高速で回転し、狂おしいほどに動き続ける。
「行くわよ」
そして、ハーマイオニーに捕まれたハリエットの姿が彼女ごとロンの目の前で消えた。
「き、消えた?」
世界が螺旋を描きながら流れていく。
ハーマイオニーは正確に、ハグリッドの小屋に訪れた日にちまで時間を巻き戻した。
そこは森の茂みの中、暴れ柳の近くだった。
「助けて、食べられちゃうよぉぉぉ!」
「あれは……」
ハーマイオニーによって私は時間を遡った。
だが、こんなことは無意味だ。
だって、既にセブルスの死は決定しているからだ。
一度はこの方法で救おうと思った。
だが、魔法省がヴォルデモートを消せないように、セブルスを死なせないことは恐らく出来ない。
それは決まってしまったことだからだ。
「シリウスブラックにロンが捕まった時だわ。見て、私達が暴れ柳に近づいている」
「無理よ。世界は収束する……セブルススネイプが死ぬように、世界は決まっている」
「まだ可能性はあるはずよ!私達の考えは机上の空論、事実かどうかは確かめるまで分からないわ」
それは、ハーマイオニーが言うことのない言葉だった。
教科書こそ正しいと考えてる彼女が、試すまで正しいかどうか分からないなどと言ったからだ。
「もう、せっかく来たんだから何かするのよ」
「えぇ、そうね。もう少しだけ頑張って見るわ」
私は彼女に力のない笑顔を向けた。
この先、どのような結果になるのかまだ知らない彼女に伝えるには真実は余りにも残酷だったからだ。
私達の後を追うように、あのリーマスとその背後から忍び寄るセブルスの姿が見えた。
例え、自分が死ぬとしても私を生かそうと進む男、自己犠牲も厭わない存在だ。
目的のために自身すら利用する、真にスリザリンに相応しい男だ。
「行くわよ」
「えっ、えぇ」
「どうしたの?」
「何だか、さっきと違って迷いがなかったから」
その言葉にそれもそうだと私は思った。
だって、ここに来るのは数回目だからだ。
私は迷いなく暴れ柳に近付き、そして杖によって木の動きを止める。
そのまま、下を潜り抜けゆっくりと階段を上る。
「ねぇ、ハリ――」
「ステューピファイ」
「えっ!?」
ハーマイオニーが話しかけるタイミングで勢い良く曲がり角から飛び出したセブルスが吹き飛ぶ。
私はその状況を一瞥しただけで、背後から駆けてくる存在を見た。
「嘘……」
「嘘ではないわ」
ハーマイオニーの後ろで私の声がした。
何故ならそこには未來であり、過去の私がいたからだ。
セブルスが死んでから逆転魔法を使った数回目の私だ。
「ハ、ハリエットが二人……」
「貴方は、貴方は何回目の私なの……」
「もう数えきれないだけ繰り返したわ。結論だけ言うわ、彼は助からない」
「う、嘘よ!貴方は諦めただけ、絶対助かるわ」
「そうよね、私もそう答えた。でもね、この先は地獄よ」
何度繰り返そうが世界は収束する。
例えここで違う行動をしても、運命は残酷だ。
シリウスブラックが殺した、狼人間になったリーマスルーピンが殺した、逃げるためにピーターペティグリューが殺した、私の魔法で打ち所が悪くて殺された、私が過去の私と入れ替わっても殺された、ダンブルドアと敵対した私を助けようと殺された、吸魂鬼から私を逃がすために殺された、階段から落ちて、暴れ柳に殴られ、落雷、心臓麻痺、何かしらの理由でセブルスは今日という日に死ぬ。
彼は明日の太陽を拝むことは絶対に出来ないのだ。
「それでもやるなら、いやこれも必要な事だったわね」
何度目の私かは分からないがこの時セブルスは魔法を掛けられた記憶を持って行動し、結果的にこの時の私は失敗する。
そして、次の周回での私が記憶の処理をした結果、最初のようにセブルスが庇って失敗する。
結局、失敗するのだ。
「待って、貴方はもう試していたということ?」
「ハーマイオニーと来るのは初めてだよ。でも霞が晴れるように、そう言えばここで私は私に会っていたということを思い出した。きっと、覚えていてはいけなかったんだ。修正力って奴かもね」
「じゃあ、そんな……」
言葉にするまでもなく、彼女は現状を理解した。
ハーマイオニー「綺麗な顔してるだろ、これ死んでるんだぜ」
ロン「死んでないよ」
ハーマイオニー「そんな状態で大丈夫か?」
ハリエット「大丈夫だ、問題ない」
ハーマイオニー「ダーバージェンス1%の向こう側へ!」
ハリエット「何度タイムリープしたって、1%の壁は超えられない!」
ハリエット「その先は地獄だぞ?」
ハリエット「それが那由多の彼方でも私には十分すぎる」
ハリエット「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した」
※今まで御愛読……本当に、本当にありがとうございました。
後書きはフィクション、まだちょっと続くんじゃよ。
変更点
タイムスリップ魔法を作り上げる。
セブルスは死ぬ、絶対死ぬ、世界が殺す。
ハリーポッター♀が二人いる。